「ふっ!」
『
「『
「ッ! 助かる!」
男のアドバイスを受けて攻撃にフェイントを織り交ぜて動きを誘導する。すると見事にフェイントに引っかかり空中に飛んだ。その隙を見逃さずに心臓を1突きすると『
それを剣から下ろして男の方を見ると男も既に魔獣を殺していた。
「やるじゃないか。まさかここまでできるとは思ってもいなかったぞ」
「そちらこそ。終わったら援護に入ろうかと思っていたが……謝罪しよう。その考えすら不敬だったようだ」
「気にするな。俺はこいつらを相手にする経験があるだけだ。俺とお前が戦ったなら俺が負けるだろうな」
そう言った男は息1つ乱さず、そして身体には傷1つついていない状態で魔獣の死体を見下ろしていた。その余裕のある姿はまるで魔獣を狩るために必要なことを熟知しているようにも見える。
「……じゃあな。あとは頑張れよ」
この男を手放すのは惜しいように感じた。だからなのだろう、ついつい呼び止める声を掛けてしまったのは。
「待ってくれ!」
「……何だ?」
「私と一緒にここを出るつもりはないか!」
「……はぁ?」
男は俺の言葉が理解できなかったのかまるで非常にありえない言葉を聞いたかのような顔をした。いや、実際理解できなかったのだろう。なにせ彼は何年もこの牢獄に閉じ込められているのだから。
「私は蛇の王に会うことさえできればここから脱出できる。その後にラック殿に貴殿をここから出してくれるように頼むことができるはずだ!」
「……頼んでやる代わりに手を貸せと? ……あのラックが俺を出すとは思えんな」
「絶対に説得してみせる! 騎士としての誇りに掛けてもいい!」
「……お前はまだ騎士では無いはずだがな」
そう言われると何も言えない。確かに私はまだ騎士ではない。しかし誇りだけは、誰よりも持っていると自負している。騎士たるもの王に仕える駒であるということはまず最初に己に刻むべきことなのだから。
「それでもだ! 貴殿はこのような地で死んでいい者ではない!」
「その評価はありがたい限りだがな。俺に王に仕える資格などないのさ」
「そんなことはない! 貴殿は素晴らしい力を持っているではないか! それは私にはない力だ! きっと王の役に立つはずだ!」
自分でもなぜ? と思うほど熱心に男を勧誘する。私がこの男の何を知っているというのか。だが心から思ってしまったのだ。この男をここで死なせるには惜しい。
彼には別の死に場を用意する。それが正しいのだろうと。
「……面白い男だなお前は。だが私はお前の隣に立つ自信も資格もないただの犯罪者だぞ? それでも連れていくというのか?」
男の顔には明確な苛立ちが浮かんでいた。確かに私はしつこいのかもしれない。しかしここは譲らない。彼は私が連れていく。
そしてそのまま睨み合うこと数10秒。先に折れたのは男の方だった。
「……好きにしろ」
「あぁ! そうするとも!」
投げやりではあるが私に委ねてくれたことは素直に嬉しい。彼なら私とは違う方法で王の助けになれるのだろう。
「では行こう! 蛇の王に会いに!」
「できる限り助けるとしよう。しかし蛇の王と戦闘になれば確実に負けるがな」
「ラック殿は会うだけでいいと言っていたでは無いか?」
「あの適当な性格のラックが約束を守るならな」
彼はラック殿を疑っているようだが……ラック殿がアーサー王を案じる気持ちは本物だった。ならば私が王の役に立つのだと証明して見せればきっとここから出してくれるのだろう。
そう信じるばかりである。
「では行こうか? 未来の騎士よ」
「あぁ行こう未来の同胞よ」
♢♢♢♢♢
パシャパシャと水音が響く。あれから数分、警戒しながら蛇の王を探し続けているのだが一向に姿が見えない。
それどころか他の魔獣すらいないではないか。これは一体どういうことなのか。
「本当にこっちで合ってるのか?」
「あぁ可能性は高いだろう」
「どういうことだ?」
「蛇の王はあまりに強い。他の魔獣が必ず逃げ出すくらいにはな。だから魔獣がいないこの辺りにいる可能性はあるが……」
ランスロットは言葉を止めた男に不審に思い眉を動かす。と言っても理解が及ばなかった故の行動であり男の言葉を疑ったわけではない。
男はそれを理解して特に思うことも無く説明をする。
「この迷宮には4つのルールがあるのは説明したな? まぁ要するにそいつらに近づかないようにしているのだ。他にも魔獣共が避ける理由はいくつもあるが、こうして魔獣がいない場所は危険地帯であることは間違いない」
「なるほど……ならば何も問題はないな。進むとしよう」
ランスロットは一瞬たりとも考えずに進むことを決断した。この先が危険であることをたった今聞いたにもかかわらず。
その判断力に男は素直に感心しランスロットを先導する。
しかしその時、突然遠くから地響きが聞こえてくる。その音はどうやら自分達に向かって近づいているようだった。
そしてそれはすぐに姿を見せた。
真っ黒な毛に覆われたクマのような身体に、人間の頭と狼の2つの頭を持ち、背中から2本の腕を生やし計6本の腕を持つ魔獣。そんな魔獣が数え切れないほど正面の通路から迫ってくるのだ。
「『
「知っているのか!?」
「説明はあとだ! こんな狭い通路ではろくに戦えん! 広い部屋で壁を背に応戦する!」
「分かった!」
魔獣に背を向けて走り出す。しかし残念なことに魔獣の群れの方が速度が速い。このままでは広い部屋にたどり着く間もなく追いつかれて食い尽くされるのがオチだろう。
「くっ! 先に行け!」
「貴殿は!?」
「すぐに追いつく! 心配するな!」
そう言うと男は何かを取り出し魔獣の群れに投げつける。そして炎が吹き出し魔獣の群れに襲い掛かる。
しかし効果があったのは先頭にいた数頭のみで後ろにいた魔獣達は倒れた者を踏みつけて乗り越える。当然その魔獣は無事で済むはずもなく血を吐いて動かなくなるのが見えた。
それでも一定の効果はあったのか少しだけ魔獣の群れとの距離が開いた。これならなんとか間に合うだろう。
「さぁ全力で走れ!」
男の速度が先程とは比べ物にならないほど上がった。恐らく魔術で自分の身体を強化しているのだろう。ランスロットと並走してようやく部屋へとたどり着く。
しかしその部屋はお世辞にも広い部屋とは言えず、魔獣の群れが流れ込んでくれば数秒で部屋が埋め尽くされる程度の広さだった。
「……仕方ない、ここで迎え撃つぞ。覚悟を決めろ」
「なに、この程度乗り越えてみせるさ」
「ふっ、そうか。ならば俺も安心だな!」
そしてついに魔獣の群れが部屋に侵入する。それと同時に再度何かを投げつけると炎が吹き出し魔獣を焼く。
しかしここが通路ではなくある程度広い部屋になったからか横に広がり勢いが緩むことはなかった。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
しかしランスロットは近づいてきた魔獣を全て一太刀で斬り捨てていく。そしてランスロットが打ち漏らした魔獣は男が炎で焼き払う。
さっき出会ったばかりとは思えない完璧なコンビネーションを発揮していた。
だが魔獣達も怯まずに向かっていく。その圧倒的な数はランスロット達を苦戦させるには申し分ないと言える。実際ランスロット達は魔獣達を捌ききることはできずついにランスロットに魔獣の鋭い爪が鎧に引っかかった。
そしてそのまま壁に叩きつけられる。
それによりランスロットを援護していた男も魔獣の攻撃をもろに食らいランスロットと同じように壁に叩きつけられた。
「がはっ!? ゲホッ……全く、これは駄目だな」
男が壁に身体を預けて諦めの言葉を口にする。しかしランスロットはここに至っても微塵も諦めてはいなかった。
「……まだだ、まだ諦めるものか。私は王に仕える騎士になるのだ。こんな所で死んでいられるか! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
気合いの声と共に起き上がる。しかし視界は先程の衝撃で揺れておりまともに立っていることさえ奇跡だった。
そんな状態で魔獣の群れを相手にできるはずもない。
誰もが2人の死を鮮明に思い浮かべるだろうこの状況でもランスロットは諦めなかった。彼は最後まで諦めなかったのだ。
「アハハハハハ!! 凄いね! これでも諦めないんだ!?」
炎の波が魔獣の群れを飲み込む。いきなりのことに何も反応できなかったがさっきの炎が魔術で、そして男が使っていた魔術とは段違いの火力であることは容易に理解できた。
魔獣の群れは1匹残らず黒焦げになっており生存している魔獣はいなかった
そして炎の出てきた方向を見るとそこにはニコニコと笑う灰色の髪を腰までたなびかせて黄金に輝く瞳を面白そうに細める美女が立っていた。
最後の美女は誰だろうなぁ? 分かる人は割と凄いと思う。