柊蓮司を小さくしてネギま!世界に送り込んでみた   作:れじ

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ミドル7  「おとうと」と「ともだち」

 

 エヴァンジェリンが風邪から復活した翌日、柊と千雨は魔王を捜して今日も当てもなく探索していた。

「これは今日も収穫無し、かもな」

 ピグマリオンを操作しながら千雨が独りごちる。画面上には探索したエリアの示された麻帆良の地図が映っている。

「学園都市っていうだけあって広いんだな、ホント」

 柊がそう言って溜息を吐く。さすがにこれだけの間まったく情報がないというのは柊もやる気をそがれていた。話し方もどんどんやる気のないものになっていく。

「そういやさー、エヴァンジェリンが昨日の夜、調子に乗ってMPポーション飲んでさー、うっかりファンブルして昼間回復した分の魔力を全ロストしてふて寝してた」

「……それで今日は学校来てたけど不機嫌そうだったんだな」

「なんでも、今夜、その魔力不足の原因を排除するために別行動するとか言ってたな」

「魔力不足の原因ねえ。案外、ウィザードの言う世界結界だっけ? ああいったもので力が制限されてるとかだったりしてな」

「おいおい、それじゃあまるでエヴァンジェリンが魔王みたいじゃねーか」

「そうだよな、悪い悪い。あんなぽんこつな魔王はいねーよな」

「…………」

「いや、そこは否定しねーのかよ」

 そんな感じのくだらない話をしながら二人が歩いていると、千雨にとっては見慣れた、柊にとっては数日前に見た人影が見えた。

「あれ、長谷川さん? なんで柊くんといっしょに?」

 その人影は千雨のクラスメイトの神楽坂明日菜だった。さすがにもう誤解は解けているようで、タカミチの隠し子という話にはならなかった。

「あー、その、親戚で……」

「そうそう」

 ぎこちなく言う二人。だが明日菜は特に疑うことなく信じたらしい。

「へー、そうだったんだ。確かに、言われると似てるかも。なんかこう、ツッコミで苦労しそうな感じの見た目が」

「どういう見た目だよそれは!?」

「いいんちょと同じようなこと言いやがって……」

「――あ、そういえば」

 その言葉に思い出したのか明日菜が言う。

「いいんちょにあれから変なコトされたりしてない!?」

「ああ……」

 思い当たる節のある二人は遠い目をした。本人達は気づいていないが、その二人の姿は確かに明日菜の言う通り似ていた。

「や、やっぱり何かされたの!?」

 絶対に何かあったという具合のわかりやすい二人の様子を見て、明日菜が慌てたように言う。その明日菜の姿に、千雨も慌てて否定する。

「あー、いや、家に招待されたくらいだよな、蓮司」

「ああ。それくらいだよな」

 そう言い合う二人だが、だがその内容も明日菜にとってはまだ安心できない内容だったらしい。

「ま、まさか柊くん一人で!?」

 身を乗り出してまで言う明日菜の姿にちょっと引きながら千雨が答える。

「いや、私も一緒」

 その言葉を聞いてようやく明日菜は一安心といった様子で胸をなで下ろした。

「そっか、ならまだ安心できるわね」

 明日菜のそんな様子に柊は大げさだなあと思った。さすがに柊もあやかがネギを前にして鼻血を出したことがあるとまでは思わないだろう。

「そんなに心配しなくても……単に弟を紹介したいっていうだけの話だったぜ」

 明日菜に余計な心配をさせまいとそう言った柊だったが――

「……おとうと?」

 柊の言葉に明日菜の動きが止まる。その様子を見た千雨が首をかしげる。

「ん? どうかしたか、神楽坂」

「――――そんなはずない」

 明日菜がか細い声で言う。

「何?」

「――いいんちょに弟なんて、いない」

「え?」

 どさり、と何かの落ちる音がした。三人がその音のした方を見ると、そこには今話していた本人、雪広あやかが立っていた。足下には落としたらしい紙袋が転がっている。

「な、何を言っているのですか……!? 私に弟がいない……?」

「いいんちょ――」

 明日菜があやかに声を掛けようとするが、あやかの言葉に中断させられる。

「なんてことを言うのです! 冗談にしても程というものがあります!」

 あやかが明日菜を睨みつけるが、明日菜も負けじと強い視線であやかを見つめ、強い口調で言い返した。

「冗談でこんなこと言うわけないじゃない! 

 ――春休み、私たちがネギといいんちょの家に行った日はなんの日だったのかおぼえてるの!?」

「ネギ先生がいらした日? もちろん覚えているに決まっています、私の弟の誕生日を祝いに来て下さったのですわ」

 すらすらとあやかが言う。しかし、明日菜はそれに真っ向から反論する。

「じゃあ、なんでネギがそれを知っていたの?」

「それは……アスナさんがネギ先生に……」

 あやかがたじろぐ。たたみかけるように明日菜は言う。

「私はいいんちょの弟なんて知らないって言ってるのに?」

「それは……そ、れは――」

 明日菜の言葉にあやかが一歩後ずさる。顔色が目に見えて悪くなっている。

「思い出した?」

 その明日菜の問いかけにあやかは首を左右に何度も振り、否定する。

「ち、違……違いますっ、私の弟は、ちゃんと実家に――!」

 そう言って踵を返し、駆け出すあやか。

「ちょっ、待ちなさい、いいんちょ!」

 明日菜もそれを追って駆け出す。二人を見ていた柊と千雨は顔を見合わせる。

「――蓮司、これってもしかして」

「ああ……魔王が関わっているな、間違いなく」

 そうして二人は頷きあう。

「追うぞ!」

「ああ!」

 あやかと明日菜の二人を追い、柊と千雨も駆けだした。

 

 

 

 走り去ったあやかを追って走る明日菜が彼女に追いついたのは、彼女が自分の実家の前にたどり着いた時だった。すでに日も暮れ、宵闇があたりを包む。ふいに消えていく電灯を見て、そういえば今日は大停電の日だったと思い至る。夜空には妖しく光る真っ赤な月が見える。

「いいんちょ、聞いて!」

 背を向けて立つあやかに向けて明日菜が叫ぶ。

「――本当は」

 明日菜の声が聞こえていないかのようにあやかが呟く。

「本当は、どこかで気づいていたのかもしれません……私の弟は、いないと」

「いいんちょ……」

 その時、屋敷の門が開いた。そこから一人の少年が現れる。

「そんなこと言わないで、お姉ちゃん。ボクはここにいるよ」

「あ――」

 あやかの肩が震える。頭を振って思いなおしたように言う。

「そう、そうですわよね、私の勘違い、ですわ。私の弟はちゃんと――」

「だったら! だったら、その子の名前はなに!? 私はそんな子知らない!」

 明日菜が叫ぶ。そして手をあやかへ向けて伸ばした。

「戻ってきてよ、いいんちょ! その子は――現実じゃないっ!」

 あやかはその言葉に迷ったように、『弟』と明日菜を交互に見る。

「お姉ちゃん、騙されないで。ほら――」

 そう言って『弟』があやかへと手を伸ばす。二人から伸ばされた手を交互に見て、ゆっくりと手を『弟』の方へと伸ばした。

 ――パン、と乾いた音が響く。あやかが『弟』の手を払いのけた音が。

「いいんちょ……」

「そう――気づいていたんですわ。私に弟はいないと。だからこそ、今の私があるんだと――」

 その言葉に笑みを浮かべる明日菜と、逆に顔を歪ませる『弟』。そこに空から声が響く。空から魔法の杖のような箒――ウィザーズ・ワンドに乗った千雨があやかと『弟』の間に降り立ち叫んだ。

「≪ヴォーテックス≫!」

その言葉と共に放たれた魔法が『弟』を吹き飛ばす。

「長谷川さん!?」

 しかし、魔法で吹き飛ばされても『弟』は何事もなかったかのように立っている。だが、そこへ追い打ちを掛けるように白銀の軌跡が降りる。真上から雷のように降り注ぐ魔剣の斬撃。あたりに土埃が舞い上がる。しかし、それが晴れる前に中から柊が転がるように吹き飛ばされてきた。土埃の晴れたむこうには柊の攻撃を受け止めた『弟』――いや、魔王が立っていた。

「――邪魔をするな、ウィザード」

 歪んだ表情の魔王の表情がさらに歪んでいく。もはや、人間の顔つきではない。体も肉がもりあがり――全身が魔物のような姿へと変わっていく。弟だと思っていた人物のあまりの変わりようにあやかが悲鳴をあげる。

「な、なにあれ……あれも魔法ってヤツ……?」

 明日菜がその光景に怯えたように言う。

「まあ、そんなところだ」

 立ち上がりながら柊が言う。柊を≪レイ・ライン≫で回復しながら千雨は言う。

「神楽坂、いいんちょを連れてここから離れろ」

「で、でも――」

「いいから!」

「わ、私だって、戦えるわ!」

 吸血鬼だというエヴァンジェリンにだって一撃をいれられたのだ、魔物相手にだって――! そう考えた明日菜が魔王へと向けて跳び蹴りを放つ。

「ええーい!」

 魔王はそれを回避しない。いや、する必要がない。

「嘘ッ――!?」

 まるでダメージがないかのように魔王はそこに立っている。実際に魔王にはまったくダメージが通っていないのだ。明日菜は知らないことだったが、彼女の持つ魔法無効化の力も異世界の魔王の持つ世界律には通じない。世界律は魔法とはまったく別のものなのだ。

 そして魔王は軽く明日菜を投げ飛ばした。

「きゃあっ!?」

「アスナさん!」

 投げ飛ばされた明日菜をあやかが受け止める。勢いのまま、二人はもつれあうように倒れ込む。

「いいんちょ!? 大丈夫!?」

 受け止めて、そのまま気を失ってしまったらしいあやかを前にして明日菜が叫ぶ。

「わかっただろ、あれと戦えるのは――そのための力がある私たちだけだ。だから二人とも、早くここを離れろ!」

 そう言って千雨は二人にも≪レイ・ライン≫を唱える。さすがにロリかショタじゃないと攻撃が通りません、とは言えない。

「で、でも――誰かを呼んで」

「俺たちじゃないと、今みたいに攻撃がきかないんだ。それに応援は来る、大丈夫だ」

 柊の言葉に少し迷う明日菜。

「いいんちょを任せられるのは今は神楽坂だけだ、頼む」

 その千雨の言葉に踏ん切りがついたのか、明日菜は頷き、気を失ったままのあやかを抱えた。

「……わかったわ」

 明日菜が走り出す。彼女の考える安全な場所――魔法使いであるネギもいるはずの寮へと。

 そこでオコジョに助けを求められ、ネギのために戦いに赴くのはまた別の話だ。

 

――それぞれの大停電の夜が始まろうとしていた。

 




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