わたくしがカラビーナです   作:杜甫kuresu

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序曲

「何時も通りの作戦…………考える所もない」

 

 私は特筆するところ無く、単純な戦績で隊長になっただけのJeagerだ。

 持たされた銃がライフル系統だったとのことで純粋に「コストパフォーマンスの高いレンジ外射殺」だけを考えてきた。誇るわけでもなく、それが私達の仕事だろう。

 

 しかし戦場で愚直なのは珍しいことなのかもしれない。私はそれだけをして、気づけば隊長で、こうやって強襲の命を受けている。

 

 見つかるな、撃て、死ぬなら逃げろ。意外と鉄血兵はこれが苦手だと、スケアクロウは私に言っていた。

 

「しかし作業になるのは駄目だな。よし、一同気を引き締めてくれ。仮にも死んだ殺したの世界にいる、気を抜けば死ぬぞ」

『了解です』

 

 部下は従順だ。なにせそういう風にAIが設計されているから。

 やはり製造されたばかりでは殺すのを優先してしまう個体もいるが、一々教育の必要もない。死なないことを徹底することが殺しにつながるのは、戦場で知ることが出来る。

 

 吹雪く外気温に指がかじかみそうだ。人に近い設計とは此処が良くない、だが入り口の警戒なんて重要な任務を他の人形に押し付けようとも更々思えないのだからどうしようもなかった。

 

『エリア2、制圧完了。生存者零、以上』

「よろしい。引き続き奥へと進んでくれ」

 

 今回の仕事は私に向いているもののはずだ。

 極秘裏に開発されたI.O.P製ハイエンドモデル人形の奪還。よりによっては破壊。破壊という項が有るのは、取り敢えずそのデータが秘匿されたものだからだそうだ。

 

 実際この研究所の警護はとても手薄だった。寒い地域でも更に寒く、汚染区域ギリギリという人間が研究するには向いていない環境。それは鉄血に限らず、人の目にも触れさせたくない技術なのは明らかだった。

 

 しかし冷たい寒空には死体が転がるばかり。研究成果も今に奪われるか、砕かれるか、もしくは雪に埋もれるか。結果から言えば人間達は、その技術を公に研究するべきだっただろう。

 通信が入る。

 

『発見、コードを確認次第回収。以上』

「手早く。遅れると下手をすれば来る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――こちら部隊番号1。異常無し」

『すぐに持ち帰ること。危険は冒さなくていい』

 

 ぷつりと通信が切れると、石にでもなったように強張っていたRipperの肩が一際ブルリと震える。

――カチャリ。突きつけられた自動小銃の小さな音に吐息が漏れた。

 

「こ、これで良いのか?」

「ええ。あなたは賢い選択をしたのではなくて?」

 

 妖しく笑った少女の瞳は紅く、またコートには消えそこねた黒く昏く染まった血がこびりつく。

 

 地獄。横たわる鉄血兵達は常に四肢が足りない。彼女が千切り、時には士気を削ぐために見せしめに殺したからだろう。

 彼女が構える銃はI.O.Pが扱う銃種ではない。頑丈な鉄血に似合う高耐久の自動小銃、元を正せばVespidからのものだろうか。

 

 硝煙、血痕、四肢。

 

「私を見逃してくれるっていうのは、ホント?」

「――――――――?」

 

 発砲。通されていないコートの袖からだ。覗いた銃はJeagerのもの、微細なマニピュレータの駆動音が出血の興奮を引き上げていく。

 

 Ripperが叫ぶのをつまらなそうに少女は見下ろす。撃ち抜かれた肩からは疑似血液が垂れ流した蛇口のように溢れ出していく。

 

「わたくしは、「貴方がわたくしの望む者であるならば」と言っただけで、別に仲間を売れだなんて言っていませんよ?」

 

 噴き出す血を押さつけて睨めつける。

 

「で、でも! 「それも方法でしょうね」って…………ッ!?」

「――――――――あーあー! 言いましたねそんなの」

 

 ニタリと釣り上がる口元、とてもその容貌からは想像のつかない邪悪。

 張り裂けそうな笑顔がRipperを凍りつかせるが、しかしその眼は一欠片として笑っていない。

 

 Ripperの髪を掴んで顔を持ち上げる。

 

「――――――言ったとも。実はね、君が後一つを間違えなければちゃんと生かして帰す予定だったんだ」

「…………は、はぁ?」

 

 涙、鼻水、涎。激痛にぐしゃぐしゃになったRipperの顔に更に少女の美貌が映し出されていく。

 曇りのない鮮血色の瞳。まるで雪景色のように白く豊かな髪。目鼻立ちも精細で、生み出したものが芸術的な美しさを追求し続けたのが分かる。

 

 突然言葉遣いの変わった気色悪さなどもはや頭に入ってこない。

 

「君さ、僕の方を見た時にちょっと視線逸らしたよね? あの顔を僕は知ってるよ、アレは仲間を売った罪悪感とか後悔とかそういう目つきだ。死ぬほどあんな顔をした人形は撃ち殺したからね」

 

 袖から、腰から、数多の銃器が身体中に押し当てられる。異様な昏さに呑まれた紅い自分の姿にRipperは嗚咽を漏らすだけになる。

 

「何も味方を売ったからと責めてない、重要なのは今後悔をしたこと。つまりは「今したいことでは無かった」ということ」

 

 吐き捨てるような苦い表情をして少女が睨む。

 

「そんな顔をするぐらいなら潔く殺されておけば良いじゃない。みっともなく命乞いなんてしてさ、一山いくらの安い命のために消えない後悔を背負った――――――君は今というこの瞬間をないがしろにして、今生きている自分の欲望を放り投げて、続くかも分からない未来を選んだ」

「本当は、味方を売った自分に耐えられないくせに。生きるか死ぬかより大事な事を、生きるか死ぬかの後に置いた」

 

 

 

 

 

「安い以前に愚かだ。先ばっかり見て今を見てない――――――本当はこの銃を向けるのだって最悪だけど、他の子が殺さなきゃいけないと思うと尚更最悪」

 

 ケタケタ。と険しい表情が嘘のように子供のような弾けた笑顔を見せると、瞬く間に四方八方の銃が動き出してRipperの四肢を全て撃ち抜く。

 絶叫の中で少女の声が冷たく、また精緻に響き渡った。

 

「君は僕が軽蔑する最低の人形だよ。とても、僕の望む人形じゃない。君の命乞いは無駄にしておいてあげる、真正面からぜーんぶ殺すから地獄に落ちる前によく見といたら?」

 

 意識も絶え絶えのRipperの顔をゆらゆら揺らすと、壁に投げつけて手に持った小銃を構える。

 絶叫が止まると、その目の色が消えた。時も止まってしまったかのようだ。

 

「じゃあね。裏切り者――――――二度と、わたくしの前に現れない事を祈ります」

 

――たとえ生まれ変わっても、君はどうしようもない。

 銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、聞こえているか! 部隊4!」

「残念。もう殺してしまいましたわ――――――命乞いしてる子は居たかもしれませんね、可哀想に。殺したのだけれど」

 

 化物だ。

 まさか10分もしない内に私の所まで「皆殺し」で到達している? 馬鹿な話があるか、私の部隊は作戦遂行能力はともかく死なないことに関しては「アレ」程でなくとも長けた部隊だ。

 

 時間稼ぎすら受け付けず、もう私の前にいるなどと――――――。

 

「あらあら。怯えているのでしょうか?」

 

 ガチャリ。身体のありとあらゆる所から私へ銃が伸びていく。理屈は全くわからないが、恐らく未だ開発中の外骨格か何かなのだろうか。

――いや、だからといって。

 

 ふざけている。この装備が例え大多数戦に特化したものであるとしても、だからといって「大隊」を潰せるものだろうか?

 違う。この人形自体が――――それだけ強力なのか?

 

 考える暇もなく身体中を蜂の巣にされる。

 

「でも無駄です。わたくし、一々相手のご機嫌伺いをして銃を撃つようなマナーのなった人形ではなくて。失礼でしたら寛大な態度を以てご容赦いただければと」

 

 何やら訳の分からない口上を並べているようだが、機関もやられてまともに聞こえない。

 そんな場合でもなかった。

 

 伝えなくては。コイツは放置してはならない、鉄血がたとえ悪だとしても、コイツは――――――。

 思考を食い散らすように頭部だけを一斉掃射される。思考が遠のいた。

 

「通信をオンにしますか、仕事熱心なこと…………けれどその徹底のしよう。あの方を思い出しますね」

 

 女が、両かたを抱いてみ、震いす、るように。嗤っている。なんだ、あれ。

 

――それより、一文字でも。つたえないと、まずい――――――。

 

「寂しいわ。来世はもっと良い躰でわたくしの前に立ってくださいね――――さようなら、名もない鉄血の方」

 

 槓桿を引く音が、私に届いた最期の音だった。

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