長谷川千雨はこの麻帆良学園が好きではない。
いや、正確に言うのならば、麻帆良学園の理不尽なところが好きではない。
一般常識から見て明らかにどこかおかしいこの学園と、その異常を異常とも思わないこの学園の人々。自分の思考が一般的であるはずなのに、それが変だと思われる理不尽。いつかはこんな理不尽なこともなくなるのではないかと思っていたが、最近では十歳の先生が担任になるなどと明らかに悪化してきている。
――しかし、現在彼女がおかれている状況はそれよりも理不尽な状況だ。なにせ、今彼女の目の前にいるのは、現実に存在しないような
何故こんなことになったのか、千雨にはまったく見当がつかない。
今日は新学期だからと身体測定程度で授業も終わり、吸血鬼だの吸血生物チュパカブラだの騒いでいる教室を抜け出して、さっさと下校することにした。そして、帰り道に偶然この公園へと通りがった。なにか違和感らしきものを感じたが、気のせいだと思った。しかし足を進めると、いたのだ。その怪物達が。
――何故違和感を感じていたのかは、その時にわかった。
ひとつは、放課後の公園だというのに、他に人の姿がひとつも見えないこと。そしてもうひとつが、まだ日も高いというのに空に目映く存在する、太陽よりも目を引くほどの禍々しい赤の月だった。
「なんなんだよちくしょう……! なんでこんなやつが公園に!?」
毒づく千雨の台詞に返答するものはいない。目の前の怪物たちはそんな千雨の様子も気にせずにじわじわと接近してくる。一歩進むごとにカラカラと骨が音を立てる。骸骨兵士――RPGなどでで言うところのスケルトン。公園には不釣り合いな姿のその怪物たちは千雨の退路を断つようにまわりをじわじわと包囲していく。
「――ッ!」
逃げられなくなる前に、逃げなくてはいけない。そう思い至ると同時に、千雨は踵を返して駆けだした。引き返せば、公園の出口がある。公園に入って、まだそれほど歩いたわけでもない。外にさえ出てしまえばなんとかなる。確証があるわけでもないその思いだけで、歩いてきた道を走り抜ける。だが。
「……嘘、だろ」
出口がない。
本来、公園の出口の門があったはずの場所に見えるのは、公園の遊歩道。まるでループしているかのような状況に、千雨は目眩がした。そしてなによりも千雨を絶望させたのは、出口があったはずの方角から歩いてくる、新手の骸骨兵士の姿だった。再び踵を返し、逃げようと考えるが、振り返った道の先には千雨を追ってきたらしい骸骨兵士達が見える。
囲まれている。逃げられない。
「う……あ……」
思考がフリーズし、その場に立ちつくす。そして。
「なんだ……強いプラーナを感じたが、ババアか」
「おい」
骸骨兵士はひどく失礼なことをのたまった。
「ガッカリだよなー。せめて小学生くらいならまだマシだけどよォ」
「ですよねー。中学生とかマジババアなんですけどー」
「もうマジついてないっていうかー」
「おい。おいおい」
しかも妙に口調が軽い。先ほどまで感じていた生命の危機も一時忘れ、この失礼な魔物たちへの怒りがこみ上げてきた。なんだこのロリコン共は。そう思っている千雨の前で、骸骨たちが剣を構える。
「でもプラーナは必要だからな――」
その言葉で我に返った。そうだ、逃げないといけない。囲まれている周りの見渡し、どこかに突破口がないかと考える。完全に囲まれているこの状況、突破口は――
しかし、彼女が突破口を発見するよりも先に、一陣の風が千雨の側を吹きぬけていった。
きぃん、と響く金属音と、どすん、と何か衝突音。
千雨が音のした方角――風の吹き抜けていった方角を見やる。
そこに見えたのは、小さなクレーターと、倒れ伏す骸骨兵士。そして、身長よりも長い剣を持った少年だった。
――こうして、長谷川千雨は
そして――
月匣を感知し、タカミチを生け贄に明日菜とネギから逃走した柊は、人目がないことを確認してから、月衣から
タカミチや学園長の話が本当なら、この月匣の存在を知るのは、この世界では柊だけということになる。そうなれば、今、月匣の中で起きているなんらかの事態を止められるのも、柊だけだ。
「う、うわぁっ!?」
一体の侵魔が少女の眼前に立ち、剣を振りかぶっていた。慌てて駆け寄ろうとするが、間に合う距離ではない。まずい、と柊が思った時、それは起きた。
「く、来るんじゃねえっ! このロリコン共っ!」
追い詰められた少女の振り回したカバンが黄金色の光――プラーナの輝きをまとい、侵魔の頭部へとクリーンヒットした。がらがら崩れ落ち、魔石へと姿を変える侵魔。それを柊は目を丸くして見つめた。
――こうして、長谷川千雨は、彼と同じく