デート・ア・ライブ 小雪セイバー   作:業務用消火器の安全栓

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八舞編、終了です。
どちらかの出番を増やすとどちらかの出番が減ってしまって困ってます。八舞ファンの方々、重ね重ね申し訳ない。
次の美九編からは、お互いの出番を合わせられるように頑張りたいです。


士道ミラクル

動きの邪魔となる外套はもうしまった。十数にも及んだ〈バンダースナッチ〉は、半数程に沈黙させた。だが、やはり対人と違って声が聞こえない人形相手は分が悪い。視界右側から飛んできた機械の腕を薙刀で防ぎ、左側の〈バンダースナッチ〉を蹴り飛ばす。

一刻も早く士道さんの方に向かうために動いてはいるが、この人形たちとてもとても邪魔だ。

後方から飛び出てきた〈バンダースナッチ〉二体を四体に増やして、これで残り六…………じゃなくて四体。

数分もあれば全て残骸に変えられるだろうが、士道さん側に余裕が失くなっている。

急げば間に合う。ならば、急がなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え……………!』

 

驚いたような、それでいてあまり感情のこもっていない声が十香と士道の口から漏れた。

二人の眼に写るのは、今だ争いを続ける耶倶矢と夕弦、機械の鎧を纏った魔術師(エレン・メイザース)、そして…………十香の手に握られた、刀身の失くなった鏖殺公(サンダルフォン)

 

「なん…………だと…………」

 

その一瞬後、エレンの攻撃が十香の体を軽々と吹き飛ばした。

短い苦悶と共に、十香は数度地面に体を擦り、うつ伏せに倒れ伏した。その一拍あとに、砕かれた〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が光となって溶けていった。

 

「と、十香!!」

 

士道は慌てて十香に駆け寄ろうとするが、それを邪魔するかのように表れた〈バンダースナッチ〉が士道の行く道を阻害してくる。見れば、十香の方にも〈バンダースナッチ〉が群がり始めていった。

 

「興醒めです。手早く昏倒させて〈アルデバル〉に持ち帰りましょう。」

 

言ってエレンは指を鳴らすと、彼女が身に纏っていた鎧は消え去り、興味を失ったエレンの代わりと言うように、二機の〈バンダースナッチ〉が十香の体を掴み、持ち上げる。

ぐったりとした十香の前にもう一機〈バンダースナッチ〉が歩み出たかと思うと、爪の生えた手を十香の額に近づけていった。

 

「ぐ─────ッ………あァ!!」

 

十香が苦しそうな声を出して身を捩るが、効果はない。

 

「十香!何しやがるてめぇら!くそっ、退け!退けよ!」

 

士道はそう叫ぶが、人形たちやエレンは無反応のままだった。士道がもがいている間にも、十香ののどからは苦悶と悲鳴が入り交じったかのような声が漏れ続けている。

 

「十香────!」

 

士道は絶叫を上げた。

とてつもない無力感に襲われて、途方にくれた。

結局、五河士道という一個人に出来ることはなにもない。

〈フラクシナス〉の力を借りて、ようやく十香を封印することが出来た。

その十香の助けがなければ、四糸乃を封印することは出来なかった。

狂三の時は、小雪や琴理に助けられて、どうにか生き延びる事が出来た。

琴理の時だって、やはり少なからず〈フラクシナス〉や小雪に手伝ってもらっての封印だった。

勿論彼がなにもしていないという訳ではない。彼無くしては精霊の封印自体が不可能であるのだから、何も出来ないというのは彼の思いすぎだ。

だが、たとえそうだとしても、彼の眼には現状しか写っていない。耶倶矢と夕弦を止められず、十香を窮地から救うこともあって出来ない現状しか。

彼の身に与えられた封印能力は、そんな現状では用をなさず、それ以外に使える手札と言えば、琴理から借り受けた治癒能力と、十香たちから得た精霊の加護のみ。

せめて、あと一つ。あと一つでも力があれば。現状を切り拓く力が、 この人形を切り裂く(奇跡)がこの手にあれば。

ふと、狂三のことが頭に浮かんだ。

あのときに感じた、自分ではどうしようもないという無力感と、自分には狂三は救えないという絶望感。それに似た感覚が士道を襲った。

 

───────もう二度と、あんな思い(後悔)はしたくない。

 

頭の中でナニカが弾ける音がした。

 

一生に一度で構わない。今だけで構わない。

今この手に、十香を救う力があれば。

 

士道は漠然とした意識のまま、右手を振り上げていた。

 

「え………………?」

 

呆然と、声を上げる。

士道が右手を振り下ろした瞬間に、目の前の〈バンダースナッチ〉の上半分が消し飛び、その延長線上に存在していたもう一体────十香を押さえていた内の一体───の頭が斜めにするりと溢れ落ちた。

するとそれに引っ張られる形で、十香の体が崩れ落ちた。

 

「これは…………………」

 

信じられない。そんな心から、自然に声が漏れ出てしまう。

視線の先は、己の右手。

 

──────そこには、()輝く(・・)()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分からない。眼前の現実を理解できない。否、それは確かに真実だ。誰も嘘はついていない(誰も嘘がバレると困るなんて思ってない)。自身の耳がそれは証明し続けている。そんな中に、理解できない自分の中に、どこか納得もしている自分がいる。〈イフリート〉、五河琴理の能力()を使っていると聞いたからだろうか。

〈バンダースナッチ〉の残りの対処を後回しにして、士道さん達の援護を優先した。

その先で見た五河士道の手に握られていたのは、〈フラクシナス〉の映像記録で見た〈鏖殺公(サンダルフォン)〉そのものだ。

自身が享受したそれ故に、姫川小雪は否定できない。認めるしかない。目の前の、奇跡を超越したナニカ(現実)を。

だってこの世界には、奇跡も魔法もあるのだから。

 

 

体を鈍らせる思考を取り払い、天使を構え、標的を見る。

エレン・メイザース。油断か慢心か、何れにせよCR-ユニットを纏っていない今が好機と、小雪は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天使……………?しかも〈プリンセス〉のそれと同じ…………?」

 

エレンが、先程までの興味なさげな様子とは打って変わって、好奇の色を顕にして士道を見てくる。

 

「まさか。それはつい今し方砕いたはずです。それ以前に、なぜあなたがそんな………。五河士道、あなたは────!?」

 

だが、そんなエレンの言葉を遮るように彼女の首もとに凶刃が迫る。寸前でそれに気がついたエレンは紙一重でそれを避けたが、体勢がよろけてしまう。

 

「は?」

 

その声は誰のものだったのだろう。よろけた体勢を直すために数歩歩いたその先で、エレンの体が突如士道たちの視界から消えた。

その原因に真っ先に気がついたのは、当然というか張本人。エレンは、自身が感じた一瞬の浮遊感と昨日今日と何度も自分の邪魔をしてくれた女子高生たちの発言から、ある一つの結論を導きだしていた。

 

(まさか……………高速穴掘り術の────)

 

高速穴掘り術、今日の昼頃に自分を砂に埋めてくれた三人が言っていた。その練習のために、旅館裏の森で地面をボコボコにしたとも。その森とはつまりここであり、自分はそれに引っ掛かってしまったのだと。

その声を、より正確に言うと、そこから抜け出すには再び(CR-ユニット)を纏うしかないという心の声声を聞いた小雪は、全力でそれを妨害しにかかる。

小雪がそう判断するのと同時に、周囲一体の〈バンダースナッチ〉から『ばちっ!!』という音が鳴った。

声を聞いている小雪以外は知るよしもないが、同時刻、或美島上空で繰り広げられていた空中艦二機の主砲戦。〈フラクシナス〉対〈アルデバル〉の戦いが〈フラクシナス〉側の勝利として終止符が打たれたところだ。

火事場でしか役に立たない変態(神無月)が司令に誉められたい一心で活躍したのだが、本筋には関係のないことだ。

重要なのは、〈フラクシナス〉の砲撃によって〈アルデバル〉のB2区画─────〈バンダースナッチ〉部隊の遠隔制御室(コントロールルーム)───を破壊されてしまったことだ。

直ぐにそれを理解した小雪は、物言わぬ鉄屑となった〈バンダースナッチ〉を少し前にエレンが落ちた穴へと放り込んだ。

 

「え、う、うわっ!?」

 

十香を仕留めたと判断して余裕ぶってCR-ユニットを解除したのが完全に裏目に出た形だ。不意打ちを受けたエレン(世界最強)は重そうな機械人形の下敷きとなり、

 

「そんな…………。わたしは最強の………魔術(ウィザ)…………。」

 

珍妙なセリフを吐きながら、そのまま意識を失った。とはいえ、いつ目覚めるか油断はできない。そんなことを言いながら〈バンダースナッチ〉を使って落とし穴の周りに壁を作る小雪を、士道たちは見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

それから、どの位進んだのだろうか。

 

「………!あっ……………」

 

何故か先頭に立つ小雪に並走していた士道はのどを震わせた。木々が放射状に倒れているその上に、何度も激突を繰り返している耶倶矢と夕弦を見つけたのだ。

 

「耶倶矢 ──── 夕弦!」

 

ある程度の時間稼ぎはしているが、今は一刻も早くエレンから逃げなければならない状況。だが、先導していた小雪が真っ直ぐにここに向かっていたことを考えると、もしかしたら自分にあの二人を止めてほしかったんじゃないかという希望的観測が沸いてくる。

たとてそうで無くても、士道としては是が非でも二人を助けたい。万が一助けられなければ、二人のうち片方が消滅してしまう。

今から数時間前、耶倶矢が夕弦を、夕弦が耶倶矢を、お互いがお互いを助けてほしいと頼んできたあの時、二人が見せた悲しげな表情。もうあんな表情()はさせたくないと。そう思ってここにいる。

二人とも救うには、今ここで士道が二人の霊力を封印するしかない。

 

「二人とも!やめるんだ!もしかしたら二人とも生き残れる道があるかもしれない!」

 

全力を込めたその叫びは、嵐の壁に囲まれた二人には届かない。

どうすれば、そう言いかけて、士道はハッと目を開き、自身の右手を見下ろした。そこには未だ、十香の天使、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が握られていた。〈バンダースナッチ〉を一瞬で屠ったこの(奇跡)があれば、二人との間にある壁を切り拓くことが出来るかもしれない。

もちろんそれだけで二人が話を聞くとは思わないが、一瞬でも士道に気を反らせ、話を聞いてもらえるかもしれない。微々たる可能性だが、今の士道にはそれに賭けるしか道はなかった。

 

「すまん十香、少し離れてくれ。」

 

「む…………?う、うむ」

 

十香が巻き込まれないように下がらせる。士道はそれを視界の端で確認すると、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を両手で構えて、耶倶矢と夕弦を覆う暴風を切り裂くように一閃させた。

だが、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は最初に見せたような光を発しはしなかった。何度か試してみるが、やはり結果は同じだった。〈鏖殺公(サンダルフォン)〉はその刀身の範囲で空間を裂くだけで、十香が振るう時のような絶対的な権能を発揮したりはしなかった。

 

「駄目か………」

 

士道はギリと歯を噛みしめ、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を握り直した。だが、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は応えない。士道は、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の本来の持ち主に目を向けた。

 

「十香、頼む…………〈鏖殺公(サンダルフォン)〉で二人を止めてやってくれ。」

 

そう言って十香に〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の柄を差し出すが、それを握った十香の反応は芳しくない。

 

「…………駄目だ。今の私にはこの〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は握れない。」

 

士道はその発言に疑問符を浮かべる。十香はジッと士道の目を見据えながら答えてくれた。

 

「〈鏖殺公(サンダルフォン)〉はただの剣ではない。霊力を持つものの願いによって顕現する天使だ。十全に霊力を有していない今の私には扱うことはできない。」

 

それを聞いた士道は一気に絶望的な心地に襲われた。上空では未だ二人の精霊が殺し合いならぬ生かし合いを続けている。お互いがお互いを愛す故に、お互いが自分を殺そうとしている。士道と十香に二人を救う手立てはなく、頼みの綱の小雪は案内だけして()()()()()()()()()

 

「くそッ、くそ!何とかならないのかよ!」

 

士道は叫ぶと、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉をもう一度振るう。反応はないが、それでも何度も、何度も。今この状況を解決するには、奇跡にすがるしかないんだ。

 

「このままじゃ、二人が……………」

 

すると、士道の肩に十香が手を置いてきた。

 

「……っ、十香?」

 

空を見上げていた士道は、その視線を十香の方に向けた。肩に置かれた十香の手が、失意に沈んでいる士道を慰めるようなものではなく、もっと力強い何かに思えて、士道は唾を飲み込んだ。

 

「羨ましいな。シドーにそんなふうに言ってもらえるなんて。」

 

士道か呆然としたような表情をすると、十香は一瞬苦笑めいた笑みを浮かべてから力強く頷いてきた。

 

「先ほど言いかけたが、私はやはり皆で話し合うしかないと思う。シドーに二人を生かせる術があると知れば、二人も矛を納めるだろう。」

 

十香の発言は士道の考えと一致している。だがそこに至るための、あの嵐の壁を取り払うための一手が足りない。

 

「さっきも言ったが、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は呼び出した者の願いによって顕現する物。シドーの願いによって召喚されたのならば、願いを叶えるのはシドーの他に誰がいよう。」

 

「俺、が……………」

 

十香はこくりと頷くと、士道にしっかりと柄を握らせた。そして自身は士道の背後に回って〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を共に握ろうとしてくるが、やはり体格が違うのか「むぅ………」とうなると、逆に士道の腕をまさぐって二人羽織のような体勢になった。当然十香は前である。

 

「心を落ち着けろ。そして思い出せ。シドーが今何がしたいのか。シドーの願いとは何なのか。それ以外は些末なことだ。捨て置け。ただ一つで良い。心の中に願いを描いて剣を振れ。そうすれば、天使は必ず応えてくれる。」

 

士道は思い出す。自分がしたいことを。

あの二人を止める。あの馬鹿みたいに優しい二人を、絶対に。どちらか片方が消してしまうなんて、そんなことはさせてたまるか。

だから、あの二人が決着をつける前に。

二人の崇高な決闘とやらを、ぶっ壊してやる。

 

「………ッ!」

 

士道は目を見開いた。〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の刀身が、先ほどまでとは比べ物にならないほどに光輝いていたのだ。

これなら、きっと。士道は〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の柄を握る力を更に強くする。すると十香もまた、それに添えた手に力をいれる。

士道は今一度顔を上げて、眼前でばか騒ぎを繰り広げる不器用二人を見据える。

 

そして。

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおお────!!!!!!!!」

 

 

 

 


 

 

 

 

風が少し弱まった。

八舞二人をどうにかするためにはあの壁がどうしても邪魔だった。私にあれをどうこうするだけの力は無いし、十香さんも封印されてる。でも、あの場に奇跡(天使)起こった(舞い降りた)から。だからあの場にもう私は必要ない。

だから私はここに、後顧の憂いを断ちに来た。それなのに

 

「どうして邪魔するんですか、令音さん」

 

世界最強の魔術師(ウィザード)、エレン・M・メイザース。今ここで彼女を殺しておけば、人類側の対精霊戦力は大いに削がれることになる。それはつまり〈ラタトスク機関〉の利益にも繋がるはずだ。

それなのに、どうして邪魔されるんだろう。目の前の彼女からは心の声が聞こえないから、わたしにはその理由が分からない。

 

「シンは、人の生き死にに慣れていないんだ。そもそも平和な日本に住む人間が、君のような精神になる方がおかしい。」

 

仮に彼女の言が真実だったとして、五河士道のためというなら小雪と令音のどちらが正解なのだろう。士道本人を慮るならば令音が、精霊を助けるという点を見れば小雪が正解だろう。

どっちも正解なら、どっちも不正解なのと同じだ。どちらも選べないし、選んではいけない。

 

「退いてくれませんか。私は敵でもない人に刃を向けたくない。」

 

令音は退かず、場は膠着する。結果起こるのは意地の張り合い。

 

 

どちらも退かず、そのまま数分が経った。風が止み、声が響き、また一柱の精霊が封印される。

今回退いたのは小雪だった。

自分の行動によって五河士道が再起不能と化すと言うのなら、そんな未来は避けねばならない。

幸い八舞二人の封印は終わったから、この場での敵対は考えにくい。私が逃げ切れば。

だったら退くのは私が良いだろう。だがそれも今だけのこと。

その魔術師(ウィザード)はいずれ始末する。必ず。




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