東方九心猫   作:藍薔薇

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……いい、迷惑だ。

 何を言っているのだろう、と思った。

 

「……自信なら、身の程知らずなくらいありますよ」

「それは貴方であって貴女ではないでしょう。いえ、貴女自身ではあったのでしょうが。……それと、自信ではなく自身です」

 

 言われた内容を理解して、まるで土足で踏み抜かれたような嫌悪感を覚えた。あと、せっかくずらしてやろうと思ったのに、足跡増やしながら戻りやがって。はぁ。

 何か喋ろうとして口を開いたが、何故か何も出てこなくて口を閉ざす。おかしいな。言いたいことなんてなくても、言葉は出てくるものなのに。

 

「貴女の言う身の程知らずな自信は、貴女自身から乖離しつつあった。現に、切り離されている」

 

 そんな私を見下ろす映姫の視線に耐えながら、続きを黙って聞かされる。

 それは、既に過ぎ去ったことだ。止めろ。蒸し返さないでくれ。頼むから。

 

「困難に立ち向かう挑戦は、貴女自身から乖離しつつあった。現に、切り離されている」

「……………」

「身と心を守る防衛は、貴女自身から乖離しつつあった。現に、切り離されている」

「……………」

「記憶し把握する聡明な思考は、貴女自身から乖離しつつあった。現に、切り離されている」

「……………」

「万物を楽しめる童心は、貴女自身から乖離しつつあった。現に、切り離されている」

「……………」

「全てを平等に見下ろす達観は、貴女自身から乖離しつつあった。現に、切り離されている」

「……………」

「施し癒す慈愛は、貴女自身から乖離しつつあった。現に、切り離されている」

「……………」

「敵を葬り去る殺意は、貴女自身から乖離しつつあった。現に、切り離されている」

「……………」

 

 そう思っても、決して止まることなく聞かされた。言いたいことはあるはずなのに、何故か口が開かない。無理に開いても、パクパクと空気だけが漏れていくだけだった。

 

「全て、貴女自身から外れ過ぎていた。人格が、魂が割れるほど。だから貴女自身は失った。……失い過ぎた。貴女は非常に不安定だ。だから、貴女は自身がなさ過ぎると説いているのです」

 

 その口調は、厳しくも優しかった。きっと、私のことを想って説いてくれているのだろう。確かに失ったものは取り戻すべきなのだろう。確かにそうだ。その通りだ。

 ……いい、迷惑だ。

 

「知ったようなことを言いますね」

「知っていますから」

「なら、言うなよ。……半端に知ったような風に言いやがって」

「貴女は一人に戻るべきだ。……そのままでは、貴女が消えかねません」

「それがッ! 知った風だって言ってんだよッ!」

 

 叫んだ。さっきまで何も出てこなかった口が嘘のように、それとも溜まっていたものを一気に吐き出すように。

 何も知らねぇで好き勝手言いやがる。ふざけてんじゃねぇよ。戻れだ? ……あぁ、戻りたいさ。けど、戻るってことはつまり私の愚行の再来だ。そんなことも知らないで、さも正しいように諭しやがる。九つから一人になるべきだと。そうだね。正しいね。だが、同時に過ちだ。それは私の過ちで、目の前に立つ映姫の過ちだ。罪を犯せと、そう唆してくる。

 

「えぇ、知っています。知っていて言っているのです」

「……は?」

 

 ……何言ってんだ。私が九つ揃って何をしたか知った上で言っているのか?

 

「貴女は罪だ何だと言いますが、あんなもの大した罪にはなりませんよ。それよりも、貴女が極楽にも地獄にも逝けず消え去る方が問題です」

「そんなの問題じゃあねぇ!」

 

 既に終わった身だ。私は、ただ生きているだけなのだから。

 それよりも、そんなどうでもいいことよりも、許しがたいことを言った……っ!

 

「私は全てを無下にしたんだぞ!? 私自身の都合でッ!」

「どのようなものも使い様です。貴女はその力で何をしましたか? ……何もしていません。ですから、罪に問えませんよ」

「違う、使い様なんかじゃあない。存在そのものが罪なんだよ!」

「貴女はこの手が罪と思っていますか? 貴女はこの足が罪と思っていますか? 首を絞め殺せる、頭蓋を蹴り砕ける、この手足が」

「……それとこれは違う」

「同じです。手も足も、貴方が罪だと言うその力も、貴女がどう思いどう使ったかが判決を下すのです」

 

 ふらつく脚で立ち上がり、私を説いた映姫の両肩を掴んだ。今持てる力全てを使い、縋り付くように。まるで、癇癪を起して泣きじゃくる子供をあやすような口振りだった。……いや、実際そうだったのだ。視界が酷く歪む。

 

「……私を、そんな簡単に許さないで……」

「私は判決を下すだけです。許す許さないは私の仕事ではありません」

 

 その冷たい言葉は、今の私にはちょうどよかった。

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