旧山梨県の北西部にある一件の豪邸。その地下に広がる特殊な機材の数々。
「もう、少しね」
四葉家の当主四葉
真夜は一切のためらいもなく、それを実行に移した。それが今、真夜の目の前に居る。大人一人が入る事が出来る大きなガラスケースの中に無数のケーブルに繋がれて、人工羊水に浸かり静かに鼓動を刻んでいる。
「この手で、この子を抱くのが楽しみだわ」
そこに居たのは、『極東の魔王』や『夜の女王』の異名で呼ばれ、いくら恐れられていてもそこ居るのは一人の母親でしかなかった。
ガラス一枚それが
薄いようで、厚い壁。
真夜は静かに足を踵を返して地下室を静かに出て行った。
@@@
「
「ママ、それ昨日も聞いたよ」
膝の上に乗せられてぬいぐるみを抱きしめるようにけれど、苦しくないように優しく包み込むように真夜は輝夜を抱き締めていた。
喋れるようになった輝夜は毎日、毎日。来る日も来る日も、自分を溺愛する所謂親バカである真夜に甘やかされというよりも、過保護に育てられていた。それこそ、自分の家に住んでいながら母と母の召使いの葉山、叔母の深夜と従妹に当たる深雪と達也にしか出会った事が無いほどだ。
「ママは昨日ね、達也に会ったよ」
「そう」
「達也ねボロボロだったよ。何時会っても笑わないしつまんない!」
いつ見ても痣だらけ、いつ見ても生傷だらけ、輝夜の世界は真夜の過保護の影響もあって極端に狭い。人は一生の中で数えきれない程の人を関わりを持って生きていく。輝夜はそれが無いのだ、自分の知っている人は両手の指で足りてしまう位しか知らず、そのうちの一人が会うたび、会うたび、傷だらけで笑顔を見せないのだ不自然に思わない方がどうかしている。
「達也さんはね、感情が無いのよ」
「?」
首を傾げて頭に疑問符を浮かべながら考える、考える。感情とはなんなのか。
悩み、悩み、悩み、悩み、悩み、それから出た結論は…。
「なら、達也をギュ~~!ってしたら喜びね!」
「……そうね、きっと笑ってくれるわね」
真夜は言えなかった。自分の憎しみが、自分の願望が、彼を傷つけたことを、彼から感情を奪い、笑顔を奪った事を。
「そしたら、ママも、叔母様と仲直りしようね。喧嘩したら仲直りするんだよって言ったのはママだよ。手を繋いでね、目を見てね、ごめんねって言うんだよ。それでね、仲直りしたらねギュ~!って抱きしめるの!」
「……そうね、仲直りしないといけないわね」
達也の実験の一件から深夜とは唯一の姉妹でありながら仲違いをしたまま、数年が流れた。まるで、いじけた子供のように。
数日後、達也を抱きしめている輝夜とぎこちなくも一緒にティータイムを過ごしている真夜と深夜の姿が会った。