転生したらマーリンの弟子になった   作:黒猫街夜

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呪獣

 

 

 

 「間違いなくモルガンの仕業だね」

 

 「……だろうな」

 

 あの後すぐにマーリンを呼び出してガレスの診断をさせた。あわよくば呪いの解呪ができないかと思っていたが……

 

 「分かってると思うけどね、私と君が全力で解呪に取り組んだとしても、十年以上かかるよ」

 

 「……そうだな」

 

 ガレスにかけられた呪いは、言ってしまえば獣性の呪いである。人は誰しも内側に獣性を持っている。この呪いはそれを強制的に引き出して維持する。自分の意思では解除不可能の永続維持する獣性魔術という表現がしっくりくる。

 しかしこれは自らの獣性に蝕まれ続けるようなもので、いずれは人としての理性を無くした獣と成り果てるだろう。

 その証拠とでも言うかのように、ガレスの頭からは髪を掻き分けて()()()が生えていた。

 

 そんじょそこらの呪いならば、俺とマーリンが揃えば大抵は解呪ができる。だが今回の呪いは姉弟子(モルガン)の手によるものだ。何百種もの呪いが複雑怪奇に絡み合い、この呪いを解くためにはそっちの呪いを解く必要があり、それを解くためには更にと、絡まった紐を一つずつ解く作業になっている。

 それだけならまだしも、流石はケルト神話の神性を元にする魔女と言うべきか、俺やマーリンすら知らない形式の呪いすらあった。例えるなら、答えは全て同じなのに全ての数式が違い、かつ全て解かなければ正解にならない問題。それに加えてまだ誰も見た事のないオリジナルの数式が加わっているのだ。この呪いを何とかするには、まずは呪いの種類の解析が最優先になる。

 俺とマーリンなら、解けなくはないだろう。時間がかかるとはそういう意味だ。

 

 チラリとガレスを見るとニミュエが瞳に涙を浮かべながらガレスの頭を撫でていた。

 

 モルガンには既に呪いを逆算してモルガンに攻撃を仕掛けてある。モルガンの実力なら、全く問題無い程度のものだが、何もしないよりはマシだろう。

 ガレスは自信に起きている現状を理解できないのか、楽しそうに笑っている。そしてその口の中にキラリと光る獣を彷彿(ほうふつ)とさせる八重歯、否、人としてはあまりに鋭い犬歯が見える。

 

 「正直に言って、この程度で済んだのが僥倖(ぎょうこう)と言えるだろうね」

 

 「……そうだな」

 

 ガレスの妖精と島の神秘という特殊な出自のおかげだろうか、本来であれば醜い獣と成り果てる呪術は、極めて抑え込まれ、身体の一部に呪いの影響が出るだけとなっている。恐らくは精神にも少なからず影響は出ているだろうが、それでもこの結果は最悪ではない。

 しかしタイムリミットがあるのもまた事実。それが過ぎればガレスは本来の呪い通り、獣と化すだろう。

 

 「ふむ、ラック、提案がある」

 

 「……何だ?」

 

 「この呪いを解かずに、反転させるつもりは無いかな?」

 

 ゆらりと視線を上げる。ピクリとマーリンが反応する。どうやらマーリンでもたじろぐ程の怒りが俺の視線にこもっていたらしい。

 

 「ッふざけないでください!」

 

 しかし怒りを爆発させたのは俺よりもニミュエの方が早かった。

 

 「こんなッ! いつ爆発するかも分からない爆弾を常に抱えておかせるなんて真似! 許すわけないでしょう!」

 

 ゴボリゴボリと花瓶の中の水が花瓶を突き破って蠢く。それは怒り狂う蛇の様にも、子を守ろうとする母の手にも見えた。

 

 「まぁまぁ落ち着きたまえよ」

 

 マーリンが手に持っていた杖を一振りすると、マーリンの周囲をふわりと花が囲う。

 

 「私は何も爆弾を放置しようと言ってるんじゃない。爆弾を有用な何かに変えて危険性を無くそうと言ってるんだ」

 

 「それを信用しろとッ!?」

 

 「そうだね、そういう事だ」

 

 ……呪いの対処そのものは可能、だがそれにはマーリンの手助けが必須、俺だけではどうしようも無く、どうにかなったとしてもタイムリミットまでに間に合うかは不明。

 

 「……聞かせろ」

 

 「ラック様!?」

 

 「ひとまず聞いてからだ」

 

 ろくでもない意見なら、無視して無理矢理にでも解呪を手伝わせる。ついでにモルガンは殺す。

 

 「今回の呪いの問題点は獣性に呑まれて人としての在り方を失う事だ。しかし解呪にはタイムリミットがあり、間に合うかは分からない。なら、呪いに私達が魔術で介入して、()()()()()()()()()()()()()じゃないか」

 

 納得せざるを得ない意見だった。確かにこの呪いは解呪は難しい。なら解呪せずにそれを利用して別のものに変えてしまえばいい。これなら呪いではなく、後天的に獲得した獣性魔術となり得るだろう。

 

 しかし……

 

 「人手が足りない。俺とマーリンが互いに協力してやっと解けるかもしれない魔術だぞ。

 まずは呪いの解析、その後この呪いに適合して、尚且つ呪いを魔術として使用可能になる新しい魔術の開発が必要になる」

 

 言葉にすればする程焦りが増す。

 

 「……仕方がない。妹を呼ぼうか」

 

 「妹?」

 

 最早かなり薄れつつある俺の過去の記憶が正しければ、マーリンには妹なんで居なかったはずだが、いつの間にかできたのだろうか。

 その疑問を俺達の顔を見て読みとったのか、

 

 「まぁあまり頼りたくはないがね、魔術の腕はムカつくけれど私と同じぐらいさ」

 

 不満たらたらに子供の様に顔を膨らませるマーリンの言葉に、ようやく光明が見えた気がした。

 

 「ならすぐに呼んでくれ、さっさと解析に入りたい」

 

 「いいとも」

 

 マーリンはそう言うと近くにあった紙に文字を焼き付け、それを鳥に変えて窓から飛ばした。相変わらず呆れる程卓越した魔術の腕だ。

 

 「これで妹は明日までには来るだろう。とはいえ気をつけるんだよ、妹の性格は最悪だ」

 

 俺とニミュエは顔を見合わせると声を合わせた。

 

 「「お前が言うな(あなたが言わないでください)」」

 

 「これは手厳しい」

 

 マーリンはそう言って笑った。

 

 

 

 

 

 

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