わたくしがカラビーナです   作:杜甫kuresu

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いつか言ったな――――――「このカラビーナ、多分書く」って。
R-15要素を回収できる感じにこのカラビーナ、「駄目な人形」になりました。


撃てば撃つほど恋しくなる

――――――僕は元々日本という国の、あんまり見どころのない女性だったらしい。

 いやね、らしいというのも僕にはそれが「記録」としてしか感覚にない。歴史の教科書を暗記している、みたいなもので「へぇ~、僕ってそんな事してたんだ」みたいな感覚。

 

 記憶になったのは、二回目の人生――――要は転生ってアレを経験してから。今風に言うと「原作知識を持った」ぐらいのものだよ、ちょっとくだらない女の人生も混ざりこそすれ、ね。

 

 僕は鉄血になって、『二回目』は駄目だった。端的に言うと死んじゃったんだ。

 でもね、二回目には良い収穫が有った。そう、アレは電脳世界だったんだけど―――――――うん、思い出すだけで涎でも出ちゃいそうだ。

 

 噛ませ犬の極みだったあのウロボロスが、なんだかやたらと強かったんだ。

 

 

 

 

 

「凄いなあ…………」

 

 僕というやつは、恐らく人生通算で初めて女の子を好きになってしまった。メロメロだ、虜だ、もう蜘蛛の巣の蝶って感じ。歪んだ感情で頭が全部全部雁字搦め。

 残り人数はインターフェイスを開けば気軽に確認できたけど、彼女が根城にするビルの廃墟。此処に入ったお馬鹿さんが出る度に数字は減った。僕は挑むやつを黙々と観察して、周りで勝手に起きるいざこざもついでに見て鼻で笑ってた。

 

 彼女はとても興味深い戦法を取る鉄血で、最初の数日にちょろっとだけ廃墟に入ってみたんだけど――――――刺さってるんだ。銃がね、まるで剣みたいにいたる所に、ズラーッと。アレはどうやってるのかな。

 トラップも念入りだった。ウロボロスという後世の名にかけるなら建物、それ自体がもう「蛇の腹の中」だった。流石に途中で事態の深刻さに気づいて逃げ帰ったけど、アレは後数歩進めば戻れない――――なんて冗談みたいなことも有り得たと僕は思う。

 

 あの根城の周りでは揉め事が絶えなかった。ポーンも減ってないのにキングを狙う蛮勇ばかりのお馬鹿さんばかりだから、違う鉄血と顔を合わせるとそりゃあもう殺し合いの大喧嘩になる。

 彼女も僕と一緒で、それをよくビルの上から眺めていた。僕と一緒で、何処かつまらなそう。くだらないことで死ぬ連中を嘲笑ってたのかもしれないなあ。その冷たい横顔は僕を幾度となく殺した。

 

 あっという間に彼女は有名人になった。この何も共有されない電脳世界で、「あそこに入るのは死にたがり」という共通認識が根付くくらいなんだから間違いなく有名人だろうさ。

 

 

 

 勿論僕もいつまでもストーキング出来ない。襲われたらそりゃあ対応だってするさ。

 女にしては珍しい銃火器マニアの記憶が役に立ったから、武器選び自体に困る要素はないはずだった。問題は、僕が直感で「Kar98k」なんて馬鹿馬鹿しい時代錯誤の銃を選んじゃったことかもしれない。

 

 基本は彼女を見ているだけだけど、僕を邪魔しようとしたやつは全員殺した。当たり前だ、君のせいで僕のこの一時が壊れたらどうする気なんだい。悪いが僕は君達とこの時間は天秤にかける意味すら感じない。

 僕も有名になっちゃって、時々周りのいざこざの中心になった。億劫だったなあ。

 

 

 

 さてさて、1週間を超えたぐらいで僕は再び腹を中から裂こうと息巻いて侵入した。

 いや酷かったよ。トラップでもう普通に死にかけたね、何とか彼女と顔を合わせるまでは出来たけど。

 

 彼女は常に色々な銃を持っている。この日はVector、スタンダードで直線通路ぐらいしか長い道のないこのビルでは適切なチョイスだ。

 

「またおぬしか…………飽きぬなあ」

 

 振り向きざまの乱射、すかさずムーンサルトで後ろの倒れた棚に隠れてやり過ごす。

 撃ちながら呆れたような提案。

 

「なあ、ちょっと停戦せぬか? おぬしやたら強いからのう、わたしも正直弾薬を割と使ってしまって困っておるのだよ」

「答えんか。全く、台風とかと同じ類よな…………」

 

 答えない。僕は戦場で誰かと言葉を交わしたことはない、戦場で物を言うのは弾丸だけだからね。

 今回も勝てる気はせず、ビルの屋上まで来ておいて僕はぬけぬけと逃げ帰ることになった。

 

 

 

 段々と、僕は彼女を殺せる唯一の存在なんじゃないか。殺して良いのは僕だけではないかという、少し自己陶酔も極まったような錯覚に溺れるようになってきた。

 誇って良いと思う、僕以外――――――あのビルから誰も出てこれてなんかいやしない。実力だけであの蛇を縊り殺せるのは、きっと僕だけだ。

 

 残り人数、200。僕は減らすべきだと焦燥感に呑まれた。

 もう彼女に取り憑かれていたのだ。200という数字を見て、0が二つほど多いと思ったし、早く取ってあげないとと義務感に駆られたし、何よりそうする事への精神と弾薬の消費に何の躊躇いも感じなかった。

 これは歪んだ愛だ。僕も分かっている。

 僕は彼女に殺されたくて、殺したくて、ついでに死に際の台詞なんか聞けば絶頂すら覚えるだろう。というより、それ以外にあまりに興味をもてなさすぎた。狂愛も狭隘極まり、僕は夢心地のまま殺戮へと足を踏み出していく。

 

 とっくに僕は壊れていた。彼女以外の全てを抹殺することが使命であるかのごとく、僕の瞳は爛々と輝き、死に様を精細に写し、そして狂った顔で殺していったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は殺す価値がない」

 

 一目見たときから、ソイツが俺は嫌いだった。常に俺を見ているのは知っていたし、それはかなり不快な時も有った。

 この電脳世界は環境の問題っていうのかな、精神異常者は多い。シリアルキラー、倫理破綻、普通に狂人。まあ種類こそ有れ、共通して一般社会にそう数は居ない感じのイカれた奴は結構居た。

 

 赤く光る眼光は仄暗い、コイツは「此方側だなあ」とだけ感じた。もう既に嫌いだった。

 

「お前が見ているのは生じゃない、オレ自身だ――――――そんなくだらないやつ。後ろ向きな生き方してるやつにオレ、興味ないから」

 

 返事はない。コイツは俺を見ちゃいないんだ、俺のガワを見て執着してる。

 この眼を俺は知ってる、いや知ってると言うより俺がこういう眼をしてるんだ。生き死にとかあんまり興味もないし、世の中に漠然とハリボテっぽさを感じてるし、だから本体まで空っぽな唯の莫迦の眼。

 

 だからこそ許せない。莫迦は俺一人で十分だ。

 

「…………生きる理由が有るだけ万々歳だと、僕は思うよ」

「お前のは生きる理由じゃない。死なない理由だ、まるで違う――――――」

 

 故に殺す。無価値なものは、無価値なままここで消えてもらおう。

 残り人数二人。勝った方が外へ出る。俺は本当にこの環境に直感だよりな生き方をしてきたが――――――その直感とやらは、今までになく俺の頭を掻き毟って警鐘を鳴らす。

 

 コイツは殺せ。世界の邪魔になる。

 

「構えろよクソ女。初めてだ、オレは単純に『お前』を殺すために銃を構えてやる」

 

 お前みたいなやつは、俺みたいなやつは世界に二人以上要らねえよ。なまじっか実力まで持ってちゃ、本当に世の中で何をするにも邪魔になる存在だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――またあの夢」

 

 身体を起こす。仕事続きだけれど言うほど身体は軋まない、何時からか痛いだどうだという感情はどうでも良くなった。

 そう。今は帰投途中だったね、直前に撃った鉄血の顔ぶれを思い出す。誰も彼も僕の満足行く、というより納得の行く相手ではなかったけれど、仕事なのだから殺すしか無い。正直欲求不満。

 

 あからさまに不機嫌な顔をしたはず――――だというのに、横でウトウトしていたグローザが話しかけてくる。彼女は僕以上のマイペースだ。

 

「やっぱり、満足できないかしら?」

 

 彼女は僕が殺す相手を選り好みするタイプだということを知っている数少ない友人、のようなもの。自分で言うのも何だが、僕の正体にうすうす感づいているくせに話しかけてくる辺り狂人だ。

 

「全然ですね。仕事でなければ銃口を向ける気にもなれません」

「相変わらずの毒舌。まあ、それが貴方らしいと言えば貴方らしいわね――――――Kar98k」

 

 結果から言うが、僕はウロボロスに殺された。

 それはもう凄まじい戦闘だったのだろうと思う。僕が覚えているのは初めて殺したくなった相手を手にかけれる高揚感と、彼女がそれに信じられないほどの抵抗をして僕を逆に殺してしまったことだけ。

 

 しかし間違いなく――――あの日、あの瞬間の僕は幸せだった。

 アレは魔性だ、僕はきっと道を間違えた。アレにはもっと、後に出会うべきだった。

 

――快楽の限界を知った後に、それより下の快楽では満足できるわけがない。

 

「そう言えばKar98k」

「Karちゃんと親しみを込めてくださりますか? ベッドの上でもそう呼ぶつもりなら構いませんけど」

「貴方に手を出されるほど安い人形じゃないというか、その――――――冗談でも辞めてちょうだい」

 

 何てことを言うんだい、こんな美女と百合百合できる幸せが分からないのか君は。僕は君を抱いたら半殺しにされても構わないよ、死ぬのは駄目だけど。

 

 グローザだけだよ、こんなすげない返事をするのは。今までこういう話題を持ち込むとあからさまに話を逸らしたり、俯いちゃったり大変可愛らしい子が沢山いた。

 この子は駄目だ。メロスもびっくり、人形には百合が分からぬようなのである。

 

「グローザさん、それだけわたくしを袖にする割には喋りかけてきますよね」

「性格は好きよ。恋愛感情は持てないって話」

「成る程、今のは「一生友達で居よう」の婉曲表現ですか」

「まあそうなるわ」

 

 つまらない子。

 

 ああだこうだと言っている内に目的地が近づいてきた。今の僕のマイホーム――――――S09基地である。




という訳で僕が後書き担当です。凄いよコレ、僕まだ台本読んでないのに書けって言われたんだ!

しかし神様の道楽で本当に主人公にされるなんて思わなかったね。ああそうそう、当作品は――――えーっと「わたしがウロボロスだ」のスピンオフ作品扱いです! だから読んでないととーきどき違和感があるかも、とはいえ単体で読めるとは思う…………うーん分かんない!?

というか待てよ…………? 僕はひょっとして「ヤンデレ」に当たる転生者なのでは?

ま、という訳で返信も担当してるから気軽に話しかけてねー。
――――ここだけの話。あんな引きを入れた割には続くか微妙なんだってー。うちの神様かなりテキトーだよ、僕知らない間に二回転生した設定だしね。


【Kar98k】
中身は成人オタク女性。転生願望はなかったが三回目という境遇に今はノリノリ。
我が道を行く狂人で傍迷惑な巻き込み型、さながらハリケーンボンビー。道を切り開く、悪く言えば我の強い一面は長所であり短所。意外と男性には弱い。
状況を良しとせず、より良いものを、前進をと突き進む渇望には英雄の資質すら有る。元は普通のオタクだったのだが、前々世の記憶が薄いのでこうなった。
人形をよく口説く。何人か手を出しているという噂があるが、本人は否定。あまり嘘はつかないので多分本当。

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