表のは鶏がらスープの素なるものをサラサラと鍋の中に振りかけ、もやしとわかめと一緒にクルクル回している。何時だったか紫様が外の世界から引っ張ってきていた調味料だ。流石に朝っぱらから鶏を煮込む気にはなれないらしい。面倒くさそうだし。
そんなことを思いながら表から目を離し、私は内側に目を向けた。……さて、色々とネタバラシをしようか。
『いやぁ、驚いた。嘘はいけません、なんて言うんじゃあないかと思ってたよ』
『私から進んで虚偽を働こうとは思いません。ですが、その嘘で救われるなら、私はそれで構わないと思っていますよ』
ちょっとだけ挑発するように言ってみれば、澄ました顔で返された。やれやれ。
『手際よかったなぁ。いやぁ、あれなら不合格になったのも納得するってものだよ。うん』
端的に言おう。病死は嘘だ。霊夢が始末した結果である。
霊夢が現場に急行してみれば、既に半分以上侵されている人間が一人いて、放っておくわけにはいかなかったわけだ。彼のためにも、人間のためにも、里のためにも、幻想郷のためにも、そして博麗の巫女として。急ぎじゃないのは、既に手遅れだったからに他ならない。一日二日遅れたとしても大差はなかった。……まぁ、流石にずっと放置というわけにはいかなかっただろうけれど。
紫様曰く、一昨年亡くした一人娘のことを忘れられず、胡散臭い交霊術に手を出したらしい。その過程はどうだったのか知らないけれど、結果として一人娘とは全く関わりのない悪霊を引き寄せて憑かれ、精神は半分以上壊れてしまった。あのまま寿命なり何なりで死んでしまえば、悪霊に身体を完全に乗っ取られて色々と面倒なことになるだろう、とのこと。
だから、霊夢に行かせた。男に憑いていた悪霊を祓い、そして皮肉にも悪霊憑きによって壊れた精神が埋め合わせられて辛うじて生き延びていた男は急死した。そして、病死したことになった。下手に真実を伝えるより、そうした方が穏便に済むから。
『ちぇっ。最初は俺に任せるとか言ってたくせによー』
『しゃあねぇだろ。ありゃ、まだ人間だったんだ。人間のまま済むなら、そっちの方がいいに決まってら』
『私が悪霊を祓わず始末してしまえば、彼は妖怪に成ってしまっていた。ですから、博麗の巫女に任せるのが最良なのでしょう』
あそこで話している通り、最初は再試験の予定だった。しかし、人間の里における男の立場から、人間のまま逝かせてやった方がいいと判断したそうな。大変だなぁ。はぁ。
悪霊を祓うってのは難しい。無念を晴らしてやれば自然と剥がれることもあるようだけど、へばり付くのはどうやっても無駄だ。力業になる。問答無用で悪霊を祓うのは、博麗の巫女に任せるのが一番手っ取り早い。
『……まぁ、貴女がやる気になれば話は変わったんですが』
『何だよ、こっち見んな』
『扱えるでしょう? 退魔の妖術』
『……自爆用だよ』
しかも、自爆するくせに自死には程遠いのが……。私自身が化け猫という妖怪、すなわち魔なのだ。使おうとすればヒリヒリする。使ってしまえばビリビリくる。しかも、使ったところで悪霊を祓えるかどうかなんて相手次第だ。相手が弱ければ上手くいくだろうけれど、強ければ一切通用しないだろう。はぁ。
『ま、済んだことだ。もういいよ』
そう言って、私はこの件について考えるのを止めることにした。
「さて、出来上がったことだし、紫様を起こさないと」
表を見上げてみれば、表のは火を止めてそそくさと歩き出している。いつも通りの日常だ。
人間一人がどう死んだところで、私にとっては関係ないってことなんだよ。