風に乗っていた麦わら帽子がいつまでも宙を漂えるわけもなくゆっくりと落ちていく。チルノと大妖精、そして表のもそれに合わせて高度を落としていき、遂に麦わら帽子は地面に落ちた。しかし、地面に落ちてからも風に巻き上げられてふわりと飛んでいき、時には鍔から落ちてコロコロと転がっていく。
「よっし取れ……、なーい! 待てー!」
「はぁっ、はぁっ。待ってくださーい……」
チルノと大妖精は掴めそうになるたびに距離を取られる麦わら帽子を必死に追いかけているわけだけど、内側にいる私としてはそこまでしてもらわなくてもいいんだけどなぁ、と思うのである。多分。表のも。
『麦わら帽子、他にあったよね?』
『あるわよ? 麦わら帽子と言わず、他にもたくさんね』
『ですが、数多くあれど一つとして同じものはありませんでしたね』
そうは言うけれど、どうせ帽子の大きさとか、鍔の形とか、多少の色合いとか、ちょっとした飾りの有無とか、そんな細々としたところが少し違う程度のものだろう。あの麦わら帽子でなければいけない、みたいな特別な思い入れはないのだ。少なくとも、私は。
表のは帽子に向かって走っているチルノと大妖精の後ろに付いていっている。愉快な鼻歌を歌っているあたり、実に楽し気だ。ただ、前を行く二人と違って帽子にそこまで意識が向いていないあたり、そういうことなのだろう。
「取ったぞー! さい、これ!」
「うわーっ! ちるるん、だいちゃん、ありがとっ!」
遂に掴み取った麦わら帽子を誇らしげに表のに手渡すチルノを見て、そういうことかなぁ、と勝手に納得する。自分で取るより、チルノが取ってくれたほうがチルノが楽しい。それを見て表のも楽しい。二人楽しくてもっと楽しい。多分、そんな感じ。ま、そこまで考えてるか知らないけど。
「ところで、ここどこ?」
「えっと……、何処だろうね……」
表のが受け取った麦わら帽子を軽く叩いて土を落とし、ギュッと押し付けるように被っている間、キョロキョロと周囲をひっきりなしに見回していたチルノが呟いた。大妖精もここが具体的に何処だかあまり分かっていない様子。
『何処か分かるのいる?』
『何処なのでしょうか……』
『知らん』
『名称が付けられた場所が近くにないので、残念ながら答えかねます。強いて言えば、魔法の森と霧の湖が多少距離を置いた場所にあると言えますが』
どうやら、名も無き平地らしい。とは言うものの、四季折々の花々が彩る今では寂しい印象を一切感じない。ここはここで咲き誇る花々を見るだけで気持ちが落ち着けそうだ。表のも既に足元に咲いている派手な模様をした花に目を奪われてるし。
そんな表のの肩を揺らされ、振り向くとチルノが満面の笑みを浮かべていた。
「なーに?」
「こうなったら探検だー! 冒険だー! 面白い何かがアタイ達を待っているに違いない!」
「冒険かぁー、探検かぁー」
そう言って目を輝かせるチルノは特に何かあるように見えないところをビシッと指差している。もしかしたら何かあるかもしれないけれど。
そんなことを考えていたら、大妖精が控えめに袖を引っ張っていた。
「えっと、彩さん。霧の湖の方角なら分かりますので、無理にチルノちゃんに付き合わなくても大丈夫ですよ?」
「大丈夫っ! すっごく楽しそうだしねっ!」
「そうですか? ありがとうございます」
「気にしなくていいの!」
そう言って表のは笑う。そして、チルノと同じ方向に顔を向け、人差し指を伸ばした。
「冒険へ、いざ行かん!」
「えっ、さい行かないの?」
「チルノちゃん……」
そこで勘違いされるとは思わなかった。