東方九心猫   作:藍薔薇

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あったような、なかったような?

「美味しー!」

「そう? それはよかったわ」

 

 表のは嬉しそうにどら焼きを頬張り、隣に座っているチルノと大妖精も紅茶と一緒に食べている。ちなみに、チルノが紅茶を凍らせてキンキンに冷やして飲んでも幽香は笑って許している。無論、嫌がらせ染みた両極端な紅茶ではない。んー、紅茶とどら焼きって合うのかなぁ? ま、どうでもいいか。

 

『……はぁ』

『どうかしたか?』

『いーや、別にー』

 

 ため息を吐いてしまったけれど、別に表のが羨ましいとか、内側にいるのは暇だとか、そういうんじゃない。何か幽香の視線がやけに気になっただけ。杞憂だろうけど。

 どら焼きを食べ切って空になった菓子皿に幽香は新しくクッキーを広げ、早速手を伸ばそうとしたチルノに口を開いた。

 

「ところで、チルノだったかしら? 貴女、妖精にしては強い力を持っているわね」

「おー! 分かるの? アタイの最強さが!」

「チルノちゃん……。あぁ、気にしないでください幽香さん。チルノちゃんの口癖みたいなものですから」

「いいわね、最強。目指すだけならいいことだと思うわ」

「む?」

「最強なんて、なってみればつまらないものよ。一線を越えてしまえばどれも同じようなものだもの」

「んー? どういうこと、ゆうか?」

「あら、貴女にはまだ難しかったみたいね」

 

 自称最強のチルノはいまいち理解出来ずに首を傾げていたが、やがてクッキーに手を伸ばして事を流したようだ。喉元過ぎれば何とやら。……違うか。はぁ。

 どら焼きを頬張ったまま話を聞いていた表のも、最強がつまらないってところだけ気にして、残りは聞き流していた。つまらないってことは楽しくないってことだから。

 なんて思ってたら、幽香と目が合った気がした。……いや、違う。気のせいじゃない。明確に合った。しかも、品定めするような感じの悪い目。

 

「彩、だったわね。貴方は最強に興味があったのかしら?」

「んくっ。僕? んー、あったような、なかったような?」

「……そう。貴方はそうなのね」

 

 そう言って、幽香は笑う。その目が表のじゃなく、内側にいる私と他のに向いている気がしてならなかった。……杞憂じゃなかったのかよ。はぁ。

 最強に興味? ないよ。もうない。下手に強くなることには代償が伴うことを知っている。思い出したくないが、飲まれていくつか消えかけたことだってある。最強なんてなるもんじゃあないんだよ。……まぁ、他のがどう思っていようと、私にどうこう言えることじゃないけどさ。

 

『……はぁ』

『どうしたの?』

『嫌なこと考えちゃっただけ』

 

 ……止めよう。もうどうでもいいじゃないか。そうだ、どうでもいい。どうでもいいんだよ、はぁ。

 

「うわっ!」

「きゃっ!?」

「ん?」

 

 そうやって頭を抱えていると、突然視界が揺れた。

 

「あら、随分暴れん坊な客が来たようね。私はちょっと見てくるから、悪いけれどここでお開きにしましょうか」

 

 何事かと思えば、幽香が窓から外を見詰め笑みを深くしながらそう言った。表のは幽香に釣られるように窓の向こう側を見遣り、そこで土煙が上がってるのが見えた。どうやら、太陽の畑に何かあったらしい。幽香の怒りを買った誰かがそこにいる、というわけか。

 

「そ、そうですね。幽香さん、今日はありがとうございました」

「ありがとー、ゆうか」

 

 獰猛な笑みを浮かべる幽香に大妖精は思わず頬を引きつらせながらも別れの挨拶を言い切った。チルノが顔を青くしているのは決して寒さが原因なわけがあるまい。氷精だし。

 

「そっかー。いってらっしゃーい、ゆうかりん!」

 

 外に出て行く幽香を表のは手を大きく振って見送る。そして、家から出た瞬間、幽香の背中が一瞬にして掻き消えてしまった。……まぁ、超スピードで土煙のほうへ飛んで行っただけなんだけど。

 まぁ、あれだ。何処の誰か知らないけれど、無事を祈るだけはして思う。祈るだけだけど。はぁ。

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