終末に幸せを夢見てました   作:駄文書きの道化

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ようこそ妖精倉庫へ

「あー、今度からここに住む事になったアルマリア・デュフナー技官補佐だ。仲良くしてやってくれ」

「アルマリア・デュフナー技官補佐です。いつもおとーさんがお世話になってます。皆さん、よろしくお願いします」

『おとーさん!?』

 

 その日、黄金妖精(レプラカーン)の少女達が住まう“妖精倉庫”に衝撃が走った。

 そんな表現を宛てるのが合いそうな調子で子供達が驚きと好奇心で染まった視線を向けて来るのは新鮮で、同時に懐かしさも感じた。

 色めき立つ子供達におとーさんが困ったように眉を寄せて溜息を吐いてから、こっちをジト目で睨んできた。

 

「おい、アルマリア……」

「これは失礼しました、二位技官殿!」

「おい、わざとやってるだろ!?」

 

 わざとらしく敬礼して返すとおとーさんが目を釣り上げて咎めるように叫んだ。

 おとーさんの反応が楽しくて舌を出していると、ぱんぱんと手を打ち鳴らす音が響いた。

 

「はいはい。皆ー、という訳でこちらのお姉さんはヴィレムのご家族の方だそうよ? 仲良くしてあげてくださいね。それじゃあ、何か質問がある子ー?」

 

 桃色の髪のお姉さん、ナイグラートさんの声に合わせて勢いよく子供達が手を挙げていく。

 

「ヴィレムの家族って本当!?」

「本当だよ?」

「じゃあアルマリアも人間族(エムネトワイト)!?」

「うん。人間族(エムネトワイト)だよ」

「どこから来たの!?」

「ちょっと遠い場所からだよ」

「おとーさんって事は娘なの!?」

「私がそう呼んでるだけだよ」

 

 次々と投げかけられる質問に私は1つずつ答えていく。1つ答える度におーっ! とか感嘆の声を子供達が挙げる。今にも群がって来そうで、元気で良いなぁ、と思いながら笑みが浮かぶのが抑えられない。

 私はここにはおとーさんの補佐として配属という事でスウォンくんが肩書きを用意してくれた。秘書はもうクトリちゃんがいるから、あくまで私は補佐。アドバイザーという立ち位置だね。

 

「今日は遠征に出ていた子達のお疲れ様会と、アルマリアさんの歓迎会をするわよ。おいしいご馳走も出るわよー」

『やったーっ!!』

 

 ナイグラートさんがご馳走と告げた瞬間、子供達のテンションは天井破りとなった。もうお祭り騒ぎだった。持て成される側の私など目に入ってるかわからない騒ぎようだ。

 まだ年少の子供達が騒ぐ中、私に近づいて来る姿が見えた。それはノフトだった。気安げに片手を挙げている。

 

「よっ、結局こっちに来たんだな。アルマリア」

「うん。改めてよろしくね、ノフト」

「ははは、それはどうかなー?」

 

 どこか悪戯めいた表情を浮かべてノフトが笑う。どういう事かと首を傾げていると、鋭い視線を感じた。視線の先を追ってみればそこにはラーントルクが佇んでいるのが見えた。

 

「……あー、まだご機嫌斜め?」

「みたいだな。何言ったのか知らないけど、あの調子なら暫くあのままだぞ?」

「そっかー。なんとかご機嫌を取らないとね……」

「頑張ってくれ。実は、ずっとあの調子であたしもちょっと参ってる。という訳でラーンと仲良くするまではあたしも冷戦って事で」

 

 なんと無念。まぁ、ノフトはラーントルクとセットって感じだから気を遣ってるのかな。早くノフトも気兼ねなく振る舞えるようにラーントルクとの関係はなんとかしたいなぁ。

 じゃあな、と私に挨拶を終えたノフトはラーントルクの所へ戻っていった。入れ替わるように近づいて来たのはネフレンちゃんと、ネフレンちゃんと一緒に付いて来た褪せた金色の髪の少女。

 

「アルマリア、ようこそ」

「ネフレンちゃん。ありがと、これからよろしくね」

「うん」

「どもども、あんたがレンが言ってた技官の家族っすね?」

 

 ネフレンちゃんに続いて声をかけてくれた少女に私は目を細める。

 

「貴方は?」

「アイセアっす! よろしくっす、技官の……娘さん?」

「おとーさんっぽいでしょ? 彼」

「おぉう、納得出来るような、出来ないような。……いかがわしい気配はないっすね?」

「さぁ、どうかなぁ」

「あははは、おねーさん面白そうな人っすねー」

 

 アイセアと名乗った彼女は調子良く会話に興じてくれる。その様子に私は一度目を伏せて、笑みを浮かべて手を差し出す。

 

「これからどうぞよろしく」

「よろしくっすよ。技官補佐には色々とお伺いしたい事があるっすねぇ。主に技官のあれやこれについて、とか」

「期待に添えるかどうかはわからないけれど、お喋りなら喜んで。仲良くしてね」

 

 握られた手で握手を交わす。社交的で明るい子、“知って”いる通りの子で安心する。

 こうして他の元気な妖精達とも挨拶を交わしながら、遠征組の慰労会と私の歓迎会が合わさった小さな宴は子供達の喧噪と共に暖かく私を迎え入れてくれた。

 

 

 * * *

 

 

「クトリ達から色々と話は聞いたわ」

 

 夜は更けて。宴の後の静かな夜、私はナイグラートさんに誘われておとーさんと一緒にナイグラートさんの所へお邪魔していた。

 

「改めてですが、これからよろしくお願いします。あとおとーさんが大変お世話になりました。ありがとうございます」

「ふふ、良いのよ。それにしても……二人目の人間族(エムネトワイト)に出会えるなんて思わなかったわ。正確に言うと、ちょっと違うんでしょうけどね」

 

 すぅ、と細められたナイグラートさんの目が私を値踏みするように見つめる。それに私もニコニコと笑みを返す。

 クトリちゃん達を通じてナイグラートさんには私が獣である事実などは伝えてあるとの事で。管理者という立場上、私の事は知っておかないといけないしね。

 

「念のため、私はここにいる子達に危害を加えるつもりはないとはお伝えしておきます」

「わかってるわよ、気にしないで。あと敬語、使わなくても良いわよ? 年齢だけなら私よりずっと上なのでしょう?」

「ナイグラートさんが素敵な女性ですので、つい敬語になっちゃうんです」

「まぁ! まぁ! 聞いたかしら? ヴィレム! 素敵な女性ですって!」

「お世辞だろ」

「おとーさんは黙ってて」

「なんでだ……」

 

 理不尽だ、と言いたげにおとーさんがぼやくように呟く。ナイグラートさんが喰人鬼(トロール)だからって、それが素敵な女性とイコールで結ばれないかと言われたらそうじゃないんだから。

 私とおとーさんのやりとりにナイグラートさんが少しだけ驚いたように、けれどすぐに微笑ましいものを見たかのように頬を緩めた。

 

「貴方達、本当に家族なのね……」

「えぇ。こうして再会出来たのは奇跡ですが」

「本当に良かったわ、貴方が来てくれて。ヴィレムが良い顔するようになって、本当に私も嬉しいわ。彼を見てきた者としては、ね」

「本当にナイグラートさんにはおとーさんがお世話になったみたいで、なんとお礼を言って良いのやら……」

「おい、アルマリア。騙されるな、この女は隙あらば人を喰おうとする奴だぞ」

「いっそ食べられちゃえば懲りたんじゃないかな、って思うのは私だけかな?」

「なんで俺にそんなに辛辣なんだよ!?」

「うふふ。貴方達、見てて面白いわね」

 

 喉を鳴らすようにナイグラートさんが笑っている。おとーさんはそっぽを向いてはいるけれど、決して嫌がった様子はない。昔はいつもこんなじゃれあいだったし。

 するとナイグラートさんが姿勢を正して私を真っ直ぐに見つめてくる。その表情は真摯なもので、ゆっくりと頭を下げる。

 

「私からもお礼を言わせて欲しいわ。……クトリの話は聞かせて貰いました。貴方がクトリの命の恩人だと言う事も。あの子達の保護者としてお礼を言わせて。あの子を救ってくれてありがとう」

「頭を上げてください、ナイグラートさん。クトリちゃんは私にとっても恩人。助ける理由はあっても、お礼を求めての事ではありませんから」

「私が伝えたかったのよ。あの子達にまだ未来を望む事が出来るのだと思うと、嬉しくて嬉しくて……」

 

 頭を上げて、鼻を啜って涙を拭うナイグラートさん。彼女がどれだけこの妖精倉庫にいる子供達を慈しんでいたかは知っている。今も、こうして対面で感じる態度からは彼女達への深い愛情を感じる事が出来る。

 幸福は数多くあれど、黄金妖精(レプラカーン)達が手に入れた幸福の1つの中にナイグラートさんの存在は欠かせないと思う。出会って間もないけれども、彼女は信頼に値する女性だと思える程に。

 

「今後どうなるかは研究次第となると思いますけれど、現在の見立ててでも心身共に健康であるには心の安息が必要です。この点にはナイグラートさんの協力が不可欠だと思いますので……」

「えぇ。それがあの子達の為になるならば私も喜んで協力させて頂くわね」

 

 私からのお願いにナイグラートさんは喜んで快諾してくれた。これで形式上の事は終わり、と言うようにナイグラートさんが姿勢を崩す。

 

「ふふ、それじゃあ貴方達の事を色々と聞かせて貰って良いかしら? 2人の関係とかも含めてね」

 

 それからナイグラートさんとおとーさんはお酒を、私はジュースを片手に私達の関係の話で盛り上がった。

 養育院に来た頃や、おとーさんと過ごした養育院での日々、私達の日常を思い起こさせる話にナイグラートさんは笑みを浮かべながら相槌を打ちながら聞いてくれていた。

 おとーさんも懐かしむように、少し浮かれた様子で過去の話に興じてくれていた。最後には養育院で子供の世話を見ていた頃から、子供達の世話についてや、子供の魅力について話し合って夜は更けていった。

 

 

 * * * 

 

 

 次の日から私の仕事は子供達のお世話に家事といった様子だった。炊事に洗濯、掃除。妖精の子達も当番として参加してくれて、その監督をするのが普段の私の仕事になる。

 あと、もう1つ普段の大きな仕事を任される事になった。その為に私は妖精倉庫にある部屋におとーさんと一緒にいた。

 

「出来ればパーシヴァルかディンドランがいいんだけど、おとーさんある?」

「ちょっと待ってろ。パーシヴァルならあるぞ。というか、ラピデムは使わないのか?」

「あれは借りてただけだし、ハッタリだよ。もうボロボロなのを辛うじて調整してただけ。私、おとーさんみたいに怪人にはなれなかったし」

「どういう意味だ」

聖剣(カリヨン)の調整を自分で出来るのって凄いね」

「褒めてるよな?」

「勿論だよ。だからおとーさんに見繕って貰ってるじゃん」

「ラピデムも修復出来たらなぁ。後で調子見ておくか」

 

 リストを目にしながらおとーさんが呟く。それはこの妖精倉庫に保管されている遺跡兵装(ダグウェポン)のリスト。かつては聖剣(カリヨン)と呼ばれた人間族(エムネトワイト)が残した力。

 おとーさんと違って私は聖剣(カリヨン)を使うのに苦はない。その為、成体妖精の稽古をつける事になった、戦力向上の為に。その為に私が使う遺跡兵装(ダグウェポン)を見繕って貰っている訳で。

 尚、元々私が持っていたラピデムシビルスは使わない。あれは辛うじて動かせる状態にしていただけで、その使用には限界だったから。今後の修理で使えるようになると良いんだけど、それはおとーさんに任せる事にする。

 

「出来れば量産型の方が良いよね。確かパーシヴァルはおとーさんがよく使ってたよね? おとーさん用に残しておこうと思えば私はディンドランが良いんだけど……」

「今回はとりあえず使ってくれ。俺も暫く使う予定もないしな」

 

 今後、私達が獣との戦いに駆り出される可能性は低い。私達の持っている技術や知識、存在が貴重だから。だから戦いに赴くのはどうしても黄金妖精(レプラカーン)のあの子達だ。

 彼女達に稽古をつけるなら特殊な特筆能力(タレント)を持つ聖剣(カリヨン)じゃなくても良い。どちらかと言えば整備性が良い量産型のものが望ましい。

 この倉庫の物色もそんな考えがあって、同意してくれたおとーさんと一緒に目録を見ている経緯でもある。

 

「というか、お前調整が出来るのか?」

「調子を見たり、簡単になら。どこが悪いかとかぐらいならわかるけど、それ以上は無理かなぁ」

「それでも助かる。後で大掃除だな」

「本来の意味での掃除もしたいよね」

 

 おとーさん曰く、どれも戦い続けて遺跡兵装(ダグウェポン)の状態は悪いらしい。私が来た事で本格的に後回しにしていた調整や整備、修理を行っていくつもりだとおとーさんは言っていた。

 おとーさんが後方を固めて、私は現在戦力を教育し、鍛え上げる。とりあえずそういう方針でやっていこうかと私とおとーさんで話し合って決めた。

 

「それじゃあ行こうか」

「そうだな。お前の実力も見たいしな」

「どうだろう? 自己研鑽だからなぁ。ただ、クトリちゃん達には負けない自信はあるよ」

 

 じゃないと3桁の年月の訓練が無意味になっちゃうし。ただ、抜かれる時にはあっさり抜かれそう。それはそれで目的に叶っているし、自分でもそこまで勝敗に拘る訳ではないけど。

 そのままおとーさんと今後の打ち合わせをしながら広場へと出る。そこには成体妖精として数えられている子達が集まっていた。

 クトリちゃん、ネフレンちゃん、アイセアちゃん、ラーントルクにノフト、それから緑髪色のまだ小さな子、ティアットちゃんの合計6名。

 

「おはよう。待たせちゃったかな?」

「おはよう、アルマリア。大丈夫、準備運動してたから」

「今日からの稽古、よろしくお願いするっすよー」

 

 クトリちゃんが笑みを浮かべて、アイセアちゃんがっけらけら笑いながら迎えてくれた。

 

「君が一番の新人さんだね、ティアットちゃん」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 一番幼いティアットちゃんが少し緊張した様子で元気よく返事をしてくれた。その小さな体に不釣り合いな大きな遺跡兵装(ダグウェポン)に少しだけ複雑な思いが過る。

 他の皆も、それぞれの相棒となる遺跡兵装(ダグウェポン)を携えていた。準備が出来ている皆を見て、おとーさんが1つ頷く。

 

「それじゃあ今日から戦闘訓練を指導していく。監督は俺が」

「私が実際に稽古をつけていくね。よろしく」

 

 私とおとーさんが挨拶して、そのまま稽古に入ろうとした所でアイセアちゃんが勢いよく手を挙げた。

 

「はいはーい! それについて質問なんですけど、技官!」

「なんだ? アイセア」

「あたし等は技官が鬼みたいに強いの知ってますけど、技官補佐はどーなんすか?」

 

 アイセアちゃんが私を見ながら疑問を投げかける。興味津々、といった様子だったけれどこちらを探るような気配を感じる。

 

「ふむ……正直、俺もアルマリアがどこまで戦えるか知らんな。本人は問題ないって言ってるが」

「じゃあ、まずはその実力を見せて貰いたいんすけど、どうっすかね?」

「私はそれでいいよ」

 

 アイセアちゃんの言葉に私も頷く。おとーさんの実力を知っている彼女達でも、私の実力は知らないからね。稽古をつけるなら私の実力を知っておきたいというのは当然の事だと同意を示す。

 おとーさんに視線を向けてくれた、おとーさんも構わないのか1つ頷いてくれた。

 

「わかった。まずは模擬戦からにするか。相手は……」

「――私が、相手を務めます」

 

 すっ、と。手を挙げたのはラーントルクだった。その視線は真っ直ぐに私に向けられている。……まぁ、こうなるとはちょっと思ってた。

 

「ふむ。ラーントルクか……」

「私は貴方の実力も知りませんから。元からここにいて貴方を知っているクトリ達と違って。それなら私が適任かと思いました」

「成る程な。……ノフトもそれで良いか?」

「んー。ラーンがそれで納得するなら良いんじゃね?」

 

 おとーさんからの確認にノフトはあっさりと答える。こだわりはない様子だった。

 ラーントルクへもう一度視線を送ってから、おとーさんは私に視線を向け直す。

 

「じゃあ、まずはアルマリアとラーントルクの模擬戦から始めるぞ。2人とも準備してくれ」

 

 

 * * *

 

 

 模擬戦には十分の広さの広場。そこでヒストリアを構えたラーントルクが相対するアルマリアへと視線を向けている。彼女は出会った時に持っていた遺跡兵装(ダグウェポン)とは別の物を手に持ち、調子を確かめるように構えを取っていた。

 

「……剣を変えたんですか?」

「ん? あぁ、うん。こっちの方が整備性が良いから」

「……整備性、ですか」

「うん。これから貴方達の稽古をつけるなら剣そのものの力よりも、継続して使える方が理想的だしね」

「それで十分って事ですか」

「……何か意図があるように聞こえるけど、別にラーントルクを侮る気はないからね? それにこの剣だって悪い剣じゃないよ?」

「そうですか」

 

 視線を鋭くしながら睨むラーントルクにアルマリアは困ったように首を竦める。

 押しても引いても穏やかに返すアルマリアにラーントルクの心中に火がついたように燻るようなものがざわめく。そのざわめきを鎮めるように息を吐いてヒストリアを構える。

 

「準備は良いか?」

「いつでも」

「お手柔らかに」

 

 構えを取る両者。少し沈黙の間を置いてから、ヴィレムが声を挙げて告げる。

 

 

「――始め!」

 

 

 

 

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