終末に幸せを夢見てました   作:駄文書きの道化

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私は交渉をする

 ――物語を始めるなら、最後に記す言葉はこれが良い。“めでたし、めでたし”って。

 

 

 * * *

 

 

 地上調査隊。サルベージャーとも呼ばれる探検家達がこぞって危険が跋扈する地上の宝を求める。そんな彼等の大所帯がこの地上調査隊。

 この世界から人間族が消えて、大地は空に浮かび上がって、<獣>という圧倒的な強者によって地上は生きては帰れぬと言われた魔境となった。

 そんな魔境と化した地上からかつての文明の遺産を見つけ出すのがサルベージャーの役目であり、浪漫そのものである。

 思惑は数あれど、多くの願いを込めて地上へとやってきた彼等だったが、今は地上から空に戻れないという致命的な状況に陥っていた。

 そんな生死をかけた緊張状態の中、更なる緊張状態を加速させるかのように訪れた来訪者。――彼女は、己を“人間”だと名乗った。

 

 

 * * *

 

 

(うーん、まるで見せ物小屋の動物……)

 

 視線、視線、視線。四方八方どこからも感じる視線に思わず眉がへにょりと曲がる。

 わかってはいたけれども、視線の圧が凄い。そして視線を向けてくるのも“知って”はいるけれども見慣れないものばかりで反応に困る。

 さて、ここから上手く会話に持ち込まないといけないのだけども、難易度は正直高い。出来るなら回れ右したい所だけれども、ここで逃げても意味がない。

 

「えーっと……私、悪い人間族じゃないよ!」

 

 視線の圧が強くなった。呆れた気配も感じるし、怒気すらも感じる。

 特に目力が強いのは目の前にいるカワイイ少女達だった。その手には無骨な剣が握られているけれども。今にも斬りかかられそう。

 

「……ご、ごほん。……今のは人間族なりのジョークだと思って欲しいかな」

「はぁ」

 

 冷たい気のない返事をするのは、最初に遭遇した青い長髪の女の子。

 彼女はまだ名前を名乗ってないけれど、私は彼女の事を知っている。ねぇ、ラーントルク。この会話が終わる頃には名前を呼べるぐらいの関係は築きたいのだけども……。

 

「それで? 自称人間族(エムネトワイト)の貴方は何者ですか?」

「何者、と言われても、人間だよ。敵意はないから、武器は下ろして欲しいかな」

「世界を滅ぼした相手に油断は出来ません」

「あー。……うん、まぁ、そうだよね……でも、それでも“敵意はない”って私は主張する。“聖剣(カリヨン)”……じゃなくて、“遺跡兵装(ダグウェポン)”を預けてる事から信頼して欲しいな」

 

 これでは話が進まない。進まない事には私の目的を果たす事も出来ない。

 ここは少し無理をしてでも信用を勝ち取る場面。突飛な事をしているとは思ったけれども、このタイミングを逃せば“介入”のタイミングを見失う。それは非常に困る。タイミングはとてもシビアになっているから。

 

「目的は探し人がいて、そのツテが欲しかったから貴方達に接触した。それだけ……なんだけど、信じて貰うにはとても難しいと思ってる。信用が得られると思ってないからね」

「……貴方が本当に人間族(エムネトワイト)なのか。人間族だとしてどうして“ここ”にいるのか。それがわからない以上、こっちも信用出来ませんね」

「うん。信用して貰えないととても私も困る。それで相談なんだけど、私を買ってくれないかな?」

「……買う?」

「私が貴方達に売るのは戦力。私という戦力があれば<獣>に対抗出来る力が手に入るよ?」

 

 私が告げた言葉に、しん……と周囲が静まり返る。

 

「貴方達の状況は見ればなんとなくわかる。船が故障して立ち往生してる。そして<獣>に対抗出来る力を用心棒として雇えるなら、それは良いお買い物だと思うんだけど」

「信用ねぇな。アンタがその力で殺し回らないって保証もない」

 

 威嚇するように鋭い声が割って入る。声を発したのはラーントルクの隣に立つ少女、ノフトのものだ。

 

「信じて貰えないのは承知してる。でも、私は会いたい人に会う為には貴方達について行くしかないって状況なの。つまりはギブアンドテイク。それに今、貴方達を殺して回って、私が会いたい人を探すのにどういうメリットが考えられるかしら?」

「貴方の目的自体が嘘の可能性がありますね。上に登ってから虐殺が目的、という可能性も考えられます」

「そこまで疑われたら私だって信じて、とは言えない。けれど、貴方達から離れても目的が達成出来ない。そういう訳で、この近くに、貴方達の目の届く範囲にいさせて貰うだけでいいの。それでどうかな。信用して貰う為、私は武器も貴方達に預けるよ」

 

 警戒されるように睨まれるのは変わらない。信用を得ようにも得られない状況なのはわかっていたけれども、少しばかり堪えるなぁ。人との会話に餓えてたのもあったし。

 ここに来るまで孤独だった訳じゃないけれども、暫くは“彼女たち”と会う事は出来ない。事が速やかに終われば可能だけれども、それも上手く行くやら……。

 

「1つ聞いて良いか?」

 

 前に進み出てきたのは緑色の肌に頭部に角が生えた鬼。私をジッと観察するように見る瞳は冷静で、こちらを見通そうとするのを感じる。

 

「俺はグリックという者だ。アンタ、本当に人間族(エムネトワイト)なんだよな?」

「えぇ。証明出来るものはないけれど」

「“言葉”は通じるんだな?」

 

 ……グリックの問いかけに私は笑みを浮かべる。あぁ、流石グリックさんだ。初めましてだけど、貴方の事もよく知ってる。ファンになりそうだよ、もうなってるけど。

 

「そこに気付くって凄いですね。えぇ、私は貴方達の言葉を理解出来ます。けれど、それは少し手品があるからですね。失われた人間族の遺産という奴です。意思疎通が可能な護符(タリスマン)ってご存知です?」

「お嬢ちゃんもそれを持ってる、って事でいいのか?」

「私のは形として残ってるものではないですので、見せてあげる事は出来ませんけれども」

「他に人間族だけが知っているような知識とかあるか?」

「そうですね……。そこの剣についてなら多少は。彼女たちが持っていたのは“デスペラティオ”と“ヒストリア”ですよね?」

 

 これはちょっとしたズル。私は“おとーさん”と違って意思疎通の護符(タリスマン)なんて持ってないし、遺跡兵装(ダグウェポン)の名前は本来は知る筈のない名前。

 だからこれはハッタリ。だけど、そのハッタリが通じるとも思ってるから自信満々に口にする。面白いようにラーントルクとノフトの顔が強張る。

 

聖剣(カリヨン)……じゃなくて、遺跡兵装(ダグウェポン)でしたっけ? それの使い方を在る程度は知ってますよ。ただ、専門ではないのであくまで知ってる程度ですけど」

「成る程な。……アンタ、探し人がいるって言ってたな」

「はい」

「会えると思ってるのか?」

 

 グリックさんがまっすぐに私に視線を向けてくる。私も視線を真っ直ぐに返す。

 常識的に言って会える筈がない。そもそも、この灰色の荒野で生きていける者などいない。だから私の存在も怪しいし、会いたい人に会えるなんて事はあり得ない。

 でも私は常識じゃない事を知っているし、自分が常識から外れた存在だと知っている。その上で望みを叶える為に、この長い間に覚悟を固めてきた。出来る事は全部やってきた。

 

「会えなくても、会おうとしなきゃ何も始まらないから。全部忘れて、諦めて、待ち続ける夢を見た方が幸せだったかもしれない。でも、それだと何も掴めないから、私は踏み出したい。あの人に会うんです。会って……色々と言いたい事があるから」

「……本当に俺達を害するつもりはないんだな?」

「はい」

 

 沈黙が落ちる。グリックさんを含め、周囲の視線は私に集中している。

 その沈黙は長かったのか、短かったのか。集中している為に時間の経過への感じ方が鈍くなっていく。

 

「……お嬢ちゃん、名前は?」

 

 沈黙を破ったのは、グリックさん。問われたのは名前。

 

「アルマリアです」

「アルマリア、ね。……ヴィレム、って名前に聞き覚えはないか?」

 

 どきり、とした。その名をこうして聞ける事に胸が高鳴る。

 声が上擦らないように気をつけながら、答えを返す。

 

「……ヴィレム・クメシュ?」

 

 グリックさんが息を呑むのがわかった。同じくラーントルクとノフトも。この段階でもう名前は知ってる、で良いんだよね?

 

「お前さん、ヴィレムを知ってるのか!?」

「えっと、ぼさぼさの黒髪で、うだつの上がらなさそうで、皮肉屋っぽく気取ってるけれど不器用で壊れそうな気配があるヴィレムなら知ってます」

「マジかよ!?」

 

 唾を飛ばしながら私に掴みかかってくるグリックさんに身を竦ませながらも抵抗はしない。両肩を掴まれて、前後に頭を揺らされる程に揺さぶられる。

 

「嘘は言ってないな!? 本気で本気だな!?」

「貴方達に嘘をついて私にメリットがありません!」

「神に誓えるか?」

「いいえ、ヴィレム・クメシュに誓います」

「……お前さん、ヴィレムとどういう関係だった?」

「……家族でした。私の探し人です。世界を救う為に出て行って、帰ってくるのを待ってるって約束しました」

 

 グリックさんは再度目を見開かせて、ようやく私の肩を離してくれた。

 マジかよ、と。信じられないと言った様子で呟いて、再び顔を上げて私を見る。

 

「……お前さん、どうやって今まで生きて来たんだ?」

「氷漬けにされてまして、目が覚めたらこんな事になってて……」

「氷漬けか! そうか、そうか! わっはっはっはっ!」

 

 嘘じゃない。“氷漬け”にされていたのは間違いない。私が、とは言わないけど。

 腹の底から笑い声を上げるグリックさんは私に手を差し伸べてくれた。手を取れ、と言うように。

 

「正直、信じられないし、信じる事は出来ない。だが、信じたいと俺は思った。どうだ? ヴィレムを探してるんだろ?」

「……はい。探してます。ヴィレムは、生きてるんですか?」

「ガキの面倒を見るっていう天職についてるぜ」

「……あははは。それはお似合いですね。子供の面倒を見るのが昔から上手なんですよ」

 

 知っていても、そう聞けた事がとても幸せな気持ちになる。そのままグリックさんの手を取って微笑む。

 

「必要なら拘束して貰って構いません。信用頂けないのはわかってます。けれど、もし信じて貰えるなら……ヴィレムという名を聞いた以上は、私は貴方達を信じてこの身を預けます。彼にもう一度、会えるなら」

 

 

 * * *

 

 

 それからというものグリックさんが表立って話をつけてくれた結果、私は監視付きで彼等に同行させて貰える事になった。

 もし私を連れて行けば、生きた人間族(エムネトワイト)を手土産に出来る、という事で上も納得してくれたらしい。納得させた、と言えるのかもしれないけれど、グリックさんはここでかなりの発言力があるそうで。

 私としては非常に助かる。とりあえず第一段階は超えられた、と思っても良いのかもしれない。

 さて、そうしてなんとか目論見通り彼等と繋ぎを取れた私が今、何をしているかというと……。

 

「ぎゃんっ!」

「はい。これでまた私の勝ちだね」

「くっそー!」

 

 何故かノフトと模擬戦をしている。デスペラティオを支えにノフトが立ち上がる。私はそれに自然と手に持った聖剣(カリヨン)を構え直す。

 私が構え直すのを見てノフトが突っ込んでくる。危なげなく私もノフトの振るうデスペラティオを受け止めて、そのまま流して引っかけるようにしてノフトの体勢を崩す。

 

「何度やっても勝てない……!」

「そろそろ魔力(ヴェネノム)の熾し過ぎになるからこれで終わりだよ」

「ちくしょー! 悔しいー!」

 

 ジタバタと暴れるノフトに苦笑してしまう。正直、ノフトには負けてられない。

 我流とはいえ、研鑽の年月は3桁を超えているのだから。

 

「大丈夫、ノフトは強くなるよ。ちゃんと剣の使い方を覚えたらね」

「上から目線だ!」

「私は大人だもん」

「あたしだって子供じゃない!」

 

うがー! と吠えるノフトに微笑ましい思いを抱きながら視線を逸らす。

 私とノフトの模擬戦を静かに観察していたラーントルクが歩み寄ってくる。明らかに警戒しています、と言う空気は未だに消えないままだ。

 

「くっそー……次は一矢報いてやるからな! アルマリア!」

「うん。楽しみにしてるね」

「余裕なのがムカツクー!」

「あははは」

 

 ぽかぽか殴ってくるノフトをいなしながら私は苦笑する。ノフトはこうして剣の稽古をつけるようになってから距離感が縮まったような気がするけど、ラーントルクには距離を取られている気がする。

 

「ノフト、気安すぎますよ」

「いいよ。気にしてないから」

「こちらが気にするんです。……貴方の事、警戒してますから」

「知ってるよ」

 

 信じて貰えるとは思ってないので、それは構わない。私は目的さえ果たせればそれで良い。その為にならヘラヘラ笑って良い顔もするし、虐げられても我慢しようと思ってる。

 そう思っているとラーントルクの目が細められた。私の奥底を射貫くかのような鋭い視線に背筋がひやりとする。我慢しようと思っても、慣れる事はなさそうだな、と。

 

「一体何を企んでいるんですか?」

「企みが出来る程、腹芸が出来ないから本音しか喋ってないよ」

「貴方には不可解な点が多すぎる。貴方の言動はおかしい事ばかりです」

「それは人間族(エムネトワイト)だから、って事じゃなくて?」

「貴方は私達に会う前から、私達の事情に精通した様子でした。違いますか?」

 

 ……よく見てるなぁ。ただ、私も積極的に隠すつもりもなかったけど。理由は隠しきれないと思ったから。

 腹芸が出来ない、っていうのは本当。そもそも腹芸をする相手もいないし、そんなものを学べる環境もなかった。結局の所、私に出来るのは真っ直ぐにぶつかって当たって砕け散る事しかない。

 

「そこは、謎多き人間族(エムネトワイト)の秘術、とかで納得してくれないかな?」

「胡散臭いですね。手の内を全て晒した訳でもないのでしょう?」

「うぅん。でも敵意がないのは本当だよ」

「……まぁ、良いです。そろそろ食事の時間ですから」

 

 言うだけ言ってラーントルクは背を向けて歩いて行く。刺し貫かれそうな視線が消えて、感じていた重圧が解れる。思わず緊張感が抜けて溜息が出る。

 

「ラーンはあぁ言うし、あたしも正直同感だけど。アルマリアは悪い奴じゃないとは思うぜ」

「ノフト」

遺跡兵装(ダグウェポン)の事も教えてくれたしな。アルマリアの、えーと」

「ラピデムシビルス」

「そう、それ。遺跡兵装(ダグウェポン)には特筆能力(タレント)があって、剣ごとに違う。で、アルマリアのラピデムシビルスは『心身のコンディションを最良に保つ』って力があるんだよな」

「そうだよ。それが私が地上で生き延びられた理由だからね」

 

 本来であれば、彼等の手に渡る筈だったラピデムシビルスは私の武器として私が使っている。

 その特筆能力(タレント)の効果を都合の良いように伝えて私が生存出来ていた理由にさせて貰った。

 

「実際に戦ってみて、確かにそうなのかもなぁ、って思ったし。剣を合わせて見たら悪い奴に思えないけどな。胡散臭いけど」

「そんなに胡散臭いかなぁ」

「隠し事してるだろ」

「それは、うん。してるよ」

「それを隠さないからラーンだって信用しないんだよ。あたしもな。でもアルマリアは嫌いじゃないし、負けるのは悔しいからまた稽古をつけてくれ」

「わかったよ。私もノフトに死んで欲しくないからね」

 

 ノフトの頭を撫でると、ノフトが少しだけ驚いたように肩を跳ねさせて私の手を払った。

 そのままあっかんべー、と舌を出して先に行くラーンの背中を追いかけていくノフトに思わず笑みを零して、空を見上げる。

 

「……まだ、話せない。だけど、貴方達に死んで欲しくないっていうのは本当なんだよなぁ」

 

 こうして、実際に会う事が出来て尚更強く思ったから。

 だから、少しだけ不安だ。ノフトとラーントルクでもこうなのに、あの人達に会ったら自分はどうなってしまうんだろうか、と。

 

「……おとーさん、クトリ」

 

 早く、会いたいな。

 

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