霊夢から明かされた内容に思わず声が漏れてしまったが、霊夢はそんな私を気にすることなく一人で勝手に納得してさっさと何処かへ飛んで行ってしまった。空の彼方へ遠ざかっていく霊夢をその場で見送り、やがて豆粒よりも小さくなったころにふっと一息吐く。何処に行くつもりかは知らないけれど、きっと死神がいる当てでもあるのだろう。まぁ、頑張ってくださいな。応援くらいはしますよ。今だけは。
両手で麦わら帽子の鍔を軽く握り締め、ググッと引っ張って頭に押し付ける。そうして自分で押し付けている麦わら帽子に押し潰されるように膝を曲げ、そのままその場にしゃがみ込む。……あぁ、ちょっと疲れた。さて、どうしようか。私は特に行きたいところがあって表に出てきたわけじゃあないわけで、つまり私には行く当てがないのだ。はぁ。
「……どれか代わりたければ代わっていいよ」
そう呟いても、何故か私を内側に引っ張ってくるのはいなかった。おかしいな。私なんかより有意義なことをしたいのがいるだろうに、どうして。
まぁ、それならしょうがないか。無計画に、当てもなく、彷徨うとしよう。そうだ。花を見て回ろう。内側からじゃあなく、表で直接。うん、そういうことで。早速無計画でも当てもなくでもなくなってしまった気がするが、まぁよし。
そうと決まれば、とりあえず歩き出した。蒲公英と菊が隣り合って咲いているのを見て苦笑いを浮かべ、今朝見覚えがあった鳥兜を見つけてどうするかちょっとだけ考えて放っておき、薔薇を手に取ろうとして茨の棘が刺さってしまったり。まぁ、頭の端では死神にさっさと回収してほしいなぁ、と思いながらもそこそこ花の異常を楽しんでいた。
そうして気付けば妖怪の山の麓に付いていた。よくもまぁ、これだけ歩き続けていたものだ、と自分で自分に感心する。そう意識した瞬間、脚が棒のようになったけど。はぁ。
「ん?」
少し遠く、妖怪の山から下りてくる足音が聞こえる。足音からして一人ではないけれど、五人もいないだろう。誰だろうか、と思って近付こうとしたが、すんでのところで止めた。その代わり、すぐさま足音の元から離れるべく棒のようになった足を無理に動かし、出来るだけ音を立てないようにしながら樹の裏に滑り込んだ。
「うわぁーっ! 何処を見回しても綺麗ですね、藍様!」
「そうだな、橙」
幸せそうに話す二人の声が聞こえてきた。だから、わざわざ私は隠れたのだ。一つ一つの花を愛でて回る橙と、その姿を眺めている藍。甘い雰囲気が見ているこちらにまで嫌ってほど伝わってくる。楽しそうだ。嬉しそうだ。羨ましいと思う。きっと、私があそこにいたら、そんな二人だけの空間はぶち壊れてしまうだろう。そうだと分かり切っているから、こうして隠れているんだけどさ。
そんなことを考えていたら、なんだか虚しくなってきた。あーあ、どうしてだろうな。私はああして楽しめない。喜べない。ああして橙が浮かべている幸せを前面に出しているかのような笑顔、最後に浮かべたのはいつだっただろうか? ……覚えてないや。あったような、なかったような。そもそも、浮かべたことがなかったのかもしれない。……まぁ、もうどうでもいいか。はぁ。
「藍様! こっちに行きましょう!」
「はは、そう引っ張るなよ」
「にゅふふっ。はぁーい」
日の当たる世界を歩み続けている二人を、私は木陰から見ていた。