東方九心猫   作:藍薔薇

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弱い者虐め、ダメ。ゼッタイ。

「さ、冷めないうちに飲みなさい?」

 

 付き合えと言われ、有無も言わせぬままに連れてこられた一軒家。どうやら、ここは風見幽香が住まう家らしい。視線と雰囲気の圧力によって、半ば無理矢理招かれたチルノと大妖精と表のは椅子に座らされ、冷え切った笑顔を浮かべながらティーカップを目の前に並べられた。中身は紅茶のようで、もてなしのつもりなのだろう。

 

「何これ!?」

「……えっと、これは」

「ありがとっ!」

 

 ……ただし、グツグツと煮え滾っていなければであるが。そして表の。何でそんな笑顔でいられるんだ。

 

『……どうしてこうなった』

『ん』

 

 頭を抱えながら思わず呟いても、返ってきたのは気のない返事だけである。

 

「ふぅー、ふぅー」

「ふっふーん、最強のアタイならこんなのチョチョイのチョイよ!」

 

 表のは紅茶を必死に冷ましている。猫舌なのだ、仕方ない。隣に座らされていたチルノは、なんと紅茶を凍らせてアイスティーにしてしまった。うわぁお、便利だなぁ。

 そんな表のの顔に幽香の大きく開かれた手のひらが迫り、そのままグワシッと掴まれ握り締められた。そして、隣からはガツンと鈍い音が響く。ついでに、攻撃を受けて飛び出そうとしていたのがいくつかに取り押さえられていた。

 

「あ痛ーっ! ギブギブッ!」

「痛ーっ! 何するかー!?」

「冷めないうちに、ね?」

 

 頭がミシミシ言っていようと、背筋が凍りそうな声色で言われても、無茶なものは無茶だ。猫舌でなくともあんなものそのまま飲んだら口の中火傷必至である。

 しばらくして、手のひらから解放された表のは両手でこめかみを擦っていた。下手したら凹んでいそうである。隣のチルノはおぅおぅ呻きながら頭を押さえていた。

 

「えっと、あの、ご好意はありがたいんですけれど、その、今日は雲一つなく暖かですし、私は温かいお茶ではなく冷たいお茶を飲みたいですが、よろしいですか……?」

「あら、それは悪かったわね」

 

 チルノを挟んだ向こう側の椅子に座っていた大妖精は、酷い目に遭った表のとチルノを見て顔を真っ青にし、引きつった笑みを浮かべながらしどろもどろに交渉。そして、沸騰寸前の紅茶を取り換えてもらっていた。かなり博打だった気がするけれど、賢明な判断だと思う。

 幽香は大妖精のティーカップを手に取り、グイっと飲み干した。……何であれが飲めるんだよ。そして、新しいティーカップを取り出して大妖精の前に置いた。そして、新しく淹れ直したらしい紅茶を注がれる。

 

「どうぞ?」

「あ、ありがとうございます……」

 

 ……ただし、紅茶を注いだ傍から凍り付いて氷の柱になっていなければだけど。これでは飲めない。大妖精は引きつった笑みから当分戻れそうになさそうだ。

 

『虐めだ……。陰湿な虐めだ……』

『……ん』

 

 ……弱い者虐め、ダメ。ゼッタイ。

 そんなことを考えていたら、ふふ、と揶揄うような声が聞こえてくる。

 

「ま、人のものを勝手に盗った分はこのくらいにしてあげるわ」

 

 そう言って、愉し気に笑う。さっきまで感じていた圧力が、まるでなかったかのように霧散した。今の幽香が浮かべている笑顔は、先程までの冷え切ったものとはまるで真逆で、温かみを感じさせる。

 

「欲しかったら私に一言言いなさい。欲しいだけあげるわよ」

「は、はい! ごめんなさい! ほら、チルノちゃんも、彩さんも」

「ご、ごめんなさい……?」

「にゃははっ、優しいねー! じゃあ、ちょっと遅かったけれど、僕に一輪くださいっ! ありがとっ!」

「そうね。どうぞ」

 

 それから、何やら打ち解けたらしい四人で愉快に話し始める。チルノの頭に乗っていた花冠を褒められたり、摘んでから少し時間が経ってしまって僅かに萎れていた花に生気を戻してくれたり、幻想郷中の四季折々の花について話していたり、そんな他愛のない談笑。

 ……よく分からないけれど、助かった、でいいのかな?

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