わたくしがカラビーナです   作:杜甫kuresu

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そう言えば時系列は敢えてぐちゃぐちゃにしているので、この話が一体「あちら」で言うと何処に当たるのかはご自由にどうぞ。
書いてないことが多いので、幾らでも想像の余地は有ると思います。


理屈のないもの【後編】

「言わせておけば言いたい放題言ってくれるよ全く!」

 

 走り終えて遠い廊下、唐突にカラビーナはブツブツと居もしない相手に怒り出す。

 

――そもそも、男として見られているという発想が業腹だ。

 正確に言えば男としてではなく「恋愛対象として」だが、ともかく彼女は男のそういう所が以前からあまり好きではない。

 

 性別という観念が纏わりつくと途端に目が濁るものはそれなりの数いる。当然であり、通常だが彼女には耐え難い。

 彼女の場合は性別が恋愛の勘定にない故か、とりわけその様相には過敏で、同時に嫌悪が有った。

 

「…………まあ、過剰反応だったかな」

 

 息を吐いて軍帽のつばを触る。

 

 とはいうものの、彼女に関して単純に過剰反応と攻め立てるのも考えものとなる。

 人形は数多く居るとは言え、中でも彼女のような根本から中性的な人物は中々少ない。「その手の男」に妙にたかられてあまり異性に良い印象が持てなかったのだ。

 

「何が過剰反応だったのよ」

 

 後ろから声。咄嗟に彼女は答える。

 

「そりゃああんなに怒らなくてもって――――――――ひゃあっ!?」

「そんな驚かれても困るんだけど」

 

 思わず飛び退く。視線の先には、白けた顔ですっ転びそうなカラビーナに睨めつけるような表情のWA2000。

 しかし経験則で、それはただ目付きが悪いだけというのは何とか判断できた。急いで立ち上がってコートの埃を払いながら苦笑いする。

 

「い、何時から其処にいらしたのかしら?」

「言わせておけば~~の辺り」

「思いっきり最初からではないですか!? 言ってくださりますか!?」

 

 お忙しそうだったので、と意地悪そうに口端を吊り上げるWAを心底恨めしそうに睨む。瞳には覇気がなく、弱みを見られたからか少し潤んでさえ居る。

 

 露骨に話を逸らす。

 

「そ、それで何の用でしょうか。ワルサーさんが意味もなく走ってついてくるとは思えませんが…………」

「ふーん、まあ今のは不問にしといてあげる」

 

 優勢と見たのか強気なWAだが、カラビーナはさっぱり怯えた様子はない。

 

「用って言うほど大それた事じゃないんだけど…………一つ確認していい?」

 

 WAが顎に手を当てながら何度か確認を取ると、手探りのような様子でそんな事を言い出す。

 カラビーナは別段そこで意地の悪いことをするタチでも無いわけでも、少し引き攣りつつも笑顔で了承を返す。

 

「構いませんが、何でしょう?」

「今まで人形を二桁は食ったってアレホント?」

「…………そ、そそそそそそんな訳無いだろ!?」

「ないだろ?」

「あっいや――――――そ、そんな訳無いでしょう!?」

 

 明らかに狼狽したように手つきをあわあわとさせて拒否する。いつもの何処と無く冷めた空気感は何処へやら、真っ赤にした顔に慌て気味にパクパクする口、思わずワルサーが吹き出す。

 

 まるで図星を突かれてせめて人数だけでもちょろまかそうとしているように見えるかもしれないが、カラビーナは肉体関係は本当に持ったことがない。それはポリシーと言うか、やりたいようにやっていたら自然とそうなっていただけの話だ。

 例えば貞操観念がマトモであるとか、単純な両性愛とは別の理由があって歪んだ私情で関係を持つとかそういう含みのある表現とかでは全く無く、まあ要するに9割偶々だ。

 

 敢えて言うなら、そういう空気になると何度も「ある顔」を思い出したからかもしれない。

 

「誰が吹き込んだんですかそんな情報、全くのデタラメです!」

「誰と言うか広まってるわよ。別にアンタが嘘だって言うなら私は普通に信用するけど」

「嘘八百、尾ひれの付いた噂、真っ赤な嘘に決まってるではありませんか! 確かに関係を持ったのは二桁超えてますけど!?」

 

――えっ、付き合ったのは本当なの。

 WAが予想外の切り返しに困惑しているのだと露知らず、錯乱気味のカラビーナがオタオタと逃げ口上で自ら深手を負っていく。

 

「いや、キスで食べた等と仰るなら確かに二桁かもしれませんが――――――いやいやいや、それって食べたとは言いませんよね?」

「えっ、キスはしたの」

「えっ? まあ、お察しの通りフレンチじゃない方を。わたくしからはしてませんよ? はい」

 

 WAの顔が茹でダコのように真っ赤になる。

 

「ええ!?」

 

――待ってくれお察してないのか君は!?

 爛れたカラビーナの性事情に目を回しながら額に手を当てて首を振るWA。加害者の方は何がおかしいとあっけらかんとし始めた、慣れたやつというのはこういう態度を取るから面倒である。特に、変な感じで小馴れたやつ程こういう態度を取る。

 

 お互いにノーガードで殴り合う酷い会話が続く。

 

「淫れよ、淫れの権化よアンタ!?」

「失礼な! わたくしから求めたのでもないですし、何なら襲われかけた経験だって有るんですよ!? 一緒くたにして全部わたくしの淫れなんて乱暴な物言いをしないでくださる!?」

「襲われかけた!? はぁ~っ!?」

「ああいや、やっぱりこれも僕から誘ったりは全くしてないんだけど…………もうっ、君は何を話してももう駄目そうだな! 終わり! この話終わり!」

 

 

 

 

 

 

 

「…………淫れてる」

「はいはい、もうそういうことで構いませんよ。それでご用件は?」

 

 何故か廊下の隅に三角座りしてしまったWAをカラビーナが慰める絵面となってしまう。

 

――何でこんな付き合いが良くなってしまったんだ、僕というやつは。

 脳裏に状況をせせら笑いながら、ともかく己のやりたいように慰めに戻る。今やりたいことはそんな下らない変化で怖気づくことより、そちらにあった。

 

「その、指揮官とは――――――したの」

「してないよ!? しつこいな君!?」

「そう。というかその口調、素?」

 

 ぐっ、とカラビーナは唇を小さく噛む。

 

 というのも彼女には一応、体裁を取り繕うという概念が有る。最低限の一般常識とこの三度目の人生の過程で学んだことと言えば、取り敢えず「個体として女性に近いものが僕だの男のような口調を使うと、よく分からない顰蹙とついでに妙な男を寄せてしまう」という一点だった。

 

 元々意識して使い分けが有ったが、ボロが出た時に面倒事が時折起きたものだから、本来は徹底して言葉遣いを直している。今回はあまりに普段されない踏み込まれ方をしたための例外に過ぎない。

 

 大体引かれる経験則から適当に煙に巻こうとしたが、すぐにWAの言葉に断ち切られる。

 

「別にどっちでもいいわよ。言葉に関してどうのこうのって私が言える立場でもないし」

「とてもそう思う」

「アンケートみたいな文言でコクコク頷かないで頂戴」

 

――そっか。気にしない、か。

 素っ気ない感想を持ったつもりだったが、表情は少し緩んでいる。

 

「で、どんな口説き文句だったの」

「それはですね、『一目惚れしました、わたくしと愛を語り合ってくださらないかしら』でしたかね? いや覚えてないです」

「うわサムッ、しかもいきなりプロポーズ重っ」

「グサァッ!? テンションが上がるとついついこういう感じになるだけなんですよ!?」

 

 それが薄ら寒いと言っているのだが、まあそれは気づかぬほうが良いのかもしれない。言えば治ることでもないのだから。というか思っても言うものではない。

 

 WAの尋問じみた質問責めにどうにもこうにも業を煮やしたカラビーナが表情だけ笑いながら急かし気味に尋ねる。

 

「それで、要するに何でしょうか?」

「そんな暑苦しいナンパをするアンタの本命って、どんな奴なのよ?」

 

 尤もな質問だ。大体「本命」という言い方だってWAは傍から聞いていて妙だと思っていた。

 

 出会って数秒の男にちょっかいをかけた、という女が、ましてや本命とやらに何もしないだろうか。なにかしたらそれはもう本命というより、玉砕の相手だとか、恋人と言う表現の方が近いはず。

 何故指揮官が本命、とわざわざ言ったのかがWAは気がかりで話を始めたのである。

 

「…………それ、本当に聞きたい?」

「正直かなり」

「何言っても引かない?」

「多分」

「…………じゃあやだ」

「そこを何とか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………人がどう言うかは知らないけど、流れ星みたいな人」

「流れ星?」

 

 そう、流れ星。頷く姿は穏やかで、いつもの「振る舞う」それとも少し違う暖かさが滲む。

 膝を抱え込んだまま、小さく顎を乗せて思い出し笑いをし始める。

 

「良い悪いじゃなくて、しようと思ったことに真っ直ぐな人でした。繊細な癖に強がるし、誰と向き合っても一生懸命だし、何と言えば良いのでしょうか――――――――まあ、可愛らしい人です」

 

 答えたカラビーナの表情は少しだけ寂しそう。細められた瞳に、WAは何故かどきりとしてしまう。

 

 星は遠いもの、そう相場が決まっている。彼女にとっての流れ星も、やはり距離があまりに遠かった。

 彼女が最初に味わったことというのは、要するに自分は流れ星になどなれなかったという事である。流れ星は星だからなれるのであって、星を眺めてしまった時点で彼女は既に流れ星にも、星にもなりはしない。だって星は星など見ないから。

 

「あの人、届かないんですよ。一生懸命色んな事をしてみたんですが、あの人みたいに出来ない。何か足りてないって言えば良いのでしょうか…………」

 

 多くのAIを壊した。思うように鉛をぶつけた。それは彼女がしていたことだったし、そうすれば近くなるかと淡い期待が有った。

 

 得たものは、自分が思ったより化物らしいという虚しい認識。銃弾で肉を貫く事に高揚したわけでもなければ、錯乱したわけでもないのに彼女は動じなかった。

 同様に身勝手に振る舞うことにも何も感じなかった。結局、彼女が求めていたのは恐らく人間らしさ、等というふわふわしたもので、自分の内から得るものでは満足できないことだけを理解する。

 

「そうですね、あの人みたいになれないんですよ。また一人ぼっちなんだろうなあと思うとちょっと可哀想な気もします」

 

 どうしてそうなりたかったのかという大事な観点について、まるで考えている様子はない。ただその相手のことを考えているのだろうか、その度にカラビーナの口元は緩んでいて、それはもう余程好きで堪らないのだろうという事だけがWAには窺い知れた。

 いつもの煙に巻くような微笑と言うより、漏れ出たような笑顔。恐らく、WA以外の誰もが何度も見たことが有る顔ではない。

 

 盲目的ね、とWAは憐れむようにその表情を冷めた感情で一蹴する。

 戦場では悪魔か何かのようだ、と騒がれる人形だと聞いたことは有るが、その面影は此処にはない。此処に居るのは十も行かない少女のような、歪んで真っ直ぐな奇妙な恋慕を吐き出す人形だけだ。

 

「つまり、何。アンタはソイツの支えになりたいってことなの?」

「…………? そう、なんでしょうか」

「そうとしか聞こえないんだけど」

 

――そこまで感情垂れ流しにしてれば普通すぐ分かるわよ。

 あまりに自分を見ていないのだな、と何だかカラビーナに抱いていた印象が変わっていく。もっと、WAは大人びた人柄だと思っていたらしい。

 

「アンタは別にソイツに負けているのでもなければ、同じにならなくちゃいけない訳でもないわよ。それ」

「別にそんなつもりは…………でも、同じにならなくて良いのかしら?」

 

 えぇ、とWAは口を開けっ放しになりそうになる。

 

「アンタ、別に指揮官と性格一ミリも有ってないし、性別も身長も能力も趣味も全く合わないでしょ?」

「ええまあ、あんなのと合う訳無いじゃないですか」

 

 あんなの、なんてにこやかな表情で言われてしまうとWAは返答に困ってしまった。

 

「でも良いコンビよ。妬けるぐらいね」

「は? え、それヤダなあ」

「茶化さないで。要するに、それこそアンタがしたいようにソイツに手を伸ばせばいいだけでしょ、そんなの」

 

 真面目に聞いて損したわ、と少し怒ったような様子でWAが立ち上がろうとするのをカラビーナがスカートの裾を引っ張った。

 

 ムッとした表情で振り向くと、何だか心細そうに此方を見つめてくるカラビーナに咄嗟に言葉が出てこなくなる。つい顔を手で覆ってしまう最中、カラビーナが女を食い物にしているという理由はどことなく理解できてきてしまっていた。

 何度か視線を逸らしながら、消え入りそうな声で尋ねる。

 

「…………それで、大丈夫かな?」

「――――――――ッ! そんな事言ってる内は駄目でしょうね!」

 

 無理矢理を手を引っ張り上げて立たせる。

 

「知るわけ無いでしょ、アンタはまだソイツと何も始めて無いんだから! 始めてから考えなさいよ!」

 

――つい言い過ぎちゃったじゃない!

 怒鳴る相手も居ないまま心中で叫ぶWA。悪癖だとは毎度感じているのだが、こう焦れったい物を見ると口が滑って当たりのきつい物言いになってしまう。

 

 どう言い繕おうか、と既に素直に謝る選択肢を除外してしまう悲しい癖に辟易としながら逃げ道を模索する。

 咄嗟に視線を泳がしてしまうが、カラビーナが顔を近づけてきたかと思うとじーっとWAを見つめてくる。頬は少し紅い。

 

「な、何よ…………」

「いや、その………………ありがとう。今のWA、ちょっとだけカッコよかったよ」

 

 そう言うとすっと顔が離れてしまう。

 気づけば煙のように消えてしまっていたカラビーナに小さく安堵しつつ、紅潮する顔を覆いながらWAは悶え始める。

 

「アイツ絶対悪い女よ…………絶対危険なやつ…………」

 

 この後指揮官に見つかって一週間ほどからかわれたのはまた別の話である。




【Kar98k】
空気感に出さないがこれで純粋な性格をしている。というより子供みたい。
遠いものが好きで、ただ羨ましがる。近付こうという努力はしないし、しても近づけない。
その努力をする唯一の相手というのは――――。

数ヶ月前に書きました。今はBloodborneをしているので書いていません。
楽しい、人間犯すの大好きな実質ズーフィリア系上位者の諸君が好きです。ゴミ共が(ウロボロス系狩人並感)。
そういうのを書く可能性が「それホントかい!? という事はモォチィロォン! 僕も出番が」ないです。
「は?」
ないです。諦めてね。
「リスカしょ。。。」
あ、ちょっ!? 待って!?
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