「しゃー!みんなありがとー!」
最初は小さなライブハウス。そのステージの上で声を上げると、最高に気持ち良かった。
「なー、みんな!次はテレビだろ!?何かバシッと印象に残る事やらないか!?」
「いいな!」
みんなであれなんてどうだこれなんてどうだって、初めてのテレビ出演で朝まで盛り上がったな。
「サンキュー!!」
それからどんどん有名になったいって、ぶつかる事もあったけど、後から笑い話になるくらいになったよな。
「音也さんはどうしてベースを始めたんですか?」
「そりゃあ、ベースが一番かっこいいからだよ!」
「なにぃ!?ギターの方が絶対にかっこいいだろ!」
「ドラムだドラム!!あの心臓まで響く様な音が最高なんだって!」
「キーボードの繊細な音だろ!?」
折角……頂点って言われるくらいに登ったはずなんだけどなぁ……。
「なぁ……音也ぁ。死ぬなよ……。」
「どうしてお前が……!」
「おい、ベースするんだろ!?一番かっこいいんだろ!?」
にっ、と笑ってマスクを浮かす。
「当たり前だろ……ベースが、一番かっこいいんだぜ……。」
ああ、くそ、力が入らねぇ……。ここで終わりなのかよ。いや、終わらない。来世でもその次も、絶対にベースを弾いてやる……!
「……や…………と也………………音也!」
「んえっ!?」
「どうした、ぼーっとして、疲れたのか?」
「い、いや、え?なんで……。」
声が高い。体が小さい。ガキになってるー!?後、知らない記憶がある!?この人父さん!?顔一緒だけどサラリーマンじゃないの!?
「はっはっは!音也くんも疲れてたんじゃないか?ライブハウスがギッシリだったからな!」
「まぁ、当然だろ!なんたって俺達だからな!」
ライブ……ライブ!!
「父さん。俺に、ベースをやらせてくれ!」
「は?」
あれから十年経った。今日からこっちに俺だけ引っ越しだ。
「……めんどくせぇ。」
なんで態々俺がこんな所まで来なきゃいけないんだ……。しかも二年生に転入とかダルい。
「家は、確か湊のおっちゃんの所の隣を買ったんだっけ。」
いや、よく買えたな。将来のためっつっても。
「……今度はちゃんとバンド組みたいな。」
地元に居た頃は中学校の文化祭で組んだり、ライブハウスで組んだりしたがすぐに俺はバンドから追い出された。
前の事もあるから上手いとは思う。けど、上手くて追い出されるなんて聞いてないって……勘弁してくれよ。
「ふわぁぁあぁ……帰ったら寝よ。」
疲れた。
「今日からこのクラスに転入してきた墓前だ。ほれ、自己紹介。」
「墓前音也です。ヨロシクお願いしまーす。」
「席は……氷川の横だ。ほら、あそこだ。」
「はいはいー。」
うん、窓際で中々良い席じゃあないか。学校も綺麗だし、変わってるって言うなら共学になって少ししか経ってないから男が少ないって所か。
「よろしくね、氷川さん。」
「はい、よろしくお願いします。」
さてと、寝るか。質問されたくねぇし。
「ちょっと、どうして寝ているんですか。まだ先生が話しいますよ?」
肩を揺らされる。
「こんなのテキトーな話ですよ。ダルいし、良いでしょう。」
「よくありません。」
あー……委員長タイプかーめんどくさ。
「あー、はいはい、分かりましたよ。」
「はい、は一度で。」
「……はい。」
ため息が出る。ツイてないな。
ちなみに先生の話はどうでも良かった。
今日は帰ってベースの練習したら寝よう。
「墓前ー。墓前ー。誰か墓前の事聞いてないかー、って昨日転校してきたばっかりだしな。」
墓前さんが居ない。どうしたんでしょうか。慣れない環境に戸惑って疲れたとかですかね。
「後で連絡入れとくか。さて、一時間目始めるぞー。」
一時間目には来ませんでした。やっぱり体調を崩したのでしょうか?
「ちわー……。」
……寝惚け顔でどうどうと来るとは思いませんでした。間違いなく寝坊ですね。
「墓前さん、どうして遅刻したんですか?」
「墓前さん、どうして遅刻したんですか?」
んげっ、厄介なのに捕まった。
ベースの練習してたら遅くなって一時間目をサボった。転校二日目にこれはやばい。
「あー、環境が変わると難しいじゃないですか。それっすよ、それ。」
「……それなら、まあ。でも、気を付けてください。」
「はいー。」
ふぅ、なんとかなったか。
するとチャイムが鳴った。如何にしてバレずに寝るかが重要だな。
「授業始めるぞー、号令ー。」
「つっても、新学期早々だからな。まずは教科書ちゃんと持ってきたかー?」
横目で隣を見る。流石に寝てはいないでしょう。
「……?」
前髪で見にくいけど、目を瞑ってるわね……。
昨日あれだけ注意したのに。
耳を摘んで引っ張る。
「いでででででっ!?なになに!?」
墓前さんがガタッと立ち上がると、教室の皆さんが目を向ける。
「どうした、墓前。」
「あ、あはは〜、ちょっと指挟んじゃいました〜。」
「そうか、静かになー。」
「はい、すいませーん。」
座るとこちらを睨んで来ました。そちらが寝てたのがいけないのでしょう。
「あの女……。」
あれから寝ようとする度に耳を引っ張られる。本当に面倒だ……。
「まあ、これからライブハウスで練習だし、そんなの考えたってしょーもないな。」
昨日予約しといた……えっと、確かCiRCLEだったっけ。
「いやー、嬉しいなぁ。ここに来る子って女の子が多いからさ。男の子も増やしたかったんだよ〜。」
「はぁ……そうなんですか。」
「あ、ごめんね。引き止めちゃって。」
「いえ、大丈夫です。」
テンション高かったな。まあ、ある程度仲良く出来れば良いだろ。
「へぇ、改めて見ると、結構良い設備なんだな。」
ここなら充分練習出来るな。よし、早速やるか。
ベースにアンプを繋ぐ。よし、やるか。
「うん、良い感じ。」
一時間くらい経って外に飲み物を買いに行く。
「じゃあ、あっちねー。頑張ってね。」
複数人の女の子がこっちに向かって来る。
どうにも、今はガールズバンドが流行っているらしい。多分向かって来ている子達もそうだろう。
「あれ、氷川さん?」
「はい……?」
「以外っすね、こんな所に居るなんて。」
「なーに、紗夜。知り合い?それとも彼氏とか?」
「いえ……その、会った事ありましたか?」
あれー?あんなに耳引っ張られたのになぁ……。
「あっ、髪上げてるんだった。」
俺はベースを弾く時はオールバックにしている。だって邪魔だし。
「ん、髪下ろしたら分かる?」
「あ、墓前さん……。」
「そそ、んじゃあ、俺はここらで失礼。」
単純に同じクラスで意外だったから呼び止めただけだし。
「次は何の曲……いや、スラップするかな。
おっ、ここの自販機ドクペとMAXコーヒーあるじゃん。」
ドクペを買って部屋に戻る。さてと、後一時間、気合い入れてやるか。
「ふぃ〜……気持ち良かったー!」
やっぱりベースは最高だな。
ん〜……飯はどうしよう。面倒だから今日は外で……たまにはハンバーガーが晩飯でも良いか。
一番サイズのでかいハンバーガーのセットを頼んで受け取ったら近い空席に座る。うん、ポテトのサクサクがいい。
「あっ……。」
声が聞こえて向くと氷川さんが居た。それに制服は違うけど氷川さんによく似た女の子が居た。
「さっきぶり、奇遇っすね。」
「えぇ……そうですね。」
何かこういう所で会うとちょっと気まずい。ツイてないかも。
「おねーちゃん、この人誰ー?」
「昨日転校して来た墓前さんよ。」
「へ〜、あ、あたしは氷川日菜!おねーちゃんの双子の妹だよ。よろしくね〜。」
?何かこの子の見て来る目がちょっと怖いな。まあ、いいや。
「どーも、墓前音也です。ヨロシク。」
まあ、こんなもんだろ。食べる事に集中しよう。
「墓前さんは、何の楽器をするんですか?」
ポテトを食べようとすると、氷川さんに聞かれる。自分から話し掛けるように見えないけど、違ったかな。
「ベースですよー。そっちは何弾いてんすか?」
「私はギターを。」
「あたしもギターだよ!」
おお、妹さんはぐいぐい来るな。
「氷川さんがギターって意外っすね。勝手ですけどキーボードとかイメージしてました。」
うん、割と似合うんじゃない?
「まあ、ギターよりもベースの方がかっこいいですけど。」
サクッとポテトを食べる。ん〜、揚げたてはツイてる。
「……ギターの方がかっこいいです。」
「……はぁ?」
氷川さんめ……
「ベースの方がかっこいいに決まってんだろ?他の楽器を引っ張り上げてコントロールしてんだ、ベースがかっこいい。」
「ギターが王道のかっこよさです。体の芯まで届く音で観客の皆さんを魅了する事が出来るので、ギターの方がかっこいいです。」
「何ィ!?」
「何ですか!?」
ぐぐぐっと顔を突き合わせる。何故分からないんだ!
「「ふんっ!!」」
「……息ピッタリだね〜、本当は仲良いの?」
「「良くない!!なっ!?ぐぬぬぬ……。」」
「じゃーな!」
俺は一気にハンバーガーセットを食べると外へ出る。これ以上するのは不毛だ。
「それにしても……あんな会話をするのは久し振りだなぁ……。」
前の時はバンドメンバーとよくこっちのがかっこいい。いや、こっちだって言い合ってたもんなぁ。懐かしい。
「って違う違う。たまたま氷川さんが絡んで来ただけだ。」
あー、くそ、調子狂うな。
今日はさっさと寝よ!
あ、湊さんの所にも挨拶しとかないと、忘れてた。
思い付いちゃったんだからしょうがないです、はい。