書き方がいつもと違います。会話主体です。そのうえかなり長いです。
ルイズ達がハルケギニアに存在するかわからない数学的な単位や用語を語る場面がありますが、似たような言葉に自動翻訳されたと思うことでご容赦を。
文中のクリエイトゴーレムのスペルは創作です。原作から見つけられなかったので勝手に作りました。謎の著者名なども妄想です。
読まなくても作中で設定を使用する場合は説明が入る予定です。が、一応こういうことになっている的なものです。
「では今日のお昼は主に土系統についての教導研究です。本日から学院長秘書のロングビルさんもこの時間同行することになりました。彼女も土系統メインとのことでしたので、今後の実験にも協力してもらうことになっています」
「ミス・ロングビルも土系統だったのですか? もしよければ僕がこれまでのおさらいを先にお教えしましょう」
「大丈夫ですわ、ミスタ・グラモン。お話だけですが、事前にミスタ・トールに習っていましたので」
「へえ、足せる系統の数はどれくらいなのかしら?」
「トライアングルですわ」
「あはははは、ギーシュ、ラインになったばかりのあなたじゃ、なにも教えることはなさそうよ」
「おお、トライアングルですか、これは失礼いたしました。ではミス・ロングビル、よろしければ土の先達として、僕の土の至らないところを見つけたら教えていただけないでしょうか。そして共に切磋琢磨し、さらなる高みを目指しましょう」
「ええ、喜んで」
「なんかギーシュがギーシュじゃないみたい……」
「そうね……最近のギーシュはつまらないわ。ルイズも大人しくなっちゃったし。「ちょっとそれってどういう意味よ」からかい甲斐のある相手が――あら?」
「……」
「今日はあたしの手を握っていて「ねえっ」くれるのね、「まあまあ」タバサ」
「……」
「あ、でもトールの手も離さないわけだ。ふふ、でもなんだかこうしていると、あたしとトールの子供みたいねって痛いわタバサ! 悪かったから蹴らないで!」
「おほんっ。では始めさせていただきます」
「はい」「よろしくお願いします」「杖を離しているからって油断したわ。最近ルイズに似てきたんじゃない? タバサ」「……」「だからそれってどういう意味よっ!」「落ち着けってルイズ。キュルケの思うつぼだぞ」「うぅぅう」
「……はぁ。今度こそ始めますよ。ではまずギーシュさん、手の平ほどの大きさの青銅のゴーレムを一体作っていただけますか?」
「では小さなワルキューレを……イル・イサ・アース・デル! っと、こんな感じでいいかい?」
「ええ。ではこのゴーレムを……兄さん、斬りつけて下さい」
「おう」
「ってせっかく僕が作ったワルキューレをどうして壊しちゃうんだい?!」
「まあ見てて下さい」
「ああ、ぼくの小さなワルキューレがただの土くれに……」
「では次にロングビルさん、同じぐらいの大きさの土くれゴーレムを作って下さい」
「はい。イル・イサ・アース・デル。どうでしょうか?」
「ありがとうございます。ではこちらも、兄さん」
「とりゃ」
「あら? ミスのゴーレムは斬ったのに直ってくわ」
「私のゴーレムは土ですので」
「? どういうこと? 土だと壊れないの?」
「はい。正確には土で作った土のゴーレムだから、簡単に自動修復した、ですね」
「当然じゃないか。土のゴーレムなのだから」
「わかるように言って下さらない、ギーシュ」
「さすがにギーシュさんとロングビルさんはご存知のようですが、細かく説明しますね。まず『クリエイトゴーレム』という魔法はどのような魔法であるのか……はいルイズさん」
「え、あ、く、『クリエイトゴーレム』とは土系統のドットスペル、その代表格の一つで、上位になっても土に傾倒する者が戦闘で最も多く使う魔法。人足を簡単に増やすことができ、開拓、土木、建設、などの分野で非常に重宝される。術者の力量次第でゴーレムを構成させる金属の種類及び硬度を自由に変更でき、一般的であるとされる人大の大きさから術者の力量次第で最大五十メイルほどまで大きくすることが出来る。戦闘においては主に集団戦や防衛戦でその効果を発揮するが、逸話『アルテイルの都落ち』で語られる通り、超大型のゴーレムは単騎で攻城戦でも多大な戦力となる。その他にもゴーレムには種類があり、その場で作る即席型、事前に作っておき条件を満たすまでその場に留まる待機型などがある」
「はい、それぐらいで結構です。ありがとうございます。一般的な教科書に載っている内容ですと、今ルイズさんに語っていただいたものとなると思います。ですが最も重要な部分、『クリエイトゴーレム』とは一体どんな構造の魔法なのか? なぜ土や岩などから作るのか? なぜ土くれのゴーレムは再生したのか? という理屈的な性格面は教科書に載ってません。載っている書物もあるようですが、基本的にはこれらは土系統主体のメイジでもなければ価値のない情報でしょう。後は経験則で知るしかないでしょうね。
今回はこの『クリエイトゴーレム』の子細と、ゴーレムの弱点克服。及び新規利用法考察などをしようと思います。
まずはギーシュさん。『クリエイトゴーレム』には幾つの魔法が使われているか、わかりますか?」
「何を言っているんだいトール、『クリエイトゴーレム』は『クリエイトゴーレム』だろう? 一つしかないじゃないか」
「安心したわ。やっぱりギーシュはバカね。トールがこういう言い方をしたら、一個じゃないってことじゃない」
「そうは言ってもだねキュルケ、『クリエイトゴーレム』は――」
「不毛なのでストップです。
ギーシュさんの答えで正解です。『クリエイトゴーレム』は『クリエイトゴーレム』という一つの魔法です。ですが、同時にこれは間違いでもあります。『クリエイトゴーレム』を一回使ったときに生じる魔法作用は、少なくても二種類以上あるのです」
「それは二種類の魔法を併用していることでしょうか?」
「はい」
「うん? どういうことなのかさっぱりわからないわ。一つって言ったり、二つって言ったり、はっきりして下さらない、トール」
「えっとですね、『クリエイトゴーレム』を使用した際、まず最初に起こる変化が人形を作るということです」
「ははぁ、そういうことか透。てことは次は動かす、か?」
「正解です兄さん。つまり『クリエイトゴーレム』は人の形を作り、それを動かし行動する、という少なくとも二種類の魔法作用を行っているのです」
「それは一つではないのかね?」
「いえ、これは二つです。僕も最初はこれらの作用を一つの魔法として行っているものと思っていました。ですがよく考えてみて下さい。ギーシュさんは『クリエイトゴーレム』を行った際、イメージするものはなんですか?」
「それは、ぼくの場合はワルキューレの姿を……あ!」
「わかったようですね」
「ああ、つまりゴーレムを作るとは、『練金』だということかい?」
「完璧です。そして残りのゴーレムを動かすは、『練金』と『念力』の複合だと考えています」
「どういうことよ、火のあたしにもわかるように説明なさいな」
「わたしにもわからないわ、トール」
「『クリエイトゴーレム』はイル・イサ・アース・デル……『練金』はイル・アース・デル。確かに『クリエイトゴーレム』のスペルの中に『練金』が含まれていますね。なるほどこれは……」
「…………ヘンリー・ブルフム・ラ・カッツネス著『練金学と金箔将軍の人形』」
「ふふ、タバサは知っていたようですね。おそらく各国のアカデミーではこのあたりは常識でしょう。
土くれのゴーレムでは分かりづらいですが、ギーシュさんは青銅のゴーレムを土から作ります。つまり」
「土くれを青銅に『練金』している?」
「です。『練金』は石ころなどを金属に変質させることばかりに目が行きがちですが、実際には物質の形を変えたりするのにも使われます。このことから少なくともゴーレムの造形は『練金』でまったく同じように作成可能である、とわかります。そして『クリエイトゴーレム』の初期段階、人形作成は『練金』と同じ作用で生じる、といえることになるのです。
ちょっと以前の授業をおさらいしますね。
一番最初の授業、土系統で『練金』を実験したとき、『練金』で作られた青銅は火で熱すると、融解どころか変形を始める前にぼろぼろに崩れ、土に戻りました。バラバラに斬った場合も同じでした。
ただ小さな水晶片を当時のギーシュさんの全力で一つの水晶に結合させた際、それを二つに割っても割ったことによる破損しか起こらず、何度割っても元の水晶片にはなりませんでした。
ですが今度はそれで別な形のバラバラになった水晶を残りの精神力で『練金』でくっつけて二つに割ると、すぐにくっつける前のバラバラな水晶になりました。
それから何回も『練金』の実験を繰り返し出した結論は、『練金』とは段階的に物質を擬態化させる魔法であり、込める精神力の多寡で物質としての安定度が変わる。最終的には完全に土から青銅などへ変質させることも可能であるが、同質の物質外から、つまりまったく別の物質からなにかを作り出そうとすると、その分だけ多くの精神力が必要となり、同じ物質、つまり砂から石にするなどは比較的簡単に行える。ということで考察の一時的な結論としました。
ところでギーシュさん、ロングビルさん、話がちょっと変わりますが、建物の強度を上げたり、剣などの刃こぼれを防ぐ為にかけられている魔法はなんですか?」
「「『固定化』かね(ですか)?」」
「『固定化』をかけるとどうなりますか?」
「いや、だから今トールが言ったとおり固くなるんじゃないか」
「では水へ『固定化』をかけるとどうなりますか?」
「ええっと……凍る、のかね? ぼくは試したことがないな」
「わたしもありません」
「……(コクリ)」
「わからなければ試してみましょう。タバサが『コンデンセイション』で作ったこの杖先に浮く水球に、二人で念入りに『固定化』をかけてみて下さい」
「わかった」「はい」
「(話の流れがあったのはわかるけど、何も言わずにタバサが行動するだなんて、事前に打ち合わせでもしていたのかしら?)」「(さっきタバサは何に対して頷いたんだ? 透は何も言ってなかったよな?)」「(視線すら合わせてなかったわよ。テレパシー?)」
「「『固定化』かけました」」
「はい。まあ見た目の段階でわかりますが、凍ってはいませんね。そして杖先から落としてみても――やっぱりただの水です。水球の形は弾けて、地面に染みこんでしまいました」
「水には『固定化』は効果がない?」
「いえ、実際にはちゃんと効果がありますが、この効果についてはまた別の機会にしましょう。今回重要なのは、固くならなかったということです」
「水だから当然のように思うのだけど……」
「そうです。水だから、流体だから当然固まったりはしません。ですが石や金属に『固定化』をかけると明らかに硬度が上がります。そしてこの足元に出来た泥を使って……」
「どうしたの? 土団子なんて作って」
「触ってみて下さい。まだあまり固くありません。指を押し込めばご覧の通り突き刺さります」
「確かに」
「ではこれに『固定化』をかけてみて下さい」
「……固くなったわ」
「はい。これで分かったとおり、『固定化』とは現在の形状を維持する魔法であるといえます。もっと具体的な作用の仕方はひとまず置いておいて、つまるところ形を維持する魔法、ということですね。水は形がないもの、という意識があるため、『固定化』の効果の一端である形の維持にはなりませんでした。同様に空気に『固定化』をかけても意味がありません。
ではこの団子にもっと念入りに『固定化』をかけてもらってもいいですか」
「はい」
「さらに固くなったこの団子をこちらの石ころにぶつけます」
「土団子も石も欠けてしまったわ」
「ですね。あの柔らかかった土団子が、石と同じくらいまで固くなったということです。さっきの段階でも分かっていたことですが、『固定化』は形の維持の中に強度の上昇効果も含まれているとみていいでしょう。
ところで、砂が石になる。泥団子が石のように固くなる。この二つって似ていると思いませんか?」
「…………『練金』」
「そうです」
「……まさか、『練金』の中に『固定化』が含まれている?」
「はい。僕はそう考えています。『クリエイトゴーレム』に『練金』が含まれているように、『練金』の中には『固定化』が含まれている。
別の見方をすると、『練金』は『固定化』ともう一つ別種の魔法、おそらくは物質としての性質変化と形状変化を司る魔法を一つか二つ以上併用している。そして変化して生まれた物質を、『固定化』で維持している。ということになるわけです。
ここまでは理解出来ましたか?」
「……なんとなくは」「ちょっと他に疑問はあるけど、とりあえずわかったと思うわ」「タバサ、これも載っている本あった?」「……(コクリ)」「じゃあアカデミーとかでも分かっていることなのね」
「ではさらに視点を変えてみましょう。
『練金』は変化後の状態を『固定化』で維持している。つまり土から青銅にした際、青銅は『固定化』で形状や物質の性質を維持している、ということです。
これには反証もあります。
最初にギーシュさんのミニワルキューレを斬った際、青銅製から土くれに戻りました。つまり『固定化』が解けて、変化を維持できなくなり、『練金』の効果が完全に失われて、土くれに戻ったわけです。
そして以前試した小さいな水晶片を水晶の塊にする実験では、念入りに『練金』して出来た水晶塊は、バラバラにしても当初の状態には戻りませんでした。ですがその次にバラバラにした物を疲れ果てたギーシュさんが『練金』して纏めた後砕くと、一発で元のバラバラになってしまいました。
これらのことをその後の実験から得た考察に照らし合わせると、
前者は『練金』の形状変化と『固定化』の状態維持効果が完全に水晶に行き渡り、水晶片ではなく水晶塊の状態こそが最も安定した状態となったからでしょう。
後者はそれが行き渡らず、纏まった形状が安定していなかった為に『固定化』が簡単に崩れ、バラバラの水晶に戻ってしまったからとなります」
「ちょっといいか?」
「はい兄さん」
「気になったんだが、今聞いた話だとさっきの土団子は『固定化』をかけ続けると石になるのか?」
「なりません」
「石を砕いて作った細かな砂で同じような団子作って、乾燥させて水分を飛ばしてから『固定化』をかけ続けてもダメか?」
「試していないので正確なことは言えませんが、おそらくはダメだと思います。そこいらの石以上の固さの土団子は確実に出来上がりますけどね。
それにあまり知られていませんが、路傍の石も水分を含んでいます。実はこれが意外と多いんです。もちろん含有量に差はありますけど。なので水分を飛ばしてもそれ自体に大きな意味はないと言えるでしょう。
そしてなにより『固定化』単体で得られる効果はあくまで状態の強制的維持であり、物体同士の結合や性質の変化ではないでしょうから」
「なるほど」
「『練金』の中の『固定化』以外の部分がその石になる変化を司っているからね?」
「その通りですルイズさん。
『練金』の結合や変化の部分、定義上の魔法名を『変化』としましょう。これが作用していないので、『固定化』だけでは『練金』のように複数の物を一つの物に出来ないのです。水も小さな粒の塊ですので、だから『固定化』では固まらなかったわけです。そして見方を変えれば、『練金』であれば水を完全な石にすることも出来るということですね」
「ん~。ねぇトール」
「なんですかキュルケさん」
「水晶は砕けたままになったのよね? 『クリエイトゴーレム』には『練金』が含まれている。『練金』の中には『固定化』が含まれている。石を砕いて作った砂を固めて『固定化』をかけても石には戻らない。なら、なんでミス・ロングビルの土のゴーレムは直ったのかしら? 『クリエイトゴーレム』に含まれている他の魔法ってこと? でもそうなるとギーシュのワルキューレが壊れたのは?」
「いいところに気が付きましたキュルケさん。それが今回の本題です」
「……前置きが長いわ」
「すみません。今日からロングビルさんも加わったことですし、少し順を追って行かせていただきました」
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ。では本題に入りましょう。
どなたか先ほどのキュルケさんの疑問に答えられる人はいますか? ――はいタバサ」
「……『練金』……『変化』が解けていないから」
「ちょっと説明が足りませんが、正解です」
「おお、ってどういうことだ? まだ俺には理解出来ないんだが」「今のも本で読んだの?」「……(ふるふる)」「違うの? すごいじゃないタバサ!」「(わたしもわかったけど、新参者があんまり出しゃばるわけにもいかないしね。……次ぐらいか)」「(手を上げたのに当ててもらえなかったんだが……。まあ、『練金』が解けていないから、と答えるつもりだったから、タバサの答えで足りないとなるとぼくは間違いにされていたかもしれないね)」
「進めますね。まずはもう一度お二人に同じ条件のゴーレムを作っていただきましょう」
「「はい」」
「ではこの二体、何が違いますか?」
「土か青銅か?」
「そうですね。そして――兄さん」
「とりゃ」
「ぼくのワルキューレぇ」「わたしのは直りました」
「先に説明したとおり『クリエイトゴーレム』には『練金』が含まれています。そしてギーシュさんはその『練金』部分で土を青銅の人型にしています。そしてロングビルさんの『練金』は人型にしているだけです。
もう一度ミニワルキューレをお願いしてもいいですか、ギーシュさん。次は壊しませんので」
「……ああ……これでどうだい?」
「ありがとうございます。ではルイズさん、これをお人形だと思っていじって下さい。ギーシュさんはワルキューレを動かさなくていいです」
「わたしもうお人形遊びをする歳でもないのだけど……」
「女性型を兄さんに弄らせるのは少々絵図ら的に問題があったので……」
「「「……(たしかに)」」」「俺もそれは勘弁してほしいな」「……(作ったぼくの立場はどうなのだい?)」
「……それにしても、重いし、これ腕上がらないわよ。これじゃお洋服を変えることができないわ」
「(変えたかったんだ……)さてここで問題です。全身青銅製では、関節が固くて曲がるわけがありません。中までみっちり青銅ですから。でもギーシュさんのワルキューレに代表される金属製ゴーレム達は、稼働時は関節だって当然動きます。なぜでしょうか?」
「……もしかして、『練金』の『変化』だけで人型にしているのか?」
「兄さん正解です。実は『クリエイトゴーレム』には『固定化』がちゃんとかかっていないのです。そしてゴーレムを使う人達は『練金』内の『変化』でゴーレムの体積移動を行い、そこに『念力』も含めることで、あたかも柔らかい金属であるかのように動かしていたわけです」
「ちょっと待って、本題前にトール、『練金』は『変化』で物体の形状や性質の変化をさせて、『固定化』で維持させている。みたいなこと言わなかった? 『固定化』がちゃんとかかっていなかったら、すぐにゴーレムは崩れちゃうじゃない」
「崩さなければいいのですよ、ルイズさん。
まず前提となる『練金』の工程を纏めると、次のようになります。
第一段階、『変化』によって形状、性質の変化。
第二段階、『固定化』による現在の状態の維持。
大半はここで終わりで、『固定化』が解けると維持力がなくなり『変化』も解ける、いわゆる擬態状態となります。
ですがさらにここに『練金』を念入りにかけ続け、細かな性質が安定するほど小さく、細かく、丁寧に『変化』を加えていくと、擬態は擬態ではなく、本物となります。つまり青銅であれば斬ったり焼いたりしても土に戻らない、『固定化』が解けても青銅のままの、本物の青銅になる、ということです。
それでも『練金』商品の質が悪いと言われるのは、この本物状態になっても性質が安定しただけで、前段階の土などがどうしても残ってしまうためです。
細かい話は分子や原子、電子などの話になるので『練金』のもっと詳しい話のときにしましょう。
とりあえず、これが『練金』と呼ばれている魔法です。
そして今話したとおり、擬態状態に『変化』を重ねに重ねることで『練金』は本物を作り出します。
つまり『変化』は重ね掛けや内容の変更が可能な魔法ということであり、ゴーレムが立っていられるのは、崩れる前に『変化』でその形にし続ければ崩れないからということです。ついでに動かさない部分は『固定化』で固めておけばいいわけですね」
「あー、なるほど」
「そして青銅製などの金属製ゴーレムは、土製と違って青銅の維持のために大量の精神力を使いますわ。そのため一度修復量を超える傷を負うと、『練金』製品でも多く見られるとおり『固定化』が解け、『変化』に費やす精神力が最初に込めた分を越え、足りなくなるために瓦解してしまいます。
対して土製ですと『変化』は人型への変化のみに使われ、性質変化等に余分に精神力を取られないため、『変化』の体積移動効果で直る余裕が残ります。バラバラの土を維持するのに『固定化』の力をほとんど借りられないため、少々難易度は上がってしまいますけれどね。
そういうことですわね?」
「完璧です、ロングビルさん。このあたりはさすがにご存知でした?」
「いえ、体感としてはわかっていましたが、ここまで理論立てて考えたことはありませんでした。今までの話と経験則が当たったようですね(――あ、しまった)」
「「……(年の功)」」「さすがトライアングル。ぼくではここまでわかりませんでした」「そういうことかぁ。ロングビルさん頭良いんだな」「……(お腹空いた)」
「え、ええ。ありがとうございます(ピンクと赤いの絶対考えてる……)」
「だがそうなると、金属製ゴーレムは燃費悪くてダメだってことになるんじゃないか?」
「いえ。ロングビルさん、ゴーレムをお願いします」
「はい」
「ではワルキューレと土のゴーレムとで殴り合って下さい」
「……あ、土あっさり負けた」
「当然です。普通の土では金属製と殴り合って勝てるわけがありません。まあある程度再生はしますが、幾らやっても傷をつけられないのでは勝ち目などないのは道理です。……もちろん例外はありますが。
ロングビルさん。勝っちゃって下さい」
「はい」
「あ! ぼくのワルキューレぇ」
「どうして土のゴーレムのパンチで青銅がひしゃげたの?」
「もしかして今一瞬ミス・ロングビルのゴーレム、手の部分が金属にならなかったかしら?」
「はい。当たる直前に鉄に『練金』したんです」
「なるほどそれで。……それにしても、青銅は一撃で撃沈か」
「ゴーレム戦の上等技術ですね。攻撃でも防御でも応用可能な技術です。ギーシュさんにも以前教えて練習しておくように言ってあったのですが、油断していましたね?」
「面目ない。細かく動かす練習はしっかりやっていたのだが」
「指先や微調整はだいぶ向上してますからそこは認めますけど、攻撃はこれを応用したあればかり練習していてもダメですよ。『練金』速度とかも実戦では重要な要素です」
「あれって?」
「そういえばルイズさんはちゃんと見てませんでしたか。あのときは『爆発』の練習ばかりさせてましたしね。
ギーシュさん一回やって見せて下さい。小さなゴーレムだと勝手が変わってしまって失敗の可能性があるので、いつもの大きさで。くれぐれも慎重にお願いしますね。的はロングビルさん、ワルキューレと同じサイズの鉄製ゴーレムを。あと暴発の可能性があるので厚めの壁もお願いします」
「わかった」「はい」
「ルイズこっちだ。ゴーレム達の後ろに立ってると危ない」
「う、うん。わかったわ。……でも、前もちょっとだけ見たけどなにあれ? ギーシュのゴーレムが腕を突き出しているけど、あの距離じゃミス・ロングビルのゴーレムには手が当たらないわ。それになんだか腕の形が変になっているような……あ、なんか十字に突き出てきた。あれって……」
「クロスボウだ」
「板バネと弦を『固定化』と『練金』でかなり強化してあるので、人間には引くことすら不可能なほど強力な代物です。矢を番えるのではなく最初からセットした状態で『練金』で作ることで、重量と太さのある矢もある程度連続して撃てるようになっています。
ああやって体の一部分だけ『練金』で形状を変化させて武器にするのって、あんまりないらしいですね」
「……3・2・1・撃てぇ!」
「――わっ?! え? え? 鉄のゴーレムの当たったところが砕けた? で、でもギーシュのゴーレムは青銅だから、矢も……」
「表面だけ『固定化』でかなり強化してありますが、もちろん青銅です。部分『練金』はしていません。それと貫通ではなく砕いたのは、矢の先端部分、鏃の部分の形状と重さに細工をしたからです。鉄塊相手だからこその威力なんですよ。もちろん貫通力を重視した鏃の形状もあります。
他には……ロングビルさん。あれやれますか?」
「もちろんです」
「あ、今度は最初から鉄のゴーレムなのね」
「ギーシュさん、ワルキューレを壊されたくなかったら防御させて下さいね」
「青銅で鉄をどうやって防げと言うのだね?!」
「部分的に盾を作って、鉄に『練金』して防げばいいじゃないですか。後は気合いです」
「また腕が変形していく……でもあれだと板バネが後ろすぎないかしら? 肘の後ろから矢が出てしまっているし、それにあれじゃ矢じゃなくて……」
「あれでいいんだ」
「いきます」
「わわ! お、お待ちを!」
「……鉄製なのにギーシュのワルキューレ並みに足が速いわ。ミス・ロングビルってゴーレム動かすの上手なのね」
「今のギーシュはあれより早く走れるようになったけどな」
「そうなの? ……でもクロスボウならなにも接近しなくても――え?!
パンチしたら……盾ごと貫いちゃったわ。でも鉄のゴーレムも……」
「パイルバンカーという武器です。
これはロングビルさんじゃないと使えません。ギーシュさんも出来ますが、少々弱いんですよね。ですがロングビルさんだと板バネを鋼で作れる上にレベルの高い『固定化』がかけられ、引っ張り強さや曲げモーメントが――」
「つまるところが男の浪漫というヤツだ。
実はあれスクウェアクラスが『固定化』かけた石壁も抉るからな」
「大きすぎると質量と精神力の問題で、今はまだ無理ですけどね」
「今はって……土のスクウェアの人なら……」
「最高クラスの攻城兵器になるでしょう。城壁に無傷で接近できればですが」
「でもクロスボウはともかく、パイルバンカーというのはダメそうね。だって使った後があれじゃあね」
「まああくまで浪漫ですから」
「女の子にはわからないか。ギーシュはすぐに理解してくれたのに」
「ロングビルさんも詳しく話したら顔顰めてましたし……やっぱり受け悪いかぁ。
衝撃強すぎて、一回で腕がもげちゃうしなぁ」
「そこが一番の問題よ」
「金属『練金』したゴーレムですから、一回の打ち込みで腕が壊れると連鎖的に体の『練金』も解けてしまいます。クロスボウ同様引きの加減も難しいですし、部分『練金』と通常以上の『固定化』で精神力も多く消費しますから、実用性が低いんですよね(これで宝物庫に入ろうとしていたわたしが言えた事じゃないかもしれないけどね)」
「(くいくい)……本題」
「ああ、すみません。話が横道に反れていましたね。とはいっても今のも関係のある話でしたが……。
と、その前に。ギーシュさんとロングビルさん。わかっていると思いますが、クロスボウなどは致死性の武器です。気軽に人には向けないで下さいね。暴発の危険もありますし。
ギーシュさんは経験がありますが、直進力が高く簡単に風の壁を突き抜けますから。
逆に風や水の壁だと微妙に狙いが逸れてしまい、牽制のつもりが直撃、とかなりかねません」
「わかっているとも(前の決闘騒ぎで、危うくミスタ・ロレーヌを殺してしまうところだったからね)」「はい(ここら辺があるから甘ちゃんなんだよ、この子は)」
「戦争中でも一撃で殺してしまうと捕虜にした貴族で賠償金取れなくなるので、自重ですよ。これらはあくまで対群、対城壁兵器です。的が大きいオーク鬼とかにも有効ですね」
「「「「……」」」」「……(前言撤回させてもうらうよ……)」
「まあ今のもあって金属に『練金』したゴーレムの長所と短所が大体わかったと思います。
長所はその強度。
短所は維持コスト。
そこで今回はこの長所を伸ばし、短所を改善する方法を考えてきました」
「そんな方法があるのかい?」
「簡単ですよ」
「…………最初から本物の金属を使えばいい」
「あ!」
「そういうことです」
「……たったそれだけのためにここまで長い前置き……?」「でも前置き無いと重要度がわからなかったわ」「聞くとすげー簡単なことに思えるけど、土の二人の反応が悪いな」
「いや、だってだね……」
「そうですわね……」
「実は土系統では定石ではあるんですよ、最初から金属を使ったゴーレム。ただ問題があるんですよね?」
「はい。大きな問題が二つあるんです。
一つ目は原価です。『練金』製ではない純度の高い金属塊は、どんな種類でも高額です。人間大のゴーレムを一体作るのにかかる量を算出し、ミスタ・グラモンやわたしが人間大作れるゴーレム数分揃えるとなると、とてもではありませんが手が出せません。
二つ目は重量です。ゴーレムにしていないときは金属塊はただの重りです。一体分でも人が一人で持てる物ではありません。ゴーレム状態で移動させるという手もありますが、精神力の問題もありますので常時とはいきません。そんなことをしていたらいざ戦いとなったとき、精神力切れで戦えたものではありませんから」
「ああ、この二つの問題があるからその場にある土や岩から作られる即席型ゴーレムが主流なんだ」
「じゃあどうするの? まさかトールがそれの解決案を考えていないわけないわよね?」
「もちろんですとも。
では問題です。ちょっとまた話は戻りますが、『クリエイトゴーレム』の際、なぜ僕は『練金』ともう一つ、『念力』の魔法が含まれていると言ったのでしょう?」
「それはゴーレム動かすために――……あれ? 動かすだけなら『変化』の効果だけで出来ちゃうじゃない?」
「いいところ補助にしかならないな。なくても問題なさそうだ」
「ですが実際はないと動かせなくなります」
「降参よ。どうしてかしら?」
「……キュルケさん、少しでも考えないと憶えませんよ? ギーシュさん達もわかりませんか?」
「ぼくにはわからないな」「……わからないですね」
「タバサは?」
「…………重さ?」
「さすがタバサ。
単純且つ大雑把にいきますね。全身青銅製であるギーシュさんのワルキューレ。『練金』による擬態青銅とはいえ一体で重量は軽く千二百リーブル(六百キログラム前後)を超えます。
よしんば立つのには問題がないとして、こんな代物があの足で地に沈まず走ることが出来ると思いますか?」
「『念力』で重量を誤魔化しているのか?」
「はい。全身の重量を念力で均等に上や進行方向へ吊っている状態だと思います」
「それなら『レビテーション』の可能性もあったんじゃないの?」
「『レビテーション』は風系統よ」
「あれ? そうだったかしら?」
「風の初級も初級なので気にしている方も少ないのでしょうね。メイジの方からすると日常魔法の一種ですし。
なんにせよ『レビテーション』ではないことはほぼ確実なんです。土の初期から出来る『クリエイトゴーレム』に、土に偏っていると苦手な方が多い風が初期とはいえ含まれているとは考え難いですから(本当は風の精霊が集っていないのを知っているからだけど)」
「でも『念力』がどうかしたの? 金属塊の持ち運びなら『レビテーション』の方が出力高い分使いやすいはずでしょう?」
「『念力』を使わなければいけない最大の理由は先ほどタバサが言った通り、重量があるからです。
ですがもしそれを別の方法で軽減できたら?
もしくは使用する金属の量を元から少なく出来たら?
ゴーレムの大きさはそのままに、使用する金属の量を少なくしてさらに丈夫にすることが出来たら?
重量が少なくなった分、早く動くことも出来るようになったら?」
「そんなムチャクチャな……さすがに東方の賢者トールの言うことでも、そんな事が出来るわけ……」
「バカねギーシュ。出来るからトールは言っているんでしょう?」
「その通りですよギーシュさん。出来るんです。
何事もやらなきゃ出来ません。諦めは発展の最大の敵です。
すみませーん! 例の大釜持って来て下さい!」
「お、お待ちを~」「お、重ぃい」「ひっひっふー」
「ちょっと兄さんとギーシュさん、ぼさっと突っ立ってないで彼女達(メイドさん)を手伝って来て下さい」
「ああ――ちょっとそこで待っててくれ、今行く!」
「お嬢さん方、今向かいます!」
「……トールは動かないのね」
「力仕事は苦手です」
「男は頼りがいがあった方がもてるわよ? 指示してばかりでは頼られないって、貴方ルイズに教えてたじゃない」
「その役目は兄さんですから」
「よくわからないわ」「トールのことわかっているのなんて、サイトとタバサくらいじゃない?」「……(ふるふる)」「タバサにもわからないの?」「ミスタ・トールは媚びたくないお年頃ですか?」「否定はしません」「受け流すトールもだけど……ミス・ロングビルも中々言うわね(というか、ミス・ロングビルはトールのこと結構わかってる?)」
「えっさほっさ」
「あ、そこで結構です」
「あいよ。んじゃここで、おっちらせっと」
「サイトさん、ミスタ・グラモン、ありがとうございました」「「ありがとうございました」」
「いいって気にするな」「うむ」
「三人もありがとうございます(兄さんを後ほど賄い場へ向かわせます。好きにして下さい)」
「「「いえいえ(ありがとうございます!)」」」
「では続けましょう。
この大釜は料理場で使われていた物で、鉄製の立派な物ですが古くなって傷んできたとのことでもらってきました(正確には買い取ってきただけど、ルイズさんの前でお金使っているところを教えない方がいいでしょう)。もちろん擬態ではなく、本物の鉄です。そのため『練金』で修繕すればまだまだ十分使えるものです。
今回はこれを使って、ロングビルさんにちょっと特殊なゴーレムを作っていただきたいのです」
「どのようなゴーレムですか?」
「とりあえずこちらへ。えっとですね……で、……の中に…………してもらって…………の構造はこの紙に…………」
「これは……難しそうですね」
「無理ですか?」
「いえ、大丈夫です。やってみます。ですが構造が複雑なので、少々お時間をいただきますわ」
「はい。お願いします。
それでギーシュさんにはさっきも作ってもらったクロスボウのゴーレムをもう一度お願いします。矢も同じ形状で」
「わかった」
「何が始まるの?」
「最強の巨大ゴーレムへ続く偉大なる一歩です」
「浪漫か」
「ええ、浪漫です。ですがまだ問題は山積みです」
「まずギーシュにはスクウェアになってもらわないとな」
「ロングビルさんにもなってもらいましょう」
「ギーシュの一家は土系統が得意らしい」
「ゴーレム技術も相当なものらしいですね」
「最低でもあと三人以上集めて……だよな?」
「そうですね。人型以外のゴーレムを作れるように練習もさせなければいけません。人外ゴーレムの歴史も調べておかなくては」
「個人的にライオンとドラゴンは絶対だと思うんだ」
「近々候補を挙げておきましょう。武器は……ミスタ・コルベールにも話を通しておかねばなりません」
「楽しくなってきたな」
「ええ」
「「ふふふふふ」」
「……男のことまだわかっているつもりだったけれど、ヒラガ兄弟はさっぱりわからないわ」
「同感ね。この二人たまに不気味なのよ。簡単にスクウェアとか言ってのけるし」
「…………」
「どうしたの? タバサ」
「…………やると言ったら、トオルはやる」
「……うー、サイトもやるわね……」
「……犠牲になりそうなギーシュ達がなんだか可哀想になってきたわ」
「――ミスタ・トール! 準備できました! 確認お願いします」
「ありがとうございます。
……うん。良さそうですね。さすがですロングビルさん」
「なんだか甲冑騎士みたいなゴーレムね。ワルキューレみたいに細い部分がないわ」
「そういう注文でしたので。
ミスタ・トール。内骨格というのも言われた通りに出来ていると思います。本物の鉄は外骨格という部分優先でよかったのですよね?」
「ええ。
ギーシュさんの方はどうですか?」
「とっくに準備完了さ」
「では実験を開始しましょう。みなさん離れて下さいね。
ではお二方お願いします」
「では……3・2・1・撃てぇ!」
「……矢、普通に刺さったわよ?」
「成功です」
「…………!」
「だから――あれ? 刺さったのにゴーレムが動いて……」
「……自分で矢を抜いて、直っちゃったわ……」
「なるほど。表面の甲冑部分を本物の鉄で作ることで『練金』の維持費をコストダウンさせ、土くれのゴーレムと同じように再生させたわけだな。だがそうなると中がスカスカな分全体は確実に脆くなるはずなんだが……」
「…………砕けなかった」
「さっきは鉄のゴーレムが砕けたものね」
「貫通もしなかったわね。鏃部分が少し刺さっただけみたいだったわ」
「ぼ、ぼくは加減していないよ? ちゃんとさっきと同じ矢を使った」
「わかってるわよ。それでトール、どういう仕組みなの?」
「ロングビルさん、外骨格の兜部分を取ってもらってもいいですか?」
「はい」
「……空っぽじゃない」
「では上に集めて下さい」
「え? ……なにあれ? 何かが頭の形になっていく……」
「泥か」
「ええ、『練金』中の『変化』による泥です。甲冑の中に泥のゴーレムが入っていると思って下さい。内容量的には大体内部の六割ほどが泥ですね。残りは手足や胴を支えるため『固定化』を強くかけた『練金』鉄製内骨格と空気です。泥には硬度が変わるように砂利や粒の細かい粘土なども混じっています。土と水の複合ゴーレムですよ」
「でも泥が入っているだけじゃ固くはならないわ。なんであれしか傷を負わなかったの?」
「そこが元々考え方の違いです。
逆に固いだけでは簡単に壊れてしまうのですよ」
「どういうこと?」
「ギーシュさん、手の平大でいいので青銅の塊を作って下さい」
「ああ」
「タバサは同じ大きさの水球を」
「……(コクリ)」
「兄さん、この二つを斬って下さい」
「うし」
「……塊は壊れて土に戻ったわね。水はまた水球に戻ったけど」
「実は『コンセンディション』にも『念力』か『変化』に相当する魔法がかかっているからですね。杖先で水球の形を取るのはそのためです。これは土製ゴーレムと同じ原理で術者が魔法を解かない限り自動修復します。
ギーシュさんもう一度塊を」
「わかった」
「兄さんはこの二つをそれぞれ殴って下さい」
「水はいいが、塊は骨折れるぞ?」
「ナックルガード付けていいですから」
「おし。じゃあ、セイッ! ハッ!」
「……青銅の塊が凹むんじゃなくて砕けた。サイトも大概ね……」
「……僕も本当に砕くとは思っていませんでした。いいところ凹ませて『固定化』が解けるだけだと……」
「おい!」
「でも水球は壊れません」
「そんなの当たり前じゃない。水なんだから――あ!」
「無視かよっ」
「そういうことね」
「……でも……」
「疑問の通り実際はこんなに単純なことではないのですが、大まかには今の例が参考になると思います。
水などの流動体にとって、斬撃も打撃も衝撃も大して差はありません。それは泥も同じです。
体全部を本物の鉄塊で作ったゴーレムも『変化』の効果で鉄を流動体のように動かせるため近いと言えますが、硬度が高すぎて動かすのに精神力を多く消費します。そのうえこれも硬度のせいで逆に衝撃力に弱く、特殊な攻撃を受けると砕けてしまうことがあります。その分余計にダメージを負ってしまうわけですね。
ですが表面だけを本物の鉄で作った外骨格――甲冑で覆い、内部への衝撃力を泥で吸収発散させれば表面の甲冑も砕けないのです。そうなると壊れる箇所は少なくて済むうえ、突き刺さっても実際のダメージは少なくなるわけです。中はどうせ泥ですから。
使う鉄や『固定化』の度合いはこれから要研究となりますが、総合的な強度は全身鉄製を超えて、修復能力も土製ゴーレムと同じぐらいは確保できると思います」
「それが本当ならすごいじゃないか!」
「確かにすごいわね」
「もしかして、全部本物の鉄塊で作ったゴーレムよりもこっちの方が安いし強いの?」
「ええ。使い手の操作技量に因りますが」
「差が出るの?」
「かなり大きく出るはずです。
なにせ体重の比率が均等ではないので、今までのゴーレムと勝手が違くなり操作が難しくなります。内部の泥もちゃんと制御しないと流動体のため動きに釣られてしまいますし、泥の密度が低いところで殴ったりしても全身金属ゴーレムより威力はかなり低くなります。空洞になっている箇所で攻撃を受けたら普通よりもかなり脆いです。泥の代わりに砂や土でもいいのですが、泥の方が効率がいいので水も使えるライン以上でないと維持が難しいという問題も在ります。
操作に慣れが必要で、上級者向けということですね。
代わりに体重は確実に軽くなり、内部の泥による体積移動をうまく使いこなせば全ての動作が速くなるでしょう。『念力』に頼る部分が少なくなる分を『変化』に回すことになると思うので、その部分にはそれほど精神力に空きは出来ませんが、維持コストも総合では土製より少なくなるはずです。
現在の最重要課題としては内骨格の最適構造の究明と、軽くなったとはいえそれでもさっきの大釜で重量が二百リーブルほどあるということですね。泥はどこでも調達できますが、やはり一体分でも二百リーブルを超えるとなると、持ち運ぶわけにはいきません。つまりこのままではとっさに使えないということです。あとは大型のゴーレムに応用するために必要な構造も考えなくてはいけません」
「だがこれは軍事拠点用で考えると非常に有用な物だ! さすがはトールだ! すごいじゃないか!」
「ギーシュったらさっきそんなの信じられないみたいなこと言っていたのに、調子がいいわね」
「いえ、本当にすごいですわ。ミスタ・トールは説明の中に含めていませんでしたが、中の構造ですか? なんだか蜂の巣のような構造を足の中とか各所に入れろと言われたのです。どうやらそれがあるのとないのとだと、随分強度に差が出るみたいですね。色々工夫をされているようですわ」
「ふうん。まあ、トールがすごいのは今に始まったことじゃないわね」
「そうね。もう何が何だかわからないわ」
「簡単に言うと、泥のゴーレムに鉄の鎧着せたら強くなるんだよ」
「すっごいざっくりね」
「透のはそこに至るまでの説明と理由だからな。操作方法だけでもゴーレムは動かせるだろうけど、それを知っているかいないかで、実際に動かすときにかなり差が出るだろうしな。
それに、知らないと気持ち悪いだろ?」
「……まあ、その気持ちはなんとなくわかるかしら」
「あたしにはわからないわ」
「…………よくわかる」
「「……(もしかしてトール、タバサのために説明しているのかしら?)」」
「とりあえず、すでにギーシュさんには似たようなことを始めてもらっていますが、土系統のお二人には今後、この新型ゴーレムを動かすための訓練をしていただくようになります」
「あのゴーレムの指先とか細かく動かすための訓練かい?」
「はい。あれを今度からは中身が空洞で泥が入ったゴーレムに変更して下さい」
「わかった」「わかりました」
「では今日はここまでです。お疲れ様でした」
「「「「「「お疲れ様でした」」」」」」」