追記 アルトリアの恋愛感情的な描写は後々邪魔になるので削除
「ありがとうございました!」
「ぜぇ……ぜぇ……お疲れ……」
何とか一時間弱にも及ぶ剣の訓練を終えたがとんでも無くきつい。
竜の因子を持つアルトリアは魔術師ではないにもかかわらず自力で魔力を生成することができる。
その結果としてアルトリアは無自覚に身体強化をしている。
さらには生まれ持った戦闘センス。
流石に砂は使わないがもう既に俺も身体強化をしないと勝てない。
とはいえまだ指導をする余裕はある。
まぁそれもあと数年したら砂を使わざるを得なくなるだろう。
というかそろそろ負けかねない。
既に剣術だけを見れば負けている。
俺が身体強化だけで勝てるのはアルトリアがまだ剣術に頼りすぎてるからだろう。
俺は勝つためには割となんでもやる。
既に一度死んでから運よく手に入れた第二の人生。
俺はなるべく死にたくないのだ。
普通に蹴りを放つ。
地面の砂を蹴り視界を潰す。
最初は卑怯だと言われたが戦場でそれは通用しないとカッコつけたら何も言えなくなった。
まぁそれからはアルトリアもたまに蹴ってくるようになった。
アルトリアの力で蹴られるとまぁ普通に痛い。
「やぁ二人とも、剣術の鍛錬かい?」
「おや師匠、よく抜け出せましたね」
「うん? さっきようやく眠れてね。外側からやって何とか解除できたよ」」
「あぁなるほど。拘束が緩みましたか」
夢魔の血を引くマーリンは本体が眠っている間、依り代さえあれば世界に干渉することが出来る。
だからこそ眠らないように寝そうになったら軽く締め付けるように仕掛けを施しておいたのだが…...
どうやらアルトリアとの鍛錬で意識がこっちに向きすぎたらしい。
その間に眠られたのだろう。
「しかし一体何を依り代にしたんですか? あの部屋にあった依り代になりそうな物は一旦俺の部屋に移しておいたんですけど?」
暗に俺の部屋に入ったのかと聞いたのだが当の本人はそんな事は知らないと言わんばかりに
「君の砂を依り代にさせてもらったよ。あれだけ濃厚な神秘を含んでいるからね。依り代としては充分だったよ」
……は? 今なんて言った?
俺の砂を依り代にした?
俺は慌ててマーリンを拘束していた砂がどこにあるのか探る。
すると砂は部屋にはあったが誰も拘束してはおらずマーリンを縛り付けていた椅子を拘束していた。
ありえないだろ…...
あの砂は俺の一部のようなものだ。
ブリテン島の神秘である俺は今のブリテン島そのものだとも言える。
だからマーリンを縛っていた砂も俺の一部であるのだ。
それを依り代にしたのだと言う。
それも俺に全く悟らせずに。
とんでもないな。
「なるほど。ここに来れた事情は分かりました」
「ようし! それじゃあ私はちょっと出かけて……」
「ところで師匠、仕事は終わったんでしょうね?」
マーリンの身体がびしりと固まった。
そして顔をサッと逸らすので顔の前に回り込む。
しかし再度逸らされる。
俺はさらにその先に回り込む。
サッ! バッ! サッ! バッ!サッ!
そして運悪くマーリンが顔を逸らした先にまるでゴミを見るかのような絶対零度の視線を向けているアルトリアと目が合ってしまった。
石になったかのように固まるマーリン。
そのマーリンを冷めた瞳で見つめるアルトリア。
それを面白そうにニヤニヤ笑いながら見届ける俺。
「……マーリン」
「……何かな?」
「仕事をして下さい」
「……たまにはサボりたくなるものだろう?」
「昨日も同じ事を聞きました」
「……今日だけは見逃してくれないかな? 今日は特に大事な用事があるんだよ」
「昨日も同じ事を聞きました。それにどうせ大事な用事ってデートでしょう?」
「……人間休息が必要だと思うんだ」
「マーリンは人間じゃないでしょう」
「……半分は人間だとも」
「さあ戻りますよ。仕事が待ってます」
「ちょっ! ラックとやり取りがほぼ同じなんだけど!?」
「……全く同じ事を言われるのが悪いと思いませんか?」
「待って!? なんか乱暴になってるよ!?」
「いいから行きますよ!」
「痛い痛い! 耳を引っ張らないで!」
「いいから仕事しますよ!」
「痛い痛い!」
アルトリアは元気よく、そして楽しそうにマーリンの耳を掴んで笑っていた。
やっぱり可愛いなぁ。
この少女が人の心が分からないだなんて思えない。
年相応の可愛らしい女の子だ。
しかしアルトリアは産まれた時からかなりの運命を背負っている。
産まれたその瞬間から女でありながら王であることを決められ、さらには竜の因子を持ちその身体にとんでもない神秘を宿した少女。
その小さな背中には宮廷魔術師であるマーリンと父親であるウーサー王。
大人の欲に巻き込まれその未来を強制された哀れな子供。
そしてそれを受け入れ明るく笑う少女。
俺はそんな少女の少しでも助けになれるように隣で笑いかけるのだ。
「そうだラック! 君は明日は森に行って人喰い蜂を討伐してきてくれ! これは本当に君の仕事だからね!」
俺は全力で逃げた。
そして三秒でマーリンを掴んだアルトリアに捕まった。
「師匠! 巻き込まないで下さいよ!」
「こうなったら君も道連れだよ!」
隣でアルトリアに掴まれたままニヤニヤ笑ってくるのが鬱陶しくて空いていた手で思いっきり殴った俺は悪くないと思う。
マーリンのチートっぷりがよく分かる回になったかな。