デート・ア・ライブ 小雪セイバー   作:業務用消火器の安全栓

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補足ですが、小雪さんは天使の能力を〈フラクシナス〉に殆ど隠してます。ある程度の範囲探知が出来る能力としか話してません。艦内の人たちは信用出来ても、上層部がまだまだ信頼出来ないからですね。


琴理クライシス

 

 

時刻は二時一○分。士道たち一行はオーシャンパークの一角にあるフードコートで遅めの昼食を摂っていた。士道たち四人がついたプラスチック製のテーブルの上には、四人にしては明らかに量が多いが、十香がいるなら仕方ないことだろう。

十香はムシャムシャと豪快に、四糸乃は小さな口で少しずつクラブハウスサンドを食べている。二人とも美味しそうに食べているのは良いことだが、それ以上の懸念材料が士道にはあった。

単純な話、士道の対面に座っている少女──琴理は明らかに不機嫌そうな様子で、サンドイッチに一度も口をつけないまま足を組んで座っている。

これは困った、と士道は誰にも聞こえない程に小さなうなり声を溢した。

ここに来てから三時間ほど。〈フラクシナス〉からサポートを受けてはいるものの、眼に見えた効果は上がっていなかった。前提条件を間違えていたのだろう。事前に対策が立てられる分御しやすいなどと、どの口で言えたものだろうか。こちらの思惑を知っている分、他の精霊よりは安全だろうが、その分こちらの内情を知られているから何をしても響かない。

安全性は高いが、難易度も高ければ結局プラマイゼロだ。いやむしろ難易度分マイナスまであるだろう。

 

「……令音さん、今の琴理の機嫌と好感度の数値ってどうなっていますか?」

 

攻略のためにも先ずは三時間の成果の確認だ。少しでも響いてくれれば御の字。雨垂れ石を穿つとも言うし、時間をかければいけるという証明になる。肝心の時間は足りないが。

だがしかし、何も変化が無いならばこちらも行動を改めなければならない。

 

『……ん。目立った下降はしていないが、上昇もしていないね。グラフにするなら綺麗な平坦だ。』

 

どうやら後者だったようだ。兎に角行動を起こさなければならない。会話を………何かしらの会話を………

周囲を見渡すと、琴理が飲み物に口をつけた後咽せたように数度咳き込んだ。

 

「ッ、けほっ、けほっ……」

 

「だ、大丈夫か琴理?」

 

心配する士道に、咳き込んだだけと返す琴理。そのまま席を立ち誰にも声をかけずに歩いていく。

どこに行くのかを問う士道に、あからさまに不愉快そうな声でたしなめる。

 

「レディが席を立つ時に行き先を聞くなんて、私以外にやったら死ぬわよ。覚えておきなさい。」

 

言われて漸く気づかされる。肝に銘じると共に琴理の背を見送ると、一息ついて机に突っ伏す。緊張の糸が切れると同時に腹が音を立てる。机の上にあるクラブハウスサンドに手を伸ばし、咀嚼する。なかなか美味しい。

 

「いつものシドーに戻ったな、琴理と何かあったのか?」

 

「え?」

 

そこまで変だっただろうか。今日一日を振り返ってみるが心当たりはない。気のせいで済ませようと口を開けようとすると、四糸乃たちからも疑問が飛んでくる。

 

「琴理さん、と……喧嘩、したんです……か?」

『琴理ちゃんが居なくなった途端急に気ー抜くんだもん。わっかりやすいねー士道くんは。』

 

そこまで自覚はなかったが、相当に構えてしまっていたらしい。気恥ずかしさや背徳感だけでなく、緊張も伴う今回のデート。そのプレッシャーは、予想以上に士道を苛んでいるのだ。

 

「や、別にそんな訳じゃ………」

 

二人+一匹(体?頭?)の視線に射竦められ、思わず席を立ってしまう。

 

「お、俺もトイレ行ってくる!」

 

背後からの十香の声を聞き流しながらその場から逃げ出し、離れた場所で息を吐く。自分の緊張を自覚すると一気に情けなくなってくる。

 

「令音さん、精神状態のモニタリングって俺の方もやってますか?できれば教えて欲しいんですが……」

 

インカムに向かって問うと、少し遅れて声が帰って来た。

 

『すまない、少し席を外していてね。……精神状態のモニタリングだったね。やや緊張気味でとても良好とは言えない。それに……』

 

令音の声を頭に入れながら、顔を洗うためにトイレに向かう。が、その道中。トイレの手前の自販機の後ろから何か物音が聞こえてきた。

耳を澄ませると、明らかに話し声のようなものが聞こえてくる。聞き覚えのある声が聞こえたような気がしてそちらに足を向けようとするが、インカムからそれを妨げるように声がかかる。

 

『シン、そこには……』

 

だがもう遅い。令音の制止を聞くよりも早くに、士道はそこを覗きこんでしまい─────そして、絶句する。

そこにいたのは、ここに来て何度か見た従業員の制服を着た桃髪の少女、もとい〈ラタトスク〉新入精霊の小雪と───壁にもたれ掛かりながら地面にへたり込み、苦しげに頭を押さえている琴理だった。

小雪は琴理に注射器を片手に、少し険しい声で言った。

 

「〈フラクシナス〉の医務官方から警告です。『今朝の時点で通常の五○倍以上の量を投与している。これ以上は命の危険があるから注意しろ』とのことです。」

 

苦しんでいる妹を見て即座に駆け寄ってやるべきなはずなのに、近づくことを躊躇ってしまった士道は隠れた先でそんなことを聞いてしまった。

 

「この警告を貴女は聞かないでしょう。決断はあなたの心が変わらないうちに、どうか後悔の無いように。」

 

そう言って差し出された手を琴理が掴む。

 

「そういう気遣いができるのは有難いわね。………………もちろんよ。もしかしたら最後かもしれないおにーちゃんとのデートなんだから……後悔なんて、して良い訳無いでしょ。」

 

小雪は注射器を構えて琴理の左腕に刺す。その数瞬後に琴理が大きく息を吐いた。段々と顔色が明るくなっていき、表情が良くなっていく。

 

「にしても、あなたこんなことも出来るのね。どこでこんなスキルゲットするのよ。」

 

「いろんな災害現場(場所)を巡っていると、一般人の技術じゃ救えない人が出てくるんですよ。」

 

二人の会話は、ほとんど士道の頭に入ってきていなかった。琴理の表情はいつものそれに似ているが、士道の目には少しムリをしているように見えた。それが気になって仕方なくて、他の事に意識を割く余裕が無いわけだ。

 

「それはそうと、あなたは少し休んだ方が良いですよ。只でさえ無理をしているんですから。飲み物を買ってくるので待っていてください。」

 

有無を言わせない口調で琴理を休ませた小雪がこちらに向かってくる。士道は慌てて逃げようとするが、小雪と目が合ってしまう。

直後、小雪は音をたてない程度の速さで士道の肩を掴み、自販機の陰に隠した。

 

「お、驚かないんだな……」

 

口をついて出たその言葉が、士道の驚きようを表しているだろう。

 

「最初から気付いてましたから。あなたの方も少しは休んだ方が良い………んですが、聞きたいことがあるなら今のうちに聞いておいて下さい。」

 

じゃあ、と前置きして士道は溜まりに溜まった疑問点を問いかける。

 

「琴理はッ……琴理はいつからあんな風になってたんだッ!?」

 

「霊力を取り戻した時からだそうです。これは〈フラクシナス〉で聞いたはずでは?」

 

予想はしていなかったわけではないし、確かに既に聞いていたことだ。だがその答えに確証がとれてしまうとこたえるものだ。

 

「じゃあ…………どうして………「どうして教えてくれなかったのかという質問なら、あなただったら伝えますか、と質問で返しますが合っていますね?」ッ……!」

 

確かに自分がそうなっていたら間違いなく伝えないだろう。十香や琴理に心配させたくないし、そんな理由で琴理も伝えなかったんだろう。

でも、それでも、困っていれば頼って欲しかったし、相談して欲しかった。自分勝手なことこの上ないが、それでも心配なのが兄としての心なのだ。

 

「心配なら、ここで止まっているよりやるべきことがあるでしょう。ここで見たことは心の隅に忍ばせておいてください。あなたが同情や憐憫を抱えたままでいると琴理さんが困ってしまいますから。」

 

………………頭では()()()()()()()()()()と理解できるが、それ以外はどうしようもなくグチャグチャになっている。絡まった思考を一つ一つほどいていく頃には、士道はフードコートの席についていた。

 

『決断はあなたの心が変わらないうちに、どうか後悔の無いように。』

 

もしかしたらあれは士道に対しても言った言葉なのかもしれない。琴理は、後悔なんてしてられないと言っていた。果たして自分はどうだろうか。

勿論後悔なんてものはしたくないし、しない方がいいに決まっている。だがこのままだと後悔するしない以前の問題だ。

何をすれば琴理を救えるか。何を為せば琴理を救えるか。

今のままじゃあ出来ないならば、状況を変える何かが必要だ。

 

「十香、実は今から流れるプールのジャングルクルーズが始まるみたいなんだが、四糸乃と一緒に行ってみてくれないか?」

 

十香たちには申し訳ないが、やはり二人きりの方が良いと思う。あとは聞いてくれるかだが……

 

「十香さん、私……クルーズに、行きたいです。一緒に、行って……ダメ、ですか?」

 

あぁ、四糸乃ってホントに良い子。利用しているようで良心がとてつもなく痛むが、今回ばっかりは仕方ない。心の中で謝りながら、十香が承諾したことにほっとする。

士道が手を振って二人を見送ると、二人はそれに合わせて手を振り返して士道が指した方向に向かっていった。

その際、士道には四糸乃が首を回して「………頑張って、下さい」と言ったように聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ、少し時間を取りすぎたわね。」

 

琴理は小さくうめくように言うと、少し歩調を早めてフードコートに向かう。

結局あれから結構な時間小雪に休まされてしまった。付き合いが薄いどころの話ではない、むしろ話したことのない彼女が令音の代わりに来たときは驚いたが、能力はあるし必要以上にこちらに踏み込んでこない。コミニュケーション意識が低いのかもしれないが、そうだとしても気を荒立たせることすら億劫な現状だととても有難い。

能力、目的ともに不明瞭な彼女に関しては当然というか謎が多い。令音から聞いた話では、学籍や戸籍等々は間違いなく本物─────つまり自分と同じように後天的に精霊になったタイプ。だがしかし、その程度しか推測が出来ないのだ。遍歴に不自然な箇所は無いし、どこで精霊の力を得たのかも不明。

それでいて、彼女の行いが疑うことを許さない。精霊としての彼女の行いが全て他者の為である、だから今回もきっとそうなのだろうと納得してしまっている。一人二人ではなく〈フラクシナス〉の殆どが。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

やはりこれは─────。おっと、もうフードコートに着いてしまっていたようだ。

先ほどまで四人で座っていた席には何故か士道しか座っていない。

 

「士道?」

 

琴理が言うと、士道が振り返る。………なんだろう。士道の様子が先ほどまでとまるで違う。いつもの────それこそ、白いリボンの琴理と接している時の士道のような…………。

 

「琴理、今から着替えてアミューズエリアに集合だ。」

 

琴理は一瞬士道が何を言っているのかが理解できなかったが、一拍おいて言われた内容とその理由を推測する。

 

「あぁ、〈フラクシナス〉から指示が出たの?こっちじゃああんまりにも上手くいきそうにないもんだからって……」

 

「いいや」

 

琴理の言葉を食い気味に否定しつつ、士道が椅子から立ち上がる。そのまま右耳に手を当てると────

 

「これは、俺が決めたことだ。」

 

そこに装着されていたインカムを外して、テーブルの上に放ったのである。

 

「それに、俺はプールより遊園地の方が好きなんだ。」

 

「はぁ?」

 

理解できないの連続が、琴理の良いと言えない(体調的に)頭を掻き乱していく。

 

「何言ってるのよ、一体。てゆうかそもそも十香と四糸乃はどうしたのよ!いくら今の攻略対象が私だって言ってもあの二人の精神を不安定にさせたら霊力が逆流して大変なことになるのよ!」

 

「もちろん覚えてるさ。でも今あの二人はジャングルクルーズを楽しんでもらってる。神無月さんたちが見てくれてるから安心してくれ。」

 

唇を尖らせながらの問いかけに、当然のように返してくる士道。だがやはり今一つ士道の意図が読めない。

 

「何のつもり?」

 

すると士道は琴理の手を取り、ニッと唇をつり上げて見せた。

 

「遊ぼうぜ、琴理。──久々の遊園地だ。楽しみで仕方ない。疲れて眠っちまうまで遊び尽くそうぜ。」

 

 

 


 

 

机の上の忘れ物(インカム)に触れる手がひとつ。従業員、もとい小雪である。

 

「士道さんのインカム、回収しました。」

 

『ああ、有り難う。………………小雪は、あれで良かったと思うかい?』

 

「………………何であろうと、士道さんの決意を無駄にはしない。それだけです。」

 

()()()()()()()()、かい?』

 

「…………」

 

『少なくとも、ここの艦員達は君のことを信頼している。君が何を考えていようとも、だ。思惑は何であれ()()()()()()()()()?』

 

「………………………………何も起こらないかもしれませんよ。」

 

『君はもう少し悲観的な人間だと思っていたがな。いや、君は鳶一折紙のことは知らないんだったね。』

 

「誰ですか、それ。」

 

 

 


 

 

事態が動くのはその数刻後。

 

───────鳶一折紙(復讐者)が動き出した。




感想、お気に入りをしてくれた方々、有り難うございます。

これと後1話で琴理編は終了です。
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