わたくしがカラビーナです   作:杜甫kuresu

4 / 6
誤解されてほしくないのですが、ウロボロスは彼女を「恋愛対象」とは見ませんが好敵手としては気に入っています。理由は終盤に分かる。まあウザいとは思うかもしれない…………(無数の銃声)。
言うほど性格も悪いところばかりじゃないし、「良い人形」に該当するかも。地味にかなり一途な方だし。

まあ悪役なんですけども。


理屈のないもの【前編】

「有難うございます…………」

「はい。是非感想を聞かせてくださいね」

 

 小さな袋を両手で持った一〇〇式が、僕をちらちら見るなりペコリと頭を下げて帰っていく。可愛いか…………?

 人形の休日の取扱というのは結構困るそうだけど、僕は中身が中身だから例外だった。とにかく前世でおざなりにしていたらしき嗜好に色々手を出すことにしている。

 

 裁縫、栽培、料理。まあ屋内で完結するとこんなものだけど、取り分け料理は他の人形から好評だったから続けている。ちなみに今日はプレーンクッキー、割と長蛇の列で僕も驚いたな。

 

 ニコニコと横から話しかけてくるスプリングフィールド。

 

「今日も好評でしたね」

「ええ。わたくしは別に美味しいとも何とも思いませんが…………まあ、こう欲しがられると多少は作る気にもなるものですね」

 

 いわく「味付けが家庭的」だそうだが、僕にはその家庭的とやらは縁がない。僕に家族だとか血縁者というものが居た記憶も無い、前世とやらはもうただの記録なんだから。

 

 だから作るものがそうだと言われても分からないけど、この程度でニコニコしてもらえるならそれに越したこともないだろう。人形の娯楽というか、息抜きや嗜好品がないのは前々から僕も気になってたしね。

 

「味覚に機能不全でも有るんですか?」

 

 スプリングフィールドが不安そうに此方を見る。

 

「ああ、いえ――――――わたくし。あまり自分でやって嬉しいとか、楽しいとか思う事柄が無いらしくて」

 

 恐ろしい話だが、僕は自発的な行動に感想が持てない。

 食べ物の味はわかるけど興味がないし、スポーツをしても疲れた事実だけを感じる。物を作っても達成感も特に無い。

 

 他物から提供されたものでなければ無感動と言っても良い。

 芸術とか、他人の情動、僕に向けられた明確な感情には興味が有る。それは善悪、好き嫌い何でも構わない。

 それらしい反応は出来るから知らない子も多いが、元人間のくせに僕は人形以上にお人形さんだ。

 

「それは…………不幸、とは感じませんか?」

「いえ? 一周回って何に感情を持つのか、という所を探すのは好きですよ――――――」

 

 好き嫌いははっきり持ってる。妙な話だ。

 

「だから――――――まあ、それこそ躰を重ねる。なんていう事には興味が有るかもしれないわ」

「ふふっ、冗談がお上手ですね」

 

 うわ顎クイをあっさり跳ね除けられた! なんて人形だ、こういう娘こそオトしたいよね!

 ちょいちょい口説いているのだが全くスキが無い、これは百戦錬磨の僕としては大変困った事態なんだよ。

 

 何が凄いってさ、ここから普通に会話に戻してくるところ。スルースキル高すぎる。

 

「そう言えばグローザさんとはそういうご関係なんですか?」

「痛い所を突いてきますね…………ッ!? 全然駄目です、何故かしら!?」

 

 こんな可愛い声で可愛い顔をした僕が口説いているのに一ミリも靡かないんだ、何故だ。彼女は誰とも誓約は交わしていないフリーの筈なのに。

 

「何でも手に入る訳ではないと思いますよ」

「顔も良し、声も良し、スキルも有ります。一体何が駄目なんでしょうか」

「そういう所かと」

 

 グサァ!? 若干気にしてるのに!

 ま、まあ脈ゼロって訳でもありませんから? はい、わたくし問題ないですよ、そんな傷ついてないし。

 

 脳内で言い訳大会を繰り広げていると食堂の扉を乱暴に開く音。蹴っているんじゃないか、というこの開き方は一人しか知らない。

 

「はいお邪魔しまーす――――菓子の匂いする」

 

 袖をまくった紅い上着。浅く被った威厳のない軍帽、射千玉の髪と瞳が印象的な男で、これが僕の指揮官だった。

 

 いつも通りポケットに手を突っ込んだまま、ズカズカとクッキーを頬張る一〇〇式達の前まで歩いて覗き込む。

 

「クッキーねえ。美味しいか?」

「え? は、はい。凄く」

「そうかい。そりゃあ良かったなあ」

 

 年不相応にキラキラと笑うなり、くしゃくしゃと一〇〇式の頭を撫でる。がさつ極まりない動作だが温かみが有るからか一〇〇式は縮こまって抵抗をしない。

 

 一頻り撫でて満足したようにこっちまで歩いてきた。相変わらずの猫背には溜息すら出る。

 

「今日も菓子配りか、精が出るじゃねえの」

「い、いえ。趣味ですから」

 

 スプリングフィールドがニヤニヤと此方を見つめる。何だい、僕だって苦手な人種は居る。

 取り分け男が苦手だ。がさつだからとか理由を一々つける気はなくて、単純に喋るのが得意じゃない。

 

 中でも指揮官は僕の苦手な男像にかなり近かった。

 

「俺にも教えてくれよ」

「えっ?」

「待っててくれ、ちょっとわーちゃんも呼んでくる」

「此方の了承は取らないのでしょうか!?」

「上官命令って事で」

 

 なんて理不尽なやつなんだ!

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!」

 

 わーちゃんのあからさまに焦った視線の先にはかなり殻の混じった黄身。

 

「わーちゃん、力を入れ過ぎです」

「わ、分かってるわよ」

 

 ぐちゃり。またやってる。

 わーちゃんの手付きはおっかなびっくりという感じで、卵一つを割るにつけても何だか手首がガチガチだ。そりゃあ慣れてないと殻なんて多少入るんだけど殻が粉々で混入どころで済まないのがワルサークオリティ。

 

 仕方なく後ろから覆いかぶさる。

 

「手の力、抜いてくださりますか?」

「良いわよ。自分で出来るし…………」

「まあまあ。卵も限られているのですから」

 

 背の差もあまりないからか、肩から顔を上手く出せなくてわーちゃんの匂いがする。何のシャンプー使ってるんだろう、後で聞いてみようかな。

 少しキツめの柑橘系の匂いにらしさなんて覚えながら卵を割る。

 

 しきりにこちらの顔を見て手がガチガチ。

 女同士で人形だって言うのに、僕じゃあるまいし。

 

「こうです」

「そ、そう…………」

「とはいえ料理とお菓子作りは手探りが基礎です。レシピ通りにやる過程でこういう事は模索していってくださいね」

 

 レシピ通りに作るにしても多少は慣れが要る。卵を溶けと言われても、素人は手付きも溶き具合もわからない。数をこなして覚えるものだ。

 

 逆上せたようなショート状態のわーちゃんは放置。

 こちらの作業に戻っていると、横で見ていた指揮官がニマニマとこちらに生暖かい視線を送ってくる。

 

「手は出さねえのか?」

「ちょ、わたくしが誰にでも手を出す売女かのように仰らないでくださるかしら!? 失礼な人ね!」

「初対面で俺にナンパしたのに?」

 

 うっ。だって顔はタイプだったんだもん。

 顔だけ見たら優男だし、押せばいけるんじゃないかみたいな…………。

 

「本命居るんだろ? もうちょっと自制効かせたほうが良いって」

「余計なお世話です。わたくしだって相手は選んでます」

「俺を選ぶセンスってつまり選ぼうが選ばまいがハズレを引くってことだから」

 

 出会った時から「女は損させたことしか無い」って妙な自信を持って言い切ってるだけ有って、自虐と言うより事実を言っているような趣を感じる。

 

 彼は一目で僕の正体を見抜いてしまった数少ない人間で、曰く「同類」だそうだ。意味の取りようは色々有るけど、間違いないのは彼はまっとうな人間ではないということ。

 あの代理人をボルトアクションライフル一丁で人形と撃退した姿は僕だって確かに見た。規格外だ、僕は少なくとも五丁持たないと勝てる気がしない。

 

「でも指揮官さんは正しい人ですから、わたくしの眼は間違っていない筈――――――です」

「正しいねえ、お前は俺に何を期待してるんだよ」

「銃口をちゃんと向けられる事、でしょうか」

 

 一般的な倫理観、正義観に基づいて言うなら僕の行動はとても正しいものじゃない。

 それは自覚がある。別に何でもかんでも自分が正しいと思ったことなんて無いし、良いことをしたつもりでも全然良くないことだって沢山あったはずだ。

 

「わたくしは一丁の銃。指揮官さんは、向けるべき相手に銃を向けられる人――――――少なくともわたくしはそう見ています」

「過大評価極まる~。俺は都合の悪いものをなぎ倒している覚えしかねぇ」

 

 それで良い。僕はこれでも一応、人類の味方をしたいと思う。原則として人間というものは憎からず思っているからね。

 

 とりわけ感情という概念は美しい。人はそんなよく分からないものでいつも色鮮やかに輝いて、死ぬ間際まで何かドラマチックな演出を魅せてくれる事がある。

 僕はない。残念だが、そういう人間らしさは微塵もない。僕はモノクロで、どちらかと言うなら死に際はつまらない方なのは確信がある。良い死に方が出来る生き方はしていない。

 

 でも、まあ好きなものを守りたいという感情くらいは在るわけで。

 

「…………難しいこと考えてる顔してやがんな」

「そうですか?」

 

 そうだよ、とあからさまにげんなりとした顔をするなり手で払う動作をする。

 

「お前、むかーしの知り合いに似てんだよなあ。ヘラヘラしてる癖に頭の中が超シリアス、中途半端に何でも出来る辺りもそっくりだ」

「随分具体的なそっくりさんが居るのですね。その方は今何処に?」

 

 指揮官は少しだけ窓の方を見た後、すぐに作業に戻る。

 返事は

 

「何処だろうな…………アイツ、急に居なくなっちまったし」

「またアイツとゲームしてえなあ、最近メジャーな推しも居るのに――――――――居るんだがなあ…………」

 

 と要領を得ない感じだったので、もう無視しておくことにした。

 聞くだけでいい言葉というのも、まあ世の中には沢山有るからさ。指揮官にも過去編の一つや二つ、回想するだけの猶予を与えて然るべきさ。出来る主人公はこういう気遣いからしていくものだよ?

 

 

 

 

 

 

 

「菓子作りむっっっっっっっっっっっっず!」

「レシピ通りにしないからですよ…………」

 

 書いてある通りにやっても勝手が分からなくても失敗するっていうのに彼と来たら。

 菓子作りなんて単純だ、本当に分量と書かれている通りに正確にやれば出来合いの味には絶対なるんだから。その先はもっと創作意欲旺盛な他人に任せればいい。

 

 頭を掻いて苦い表情で目を泳がせる。

 

「本当に仕事以外は――――というか何でも雑ですよね、指揮官さん」

「いーだろどうだって! 別に菓子作れなくても生きてけるっての!」

 

 まあそりゃそうなんだけど。そんな事を言ってる人がマトモだった試しはないと言うか、何というか。

 自分でも滅茶苦茶なことを言っている自覚があるのか、顔を逸らしてこっちを見ようとしない。呆れた人だ、僕から歩み寄れってことかい。

 

「別に手が空いた時で良ければ教えて差し上げますよ。そう気を揉まずに、ね?」

「断るッ!」

「まあまあ」

「………………チラッ」

 

 口で言うのか。珍しい人もいるものだ。

 

「其処まで言うなら教えてもらわんでもない!」

「はいはい、もうそれで構いませんから」

 

 手が掛かることこの上ない。別にほっといても僕は困りゃしないっていうのに、何でこんな下手に出てるんだ僕は。

 

――――ん? 何でだろう。

 僕らのやり取りをずっと傍から眺めていたスプリングフィールドがニコニコとして頬に手を当てる。

 

「お二人って本当に仲が良いんですね」

「…………何を仰っているのか全く」

 

 僕が? 指揮官と? 寝言は寝ていってもらおう。

 

「スプリングフィールドさん、冗談というのは面白いことで初めて許されるものだとわたくしは思います」

「でも付き合っていると言われたら納得してしまいそうです」

「まー確かに俺への態度は相当マシになったな」

 

 指揮官までおだてられて調子に乗ってしまっている。

 僕は確かに大抵の人間が持っている感情が好きだけど、だからといって誰彼構わず個人を好むと思われたらそれは勘違いと言うしか無い。

 

 特定の個人なんて、今の所たった一回しか好きになったことがない。

 

「お前、本当は優しいんだからあんまツンケンすんなよ?」

「…………ッ! そうやってナチュラルに言ってやった風にしたからと言ってわたくしが靡くと思ったら大間違いですからね!?」

「いや、そんな意図無いんだけど。お前男を意識しすぎじゃねえの? 早口で捲し立てるほどの内容かよ、今の」

「~~~~~ッ!? もう良いです!」

 

 

 

 

 

 

 

「また怒られた」

「指揮官はちょっと痛いところを突きすぎてしまうきらいがありますから」

 

 そういうもんかね。俺は至って普通に接してるだけのつもりなんだけど。

 片付けもせずにどっかに行ったKarに上から料理を教えられる俺とは一体。片付けまでやって料理なんじゃないんですかー?

 

 仕方なく冷水に手をかじかませながらボウルを手に取る。

 

「ちべてっ! まるで俺の懐事情ですわ」

「――――――それにしても、Karさん。随分と明るくなりましたよね」

 

 おもっくそ閉められた食堂の扉を見ながら、スプリングフィールドが感慨深そうに呟いた。

――まあ、最初は酷かったなあ。

 

 あの凍りついた瞳は今でも思い出す。血の色をした目のくせに、まるで氷のように凍りついた冷え切ったあの表情。

 アイツは間違いなく殺ししか知らない奴だった。恐らく喜怒哀楽も破壊でしか表現できなくて、下手をすれば愛情だって――――――壊すことでしか伝えられなかった。

 

「そりゃあな。俺がアイツにいくら貢いだとお思いで?」

「身も心も、とか?」

「いやそこまででは無いんだけども」

 

 俺はひと目見て、アイツに関しては可哀想だと思った。これは唯の憐憫だ、要するに良い感情じゃなかっただろう。

 アイツはヘリアンに紹介された俺を見て一言目に

 

『精々上手く扱ってください。貴方にはそれしか求めていません』

 

 と言い切った。何が怖いって、それが冷たく接してるとかではなくてアイツの自然体だったこと。アイツは血で体を温めなきゃ、感情の一つも湧かない人形だったようなのだ。

 

 それでもアイツが同類だと気づいたのは、やっぱりその瞳の何処かに『誰かに大事にされたい』とかいう、もうそりゃあくだらなさマックスの感情が見えてしまったからだと思う。

 まだ救いようは有るし、それはただの人形には思いつけない発想だ。後ついでに言うと、とても大事な感情だ。

 

「…………ホント、アイツだいぶ柔らかくなったよ」

 

 今回は手遅れにならなくてマジでよかったよ。誰の特別でもなければ、とうとう自分の中でも特別になれないまま生きるのを諦めたやつってのを俺は知ってるからな。

 

 ともかく。ああやってツンケンされるのも、実は言うほど悪い気分じゃないって話。氷ぶち当てられるよりは熱湯かけられた方が俺はマシだ。

 

「……ふふっ、指揮官。お父さんみたいですね」

「よせやい。俺はまだ10代だ!」

 

 10代でも結婚する方は居ますよ? というスプリングフィールドのキョトンとした顔つきの一言で俺は死んだ。

 何だよ前世も童貞でしたよいけませんかねえ!?




【Kar98k】
バイ、女好き、病み気味の面倒三連符を持った駄ヒロインの麒麟児。
口説くときはさながら百戦錬磨だが処女。男は意識するので苦手。
真っ直ぐで高潔な精神を好み、対する相手に求める。性格については、まあお察しください。言うほど、とだけ。
普段はナンパ癖を除くとご本人と違いはない。普通より少し背が高い。

【指揮官】
あいつ。ヒントは星。作中にもヒントいっぱい。
姉貴と大層キャラが被るので少しドライに。

【ウロボロス】
最近フルボイスを某nknkで見ましたが、これでラスボスキャラって中々すごいんだなアイツって感心してた。
本家の10倍ぐらい性格悪そうな感じで想定してください。


僕だって噛むよ、ああ噛むとも。何か駄目かい? 文字の中の人物だからって誤字らないなんて幻想はよそうか、僕だって恥ずかしいに決まってるじゃないか。返信で噛んだくらいが何だい、こっちは恥ずかしいんだから触れないでおくれ。お願い辞めていじらないで恥ずかしい。

――――あ~そうそう! 僕らって他の主人公と明確に違う点があるんだってさ!
というのも、悪感情が基盤で出来上がってる。例えば「弱者に生きる価値はない」とか「人生なんてつまらない」とか「次が有れば上手くやる」とか。人に言ったらアレだと思われる感じのやつね。
僕は独占欲とか「自分には何もない」とか。まあ所謂自己陶酔のたぐいが多いんだよ、だから尖ってくる。
結果がどうなるかと言うと、もうそれは僕達の問題だから彼は全く関係ないんだけどさ。

――――――誤魔化してないよ? ほんとだよ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。