狐娘物語   作:ゆう12906

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序章 茂みからの出会い

それは、暑さで陽炎が揺れる昼下がりのことでした。

 

ガサゴソ、ガサゴソと茂みから音がします。この辺りは宮内れんげもびっくりする田舎で、舗装されていない道路、その奥に広がる田畑に人はいません。あまりの暑さに、みんな家の中で休憩しているのでしょう。

 

ピョコン

 

1つの影がそこから飛び出しました。太陽の日差しをたっぷり受け輝く葉っぱが、次々散っていきます。

 

そんなことを気にすることもなく、その動物は歩き始めました。4足歩行ですが、一歩一歩意識しているかのように優美な足取りでした。

 

しばらくすると立ち止まり、大きく頭を回しました。お日さまでかゆくなってしまったのでしょうか。

 

ひとしきり顔をなめた後、再び小走りになりました。ゆくあてはありません。ただ何となく、ぶらぶらと歩きまわりたくなるのはヒトも同じです。

 

やたらに人間臭いこの動物は、とんがった耳と、ぴんと張ったひげと、何より特徴的な、黄金色の柔らかそうなしっぽを持っていました。

 

そう、狐です。開発が進み過ぎたこの現代日本でも、まだ存在するのです。こんな田舎だからこそ、ですが。

 

彼は好奇心で胸がいっぱいでした。こんな快晴の日には、何か新しいことが見つかるだろうと期待を膨らませています。

 

いつも変わらない風景ですが、なぜか彼には目新しく見えます。これも太陽の偉大さがなせる業なのです。

 

今日は誰と出会えるだろう。いつものようにセミと話すか。こんな暑い中でも外を駆ける子どもたちを見守るか。それとも魚をちょろまかしちゃおうか。

 

脳内で妄想にふけっている間にも足は動きます。

 

すると、前から足音が地面を通じて聞こえてきました。

 

始めは小さな子どもかなと思いました。しかし、それならもっと激しいはずです。うっかりしていると聞き逃してしまいそうな、そんな優美な足取りだと想像できました。

 

まさか、前から3軒目のおじいちゃんではないでしょうか。このところ少し認知症気味で、一人きりで歩き回っていることがあるのです。彼はちょっぴり危機感を覚えました。

 

そこからの行動は早いものです。後ろ足に力を籠め、一気に加速していきます。

 

すぐに現れたのは2つの人影でした。彼はほっと息をつきました。

 

気付かれて抱きかかえられては面倒なので、横の茂みに隠れて待つことにしました。葉っぱで頭を覆いカモフラージュは万全です。

 

その二人は両方とも女性でした。いや、女の子といっていい年齢でしょう。

 

1人は真っ白なワンピースでした。腰まで伸びている真っ黒なストレートヘアがより際立っていました。顔は美人というよりかわいらしく、どこか奥のほうに凛々しさもありました。

 

もう1人のほうはなんとメイド服。しかも、ロングスカートです。暑くないのかと彼は心底不思議でした。おまけに、二人がすっぽり隠れる日傘を広げていました。

 

この2人はお嬢様と使用人という関係でしょう。傍から見ても、仲の良い様子がひしひし伝わってきます。

 

彼女たちは彼に気づくことなく、談笑して過ぎ去っていきました。

 

――おや……狐のようすが……?

 

彼は即座に気づいてしまいました。お嬢様の顔を見たとたん、自らの顔が紅潮していたことに。

 

彼だってそこそこの年月を生きていますから、自分がどういう感情に揺れ動かれているかわからないはずがありませんでした。

 

これはそう、――一目ぼれ、ってやつです。

 

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