終末に幸せを夢見てました   作:駄文書きの道化

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※内容修正の為に削除して投稿し直しました。


はじめての浮遊大陸郡

 浮遊大陸郡(レグル・エレ)

 かつて地上が獣の脅威に晒され、人類が滅亡し、多くの種族も挑み果てた。

 ここは生き残った者達の最後の楽園。百を超える巨大な岩塊が浮かび、風に乗って漂う浮遊島郡。これこそが現在、この世界で生きる者達に残された生存圏。

 

「いっちゃやだーーーっ!!」

 

 そんな浮遊島の1つ、飛空艇の湾港区画でエルクがクトリに抱きつきながら叫んでいた。

 ひっつき虫の如く引っ付いているエルクにクトリは困ったように苦笑を浮かべている。そんな2人を見守る関係者の目線もどこか暖かいが、同じように困っていた。

 

 サクシフラガの墜落から始まった一連の事件。アルマリアという来訪者、そしてヴィレムとの再会。アルマリアから語られた真実、そして拾って連れて来られた星神(ヴィジトルス)

 順番に名前を挙げていくだけでなかなか驚愕の事態の連続ではあったものの、彼等は無事難なくこの浮遊大陸郡(レグル・エレ)へと上がる事が出来た。

 

 とは言ってもトラブルが無かった訳ではない。現地にやってきた大型飛空艇の指揮者が人間族(エムネトワイト)の遺産を回収する為に大規模な発掘を主導しようとしていたが、これはアルマリアが<深く潜む六番目の獣>(ティメレ)の存在を示唆し、危険を促した事で中止。

 地上調査隊がかき集めた戦利品を詰め込めば長居は無用と言わんばかりの帰還。本来の歴史を知るアルマリアは密かに胸を撫で下ろしていた。

 

「エルク。クトリ達は一度、妖精倉庫に帰らないといけないんだから我が儘言っちゃダメだよ?」

「やーっ!」

 

 さて、続いて起きたトラブルというのが星神(ヴィジトルス)であるエルク・ハルクステンの癇癪であった。

 短い旅路の中であったとはいえ、以前からクトリへと思いを寄せていたエルクはそれはもうクトリに懐いた。四六時中引っ付いているのでは? と言わんばかりの勢いでクトリの後ろをついて回る姿は親鳥の背を歩く雛鳥のようであった。

 無論、クトリだけではなく他の妖精達にも懐き、大層ご満足なエルクであった。ただし、別れの時が来るまではという文言が頭に付く。

 飛空艇の護衛任務が終われば妖精兵であるクトリ達は妖精倉庫へと戻る事になる。しかし、エルクはそこまでは同行出来ない。エルクには彼女の帰還を心待ちにしている家族がいるのだから。だが、しかし……。

 

「エルクはクトリ達とは一緒の場所にいけないんだよ? カーマも言ってるでしょ?」

「知らないもん!」

「“イーボ”だって待ってるよ……?」

「やだもん!」

 

 これである。なんとかアルマリアが説得しようとするも、クトリにひっついて顔を押し付けながら抵抗の意志を見せるエルク。

 どうしたものかと悩んだアルマリアだったが、ここで1つ妥協案を出す事にする。

 

「ねぇ、おとーさん? クトリちゃんはおとーさんの秘書なんだよね?」

「お? おぉ、まぁ、そうだな」

「クトリちゃんの体の検査の事もあるし、クトリちゃんだけもうちょっと付いて来て貰おうか?」

「……まぁ、仕方ないか」

 

 このままエルクを宥め賺せるのは至難だろう、とヴィレムも判断する。それにクトリの体の検査ともなれば断る理由はない。

 今後について話し合う為、そしてエルクを送り届ける為にスウォンの下に向かう予定ではあったが、クトリもこの世界の真実を既に知った側だ。連れて行くのにはさして問題はないだろうとの判断だ。

 

「そういう訳だから、レン達は先に妖精倉庫に戻ってくれ」

「ん……わかった」

「久しぶりに帰れるなー」

 

 ネフレンがヴィレムからの指示に頷き、ノフトがグッと体を伸ばしながら久々の帰郷に喜びを露わにしている。

 その横ではラーントルクが静かに佇んでいたが、ヴィレムと視線が合えばつん、と視線を逸らされる。

 

「エルク。これ以上の我が儘はダメだからね?」

「はーい……」

 

 めっ、とようやくクトリから離れたエルクにアルマリアがお説教をしている。離れたと言ってもクトリの手を離そうとしないのがエルクなのだが。

 そんなエルクにクトリは困ったように頬を掻きながら、しかしそれほど嫌がる様子も見せずに見守っていた。

 ままならぬ事が多い末世ではあるものの、今この瞬間は間違いなく穏やかな時間が流れているのであった。

 

 

 * * *

 

 

 遂に来ました、憧れの浮遊大陸郡(レグル・エレ)

 平和に戻れて何より。本来の歴史の通りに<深く潜む六番目の獣>(ティメレ)を刺激しそうになったのにはゾッとしたけれど、本当に良かった。

 今、私は2番浮遊島に向かっている。同行者はおとーさん、クトリ、そしてエルク。本来はクトリちゃんも妖精倉庫に帰らせる予定だったけど、まさかエルクがあそこまでごねるとは思わなかったなぁ。

 検査の必要もあったし、エルクの癇癪が収まるなら仕方ないよね。実際にいてくれた方が今のクトリちゃんという存在をスウォンくんに見て貰えるし。

 

「スウォンくん、か……」

 

 浮遊大陸郡(レグル・エレ)では大賢者と呼ばれ、世界を保ち続けて来た偉大な人。

 過去においては呪蹟師(ソーマタージスト)として名を馳せたおとーさんの戦友。

 何度か孤児院で顔を合わせた事がある。けれど、その記憶も遠いものになってしまっている。はっきり言って、おとーさんやクトリちゃん達に比べると正直薄い。

 今となっては雲の上の人。そういう意味では少し緊張する。これからの事を色々を為すにせよ、スウォンくんとの交渉は避けては通れない。

 

(敵対するつもりはないけど、あっちの要求も全部呑めるとも限らないしなぁ)

 

 もうお互いに立ち位置も違うし、変わった事も多いだろう。昔みたいに仲良く、なんてのは難しいかもしれない。そう思うと少しだけ気が滅入る。

 “記憶”が確かであれば、スウォンくんは地上を取り戻す為の戦力を欲していた筈。

 その点、今のクトリちゃんは“使える(・・・)”んじゃないかな。何せ黄金妖精(レプラカーン)の枠組みを超えた彼女は元々あった崩壊のリスクを回避する事が出来る。継続して戦力を維持出来る可能性があると知れば無視は出来ない筈。

 ただ、実際に今のクトリちゃんがどこまで戦えるのかは未知数だ。もしかしたらだけど、魔力(ヴェネノム)が使えない、なんて事になっている可能性すらある。獣は本来、不死不滅の存在。魔力(ヴェネノム)との相性は悪い。

 

(その点、私は“半端”だからこそってのはあるけど、クトリちゃんにも適用されてるかと言われればわからないし)

 

 とありあえずは様子見。検査の結果も見て、クトリちゃんの今後はおとーさんやスウォンくんと相談して決めて行こう。クトリちゃんに無茶をさせようとしたらエルクが止めに入るかもしれないし。

 そんな事を考えながら飛空艇に揺られてやってきた2番浮遊島。その中の神殿のような場所で私はスウォンくんと、そして黒い巨大な頭だけの骸骨、黒燭公(イーボンキャンドル)と対面する事となった。

 

『うぉぉぉおぉぉおおん、エルクぅぅぅぅぅ、よくぞご無事でぇぇえええ!!』

『うっさいわね、この役立たず! なんでまだ頭だけなのよ!』

 

 黒燭公(イーボンキャンドル)が感動に噎び泣きだしたのと同時に、彼の額部分を小突くように現れたのは朱色の空魚。それが宙を泳ぐように自身の存在を主張している。

 

「あぁ、ここだと“カーマ”の姿が見れるんだっけ」

『そーよ! ここまでありがとうね、アルマリア! 本当に使えない黒燭公(イーボンキャンドル)とは違うわ!』

 

 エルクの精神に寄生する事で存在を保っていた地神(ポト―)の一柱、紅湖伯(カーマンレイク)。夢の世界では度々顔を合わせてたけど、こうして直接話すのは久しぶりだなぁ。

 

『ぐぬぬぬ! 儂とて遊んでた訳ではないのだぞ!』

『どこがよ! 星船の修理全然終わってないし、何よその姿!』

『力が足りておらぬのだ! ほら、そこの! そこの勇者にズタボロにされた後遺症が!』

『言い訳なんて見苦しい!』

『なんじゃとぉ!? お主にいたっては体すらもないではないか!』

『あんですって!?』

 

 ぎゃーぎゃー、わーわー、と。久しぶりの再会に賑わう地神(ポト―)達のやりとりに思わず苦笑いする。

 その様子を眺めていたけれども、傍に立っていたスウォンくんがこちらに近づいて来たのを見て姿勢を正す。どう声をかけようか迷って、成り行きに身を任せる事にした。

 

「……久しぶりかな、スウォンくん」

「……そうか。本当に、生きていたのか」

 

 鋭い目付きを少しだけ緩めて、スウォンくんは感慨深げに私を見つめる。

 

「ぬか喜びをさせるようだけど、もう私は貴方が知ってる私じゃないというか、純粋な人間というよりは獣との混ざりものだよ?」

「何を言う。そっちの方が驚いたわ! それに時の経過があれば人も変わる。……まさか、獣になった後に戻って来れる人がいるなんて。本当に、本当に良く戻ってきてくれた」

 

 私の両手を取ってスウォンくんは深々と頭を下げる。自分よりも立場がある人にそんな事をされるのはなんとも表情選びに困る。

 それから惜しむように私の手を握っていたスウォンくんだけれども、再会を喜び合う地神(ポト―)達に気を遣っていたのか立っていたままのおとーさんやクトリを席につかせて改めて会話が出来る状態へ。

 

「まずはヴィレム、よくぞ戻ってきてくれた。……良かったな、と言った方が良いか?」

「うるせぇよ、スウォン。……まぁ、なんだ。行って良かったよ。背を押してくれた事、感謝してやっても良い」

「お前から感謝されるとは。長く生きてみるものだ」

 

 旧友と言うような会話を交わすおとーさんとスウォンくん。どことなく2人とも嬉しそうでホッとする。確か2人は再会した時に仲違いのように別れてしまっていた筈だったから、こうしてまた仲を取り持つ切っ掛けになったら良いな。

 

「アルマリアさんも。君の帰還も喜ばしいが、エルク・ハルクステンと紅湖伯(カーマンレイク)の保護までしてくれていたとは。改めて感謝する」

「たまたま一緒にいただけだから。私の方こそお二人に助けられたし」

『同胞が世話になったな、獣より戻った稀有な者よ。……しかし、お主のような存在が生まれようとはのぅ』

『それを言ったらそこの妖精ちゃんだってそうでしょう?』

 

 カーマが宙を泳ぐようにクトリちゃんの周りを旋回する。会話に入れていなかったクトリちゃんが口をつけていたお茶を慌てて戻して、姿勢を正している。

 スウォンくんがそんなクトリちゃんを見つめて、少しだけ目を細めた。まるで睨んでいるかのような目付きにクトリちゃんが怯えるように肩を跳ねさせた。

 

「あぁいや、すまん。儂は目付きが悪くてな。怯えさせたのならスマン」

「い、いえ! あの、気になさらないでください大賢者様!」

 

 かちこちになってクトリちゃんが声を張り上げる。立場が雲の上の人だからね、その気持ちはわかるよ、と思わず何度も頷いてしまう。

 

「……いや、会うまいと思っていたのだ。会えば、揺らぐかもしれないと。しかしこのような形で君と対面する事になるとはな」

「わ、私の事、ご存知で……?」

「君達、黄金妖精(レプラカーン)の事は良く知っているとも。主に書面ではあるがの。……改めて名を聞いても良いかのう?」

「……クトリです。クトリ・ノタ・セニオリス」

「クトリ・ノタ・セニオリス。……セニオリスの適合者か。先日の<深く潜む六番目の獣>(ティメレ)撃退戦での活躍は耳にしている。その後の経過の事も」

「は、はぁ……」

 

 恐縮した様子でクトリちゃんが応じる。そうか、と呟くスウォンくんの様子におとーさんの目が少しだけ細められた。

 

「……もしも」

「はい?」

「もしも君達、黄金妖精(レプラカーン)を生み出し、戦場に駆り立てる者がいたとして。……君は、その者を憎むか?」

 

 きょとん、と。クトリちゃんの目が見開かれて瞬きを繰り返す。

 おとーさんが少しだけ姿勢を前のめりにした。その視線はスウォンくんに向けられている。

 黄金妖精(レプラカーン)を生み出したのは、スウォンくんと黒燭公(イーボンキャンドル)だというのは知ってる。戦場に駆り立てたのも、また。

 だから会おうとしなかった。兵器に情が沸かないように。世界を守る為の必要な犠牲として、戦いに向かわせていたのは間違いなく彼等で。

 

「……憎みません」

 

 対して、クトリちゃんの返答はとても静かな声で紡がれた。

 

「誰かがやらなきゃいけない事で、それが私達の役目でした。誰かがそのように仕組んだのだとしても、私は自分の生きて来た道で誰かを憎もうなんて思いません」

「それは、何故だね? 君の同胞は数多く散っていった。君とて死を強要された。不当だとは思わなかったのかね?」

「皆、覚悟してました。私も覚悟して……。確かに、死ぬのなんて嫌だった。本当は生きたかった。だから多分、そのまま死んでたら、恨んでたかもしれないです」

 

 そこで区切るようにクトリちゃんは目を閉じて、ゆっくりと息を整えてから目を開ける。

 その表情は、花が開くかのような笑顔。目を奪われるような姿に私は息を呑む。

 

「でも、ヴィレムと会えました。こうして生き続ける事も出来てます。だから、憎みません。もし、私達を生み出して戦いに向かわせた誰かがいたのだとしたら、生んでくれてありがとう、って今なら言えます」

 

 ……なんて、狡い。

 そんな満足げに微笑むなんて。そんな顔を浮かべさせた発端だろうおとーさんだって落ち着かないような表情を浮かべてるし。

 エルクは自分の事のようにクトリちゃんの隣に座って胸を張ってる。いつの間に移動したのやら。

 スウォンくんはクトリちゃんを見つめて、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

「……そうか。君は、強いのだな」

 

 その短い言葉にどれだけの思いを込めていたのだろう。スウォンくんが何を感じて、何を思っているのかはわからない。

 けれど、きっと受けとった言葉は悪いようにはならない筈。そう思いたい。

 あぁ、恋する乙女はいつだって強いものなんだな、なんて。

 

「今の君は既に黄金妖精(レプラカーン)ではないと聞いている。しかし、君の歩いた道が君に続く同胞を助ける事に繋がるだろう。……どうか、これからもその力を貸して欲しい」

 

 深々と、スウォンくんが頭を下げた。頭を下げられたクトリちゃんは慌ててオロオロとしている。

 

「え、あ、あの、は、はい! 私で良ければ! あの、ですから頭を上げてください大賢者様!」

「うむ。君の処遇はヴィレム・クメシュ二位技官に任せている。これからもヴィレムと共に妖精兵達の先導者としての働きを期待している」

「は、はいぃ……」

「おい、スウォン。あんまりウチの子を虐めるな」

 

 すっかり恐縮しきって目を回してしまいそうなクトリちゃんにおとーさんが目を鋭くさせて告げる。

 そんな二人の様子を顔を上げて見たスウォンくんは、まるで子供のように笑みを浮かべて笑い声を上げた。

 

 さて、それからは地上で獲得した遺物を確認したり、今後の方針を相談する事になった。

 エルクに関してはこのまま2番浮遊島にて生活をするとの事。現在、動く死体でしかないエルクはここで呪詛の解呪を行うとの事だった。

 ただ、エルクが完全復活するとクトリちゃん達と喋るのが難しくなるとの事で、別に今のままでいい、とゴネだしてカーマが慌てていた。

 クトリちゃんはこの後、検査を受けた後におとーさんの秘書として、今後の妖精兵達の未来を決めるべく様々なデータ取りに協力を要請されて、緊張しながらも了承の意思を伝えていた。

 おとーさんは現状と変わらないけれど、体の治療の目処が立ったと報告した上で、今後は妖精兵達の戦力向上を目指しながら遺跡兵装(ダグウェポン)の調整や復元を行うとの約束をスウォンくんとしていた。

 さて、一方の私なのだけど。

 

「君は、やっぱり妖精倉庫に逗留して貰うのが良いだろうな」

「ここに残った方が良いような気もするけど……」

「うむ。それもある。けれど危険性の事も考えるとここに置くというのもな。信用していない訳じゃないが、君が獣だと言うのならば万全を期したい。それなら何かあった時の対処も可能な妖精倉庫に身を置いて貰いたい」

「願ってもない話だよ。出来れば妖精の皆と触れ合いたかったから。彼女たちに何かあった時や、今後の事を考えれば彼女達との繋がりは持っておきたいの」

「そのように取り計らうよ。基本的には妖精倉庫に逗留してもらう事になるけど、研究の為にこちらと行き来して貰う事になると思う。……また改めてよろしく」

「ありがとう、スウォンくん」

「あぁ、お礼なんて良い。……でも、良ければまた君のクッキーを食べさせてくれ」

 

 やるべき事は多いけれども、それは今後予定を立てていくという事で解散となった。

 クトリちゃんとの別れを惜しんで、ぐずぐずと泣くエルクとカーマ、黒燭公(イーボンキャンドル)に見送られながら私達は2番浮遊島を後にするのだった。

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