東方九心猫   作:藍薔薇

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最強、興味ある?

 瞼の向こう側から降り注ぐ優しい木漏れ日を感じながら、大妖精の囁くような子守唄に耳を澄ます。眠れよい子よ、だってさ。

 

『ねーねー、ゆうかりんが言ってた一線を越えたらどうこうってどういうことなのかな?』

『んなことどーでもいーだろーが。俺はいつか藍も紫も霊夢も魔理沙も幽香も全員まとめてぶち抜いてやるんだからな!』

『無茶言うな。歩幅が違ぇ』

『んだと!? 出来ねーってのか!?』

『そこまでは言ってねぇよ。そうかっかすんな』

『例えば、一億度と一兆度では後者の方が高温であることは明白ですね? ですが、どちらにせよコップに注がれた水は一瞬で蒸発するでしょう。そういうことではないでしょうか』

『あら、料理だってそんな感じよ? 美味しい料理なんて、ある程度出来ればそれ以降は誤差だもの。……あ、食べる側にもよるかしら』

『むぅ。なんか難しい……』

 

 ほら、内側はこんなにも騒がしい。どれもこれも眠りに就きやしない。身体だって精々寝たふり、あるいは死んだふりだ。……悪かったね、悪い子で。

 最強についての話を聞いていると、そう言われればそうかもしれないな、と納得させられる。料理は知らないけれど、温度に上限なんてあるのだろうか? 最強ってのは、何処まで強くなっても果てがなさそうだ。考えるだけで嫌になる。終わりがないとか、同じことの繰り返しとか、そういう面倒なのは好きじゃあないんだよ。

 そこまで考えて思わずため息を吐いてしまう。これだから強さなんていらないんだよ。身の丈に合った、ただの化け猫らしい、そんな力で十分。そう思うでしょう? そうなんだよ。そういうことにしとけ。はぁ。

 半ば無理に飲み込みつつ、私は近くで微笑ましげに笑っているのにコソコソと近付いていく。あ、バレた。私にそんな慈しみを向けないでくれ。向けられても困る。

 

『……最強、興味ある?』

『それで救えるものがあるのなら』

『撫でたら首が飛ぶかもよ』

『では、飛んだ首だろうと問題なく癒せるでしょうか?』

『そればっかりはならなきゃ分からないねぇ』

『私としては、それよりも何処までも伸びる腕が欲しいです』

『……ゴム?』

『いえ、私が救えるのはこの手が届くところまでですから。この手が伸びれば、今まで手の届かなかった、伸ばされなかった誰かも救える。そう思いませんか?』

『思わない。というか、そんな腕が伸びる身体はちょっと嫌だよ』

『そうですか……』

 

 人間の里の端から端まで腕が伸びるのを想像しながら首を横に振ったのだが、ちょっぴり落ち込ませてしまったかもしれない。まぁ、そんな理想を語るのも抱くのも勝手だけど、私は嫌だと思ったのだ。……届かなければ近付けばいいのに。はぁ。

 なんて思っていたら、不意に横から衝撃を受け、そのまま私が倒れて何かが圧し掛かってきた。……何処のどれだ、この野郎。

 

『ねーねー、最強ってどのくらい凄いと思う? ねぇ、どう思ぎゅぶ』

『……まず跳びかかってくるのを、止めろ』

『ごべんばばび』

 

 無邪気にも跳びかかってきやがったのの両頬を両手で潰しながら起き上がり、湧き上がってきた怒りに任せて睨み付けた。……まぁ、謝ったようだからもういいや。

 両手を離してやり、改めて顔を向ける。何故楽しそうに笑ってやがるんだ。はぁ。

 

『でっ! 最強ってどのくらい凄いと思う?』

『そう思ってるうちは最強じゃないんでしょ』

『んー、よく分かんないっ!』

 

 適当なことを言って煙に巻こうとしたら伝わらなかった。ちょっと悲しい。

 

『けど、ゆうかりんが妖力をドバーッと空に解き放っていたの、あれ凄かったよねー! あんな感じのスペルカード、考えておこっかなぁ』

『……そういうスペルカードはそこにいるのに任せた方がいいと思うけど』

 

 そう言いながら指差すのは、さっきから出来る出来ないと言い争ってる片方。出来ると言っている方だ。……内容をよく聞いてみると、全員超えられる、ちょいと無理がある、のようだけど。まぁ、大した差はないだろう。多分。

 あれは華麗に魅せるより、一撃の火力に重きを置いているはずだから。まぁ、多少嵌めるくらいはするけれど、それも一撃を当てるためのもののはずだし。

 

『だから、見せて美しいと感じさせるスペルカードを考えてよ。うん』

『そうするっ!』

『そうして』

 

 会話を打ち切って追いやったのだが、嬉しそうに去っていった。……まぁ、いいや。

 ポテリ、と力なく倒れると、額にそっと手を添えられる。

 

『お疲れのようですね』

『あんな調子に付き合い切れないだけ』

『元気でいいじゃないですか』

『度が過ぎるっての』

 

 そう言ってため息を吐いた瞬間、突然ドスリと鈍い音が響いた。続いてぼふり、ズザーと擦れるような音。

 

『何事?』

『とりあえず出てみればいいのではないでしょうか?』

『そうする』

 

 首を縦に振りながら表へと飛び出し、私は目を開いた。

 

「ぁがっ、痛ぁ……っ」

 

 しかし、それは視界を確保するためではなく、脇腹に響く鈍痛のせいである。最初の鈍い音の正体、これかよ!?

 脇腹に手を当ててなけなしの癒しを施しながら、気付いたら桜の幹から少し離れたところに転がっていた身体を起こす。擦れるような音じゃなくて、思いっ切り滑ってたのかよ。はぁ。

 大妖精がハラハラしているが、膝の上にチルノを起こさないようにしているのが少しばかり微笑ましい。もう一人眠っていた少女がいたはずだけど、私が内側にいる間に何処かへ行ってしまったらしい。

 

「あら、死んでなかったのね。狸寝入りにしては変だと思ってたのよ。猫だし」

「……酷いモーニングコールもあったもんだねぇ」

「もう昼過ぎよ」

 

 ちょっとした冗談にも乗ってくれない冷たい霊夢に、私は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

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