目を擦って今にも眠りそうなチルノと大妖精を引っ張ってきた満開の桜の下。桜の下には死体が埋まっていて、その生気によって桜は綺麗に咲いているとかもっぱらの噂である。まぁ、今に限っては生気ではなく幽霊なんですけどね。
「ここなら日もあんま当たらないし、ちょうどいいでしょ?」
「そうですけど、……えっと、誰か眠っています、よ?」
表のと大妖精が顔を寄せて小声で話しながら目を向けた先には、見間違いではなかった先客が一人いる。両腕を組んだ枕を頭の下にして寝転んでいるくすんだ赤い髪の少女。その傍らにはその少女と同じくらい大きい鎌が地面に突き刺さっている。……ん?
『鎌?』
『大き過ぎませんか?』
『使えんのか、あれ?』
あまりにも現実味に欠ける代物で一瞬流しかけてしまったが、なんだあれ。ちょっと物騒過ぎやしないか? というか、何でそんな使いにくい武器を選んだ。振り回すなら槍や薙刀のほうがいいし、斬るなら刀のほうが圧倒的にいいぞ。多分。
『随分と鈍ですね』
『とてもじゃないけど斬れないわよ、あんな刃じゃ。ちゃんと研がないと』
『使い物にならん』
しかも、刃物として使い物にならないらしい。そう言われて巨大な鎌を見てみれば、確かに刃に鋭さはほとんどなく、むしろ斬れないように潰されているように見えた。鈍器としてならまだ使えるかな? いや、それなら金棒を振るったほうがまだ使いやすいだろう。残念ながら私には、わざわざ刃を潰した鎌を武器として利用する理由が見出せなさそうだ。はぁ。
「ぐっすり眠れるってことでしょ? ならいいじゃん」
「え、あ、そうです、ね?」
巨大な鎌に目を丸くしていた大妖精は、表ののよく分からない理論に頷いた。頷いてしまった、とも言う。
「それに、ちるるんはもう夢の中だしねっ」
そう言いながら指差した先には、既に桜の幹を背にして船を漕いでいるチルノがいた。何か静かだと思っていたけれど、既に寝ていたのか。自称最強の妖精でも眠気には勝てなかったらしい。
言われた大妖精は、静かに眠っているチルノを見てしょうがないと言わんばかりに肩を落とし、そっと隣に腰を下ろした。ゆっくりと横に傾いていくチルノの身体を優しく支え、そのまま自分の膝の上に乗せてあげていた。冷たくないのだろうか?
表のは手を組んでグッと身体を伸ばし、そして小さく欠伸をしながら大妖精の隣に腰を下ろして両脚を投げ出した。
「ちるるんは寝ちゃったし、僕も寝ちゃおっかなー」
「あっ、そうですか? それなら、私が起こしてあげますよ」
「んー、勝手に起きるからいいかな。それじゃ、お昼寝ターイムっ」
そう言い残すと、表のは体を丸めて瞼を閉じてしまった。
『たっだいまー!』
そして、そのまま表のは内側に戻ってきてしまった。眩しい笑顔が憎らしい。
『おかえりなさい。もういいの?』
『僕としてはもう十分楽しめたからいいかなっ!』
そう言って笑うけれど、これでは表が空になってしまっている。外で何か起きたとしても、身体は一切動かなくなってしまう。それは危険だ。
『どれか表に出ようか』
『寝るって言ったそばから起きんのか?』
『……あー、そう言われればそうか』
まぁ、ちょっとくらいいいか。瞼は閉じられているけれど、耳は塞がっていない。表の音は問題なく聞こえる。表に出る分だけ僅かに遅れるだろうけれど、寝起きなんてそんなもんだ。そういうことにしておこう。はぁ。