幽香の家から急ぎ足で離れていくチルノと大妖精に付いていく表のだが、二人と違って幽香の飛んで行った方角を後ろ歩きで見ていた。瞬間、太陽の畑から空へと極太のレーザーが放たれる。その中に太陽の畑にちょっかいを出した、あるいは出してしまった何処かの誰かがいるのだろう。ここからでは誰が喰らっているのか見えず分からないのには、ホッと安堵したようなちょっと残念なような……。まぁ、どうでもいいか。
「うっわー、すっごーい!」
「す、凄いですけど。確かに凄いですけどっ! 彩さんは、幽香さんが怖くないんですか?」
「全然怖くないよ? だって、ゆうかりんは優しいからねっ!」
まぁ、大妖精が抱いた恐怖は分からなくもないけれど、幽香の怒りがこちらに向いていないのだ。もしもあんなものを喰らったら、と考えれば確かに恐怖を覚えるけれど、喰らうことがなければ恐怖なんて感じない。打ち上げ花火に対して恐怖を覚えないのと同じだ。むしろ、夜空を見上げて綺麗だと微笑む余裕すらあるだろう。そんなもんだ。……まぁ、私は怖いと思っているよ。一晩寝れば忘れて気にしなくなるくらいには。
しかし、大妖精は表のの言葉を理解しても恐怖を拭い切ることは出来なかったようだ。思い切り頬を引きつらせたままだし、顔色がかなり悪い。
「ぷはっ! あー、怖かったーっ!」
やがて太陽の畑から出てすぐ、やけに静かだったチルノは大声で叫んだ。呼吸もほとんど止めていたのか、ぜーはーぜーはー肩で息をしてる。その呼吸はしばらく荒いままだったが、大きく深呼吸をしてどうにか落ち着いて汗を拭っていた。拭った汗が凍って冷たそうである。氷精だからね。うん。
「あれが、最強……! アタイの力……!」
「違うと思う」
「むかー! さいは最強のアタイの何を知ってるのよー!」
「ちるるんはお転婆で可愛いよねっ。にゃははっ!」
ケラケラ笑う表のを顔を真っ赤にして威嚇するチルノはまるで猫のようだ。私なんかより、よっぽど猫らしいかもしれない。
『最強のチルノ、って言われてもねぇ……』
『遠い昔には地球が氷に覆われるような時代がありましたので、その時代にいたならば今より遥かに強力な力を有していたかもしれません』
『なんだそりゃ。一体何時の話だよ?』
『一説によれば二十億年以上前ですね』
『どうでもいいわ』
そんな過去、行けと言われても行きたくない。あまりにも遠過ぎるし、違い過ぎる。
喉でも鳴らしそうなくらい表ののことを睨んでいたチルノだが、その瞼がすーっと下りていく。すぐにハッと見開いたけれど、手の甲で瞼をゴシゴシ擦り始めた。
「チルノちゃん、眠いの?」
「そんなことふぁ……、ないもん」
大妖精の問いにチルノは否定するものの、欠伸交じりでは残念ながら説得力が皆無だ。
「ちるるんおねむ? 何で?」
「チルノちゃん、昨晩遅くまで遊んでいたんです。もしかしたら、それが理由かも」
もう一つ理由を上げるとすれば、あの幽香を前にして極度の緊張を保ってしまっていたが、ここまで来てようやく安息を得られた。それでドッと疲れが出て、急に眠くなったからとか。……まぁ、私はチルノじゃない。実際のところは知らん。
表のは苦笑する大妖精を前にキョロキョロと周囲を見回しながら考え始めたようだ。まぁ、表のが考えていることなんて大体予想出来る。
「じゃあ、近くでお昼寝出来そうな場所に行こっか!」
そう提案した表のの視線は、既に少し遠くにある満開の桜に向いている。木陰に入れば日に当たらないだろうし、昼寝にはちょうどいいだろう。というか、既に先客が一人いる。
「そうと決まれば、レッツゴー!」
「え、ちょっと彩さん?」
「うみゅ?」
そのまま有無を言わせずチルノと大妖精の腕を掴み、グイグイ引っ張っていく。チルノは既にかなり寝ぼけているようで足取りがかなりふらついているけれど大丈夫かなぁ? 大丈夫か。多分。