side アルトリア
私の名はアルトリア、今はブリテン王、アーサー・ペンドラゴンと名乗っています。しかし私の王座は、二人の魔術師である花の魔術師マーリンと、その弟子であるラックの手によって作り出された石の王座。
しかしその中身は泥で造られた非常に不安定な物。多少のことは石の王座が耐えてくれるが、大きな衝撃は防ぎきれず、中身の泥が零れ落ちてしまう。そんな事になってしまう前に、早く中身を入れ替えなくては。
もっと言ってしまえば手足が欲しいです。特にどれだけ離れても痒いところに手が届く優秀な手が。
マーリンは役立たずですし、ラックは新婚生活真っ只中。まともな働きができるのはケイ兄さんぐらいなものです。まぁ今の私の仕事はサクソン人やピクト人を聖剣で追っ払い、神秘の不足で育たなくなった畑の対処。正直言ってかなり楽チンです。
ラックからは、育たなくなった畑は一度破壊して神秘の侵食を少しでも留めるように、と言われている。
そして今日は久しぶりにラックが城を訪れる日、正確にはマーリンに呼び出されて仕事に来る日。どうやらサクソン人がかなり暴れているらしく、その殲滅を任されたらしい。
彼に会うのは私が王になってからは初めて、実に三ヶ月ぶり、それまでの間ずっと仕事漬けだったのですから少しぐらいサボっても許されるでしょう。ほどよくサボるのは必要だ、とも言ってましたしね。
「あ〜アーサー王? 仕事はどうするんです?」
「サー・ケイ……後は任せます!」
「ちょっ! 待てや! せめて片付けてから行けって!」
後ろからケイ兄さんが呼び止める声が聞こえてきますね。口調が崩れるということはこれから仕事が本当に多くなるのでしょうね。まぁ帰ったらやりますよ。それまではぜひ頑張ってください。
暴風の如き勢いで廊下を駆ける。その勢いは、ギリギリ走っているのがアーサー王だと言うことが分かるぐらいの速度だった。
そして次の瞬間には、フワリと抱き留められていた。
「こらこらアーサー、城の廊下は走っちゃダメだろう?」
「あなたに会いに来たんだから見逃してくださいよラック。このところどうですか?」
「ニミュエとの新婚生活を楽しんでるよ」
ニコニコと笑う彼の顔からは、マーリンとは違って一切の邪気を感じない。彼は笑顔の裏に刃を潜ませる他の魔術師とは違い、常に自然体でそこにいる。私が王になる前は、マーリンからの仕事に忙殺されながらも笑顔を絶やさなかったらしい。
まぁ目は笑っていなかったらしいが。
「やぁラック、早速で悪いけど仕事を頼みたい」
「……マーリン、久しぶり」
しかしそんな彼もマーリンの前にいる時だけはその笑顔を苦々しいものに変える。当時、マーリンがサボった仕事は全て、ラックが肩代わりしていたらしい。
そしてラックが仕事を辞めてマーリンが上司じゃなくなってからは一切の敬語を使う事がなくなった。
マーリンの屑っぷりも、ラックの有能ぶりもとてもよく分かる。王宮魔術師が屑の国って国際的に見てどうなんでしょうね。
「はははっ! そんな嫌そうな顔をしないで欲しい。私とて傷つくんだよ?」
「他人からコピーした感情が傷ついただけだろ? 気にすんな人でなし」
「う〜ん、人でなしは君もだと思うんだけど……まぁいいや、明日のサクソン人討伐に参加してくれ。正確には聖剣を使ってくれればいい」
ラックが呼ばれたのは、彼が持つ聖剣の力を借りる事が目的だったようですね。まぁ確かに彼の聖剣ならばサクソン人がどれだけ数をを束ねても、到底及ばない力を持っていますからね。
「じゃあそれまでは休んでるからな」
「それは構わないよ。久しぶりに来るキャメロット城なんだからのんびりしていくといい」
「じゃあ私はラックとのんびりして来ますね!」
マーリンの返事を聞かずにラックを引っ張って私の部屋に引き込む。ケイ兄さんやニミュエに知られたら怒られそうですね……いえ、ニミュエに知られたら間違いなく殺されるでしょう。ちょっと後悔してます。早計でしたかね? とはいえさっきケイ兄さんがすぐそばまで来てるのが分かりましたし、あそこで捕まったら仕事に連れ戻されてしまいます。
流石に王の私室であるこの部屋にはケイ兄さんは入ってきません。たまにマーリンは入ってきますが聖剣でぶっ叩いて追い出します。
「こうしてお前とのんびり話すのは久しぶりだな?」
「えぇそうですね。最近仕事詰めで休む暇もなかったですし」
なんだかんだここ数日寝てないですしね。今だって目元の隈を化粧で軽く誤魔化してます。久しぶりに会うのだから多少は可愛く見てもらいたいものです。まぁラックは妻帯者ですからラックの妻になる事はありませんが、それでもやっぱりたまには王じゃなくて十五歳の少女になりたいのです。
ラックはニミュエと結婚してさらに雰囲気が和らいだ気がします。魔術師とは思えない程の優しさに磨きがかかった今、昔のように街に出れば昔以上にモテるでしょう。
もしそうなればニミュエの嫉妬で物理的に街に甚大な被害が出かねません。それは避けなければ。
あぁしかしたまには良いものですね。王としての責務を忘れて、まるでどこにでもいる少女のように過ごすのは。
ずっとこうしていたい。そう思うのは罪でしょうか。
きっとそうなのでしょう。ラックは肩の力を抜けとよく言っていましたが、私は一国の王、アーサー・ペンドラゴンです。私が選び、私が築くものです。
だから私はこの国を平和な国にしてみせます。誰もが笑える平和な国、それこそが私の目指すべき国の姿だと思うのです。
ですが私にはそのやり方は分かりません。後でマーリンに聞いておくべきですかね……いいえ、やめておきましょう。ろくな答えが帰ってくるはずがない。
そうですね……自分で考えつく限りの平和な国といえば、争いのない国ぐらいしか思いつかないのですが……ここは素直にラックに聞いておきましょう。
「ラック、争いのない国はどうやったら作れるのですか?」
「……何でそんな事を?」
あれ? ラックの顔が若干強ばってますね。何かまずい事でも聞いてしまったのでしょうか?
「いえ、私はどのような国を作ろうか決めたのです。でもやり方が分からない」
「争いのない国が作りたいのか?」
「正確には平和な国です。私はこの国を歴史に残る平和な国にしたい」
「そっか……なぁアルトリア」
「!! 何ですか?」
ラックが私をアルトリアと呼んだ。これは私が王になってから初めての事です。
「絶対に戦争が起こらないようにする方法は俺の知る限りひとつだけだ」
「……それは?」
「人間を全員殺す。そうすれば戦争は起こらない」
……なるほど、確かにそれなら戦争は起こらないでしょう。しかしそれは平和ではない。殺戮という非道の上に成り立つ最低最悪の結末でしょう。
「人間が戦う理由は沢山ある。信じる神、明日の生活、祖国の繁栄、薄汚い
王としてのあり方はマーリンに散々習いました。少しでも国をいい方向に導く。完璧なハッピーエンドを作り出す。それが私の王としての勤めだと。
しかしこの国には少し外に目を向ければ悲劇に溢れている。
「平和やら栄雅なんていずれ終わるものだ。だがな、争いは終わらねぇ。人間は誰かを傷つけて、奪い、殺して生きていく生き物だ。だから恒久的な平和なんて願うなよ? それは確かに素晴らしいものだが、同時に人間の可能性を全て奪う事でもあるんだからな。お前も気をつけろよ? 俺も平和は好きだが、争いのない世界は絶対に作れない」
「……ならばどうすればいいのですか? 私は王として何をすればいいのですか?」
「目に付く範囲で人間を救え、そんでもって正しい方向に導いてやれ。王は全ての民の道しるべだ。だから絶対にお前は迷うな。そしたらお前の国の民は誰に着いていけばいいんだ?」
あぁやはり私は王の器ではない。私は割り切る事がどうしてもできない。争いはなくならない。恒久的な平和はない。だがそれでも懸命に生きる民が、美しく見えたのだ。
だから私は────この国を救いたい。
せめてこのブリテンの民だけでも。
「ありがとうございました。私も頑張って見ます!」
「疲れたら休みに来いよ。歓迎してやるさ」
恒久的な平和……うっ頭が。笑
まぁ某救われない正義の味方を思い出したラックのお節介です。どう転ぶかは作者も知らない(おい)
設定ガバってたりしたら教えていただけると幸いです。