デート・ア・ライブ 小雪セイバー   作:業務用消火器の安全栓

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別クラスにしたことによる弊害。それは即ち出番の不足。要するに、本編サイドに小雪さんの出番が無くなったせいで、士道さんたちの出番がぶっ飛びました。
八舞姉妹ファンの方々、大変申し訳ありません。
それでも良いという方は本編をどうぞ。


エレンスタートアップ

分かりきっていたことだが、やはり〈フラクシナス〉本艦との通信は繋がらない。なら、彼女は考えていなかったが、島内ではどうだろうか。

 

『どうしたんだい、小雪。今は忙しいんでね。要件があるなら、出来れば手短に済ませてほしい。』

 

「単刀直入に言います。原因は不明ですが〈フラクシナス〉と連絡がとれません。」

 

原因の出所、天使の能力についてはまだ言えない。少なくとも令音さんの心の声が聞こえない理由が分かるまでは〈フラクシナス〉ひいては〈ラタトスク機関〉には。

 

『それは………………どうしようか。』

 

「私に言われましても…………」

 

本当に、言われても仕方ない。電子機器は専門外だ。

 

『どうやら本当のようだし、こちらだけで対応するしかないだろう。小雪は、もう〈ベルセルク〉は見たのかい?』

 

私の目に間違いが無いのなら、と。そう言えるだけ状況はまともだ。少なくとも前回のような切羽詰まった状況ではない。

令音さんから告げられた情報をまとめると

 

①精霊、八舞は何らかの原因で耶倶矢と夕弦の二人に別たれた。

②このままなにもしなければ、どちらか片方の八舞は消滅する。

③あくまで令音の予想ではあるが、〈ラタトスク〉としてはそれを避けたい。

 

結局、やることはいつもと変わらないのだろう。士道さんが霊力を封印すれば消滅は防げるかも知れないし、それをサポートするのが〈ラタトスク〉の役目だ。

いつものとか言えるほどの付き合いでも無いけど。

 

「〈ベルセルク〉─────八舞二人の攻略。今回やるのはそれってことですね。」

 

『ああ。相変わらず、話が早いようで何よりだね。』

 

簡単な推測だ。すぐに分かる簡単な推測…………なんだが、

 

「あの……………私と士道さん、クラス違うんですけど……………」

 

『あ。』

 

 

 

 


 

 

 

 

 

結局、士道さんの方は彼と令音さんの二人でどうにか出来る作戦にしたらしい。令音さんのたてた計画の中には、私の出番は一切無い。

つまり、私はDEMの警戒に専念できるということ。伝えたくない事情があるのだから、自分が解決するべきだろう。幸い日中に暗躍するつもりはないようだが、もう夜だ。闇に潜むにしろ何にしろ、これほど適した時間帯はない。

 

「ちょっと、夜風にでも当たってくるね。」

 

「ほいほーい。気を付けてねー。」

 

部屋から出て、天使の効果範囲を検索…………ヒット。対象の現在地は十香さんの近く。あくまでも目的は〈プリンセス〉ということだろう。

少し急ぎつつ、この旅館の構造を頭に思い浮かべる。そこから旅館の外を通り、なおかつ十香さんのいる場所を通って自分の泊まっている部屋に到着するルートを算出。エレン某や十香さんたちの目に入らない場所なら走っていこう。

 

 

 

 

 

旅館の壁に張り付くようにして身を潜めていたエレンは、ターゲットである〈プリンセス〉──────夜刀神十香が部屋に入っていくのを確認した。

 

「こちらアダプタス1。ターゲットを確認しました。」

 

『了解しました。〈バンダースナッチ〉を展開させますか?』

 

「念のため部屋の外に五体ほどお願いします。それと、部屋の中には鳶一一曹がいるようです。随意領域(テリトリー)の展開には注意してください。」

 

『了解。〈バンダースナッチ〉一から五号機、移動。』

 

エレンの指示に従って、オペレーターがさらに指示を発する。

次なる指示を出そうとすると、廊下の先に見たことのある少女を見つけた。今回の計画のサブターゲット、〈セイバー〉こと姫川小雪。まだ疑惑がある程度だが、それでも疑ってかかるには十分な材料があった。

 

「エレンさん………でしたっけ?こんなところで何してるんですか?」

 

屈託の無い笑みを浮かべて語りかけてくる。こうして見ると、彼女はどこにでもいそうな高校生だ。少なくとも、中東内乱を治めるような気概があるようには見えない。

 

「少し写真を撮ろうとしていたのですが………。カメラを忘れてしまったようなんです。まだ日にちはありますから、今日は見て回るだけにしておこうかと思いまして。」

 

彼女がこちらを離れないように興味を引きつつ、何かあったときに巻き込めるように近くに位置どる。彼女が噂通りの存在であるなら、仮に〈バンダースナッチ〉が私を攻撃した場合私を助けるのだろう。

〈プリンセス〉(仮)の入った部屋のドアを開け、そっと中を覗き見る。

 

「へぶっ!!?」

 

すると、部屋の中から何かがそこそこの速さで飛んできた。エレンはその場にひっくり返ってしまうが、すぐに鼻を押さえて起き上がる。

 

「まさか……………気付かれた?」

 

〈セイバー〉(仮)に聞こえないように小声で呟く。部屋の中から飛んできたのだから、犯人はかけてくるではないのだろう。さしたるダメージではないが、明らかにこちらに狙いをつけた一撃だった。だが、こちらはまだ何も行動を起こしていない。精霊の知覚能力であれば、先ほどの通信を聞き取れたのかもしれないが………

 

「あ、カメラマンさんはっけーん。あと、いっつもボランティアしてる子じゃん。暇ならこっち来ない?」

 

だが、部屋の中から聞こえてきた能天気な声でその思考がカットされた。

 

「お、ホントだホントだ。最近噂の小雪ちゃんと…………エレンさん、でしたっけ?」

 

「絶対に逃がすな、確保ォォォォォォォ!!」

 

部屋から表れた三人の少女が、エレンと〈セイバー〉(仮)を取り囲むようにぐるぐると回り始めた。

 

「な………」

 

囲まれた!

エレンは自分の注意不足を呪った。彼女らの顔には見覚えがある。メインターゲットと同じ部屋に泊まっている少女だ。恐らく彼女らは精霊に自我を奪われ、操り人形とされているのだろう。ひょっとしたら〈セイバー〉の天使にはそんな力があるのかもしれない。

〈セイバー〉(仮)の方を見る。彼女の表情はこの状況に困惑しているようにしか見えないが、もしかしたらこれも演技なのかもしれない。だとしたら気が抜けないどころの話ではない。

とまぁ、そんな感じのことを考えて気を抜いているせいで、エレンたちはあいまいみーに両手を引っ張られ部屋に連れ込まれてしまった。

 

「カメラマンさんたちも参戦したいってさー!」

 

一人がそんなことを言った瞬間、部屋の奥から〈プリンセス〉(仮)───もう面倒だから名前で通そう───十香の声が聞こえてきた。

 

「よかろう、纏めて葬ってくれる!」

 

「いい度胸」

 

中の十香と、AST隊員───鳶一折紙は何かに苛立っているかのように好戦的だ。仮にどちらも精霊だったとして、同族同士仲が良いとかは無いのだろうか。

二人が大きく振りかぶり、何かを投擲してくる。

 

「させるか!カメラマンバリアー!」

 

その状況を上の空で眺めていたエレンは、自分の手を引っ張っていた二人が急に彼女を盾にするかのようにして隠れたことによって、より正確に言うとその直後に彼女の顔面に連続して命中した布の塊のようなものによって意識を引き戻された。

 

「かは……………っ!」

 

喀血するように息を吐き、エレンはその場に倒れ伏す。エレンを盾にした三人はわざとらしい演技のようなものをしており、一緒に巻き込まれたはずの小雪はそそくさと部屋を脱しようとしている。

正直に言って、止める気力は無かった。もやしっこーぶちょー(世界一の魔術師)にも、投げ出したいときぐらいはあるのだ。

 

『きゃあああああああ!!』

 

部屋の外から叫び声が聞こえた気がするけど、気にしない気にしない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

(昨日は、ひどい目に遭った。)

 

修学旅行二日目、或美島北端 に位置する赤流海岸、美しい三日月型のその海岸で、小雪はひとり溜め息をついていた。

DEMの魔術師(ウィザード)を監視していた筈が、いつの間にか隣のクラスの人に連れられて枕投げに参加させられることになっていた。一番被害を受けていたのは私ではなく魔術師(ウィザード)───エレン・メイザースの方だったが、問題だったのはその後の方だ。

どうにか部屋から抜け出したは良かったが、間が悪くそこにいたのは全裸でそこそこの怪我をおった士道さんと気を失っている岡峰先生。その場に居合わせた時の居心地と言えば…………

もっともあのときは私も余裕があまり無くて心の声に耳を傾けてなかったから不注意と言われてしまえばそれまでなのだが。

 

『小雪、今大丈夫かい?』

 

突如令音さんから連絡が入った。周囲を確認して、こちらに注意を払っている人がいないのを確認してから(ASTは大丈夫なんだろうか)通信に応答する。

 

「こちらは大丈夫ですが……何かあったんですか?」

 

大きな心理変化は聞こえない。修学旅行初日に聞こえた声と内容は殆ど同じだ。

こちらはこちらで特筆するようなことは何もないし、私に観測出来ないような事でもあったのだろうか。

令音さんという前例が有るように、心の声が聞こえない人物というのがいるのかもしれない。

 

『いや、特段言うべきことは起こっていないよ。単なる確認さ。今回はあまり出番が無さそうだしね。』

 

いやまぁ、心の声が聞こえない相手がいたとしても、他の人たちの声が変化していないなら何もないのは分かるだろう。

 

「はぁ。まあ私のサポートが必要無いなら無い方が良いんでしょうが………」

 

それなら何でわざわざ通信したのだろうか、と素直に問いかけてみる。インカムの向こうの令音さんは、少し考えるような声を出してから答えてくれた。

 

『昨日手持ちの機械を使って精霊たちのちょっとしたバイタル─────精神状況を監視してね。観測間違いかもしれないが、君のそれがよろしくなかった。心当たりはないかい?』

 

精神状況(メンタル)がよろしくないと言っても、私の自身には()()()()()()()()()手持ち(有り合わせ)の道具で作ったのなら誤差なんかも普通にあり得るだろう。

一抹の不安感を圧し殺すために少し歩くことにした。心の声に耳は裂かない。エレン・メイザースは少し残念なことになっているから、警戒する必要はない。意識して足音を立てないようにしながら砂浜を歩いていく。

 

「わぷっ!」

 

歩いていると、足元から呻き声が聞こえてきた。そこを見てみると、残念なことになっているエレン・メイザースと私のせいで砂がかかってもっと残念なことになっている少年がいた。

 

「大丈夫…………ですか?」

 

そう聞かずにはいられないほどに、ひどい有り様だった。横になった二人の上には砂がかけられており、それぞれ鞭を振り上げた女王様(心なしかエレンより胸が大きい)と裸でそれを受ける変態を模している。

それに何より目がひどい。世界そのものを恨んでいるかのような目をしている。きっと彼女の心は恨み言です満ちているのだろう。絶対に聞きたくない。『明らかに大丈夫じゃあ無いだろう』と目で訴えかけてくるから、取り敢えず助けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

サブとはいえターゲットに助けられてしまった。その事実は世界一の魔術師(エレン・M・メイザース)のプライドをそれは大いに刺激している。

 

『執行部長?その……………』

 

優しげな、かつ気まずそうなオペレーターの声が今はとても辛い。

 

「べつにあれです。本命は夜ですし。ちゃんと任務中に捕まえますから問題ありませんし。」

 

その台詞はどこからどう聞いても捨て台詞にしか聞こえないが、彼女にそれが出来るだけの実力があるのもまた事実だった。

この屈辱は必ず返す。特になにも悪いことはしていないはずの相手に対し、彼女固くそう誓った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

なんとまぁ都合の良いタイミングだこと。

 

心の中で変な口調の悪態をつきながら、小雪は突風吹き荒れる島を駆け抜けていく。

八舞二人の心理的弱点、最もやって欲しくないこと、お互いがお互いを助けたいと思い合っていることが、ついに二人にバレてしまった。

それだけならまだしも、今までなんやかんやで何もしてこなかったエレン・メイザース(ポンコツ魔術師)がついに行動を始めてしまった。

十香さんたちのいる所に〈バンダースナッチ〉なる物を配備したらしい。それがどんなものかは分からないが、少なくとも対精霊用の何かであることと、消費に気を使わず使い捨てられることは状況と声から理解できた。

そしてそれを理由すると同時に、〈フラクシナス〉から今も聞こえる八舞二人の大きな声のなかでも掻き消えない程に大きな声が聞こえてきた。

 

『通信が繋がらなくて困っている』

 

と。そしてその原因、電波障害の中で通信を行うためには今〈フラクシナス〉にかけられている不可視化を解く必要がある。だがそれを解いてしまえば、DEMに〈フラクシナス〉ひいては〈ラタトスク機関〉の存在が露見してしまう。

〈フラクシナス〉は島にDEMの艦がいることを知らず、DEMは〈ラタトスク機関〉の存在を認知していない。その奇跡的なバランスは両方が両方に気付いていないからこそで、どちらかが手を出してしまえば均衡は崩れるだろうし、その切っ掛けはもう出来てしまった。

現在起こっている問題は二つ。八舞姉妹と、DEMインダストリーだ。後者はそこから対精霊と対〈フラクシナス〉の二つに分かれている。

ただ残念なことに、この三つの中で私の力で解決出来るのは対精霊の〈バンダースナッチ〉への対処のみ。〈バンダースナッチ〉は旅館側に数体。それ以外は八舞側に全て送られているとはエレンの心の声から分かっている。ならばやはり近場(旅館側)の数体を対処してから本軍に向かうべきだろう。

だが、肝心の道標()が途切れてしまった。元々そこの数体の目的は折紙さんのみ。そのせいでそこにいる〈バンダースナッチ〉の所在が掴めなくなっている。まぁ事を大きくしたくないのはこちらよりDEMの方だろう。その辺にいる一般人を浚って襲うようなことはしないはずで、〈バンダースナッチ〉がすることがあるとすれば、倒れた(かもしれない)折紙さんの監視か八舞側への増援。

いつものように袋から外套を取り出す。この風だ、いつもより深めに外套を被り飛ばされないように気を付ける。対象;エレン・M・メイザース。木々の隙間を縫って一直線に駆けてみる。

 

ガンッ!!!

 

目の前に突如表れた、よく分からない材質で出来た腕をとっさに天使でガードする。周囲に響く金属音は、それが─────否、それらが人間でないことを示していた。

透明外套は問題なく起動している、はずだ。こちらからでは確かめようがない。だが、それならこちらの居場所は何故バレた。透明外套が隠すのは被った者の姿とあるならば漏れ出ている霊力。つまりそこにいるという事実は覆らない。風向が明らかに自然ではない場所を探ったりしているのだろうか。

そんなの人間業じゃない!と叫びたくなる人もいるのかもしれない。だがやはりというかなんと言うか、これらは人間でも生物でもない。

最悪だ。口から出そうになったそんな言葉(弱音)を飲み込んで、目の前の敵達を観察する。〈バンダースナッチ〉、そう呼称されているのであろうDEMの兵器は、明らかなロボットだったのだ。

この世界、ファンタジーじゃなかったのか。

そんな嘆きは口から漏れたが、吹き荒ぶ暴風と、頭に響き続ける声によって掻き消された。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「やめろっ!お前ら二人とも、お互いのこと大好きなんじゃねぇのか!」

 

五河士道の心からの叫びは、荒れ狂う暴風に掻き消されて届かない。その程度で、ちょっと数日関わっただけの人間の声ひとつで大人しくなろうものなら、こんな争いは起こっていないだろう。それに、士道は自分の発言が的を射ていないのを自覚している。

確かに彼女らはお互いが大好きなのだろう。

確かに彼女らはお互いが大切なのだろう。

お互いがお互いの為なら命なんて惜しくはなくて、お互いがそれを知ってしまった。

ならば起こるのは、二人の意地の張り合いだ。お互いがお互いの大切な人を助けるために、お互いの大切な人を傷つけている。

士道にはそれを責めることが出来ない。誰だってとは言えないが、士道だって自分の一番大切な人を自分一人の犠牲で助けられるならば絶対にそうする。それは自己犠牲や献身といった自己陶酔的なものでなくて、選択肢が一つしか存在しないような、そんな当然なことなのだ。

でも、だからと言って、自分以外がそれをやっているのを見るのは気持ちが良いものではない。

ただそれでも、五河士道にそれを止める術はなく、八舞二人はそれ以外の術を持っていない。

 

「ぐっ……………!」

 

依然として二人は戦いを続けていて、依然として士道は何も出来ないでいる。

 

「シドー!気を付けろ!何かいるぞ!」

 

隣から十香の慌てたような声が聞こえて、士道は周囲を見回し───眉を潜める。

士道が耶倶矢と夕弦を目で追っている間に、周囲には一○をこえる人影がいた。否、人影というには語弊がある。それらはフルフェイスヘルメットのように滑らかな頭部に細身のボディが連なり、CR-ユニットのようなものが各部に見られた人ではないナニカであった。

 

「DD-07〈バンダースナッチ〉…………といっても、分からないでしょうね。」

 

人形の影から一人の少女─────随行カメラマンのエレン・メイザースが歩み出てきた。

 

「ようやく人気のない所に来てくれましたね、十香さん。1人余計な方がいらっしゃるようですが………まぁいいでしょう。」

 

士道のことを一瞥し、その上で興味無さそうに鼻を鳴らした。

 

「〈セイバー〉は想像以上に警戒が強かったようですね。こちらの狙いに気が付いていたかのような素振りがいくつかありました。ですが、伝わっていないようですね。」

 

伝わっていないとはどう言うことだ?〈セイバー〉────小雪は一応は〈フラクシナス〉と協力関係にあるはずで……………

 

「しかし、驚きました。まさかあの二人も精霊だったとは。────しかも、〈セイバー〉と違って優先目標の〈ベルセルク〉ときたものです。 積もり積もった不運の代償としては十分です。」

 

士道にそんな疑問を考えさせる暇もなく、新たな爆弾を投下するエレン・メイザース。

彼女は今確かに耶倶矢と夕弦を〈ベルセルク〉と呼んだのだ。その名を知っているのは各国の対精霊機関、つまりは────

 

「あんた何者だ?まさか、ASTか?」

 

「! ほう?」

 

そこでようやくエレンが士道に興味を持つような顔をした。ASTの名前を知っているからには一般人ではないと判断したのだろう。

 

「陸自の対精霊部隊をご存じで。ですが、そうではありません。」

 

彼女がてを掲げると、それに合わせるようにして〈バンダースナッチ〉と呼ばれた人形達が一斉に姿勢を低くし、士道たちに襲いかかってきた。

士道は咄嗟なこともあって目を瞑ってしまうが、何の衝撃も襲ってこなかった。恐る恐る目を開けると、浴衣の回りに限定霊装を展開し〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を構えた十香がいた。

 

「シドー、大丈夫か?」

 

そして、そんな十香の様子を見てか、エレンがやや興奮ぎみに目を見開いた。

 

「〈プリンセス〉!やはり本物でしたか。」

 

十香の識別名まで知っているのか。だがそれでもASTでないというならば一体なんなのだろうか。

 

「〈プリンセス〉────いや、十香さん。我々と一緒に来てくれませんか?最高の待遇をお約束します。」

 

「ほざけ!!」

 

十香はそう叫ぶと、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の切っ先をエレンに向ける。

いくらなんでも人間あいてに天使を向けるのはどうかと思うが、そんな疑問は十香の緊張に満ちた面持ちで掻き消えた。

 

「シドー、こいつは危険だ。こうして向かい合って初めて気づいた。────あの女、ものすごく嫌な感じがする。こう……………ASTの臭いを極限まで濃くした感じだ。」

 

と、十香の言葉に合わせるように、エレンが口の端をにぃっと上げた。

 

「面白い表現をしますね。」

 

言いながら、エレンが十香を挑発するように両手を広げて見せる。

するとそれと同時に、彼女の体は淡い輝きに包まれ、一瞬後にはその身にワイヤリングスーツとCR-ユニットが着装されている。

ASTのそれとは大分形状の異なるスーツと、体の各部を覆う機械で出来た甲冑のようなパーツ。そして背部に装着された巨大な剣型の装備が目を引いた。

 

「〈バンダースナッチ〉隊、しばらく手を出さないで下さい。音に聞こえた〈プリンセス〉の実力、試させていただきます。」

 

右手で背部の剣を抜き、その刀身に光の刃を出現させる。

エレン・M・メイザース、世界最強の魔術師(ウィザード)の実力が垣間見える。




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