わたくしがカラビーナです   作:杜甫kuresu

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彼女とウロボロスの関係については代理人に霞むと読者は見ているようですが、この世界で正当ヒロインってこのアマです。
唯一「殺してやるべきだ」という共通意志を持つ、私の化身みたいな女ですので。

グローザのヴァレンタインボイス好き過ぎる!!!!!!!!


雷雨と化生

 その日の作戦は、言われてみれば最初からおかしかったのだ。

 グローザは静かに口元に手を当てながら考え込む。籠城戦は長くは続かない、彼女に与えられたシンキングタイムはそうもたもたとしていられない程度ということだけは確かだった。

 

 市街戦も、夜目の利かない夜戦も慣れたものだ。今回なんて彼女はダミー含めて総勢四体という所まで追い詰められてしまったが、それでも数の利を物ともせず時間を稼ぐ腕はエリートと呼んで相違有るまい。

 この瓦礫も何時まで保つだろう。

 

「どう出る…………? 弾も底が見えてる、多勢に無勢、天が見放すってこういうのかしら……」

 

 悲観的な字面を余所に声色は落ち着ききっていた。悲観と焦燥は死を呼び寄せる、彼女が死体を見続けて唯一学んだ真理である。

 

――今回は例外だものね。

 鉄血は、端的に言うと質に任せたゾーニングが多い。

 それはIOP製を遥かに凌ぐ耐久性か、生まれついての人形たる矜持故か。どっちでもいいことだ。

 

 後者であるならば、今回の相手に矜持はない。確実に一体ずつ、ただ作業のように始末したその部隊の根底にあるのは名誉でも、驕りでも、怒りでも、何でもない。

 あまりに単純過ぎる、「敵は殺すもの」という発想のみ。初めての事だった。

 

 気づけば銃声は止んでいる。

 

「無駄弾も期待したり出来無さそうだし…………」

 

 暗み行く思案に光の糸が走る。

 

 もしやという、可能性を辿るような賭け。成功率はきっと数える意味もないし、希望的観測甚だしい。絶望感に酔ったばかりの無駄撃ちに終わる可能性も頭に過る。

 静まり返った夜空を見つつ考える。道は八方塞がり。援軍は絶望的。夢と思い込むには硝煙の匂いが生々しすぎる。

 

 ならば1%でも。それ以下でも、進むしか無いだろう。

 雷雨は行き先など選ばない。風だけが、光明だけが彼女の進む道を知っている。彼女の思考に深い意味は必要なかった。

 

「媚びるついでにチョコレートでも投げておこうかしら」

 

 不敵に微笑み、お守りがわりの板チョコを瓦礫の外に放り投げた。

 瞬間、銃声の狂想曲。つられてダミー達が次々と月光の元へ躍り出る。飛び交う銃弾は光を散らして踊り狂う。

 

――今。

 二体目が血を吹き散らした頃に息を切ると、そのまま後ろへと走り出す。

 

 脇目も振らずに走る。苦し紛れの突撃などとはアチラも考えているわけもなく、すぐさま銃弾が飛び込んでくる。

――それは偽物。

 逃げた最後のダミーが潰れると同時に、今度こそ彼女が走り出した。

 

 作戦は功を奏したのか弾丸は飛ばない。恐らく事前のブラフに大抵が弾を尽きさせたのだろう。

 

「これなら――――――――」

 

 予感に思わず笑みの溢れる彼女の横を、光る鉛が通り過ぎた。

 

 失敗。グローザの額に思わず冷や汗が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「希望の光は、欺瞞の糸だったと嘯いた男が居ました」

 

 瓦礫から誰かが歩いてくる。詩を唄うように、ゆっくりと声を響かせながら、誰も居ない目的地に向かって歩き出す。

 

「ええそうでしょうとも、あなたが信じない希望の何処に真実が有りましょうか。希望とは自身が信じてこそ存在するもので、あなた自身が疑うならそれは欺瞞に違いない」

 

 鉄血が固まる。銃弾は不思議と止んでいた。

 

 異様な雰囲気。其れは割って入るように現れるなり、誰を目指すわけでもなく悠々と語り歩く。声は玲瓏で、しかし親しみ深く、同時に何処か耳障り。

 まるで調律のなっていないピアノのような何か。

 

「信じる者は救われるという言葉があるじゃないですか? 要するに、信じる対象がどうではなくて、あなたが信じるかが至上命題だと心得るべきというお話ではないかしら」

 

 指を振りながら得意げなシルエットが月夜に映り込む。

 

 後を追うコートからは奇妙なアームがちらつき、はためくような銀髪からは月光が演出のように吐き出される。手に取る銃の形に見覚えは有ったが、誰の記憶に当てはめてもあまりに大きすぎる。

 ステップでも混じりそうな人差し指が消えると、くるくると回された古臭い銃がきらきらと光を零してゆっくりと鉄血達へと銃口を近づけていく。

 

「その点、グローザさん。あなたは正解です。己を信じたのか、天に祈ったのか、それともそれとも――――――まあどうでも良い事ね」

「ともかく、あなたは大正解。ジャックポット、何せわたくしが通りかかってしまった。これは天か、あなたの意志か、もしくはもっと凄いものが今あなたに生きろと命じたということに違いありません」

 

 きちきち、と気色の悪い駆動音と共に、女の背中から無数の銃口が現れる。コートを食い破ったように、コートが生きて蠢いているようにもグローザには映るが真相は闇の中。

 

 事実としては、グローザは直感的にそれを「敵」だと感じてしまった事だけである。

 

「あらあら、情報にないと皆さん大焦りのようですね。死ぬ前に心残りは消して差し上げます、わたくしは残党」

「昨夜消えたある研究所の生き残り。シグナルはまだ機能に組み込まれていないもので、今しがた。漸くグリフィンへの連絡手段が見つかったところよ。わたくしも今宵はツイているようですね」

 

 さて、少女は他愛のない話を咳切るように前置いて、トリガーに細い指をかけた。

 

「機体No.319。仮称『Kar98k』、あなた方の生き様だとか、帰りを待つ人とか、矜持とか、まあそういった下らないものはぜーんぶ端に置いておいて」

「わたくしの為に死んで下さい。邪魔ですから」

 

 銃声の五重奏が鳴り響く。

 

 

 

◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 

 

 

「ああ――――――あなた、あの時の」

 

 次に彼女と出会ったのは、S09地区での事だ。

 月光に映る姿も確かに気色悪くも惹かれるものがあったが、昼下がりの陽気の下でもやはり変わりない。グローザは元からそれに加点はしていないが、少し妙な人形という感覚はやはり抜けなかった。

 

「グローザ。えっと、ああ。あの時のですか」

「随分なご挨拶ね。モーゼル社のお嬢人形って会食でもしてあげないと会った事も覚えててくれないの?」

 

 あーいえいえ、と手を振って訂正が入る。

 

「いや、わたくしは『この子は抱きたい』と思ったことしか大抵覚えてないので」

「嗜好のひん曲がった野獣って事ね、分かりやすくて助かるわ。ありがと」

 

 とんでもない暴露をされた割にはグローザは反応が薄かった。恐らく二徹明けだったのも大きいし、最初の印象から碌なものじゃない事は察しがついていたからだろう。

 

 まあ思って口に出すだけならセーフ。そんな凄まじい演算処理を行って何時も通りに挨拶代わりの全力ストレートを投げる。

 

「そうは言うけどあの暗闇で私に何を見出したのかさっぱりよ、普通に」

 

 カラビーナはそれまでの近寄りがたい雰囲気から一転してニコニコと早口で喋りだす。

 

「良い女性はですね、何と言っても顔を見ただけで分かります! グローザさんは100点です!」

「ふーん。襲ってきたら普通に蜂の巣にする予定なんだけど、今後は仲良くして大丈夫かしら」

「全然大丈夫ですよ、オトせばいいだけなので!」

 

――あなたには多分オトされないわね。

 今の一言で確信したので、その後彼女とは時々会話するようになった。実際彼女は肉体関係は持たない主義者なので、グローザはある意味その直感に従ったことが大正解だったと言える。

 

 

 

 

 

 

 

「へ~、あの頃のKarとお友達になるとは。グローザには頭上がんないな」

「趣味嗜好の範囲よ。別に感謝される謂れもないわ」

 

 グローザはやはり平常運転でスッパリと言い切ってしまう。

 というより細かい押し引きというのは基本的に面倒くさい。彼女は思ったことを率直に喋るし、相手もそれをそのままそうかと言う。それが一番シンプルだし、何より結果は同じでより簡単だ。

 

 指揮官はそう? と聴き直すので

 

「そうよ」

 

 とだけ答える。

 

「あの頃の全身果ては舌まで剃刀みたいだったKarを知ってる俺的には、まあ感謝すべきとこなんだよな」

 

 剃刀、まあそれはあまり否定する所ではないだろう。当時のカラビーナを形容するには本当にそれで正解だった。

 

 しかしグローザが少し顔を顰めて意外な反応を示す。

 

「そうでもないわよ」

「ん?」

「あの時から聞けば大抵教えてくれたし、遊びにも行ってたし。別に私に限らず声を掛けられたらとも答えてたわ」

「え、マジ?」

「嘘は言わないの、あなたが一番知ってるんじゃない?」

 

 まあ言いませんね、と指揮官が唸る。

 

 そもそもグローザから見ると、最初からカラビーナは「おかしな人形」では有ったがそれ以上でもそれ以下でもない。

 センスがズレているなんて誰にでもあることで、グローザに映るのは普通に笑うし、そこそこ怒るし、恐らく自分だけか極一部かでは有るが普通に甘えてくる。

 だとすればもうそれは、ただの人形としてのカラビーナだ。

 

 元々、グローザには指揮官の言う「冷たいなにか」が一度も感じられてない。

 

「料理も来たばかりの頃に教えてもらったわよ。別に普通の子だと思うわ、ちょっと嗜好と欲に問題は有るけど」

「…………はぁ。アンタ凄いなあ」

「普通じゃないのかしら、コレ…………」

 

 感心する指揮官にグローザが逆に困惑していると、ゆっくりと開いた扉から見慣れた軍帽が映る。

 

「何でしょうか。二人してわたくしの話なんてして、褒めるなら眼の前で褒めてくださりますか? 嬉しいので」

「「別に褒めてはない」」

 

 カラビーナがその場で崩れ落ちた。




【OTs-14】
CUBE作戦と同一人物。いろんな基地にゲストになってるイメージ。
優秀なのは勿論のこと、Kar98kが「最も救うに値する」と断言する「矜持」を持ち合わせる人形。かなり仲のいい指揮官が居るイメージ、彼氏ではない。
Kar98kの雰囲気に流されないので辛辣だったり、ズバズバ物を言う。
相手の性格にもよるが、変な面倒臭さの無い立ちふるまいでもあるだろう。Kar98kとはドライに見えるながら仲が良いようだ。


グローザか。あの子はねえ、何と言うんだろ。難しくないしカッコいい。
言動の枝葉じゃなくて趣旨をしっかり汲んでくれるし、後あんな感じだけど意外とマメにプレゼントとかくれるよ。アレはモテるね、間違いない。
後時々先約とか入ってると拗ねる、あの顔は全人類が見ておいて損はないよ。

僕は見たこと無いけど恐らく女の顔をするとギャップで大抵殺せるね、是非とも僕もそういう夜も仲の良いご関係で可愛い顔を拝m(突然の銃声により記録終了)

死ぬかと思った!?

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