転生したらマーリンの弟子になった   作:黒猫街夜

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地獄で掴む蜘蛛の糸

パチパチと何かの弾けるような音を聞いて目が覚める。

目を開けると焚き火が目の前にありそのそばにフードを被った男が佇んでいた。

 

「……目が覚めたか?」

 

その声は掠れていて聞きとりずらかったが辛うじて男であることは分かった。

 

「あなたは?」

 

「名前などこの場所では無意味だ。この場においては全ての生物は餌に過ぎん」

 

「……一体ここはどういった場所なんでしょう?」

 

男が名前を名乗る気はないのが分かり質問を変えてみる。

 

「そんなことも知らずに来たのか? 呆れたな」

 

男は本当に呆れたかのようにため息をついた。

 

「ここはブリテン島の正当なる支配者、ラックの創造した異界に存在する脱出不可能の絶対迷宮。名前は怪物達の深淵永久監獄(ブリタニア・アビス)。ここでは弱者は死ぬしかない」

 

そう言う男の様子はとても疲れたように見える。

 

「……ここにはラック殿に連れてこられました。アーサー王に仕えるのに相応しいのか見定めるために」

 

「……覚えておけ、それは死刑勧告に近い。この迷宮には出口など存在しない。常に広がり続けその広さは確実にブリテン島よりも広く、そしてその全貌は迷宮の管理者であるラックですら把握していないらしい」

 

「……あなたはなぜここに?」

 

「ここは監獄だ。ブリテン島の害悪になる者達が強制的に収監された監獄の皮をかぶった処刑場だ。もう分かるだろう? 俺はこの地獄に堕とされた罪人だ」

 

そう言ってランスロットの方を男が向くとランスロットからは男の頬についている3本の獣の爪痕のようなものがくっきりと見えた。男にはそして何より左目がなく、そこには黒々とした孔があるのみだった。

 

「……あなたは一体何をしたんだ?」

 

「……今思えば愚かなことをしたものだ。この島を俺の物にしようと島の化身たるラックに戦いを挑んだ。そしてその思想をこの島の危険因子だとここに閉じ込められた」

 

男の顔には昔を懐かしむ老人のような哀愁がハッキリと見て取れる。

 

「……ラックについて詳しいことを知っているか?」

 

「湖の乙女の夫であるということだけは知っている」

 

「そうか、なら教えてやる」

 

そこで男から聞いた話はとてつもないものだった。アーサー王が子供の頃、突然現れマーリンの弟子となりまだ幼いアーサー王に剣術などを教えていたそうだ。そしてその正体は薄れていく神秘を取り戻そうとブリテン島が生み出した装置のようなもので人間どころか生物と呼べるのかも怪しいとの事だった。

 

「……そうだったのか」

 

「お前は一体何をしたんだ? この迷宮には基本的には罪人しか来ることはない」

 

「……いや、私は何もしていない。湖の乙女に聖剣を授かるように母に送り出されそこでラック殿と話したのだ。そして先程も言った通りアーサー王に仕えるのに相応しいのか見定めるためにここに送られた」

 

「……こりゃあ驚いた。あのラックが罪人以外を送り込んで来るとはな」

 

「そんなに前例のないことなのか?」

 

「ない。これだけはハッキリと言える。俺はここに閉じ込められて4年になるがお前のようなやつは初めて会った……ラックは何か言っていなかったか?」

 

「蛇の元までたどり着いたなら私を認めるとだけ」

 

「……もしや蛇の王か!」

 

「知っているのか?」

 

そう聞くと男は視線をさまよわせそして同情を残った右目に浮かべた。

 

「この迷宮において最強の存在だ。出会ったのならば蛇の気まぐれを祈れと言われる程だ。それに会いに行けとは……」

 

「それ程の存在なのか……」

 

「この迷宮にはいくつかのルールがある。このルールはこの迷宮の魔獣共が勝手に作った不文律のようなものだが魔獣と言葉を交わせる者が昔いてな、そいつ曰くここの魔獣達はそのルールだけは絶対に破らないそうだ」

 

「そのルールとは?」

 

ランスロットは藁にもすがる思いで男に質問する。当然だろう、自らの命がかかっているのだから。

その様子に憐れみの表情を浮かべて男は話し出す。

 

「一 徘徊者に見つかるな。二 鉄人形と戦うな。三 砂の部屋には近づくな。四 蛇の王に逆らうな。この4つだ」

 

ランスロットはその内の1つ鉄人形に覚えがあった。

それを表情で悟ったのか男は言った。

 

「その通り、お前が殺されかけたあいつこそが鉄人形だ」

 

「なぜ戦ってはいけないと?」

 

「やつらの習性と機能が異常に厄介だからだ。やつらは100体以上の数がいて常にその情報を共有している。そしてやつらはとある魔術師がマーリンとラックを殺すために作り出したゴーレムのようなものらしい。その2人を殺すために誰彼構わず殺戮を行い戦闘記録を共有し、自己強化を行っているらしい。つまりは戦えば戦うほど強くなりそして1度戦えば殺すまで何度も追いかけてくる。作った魔術師はラックが処理したらしいが……その結果鉄人形だけが残った。ラックはそれらを処理せずにこの迷宮へと連れてきたらしい」

 

「それは……なんとも言えないな」

 

「まぁな、だがラックに喧嘩を売ったやつの末路なんてそんなものばかりだぞ? この迷宮だって昔はラックを殺してやろうと息巻いているやつらばがりだったがそんなやつらはみんな死んだ」

 

男はそこで言葉を区切ると腰にぶら下げていた石筒を手に取ると何かを飲み出した。

 

「それは?」

 

「あぁこれか? この迷宮の壁を削って作ったまぁ水筒だな。この迷宮の壁は削ってもすぐに再生する。だから穴を掘って隠れるなんこともできない。ちなみに中身は水だ。お前も飲むか?」

 

「いただこう」

 

男は石筒をランスロットに投げ渡す。水が零れると思い慌てるが予想に反して水は一滴も零れることはなかった。

 

「俺も一応魔術師でな。その程度の芸当は朝飯前だ」

 

「なるほど……」

 

受け取った石筒から水を飲むと疲れが取れていくのが分かる。これも魔術の影響なのかそれとも自分が疲れていたからなのかはランスロットには分からなかったが久しぶりに落ち着けたことに思わず息を吐いた。

 

「でだ、残りの3つについてだが……徘徊者は恐らく妖精の成れの果てだろうな」

 

「なぜそう言える?」

 

「魔力の質だな。前に妖精を見たことがあるが魔力がよく似ていた。これは推測だが変質した妖精がこの島を滅ぼさないようにこの迷宮に閉じ込めたんだろう。まぁそれはいい、問題は徘徊者は鉄人形と同じで目につく生物を殺しまくることだ。理由なんて一切分からん」

 

「……勝てると思うか?」

 

「無理だ。やつは魔力を無尽蔵に吸収してしまう。近づけばたちまち無力化されるぞ」

 

「そうか……では砂の部屋とは?」

 

「あれは間違いなくラックが作ったものだな。これも徘徊者と同じで部屋に入った瞬間、魔力を奪われて殺される」

 

「なんのためにそんなことを……」

 

「恐らくだが神秘の回収だろう」

 

そう言えばラック殿は島の化身だったか。その理由ならば納得できる。

 

「最後に蛇の王だが……これはラックが作った最悪の魔獣らしい。膨大な魔力を溜め込みそれを放出するらしいが……」

 

「見たことはないと?」

 

「蛇の王自体は見たことはある。遠目だったがな、とてつもない大きさで迷宮の通路を破壊しながら移動していた。あれに気付かれたら間違いなく死んでいたな」

 

「なるほど……話は分かった。……しかしここは安全なのか?」

 

ランスロットは自分達がいるここだけは水に満ちていないことに気が付いていた。

まるで祭壇のように四角く盛り上がった地面の上に自分達はいたのだ。

 

「安心しろ、魔獣避けの結界を張ってある。そうそう魔獣が来ることはないさ」

 

その言葉を聞いてひとまず安心する。そしてランスロットは突然真面目な顔をして男に話しかけた。

 

「すまないが蛇の王に会う方法を知らないか」

 

「……話を聞いていたか?」

 

男がランスロットを見る目は自殺者を見る目だった。

 

「聞いていたとも、しかし私がこの迷宮を脱出する方法がそれしかないのだ」

 

「……ラックは割と適当な性格でな、約束を守るかは分からんぞ」

 

「それでもだ。私はアーサー王に仕える男だぞ? この程度乗り切れなくてどうする」

 

そう言うと男は心底呆れたようで、顔を覆い頭を振った。

 

「馬鹿かお前は、いや、確実に馬鹿だお前は! 自ら命を捨てるようなものだぞ!」

 

「それでもだ」

 

同じ言葉を繰り返す。それはランスロットの固い決意の表れでもあった。

 

「……ならば止めん、好きにしろ」

 

「あぁ……すまんな」

 

「ふん」

 

ランスロットが立ち上がりこの部屋を出ようとする。男はそれを止めずに見送った。

しかしその時、通路からノシノシと2匹の魔獣が現れた。

「……さっき魔獣避けの結界を張ってあると言っていなかったか?」

 

「……恐らくお前の血をたどって来たのだろうな。俺としたことが失敗だった」

 

そしてついに魔獣はその姿を表した。

虎の身体に人間の顔を貼り付け尻尾の代わりに百足を生やした魔獣と赤い鬼のような顔に痩せ細った犬のような身体を持つ魔獣の2体。

 

「まぁ仕方がない。お前の身体は治癒はしたがまだ完全では無い。あまり激しい動きはできないと思え」

 

「その程度なら全く問題ないとも。では一人一体を相手にしよう。私は虎の方を」

 

「ならば俺は『死体漁り(ジャッカル)』を相手にしよう」

 

「名前があるのか?」

 

「あぁ昔もっと仲間がいた時に名前を適当に付けた。ちなみにあの虎は『人面虎(フェイスタイガー)』だ」

 

2人は敵を前にして実に緊張感のないやり取りをしていた。それが2人の余裕を表していた。

 

ここに試練は再開した。

 

 

 

 




最後の魔獣は活動報告で募集したものです。
本当にありがとうございます!
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