「〜♪」
今日も今日とて昼休みにベースを弾く、お客さんはいつもの二人。
まあ、曲を弾いてるんじゃなくて良い感じに繋がるルートを弾いてるだけなんだけどな。
こういうのも耳触りが良くて良い。
「墓前くん、紅茶飲む?」
白鷺さんな言われて手を止める。
「あ、どうも。でも、コップとか無いですよ?」
流石に気が引ける。
「大丈夫よ、紙コップ持って来てるから。」
「準備が良いですね。」
「彩ちゃんがたまに欲しいって言うから持ってるのよ。」
「丸山さん……。」
「ああぁぁぁ!!千聖ちゃんなんで言うのー!?」
「あら、このくらいはまだ序の口よ?」
他にもあるんだな……。
「はい。彩ちゃんも飲む?」
「うぅ〜……飲む!」
あ、結構美味しい。
ほっと一息つく、穏やかな昼休みだ。
「ところで墓前くんはいつまで敬語なのかしら?」
「あ、そうだよね!もう結構話してるのに。」
「そう言われても……。」
基本的には誰にでも敬語だし……分けるの面倒だし。
「試しに私に普通に話してみて!」
「えぇ……。」
急にそんな事言われても話題も何も無いのに。
「……よ、よう、丸山。良い天気、だな。」
「うんうん、それで良いと思うよ!」
「そう、か?」
「じゃあ、私と千聖ちゃんは名前で呼んでみよっか!」
「えっ、なんで?」
「だって、友達でしょ?いつもここで話してるし。」
そう言われるのは嬉しいけど……。
「千聖ちゃんも良いよね?」
「ええ、もちろん。」
そうだ。
「俺だけ呼ぶのは不公平だし、二人も俺の名前を呼んでくれたら呼ぶ事にする。」
「分かったよ!音也くん!」
「ええ、良いわよ。音也くん。」
あれ……?
「あら、どうしたのかしら?」
白鷺さんが微笑みながら俺を見る。
「え、いや……。」
「じゃあ、音也くんも名前で呼んでね!」
「あの、でも……。」
「音也くん?」
「え、なんですか、白鷺さっ……!?」
「良いわね?呼びなさい。」
「は、はいぃ……。あ、彩、千聖……。」
「ええ、一度で出来て偉いわね。」
何故か俺の頭を撫でながら千聖がいつもと違う種類の笑顔を浮かべる……ちょっと怖い。
「何かしら?」
「な、なんでもない!?」
名前で呼び始めたからか、前より二人と仲良くなれた気がする。勘違いだったら恥ずかしいな。
「墓前さん。今日はロゼリアの方に来てくれますか?」
教室に戻ると紗夜さんに呼ばれる。あれから名前で呼ばれない事を少し残念に思いながら言葉を返す。
「大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。」
これって、一緒に帰れるって事だよな?
机に座って誰にも見えないように拳を握った。
「知ってた。」
「墓前さん?」
「あ、いや、なんでも。」
放課後になって校門に向かうとロゼリアが全員揃っていた。
え、学校離れてるのになんでもう居るの?
肩を落とすして大きく息を吐く。
「あははー、ごめんね。」
今井さんが湊さん家に向かう最中に謝って来る。
「……なんで謝ってるんですか?」
「え?紗夜と二人きりで帰りたかったんじゃなかったの?」
そう言われてボッと顔が熱くなる。
「べ、別にそんな事……。」
「わっかりやすいなぁ。」
俺もそう思う。
「はいこれクッキー、アタシが焼いたんだ。味はロゼリアの保証付きだよ。これで機嫌直してねー。」
「……ドーモ。」
早速袋を開けて一つ齧る。あ、美味い。
夢中でサクサクと食べ始めた。
「あ……無くなったか。」
ちょっぴり残念に思いながら前を向くとロゼリアのみんなが俺を見ていた。あれ、もう着いてたの?
「そんなにクッキー気に入ってくれたんだね〜!はい、あーん!」
今井さんがクッキーを差し出してきたからそれを食べる。美味い。
「餌付けしてるまたいでハマるかも……。
紗夜もやってみなよ!」
「え、ええ、ですが……。」
「ほらほら、みんなも!」
何故かこの日はミーティングのはずが、俺への餌付け会みたいになった。今日は晩飯はいらないな。
……頼んだらまたくれるかな?
今日はロゼリアのライブがあるらしい。前のミーティングではその話の予定だったが流れたためにスマホで連絡を取っていたらしい。
しかし、おかしいな。もう前のグループは終わったのに、トリのロゼリアが出て来ない。
マナーモードにしていたスマホが振動した。
どうやら、来るのにもう少し時間がかかってしまうらしい。ここの店長にも話はしたそうだが時間を潰すのは難しいらしい。
ベースは持ってきてるし……やってみるか。
そう決めると、ぐいっと前髪を上げた。
「え、でも、本当に大丈夫!?」
「まあ、ベースとボーカル以外打ち込みの音ってのに目を瞑ればそれなりに聞こえますよ。
頑張って盛り上げます。」
「だ、大丈夫かなぁ……。」
「まあ、小舟に乗ったくらいの気持ちで期待しといてください。」
さっきの店長、まりなさんというらしいが、不安そうにしていた。まあ、頑張って三十分は持たせてみせますよ。
ステージに上がると客席からざわめきが聞こえる。
「こんにちは!ただの一般ベーシストです!
ロゼリアが遅れるみたいなんで、繋ぎで俺が演奏します!ベースとボーカル以外はPCからの打ち込みなんで申し訳ないですけど、良かったら聴いてください!
『コーヒーブレイク』」
この曲はみんなでちょっと一息つこうぜーって感じでコーヒー飲んでたら出来た落ち着いた曲だ。お客さんはちっと落ち着いてくれ、疲れるからな。
曲が終わると拍手が鳴るが、まだ終わりじゃない。こっからまた盛り上げる。
「それじゃあ次、『俺ら舐めんな』」
今度はさっきと打って変わって激しい曲。
作った理由?ライブしてたら煽られたから作った。以上。
ただ、盛り上げるのには最高に良い曲だ。
叩き付けるような感情を吐き出した歌詞。だけどこれがこれで気持ちが良い。まあ、人を選ぶ曲なのは間違いない。
「ふぃー……聴いてくれてありがとなー!」
盛り上がって何よりだ……脱がなくて良かった。
本当なら、全楽器生演奏でやりたかったけど、ダメだな。
「音也さん!すみません……。」
ステージから降りるとロゼリアがやって来た。
焦って来たからか、紗夜さんが俺を名前で呼ぶ。これだけでちょっぴり嬉しくなってしまう。
「いえ、俺も楽しかったですし、大丈夫ですよ。」
ひらひらと手を振る。
「俺も客席に戻るんで、良い演奏を聴かせてください。」
「大丈夫大丈夫、分かってるよ〜。」
「ええ、遅れは、私たちロゼリアの演奏で取り戻すわ。」
「あの……頑張ります……!」
「あこ達のかっこいい所見ててね!」
うん、これなら上等。変に緊張もしてないし。
すると、紗夜さんが振り返った。どうしたんだろう?
「音也さん、行って来ます。見ていてください。」
こういう時だけ、柔らかい笑顔と声でそんな事言わないでくれ。直視出来なくなってしまう。
「い、いってらっしゃい……。」
はぁー……あーもー、あー!!
「早く客席行こ……。」
『ありがとうございました。』
拍手が鳴り響く中、やっと俺の意識は帰って来た。
も、もう終わり!?
時計を見れば四十分は既に過ぎていた。
やばい、紗夜さんを見ていたらいつの間にか終わってたとか感想聞かれた時どうしよう……。
「あ、連絡入ってる。」
紗夜さんから、感想ついでに夕飯の誘いだった。……どうしよう。
よし!今日はちょっと用事があるって返して、これで良し。悪い気がするけど、良い感じの感想を考えておこう。本当に悪いけど。
「さてと……今日は暇だし、どっかで時間潰すかな。」
「へぇ……暇なんですね。」
「まあね。家に帰ってベースの練習でも良いけど、弦とか見に行きた……い…………?」
うん?今の誰だ?今日は一人で来てたはずなんだけど……。
「こっちを向いてください。」
「あ、はははー……。」
振り向くと不機嫌な顔で口をへの字に曲げた紗夜さんがいた。あれ、まだ衣装着替えて無いんだ。
「あー、お疲れ様です……。」
「はい、お疲れ様です。ところで、先程は用事があると聞いていましたが、暇なんですね?」
「あ、いや、それは……。」
「暇、なんですね?」
「……はい。」
「では、行きますよ。」
手を引っ張られる。意外と力強いんだ。
「あの、どこに……?」
「楽屋です。どうせ、みんなで行くのだから当然です。」
ん、まあ、そっか。紗夜さんが着替えてないだけで、みんなは着替え終わったのかな?
「みなさんが着替えてるので、ここで待っていてください。」
「あっはい。」
まあ、そうだよな。……ちょっぴり残念。
手持ち無沙汰だけど、やる事もない。着替えるだけだからベースもそこまで弾けないだろうし。
「あ、墓前くん?」
声をかけられた方を向くとまりなさんがいた。
「ああ、どうも。」
「今日は助かったよー、ありがとう。
ところで、ここってロゼリアの楽屋だけど……。」
「知り合いなんで、感想を聞かせてほしいって捕まっちゃいまして。」
「そっかそっか。じゃあね、良かったらまたライブでもやって欲しいな。」
「ええ、機会があれば。」
ッシャア!とりあえず認めてもらえたって事かな。
「お待たせしました。……墓前さん、良い事でもありました?」
「まあ、ちょっと。」
「?とりあえず、行きましょうか。」
店は決めてあるのかと思ったらファミレスに行くらしい。
ハンバーグにしようかな。
「それで、音也。」
「ん、なんですか?」
注文を終えると今井さんが話しかけて来た。なんだろう。
「今日のアタシのベース、どうだった?」
あっ…………。
「そ、その前にちょっと、飲み物取ってくる。」
やっべ、何も考えてなかった。どうしよう、誤魔化すか?いや、誤魔化せるか?
「それじゃあ、感想を聞かせてくれるかしら。」
湊さんから話を振られる。ぶっちゃけギターは覚えている。視線も向けてたし。
「あー……ギターは凄く良かったです、ミスタッチもありませんでしたし、走ってもいませんでした。」
うおおおおお!!記憶をかき集めろ!!頑張れ脳の脳みそ!
「あっ……!後、ドラムも良かったですよ。安定してましたし。」
「今、『あっ』て言いましたよね?」
「ま、まあ、とにかく、今日の演奏は良かったです。本当に。」
これは本当、だと思う。だって、じゃないと一番見ていたギターにも違和感があるはずだから。
「歌はどうだったの?」
「……。」
歌、これだ、ここが一番答えにくい。ぼんやりとしか覚えてないってのもあるけど、前世から俺の歌い方はネットとかで見たり独学でやってるだけだから、そこまで大したものでもない、なんて伝えれば良いんだろう……。
「もちろん良かったです。……けど、俺もそこまで歌は上手い方でもないんで、具体的には言えません。」
本当に申し訳ないと思う。まあ、なんとかなって良かった。
「……そう。ありがとう。」
「いえ。」
「とろけるチーズハンバーグステーキのお客様ー。」
「あ、俺です。」
「鉄板熱くなっていますのでお気を付けて。
ハンバーグステーキのお客様ー。」
「はい。」
「こちらも熱くなっていますのでー。
山盛りポテトフライを注文のお客様ー。」
「「はい。」」
「お好みでケチャップを付けてお召し上がりください。他の商品はもう少々お待ちください。それでは。」
「……チーズ。」
「?紗夜さんもこっちの方が良かったんですか?」
「いえ……ただ、日菜とハンバーグにチーズがいるか、いらないかで少し言い合いになった事を思い出しました。」
なるほど、そういう事ね。
「ね、紗夜。ポテト貰っても良い?」
「あ!あこも食べたーい!」
「ええ、どうぞ。」
「良かったら俺のも食べて良いですよ。」
「やったね♪」
「やった!ありがとー!」
んー、ハンバーグが美味い。
デザートにチョコレートサンデーでも頼もうかな。
「あっ、墓前さん、動かないでください。」
?どうしたんだろう。
そう思っていると口元をティッシュで拭かれた。あれ、俺ってそんなに食べ方汚かったかな……。
「口の端にソースが付いてました。」
「あ、そのくらいか。ありがとうございます。」
あー、良かった。
ハンバーグ美味いなぁ。
「そういえば、そろそろ文化祭ですね。」
「そうですね……人がたくさん、緊張します……。」
文化祭かー……折角だし何かしたいな。
「それって、ステージとかありますよね?」
「えぇ、それはもちろん。もう少しで出演者の募集もすると思いますよ。」
「外部の人も出て大丈夫ですか?」
「それは……生徒会に聞かないといけませんが、例年通りならば大丈夫のはずですよ。」
なるほど、父さんにライン送っとこ。
『父さん、文化祭で湊さんも誘ってライブでない?』
するとすぐに返事が返ってきた。
『文化祭か、面白そうだし、休みでも取ってやるか。』
よし、全力で楽しむぞ。
デザートはコンビニスイーツだな。
「んじゃ、俺はここらで、帰ってやりたい事あるんで送れないですが、気を付けて。」
「はいはーい、今日はほんとにありがとねー!」
「バイバーイ!」
よっしゃ、新曲作るか!
ちょっと迷走気味。