デート・ア・ライブ 小雪セイバー   作:業務用消火器の安全栓

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プロローグ

高校の入学式の日、私は登校中に起こった電車の脱線事故で死んだ。はずだった。

死んだはずの私がいたのは何もない空間だった。

所謂、神様転生というやつらしい。サブカルチャーの世界でしか存在しないと思っていた言葉に心踊ることがなかったと言えば嘘になる。軽く、趣味の方向性が大分人とは違うとはいえ、私も現在日本に存在するヲタクの一人だったのだから。

転生特典という、存在するかしないかが(物語によって)分かれるであろう言葉を聞いたときの私の心は、まさに狂喜乱舞という言葉がぴったり合う程に高揚していた。私が愛した彼ら彼女ら(キャラクター)になれる、同じ力を得ることができるというのだ。喜ばなければ嘘だというものだろう。

数時間悩んだ私は、眼前の神様に私を『魔法少女育成計画』の『スノーホワイト』にしてもらうように頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その願いは、少しの誤差と共に叶えられた。

転生先は『デート・ア・ライブ』。

私はそこで、精霊と呼ばれる存在になるようだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五河士道(いつかしどう)は普通の高校生だ。家族は両親と妹の3人、両親は仕事の都合で家にいないことが多いので家事は自分でやっている。

だが、今年の4月10日、空間震警報が発令された中、GPSの位置情報を頼りに、妹が避難しているかどうかを確認しに動いたのがダメだったのだろう。それがなくても最終的には()()なっていただろうが、士道の中にはその考えは浮かんでいない。

結局の所、その日の空間震が全ての始まりだったのだ。

空間震、30年前ユーラシア大陸で発生したのを皮切りに世界中で発生した空間の地震。発生原因は不明。数年前からここ天宮市で頻繁に起こっている。

妹、琴里の安否を確認しに行った先で見たのは機械の鎧を纏った複数の人が、クレーターの中心部にいた一人の少女を殺そうとしている所だった。その時俺は何もできなかった。ただ、殺意を向けられている少女の目が、何もかもに絶望し切ったその目が気に入らなくて。誰もその目を変える事ができないのかと疑問に思っていた。

少女に襲われ、気絶した俺は空中艦〈フラクシナス〉に確保された。そこにいたのは目の下に深い隈をもつ(30年間寝ていないらしい)女性、村雨令音さん。その人に連れられて会った〈フラクシナス〉の艦長は、妹の五河琴里だった。普段との性格の違いに驚きつつも、聞いた内容の要点を纏めるならばこうなる。

まずひとつ目として、少女は精霊と呼ばれる存在。こことは違う別の世界、隣界と呼ばれる場所から現れる特殊災害指定生命体。こちらの世界に現れる時、空間震を発生させる。

ふたつ目に、機械の鎧を纏っている側はAST。Anti Spirit Team、対精霊部隊の略称であり、その名前通りこちらの世界に現れた精霊に対抗するために作られた部隊。隊員は全員魔術師(ウィザード)と呼ばれる特殊な人間で構成される。

そして最後に、〈フラクシナス〉が所属するのはASTとは違うベクトルで精霊に対抗するために作られた組織。ラタトスク機関。精霊を武力ではなく対話による鎮圧を目的とした組織で、琴里の言うことが本当なら俺のサポートをするために作られた組織。活動方針はたったひとつのシンプルなもの。すなわち、デートして、デレさせろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五河士道は二人の精霊をデレさせた。

彼が初めて出会った精霊。

名前のなかった彼女に夜刀神十香という名を与え、無知だった彼女に世界を教えた。

二人目は幼い少女のような精霊だった。少女は四糸乃。左手につけた、陽気な性格のパペットはよしのん。士道が今まで会ってきたどんな人よりも優しいのではないかとすら思わせる彼女は、自分の命を狙うASTに対しても傷つけることを疎んでしまう。士道は、彼女の英雄(ヒーロー)となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、3人目の精霊、時崎狂三(くるみ)はその二人とはまるで違った。嬉々として殺人行為を繰り返し、何度殺してもその度に甦る。そんな狂三を殺し続けていた自称、士道の実妹、崇宮真那。狂三を殺す為に心を磨り減らし続ける彼女を救うため、十香の願いに応えるため、そしてなにより、狂三を救うため。五河士道は立ち上がる。

その後士道は屋上で狂三を説得し、狂三の心が傾きかけた所に狂三の本体が現れ、狂三を殺し、空間震を起こそうとする。それを止める為に精霊〈イフリート〉、五河琴里が時崎狂三を撃退する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが本来の原作(歴史)での出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

時崎狂三は困惑していた。確かに今自分は空間震を発生させた筈だ。その筈なのに、()()()()()()()()()。何者かが行動を起こしたのは間違いないだろう。だが誰だ、五河士道はあり得ない。彼は狂三の分身体が捕らえている。鳶一折紙と夜刀神十香も同様だ。崇宮真那は先程の傷がまだ回復していない以上動くことは出来ない。となれば、有り得るのは第三者による介入だろう。

 

(わたくしと士道さんとの逢瀬を邪魔する無粋者は何者なのでしょう?)

 

そんなことを考えると同時に邪魔者の候補に思いを巡らせる。

 

(士道さんのバックについている組織か、それともわたくしが何か行動を起こす度に追いかけてくる()()でしょうか。)

 

その質問への回答は、狂三が背中を守るような形で配置した分身体が殺されるという、狂三にとってあまり良くない形で示された。

 

 

 

狂三の背後の狂三たちが上半身と下半身を分断されていく。狂三たちをそうしたであろう凶器、出刃包丁と薙刀を足して二で割ったような不思議な形状の武器が狂三の首へと迫る!

紙一重でその凶刃を避けた狂三が振り返った先にいたのは

学生服のような服装をしている、金色の瞳と桃色の髪を持つ少女。腰周りとヘアバンドには大きな花飾りがついている。だが、そんな服装よりも目を引くのはその表情であろう。表情、というには少し語弊があるかもしれない。彼女の顔には表情と呼べるものは存在していないのだから。

 

 

 

 

識別名〈セイバー〉、一人の転生者(人間)が『スノーホワイト』となることをのぞんだ結果生まれた存在である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

何が起こったのだろう。状況だけを見れば明らかだが、突如現れた少女、恐らくは精霊であろう彼女の情報が足りず、士道は困惑していた。多分だが、十香と折紙もそうなんだろう。

だが、狂三と少女はそんな三人を無視して状況を進展させていく。

 

「あらあら、またあなたですの?一体どうやってわたくしの空間震を止めたのか。後学のために質問してもよろしくて?」

 

馬鹿にするように狂三が放ったその言葉を無視して、対面の少女は駆け出した。

 

「まただんまりですの。残念ですわ。まぁ、掛かる時間が短いと考えれば、好感が持てますわね!〈刻々帝(ザフキエル)〉──【七の弾(ザイン)】!」

 

狂三の背後の時計盤、そのⅦの文字から影が染みだし、歩兵銃へ吸い込まれていった。

 

(まずい!あの弾が当たると!)

 

先程の七の弾(ザイン)の効果で時間を止められ、その間に幾発もの弾丸を受けた真那を思い出し、士道は少女を庇いに動こうとするが、狂三たちに取り押さえられているため動けない。

狂三は一直線に自分の方に向かってくる少女に対し、歩兵銃を構え、撃った。

放たれた弾丸を、少女は手に持っていた天使を投げつけ、それに命中させることで防御する。

当然、天使は空中に静止するが、すぐに消失し彼女の手元に再顕現する。

その間に準備を済ませた少女は、狂三に目掛けて天使を振るおうとするが

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉──【一の弾(アレフ)】」

 

加速した狂三には届かない。

だが次の瞬間、狂三の頭上を炎が襲った!

また新しい精霊だろうか。疑念と共にそこにいる全員が顔を上げた。

 

空が、燃えている。

 

そう言っても過言ではないほどの熱量が空を覆っている。

 

 

そしてその中心にいるのは、()()()

 

(どういうことだ!?)

 

士道は内心困惑に包まれており、それが分かりやすく表情に出ている。困惑しているのは十香も狂三も同じではあるが、そのベクトルがちがう。

十香のそれはいつも共にいる彼女が精霊であったことに対するそれであるが、狂三のそれは精霊が突如現れたことに対するものだ。

そんな中で唯一表情の変わらない少女が、揺れ動かない瞳で琴里を見ている。

 

「あなた、確か〈セイバー〉ね、ラタトスク(うち)の士道を助けてくれてどうもありがと。」

 

少女……〈セイバー〉と呼ばれた彼女に話しかけた琴里は、

 

「あとは私がやるわ。もし手伝ってくれるって言うなら士道たちをお願い。」

 

 

琴里の突き放したような物言いに対しても彼女は無言のままで、「構いませんよ。」シャベッタ!?

いや、そんな事より!

狂三の腕を天使で切り落とし、折紙、十香、俺の順で拘束を解いていく少女に訴える。

 

 

「琴里を止めてくれ!」

 

「いえ、どうやら止められると怒りでどうにかなりそうらしいので。」

 

変わらない無表情のままで答える。気を失っている折紙は彼女の手で運ばれている。

 

「私はちゃんとお願い、聞いてもらえたみたいね。あんたみたいな性悪とは違って性格が良いのが伝わったのかしら。」

 

いつも(ラタトスク)のように鼻を鳴らしながら皮肉を言う琴里だが、

 

「ひひひ、ひひ。ずいぶんと楽観的ですのね、琴里さんは。もしかしたら最期のお願いだと思って聞いてくれたのかもしれませんわよ?」

 

当然、黙って聞き流すような狂三ではない。

売り言葉に買い言葉、皮肉に挑発でかえす言葉の戦いは、次の瞬間終了した。

 

「わたくしたち!!」

 

屋上を埋め尽くしていた無数の狂三が、一気に琴里のもとへ走り出していく。

 

「ふん」

 

だが琴里は一瞥すらせず鼻で笑う。この程度なら、一瞬で終わる、と。

 

「〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

肩に掛けた戦斧を振るい、眼前の狂三を薙ぎ払う。

 

「きひひっ!無ゥ駄ですわよう!!」

 

狂三の嘲笑が屋上に響き渡る。

あの戦斧がどんな天使かは分からないが、少なくとも一薙ぎだけであの量の精霊を殺し尽くすのは不可能だ、と。

 

だが、現実は非常である。

 

幾人もの狂三が灼爛殲鬼(カマエル)から放たれた炎に包まれ、次の瞬間には跡も遺さず蒸発している。

 

「ぅ熱っつ……!」

 

直接炎の届く場所にいないにも関わらず、身を焦がす程の熱が伝わってくる。直接当たれば精霊ですら蒸発させる炎だ、当然ただの人間である士道は近づいて無事でいられるはずもない。

琴里は、灼爛殲鬼(カマエル)を狂三に向けて構える。

 

「琴里!どういうことだよ、これ!!」

 

「大人しくしてて、士道。逃げてもいいけど出来れば〈セイバー〉の後ろにいて、今のあなたは簡単に死んじゃうんだから。」

 

()()()()()()()()」、琴里の今の言葉に士道は理解した。今まで自分を何度も救ってきた、傷を癒してくれたあの炎は、今は使えないのだと。

その訳は、すぐに示された。

 

「もういい加減、時間が惜しくなってきましたから。すぐに()らせていただきますわ。〈刻々帝(ザフキエル)〉──【七の弾(ザイン)】!」

 

すると、〈刻々帝(ザフキエル)〉の『Ⅶ』の文字盤から影が染みだし、狂三の銃口に吸い込まれていく。

すぐに放たれた銃弾(それ)は、姿勢、距離、速度、タイミング、どれをとっても避けようのない完璧な一撃であったが、それは士道(人間)から見ての話だ。

人間を遥かに超越した精霊の動体視力は、その銃弾を確実に捕らえており、琴里は銃弾を弾き飛ばした。

 

「琴里ッ!!!」

 

が、それでは駄目だ。士道はたまらず叫んでいた。

七の弾(ザイン)】。その能力は、命中した対象の時間の停止。

先程、〈セイバー〉は天使で迎撃することによって【七の弾(ザイン)】を対処した。しかしそれは体から完全に切り離した投擲という形であり、そのまま灼爛殲鬼(カマエル)で受けた琴里とは話がまるで違う。

つまり結果として、琴里の時間は停止した。

 

「ふふ、あはははははははッ!」

 

再び屋上に響く笑い声。時間が惜しくなってきたと言う割には、ゆっくりとした歩調で動く狂三。

 

「如何なる力を持っていようと、止めてしまえば無力以外の何でもありません。あぁ、お痛わしゅうございますわ琴里さん。残念ですが、これでおしまいです。」

 

「やめ──」

 

狂三を止めようとする士道だが、〈セイバー〉に道を塞がれる。

 

「どうして止める!?琴里が危ないんだ!行かせてくれ!!」

 

士道の心からの願いは、間髪入れずに少女に否定される。

 

「私は、その琴里さんにあなたたちの安全を頼まれました。それが彼女の願いですから。」

 

「だったら!!「それは必要ないです。」」

 

士道の内心は焦燥と困惑で満ちている。頼まれたからやっているのだとしたら、こちらから頼めば聞いてもらえるかも、と思ったが、また一蹴された。

 

「ちゃんと前を見てください。」

 

狂三は何発もの銃弾を琴里に撃ち込んでいく。

 

「それでは、ごきげんよう」

 

そして最後に至近距離から眉間への止めの一撃。それと同時に【七の弾(ザイン)】の効果が解除され、琴里の体のあちこちから血が吹き出してくる。

 

「琴里ッ!!!」

 

その全身を狂三の凶弾によって穿たれた琴里の体は、触れたら崩れてしまいそうなほどにボロボロで、士道は触れることが出来ない。

 

「あ、あ…………」

 

「うふふ、ふふふふふふッ!ああ、ああ、終わってしまいましたわ。折角出会えた強敵でしたのに。無情ですわ。無常ですわ。やはり一番の強敵はあなたですわね。ねぇ、〈セイバー〉さん?」

 

ここにいる全員に語り聞かせるように、芝居掛かった口調で回りながら嗤う狂三。

 

「おい女!どういうことだ!ぜんぜん大丈夫ではなかったではないか!」

 

誰の目から見ても明らかなほどに怒っている十香が、〈セイバー〉に掴み掛かろうとするが、ひょい、と避けられてしまう。

 

「ふぐッ!」

 

「必要ない、と言ったんです。あとは見ていれば分かります。」

 

この期に及んで一体何を─────琴里の発言を忘れていた士道には理由がわからない。

だが、思い出してほしい。彼女は何と言っていただろう。

そう、“今のあなたは簡単に死んじゃうんだから”と言ったのだ。

十香の時、四糸乃の時、士道の命を救ってきたものは一体何だったか。

そう──────“炎”だ。

 

「こ、れは───」

 

呆然と、声を漏らす。琴里の体のあちこちに存在するかぞえきれないほどの銃創。それらから焔が吹き出し、全身を舐めるように覆っていく。

 

「一体、どういうことですの?」

 

狂三の顔から余裕の笑みが消えた。それほどに予想外の出来事だったということだろう。焔が通った跡には、傷も、血の跡も、霊装の綻びすらも残っておらず、それこそ現れた瞬間そのままの姿の琴里がいた。

 

「まったく、派手にやってくれたわね」

 

何事もなかったかのように平然としている琴里。それに対して、狂三はますます冷静さを欠いているように見える。

 

「私としては、あなたが恐れ(おのの)いて戦意喪失、っていうのが理想的なんだけど。」

 

灼爛殲鬼(カマエル)を構え直しながら狂三を睨み付ける琴里。

 

「……ふん、戯れないでくださいまし!」

 

狂三は、反撃のために身を反らし、両手の銃を背後に向けて、

 

「【一の弾(アレフ)】………!」

 

狂三の左目の時計がものすごい勢いで回転し、〈刻々帝(ザフキエル)〉の『Ⅰ』の文字から夥しい量の影が滲み出て両手の銃に吸い込まれる。狂三はそれを屋上に残っている狂三たちに撃ち、最後に自分のこめかみに銃口を押し当て、引き金を引いた。

 

「────ちッ!〈セイバー〉!士道たちをちゃんと守りなさいよ!」

 

恐ろしい速度を得た何人もの狂三たちが、琴里を取り囲むように飛び回り、次々と攻撃を当てていく。

 

「切り裂け────〈灼爛殲鬼(カマエル)〉!」

 

琴里が吼えると同時に〈灼爛殲鬼(カマエル)〉は全長、体積をともに増大させる。

次々と、無数の狂三が、琴里の灼熱の刃に薙がれて灰になっていく。

 

「くッ………!」

 

そんな苦悶の声とともに、狂三が琴里の射程圏内から離脱する。

どうやら、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の攻撃を食らってしまったらしい。肩から腹にかけて、火傷のようで切り傷のような、奇妙で痛々しい傷跡ができている。

 

「一体、なんなんですの!………あなたは!?」

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉──【四の弾(ダレット)】!」

 

短銃を掲げて叫ぶと同時に、〈刻々帝(ザフキエル)〉の文字盤の『Ⅳ』の文字から影が滲み出て、狂三のこめかみに当てられている銃に入って、すぐに放たれる。すると、まるで時間を戻したかのように狂三の体から傷跡が消えていた。

それと時を同じくして、琴里の周囲を飛び回っていた狂三の分身体全てが、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の焔によって灰になった。

 

「あら、もう打ち止めかしら?案外呆気なかったわね。もう少し本気を出しても良かったのよ?」

 

琴里が戦斧を肩に担ぎながら、ふふんと得意気に鼻を鳴らす。

その物言いに狂三が美しい顔を凄絶に歪ませ歯をぎしりと噛み締めた。

 

「その言葉─────絶ェッ対に後悔させて差し上げますわッ!〈刻々帝(ザフキエル)〉……ッ!」

 

狂三が言葉を放ったその瞬間から、彼女の時計が今までより更に速く回り始めた。

 

「ッ!させるかっての……!」

 

そんな様子に底知れない不気味さを感じたのか、琴里が〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を振りかざすが、

 

「───ぁ」

 

小さな、本当に小さな声をのどから発して、その場に膝をついてしまった。

 

「こ、琴里!?」

 

それが何なのかは分からないが、琴里の窮地であることは容易に想像できた。思わず声をあげてしまう。が、それと同時に、目の前で士道たちを守ってくれていたはずの彼女がいなくなっていることに気がついた。

 

「あッはははははははははは!悪運尽きましたわねェ!」

 

狂三は高らかに笑い、〈刻々帝(ザフキエル)〉の効果が込められた銃を琴里に向ける。

 

「──【三の弾(ギメル)】」

 

狂三がその言葉を発するよりも速く、〈セイバー〉は琴里の首もとに天使を叩き込み、その後すぐに天使の石突きを琴里の霊装にひっかけて士道の方(こちら)に放り投げた。

そして屋上の床部分を踏み割り、床から分離し巨大な石材となったそれを狂三の方に蹴り飛ばす。

狂三の弾丸、【三の弾(ギメル)】が命中したその石材は、まるで()()()()()()()()()ように朽ちていった。

 

「あら、選手交代ですか?〈セイバー〉さん?」

 

愉快そうに、余裕そうに、こちらに笑みを向けてくる狂三。だが、その笑みが真実のそれではないことを彼女───〈セイバー〉は知っている。

 

「はい、あなたも余裕が無いなら逃げても(リタイアしても)良いんですよ?」

 

内心を見透かされたことに少し驚くものの、すぐに表情を笑みに戻して思考する。

この場で彼女と戦った場合、時間の浪費というデメリットの方が大きくなる。

 

「ええ。では、そうさせてもらいますわ。」

 

結果、狂三が選んだのは撤退だった。無様ではあるが、冷静な思考に基づいた判断だ。誰も責めることはない。

狂三の影が正常な形に戻り、狂三が影の中に沈んだと同時に士道の意識も闇に落ちた。狂三の正体と本質、突如現れた謎の精霊、そして──────琴里。

短時間で様々な情報を詰め込まれた一般人(士道)の脳は既に限界であった。

 

「シドー!シドー!どうした?狂三が何かしたのか!?」

 

「眠っているだけです。疲れたんでしょう、色々と。どこに運べばいいですか?手伝いますよ。」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、五河士道が精霊(少女達)を救う物語だ。

それに変わりはない。

この世界にいないはずのスノーホワイト(彼女)の存在が、物語にどんな変化をもたらすのか。

今はまだ語ることはできない。

ただ、一つだけ確かなことがある。

主人公(士道)役得(苦労)は確実に増えるだろう。




読者の皆様に一言御礼を。
このようなニッチ、駄文、見切り発車と三拍子揃った拙作を最後までご覧いただきありがとうございます。
できる限り続けていきたいと思っているので、よろしくお願いします。
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