まぁ楽しかったけどね。
目が覚めると知らない天井が目に入った。
ふと隣に温もりを感じて布団をめくると一糸まとわぬ状態の湖の乙女が眠っていた。
それでようやく昨日何があったのかを完全に思い出した。
正直やっちまったとも思うがまぁもう割り切った。
マーリンにも色々からかわれそうな気はするがまぁやっちまったものはしょうがない。
ちょうどその時、俺が起きたことで彼女も起きたようだった。
そして目が合うとぱちくりと目を
やべぇ可愛い。
女神かよ。いや妖精だけどさ。
「……おはようございます」
「……おはよう湖の乙女」
「ニミュエと呼んでください。もう湖の乙女なんて呼ぶ間柄じゃないでしょう?」
「……分かったよニミュエ」
前世ではこういったことに関する経験は皆無だった。
そのせいで何となく気恥しい。
「今日は魔術を教えてくれてくれるんですよね?」
「そういう約束だからね。ちゃんと教えるよ」
「やったっ!」
小さくガッツポーズをするニミュエ。
可愛い。
「まぁまずは水浴びでもしようか。流石にこのままじゃねぇ……」
何でとは言わないが色々と汚れすぎている。
ニミュエもそれに気づいたようで頬を赤らめている。
「……そうですね、じゃあ一緒に入ります?」
からかう様な笑顔で耳まで赤く染めながら言う。
恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
そこで軽くイタズラをしてやろうと思った。
ニッコリ笑いながら。
「うんいいよ。一緒に入ろうか?」
「……へ?」
まさか了承されるとは思わなかったのかポカンとほうけている。
そしてすぐに顔を真っ赤にすると部屋から飛び出して行った。
羞恥心が限界を超えたのだろう。
そこまで恥ずかしがるなら本当に言わなきゃ良かったのに。
まぁ可愛かったからいいけどね。
とにかく今はニミュエが出てくるまで待とうかな。
♢♢♢♢♢
「あの、水浴び終わりました……」
「じゃあ次は俺が入ってくるよ」
「は、はい……」
未だに恥ずかしそうにするニミュエを尻目に湖に向かう。
その様子に思わず微笑む。
そして屋敷を出ていざ湖に入ると1人の妖精が近寄ってくる。
当然ながらニミュエでは無い。
「初めまして~」
どこかほんわかとした空気を漂わせながら挨拶をしてきた。
いつの間に近づいてきた?
全く気づかなかったんだが……
「わたくしヴィヴィアンと申します~以後お見知り置きを~」
ヴィヴィアンと言えば湖の乙女の1人だよな。
確か湖の乙女は1人じゃないし名前もいっぱいあったはずだ。
彼女も湖の乙女の1人なのだろう。
しかし俺に何のようなんだろうか?
「どうも、俺はラックと言います。どうぞよろしく」
湖に浸かったまま挨拶を返す。
するとそこで家からニミュエが飛んできた。
「ヴィヴィアン!」
「あらニミュエ~久しぶりね~」
「なんでここに?」
「知らない気配を感じたら来てみれば島の化身様がいるじゃない~挨拶しない訳にもいかないでしょう~」
くすくすと笑って言うヴィヴィアンにニミュエは何も言えないのか不機嫌そうに口を閉じる。
その様子にまたヴィヴィアンは笑って言う。
「そんなに心配しなくても取ったりしないわよ~安心しなさいな~」
既にニミュエとの関係はバレているらしい。
「……信用するわ」
「ありがとう~化身様、この子は意外と嫉妬深いので気をつけてくださいね~」
「ヴィヴィアン! 余計なことを言わないで!」
「はいは~い。じゃあまたね~」
また静けさが周囲に戻る。
俺も今の格好的に地味に恥ずかしい。
ニミュエはため息をつき。
「ごめんなさい騒がしくしちゃって」
「気にしなくていいよ。まぁもう少ししたら出るから。そしたら魔術を教えるよ」
「はい! 待ってますね!」
不機嫌そうな様子から一転して上機嫌に家の中に戻って行った。
それを見てようやく一息つく。
一気にどっと疲れた。
まぁもう少しのんびりすれば疲れも取れるかな。
数分経って湖を出る。
傍に置いてあった服を着て家の中に戻る。
先っきまでいた部屋とは違う部屋だがそこにニミュエはいた。
「お待たせ。じゃあやろうか」
「はいっ! 楽しみです!」
「まぁ家の中じゃ危ないから外でやるよ。ついてきて」
そう言って家を出るとニミュエも素直についてきた。
そして湖の前に立つと砂を展開する。
「俺の砂の性質は流転。これは万物の流れそのものだ。そして君は水の妖精、相性はかなりいいと思う」
「なるほど?」
そう言いながら分かっては無さそうだったので苦笑いしながら教える。
「まぁ要するに流れて変化するものを操れると思えばいいよ」
「なるほど!」
今度は分かったらしいな。
思ったんだがニミュエは思ったことが顔に出やすいな。
その時だった。
ちょうど遠くから魔獣が向かってくるのが見えた。
実演にはちょうどいいかもな。
「的が来たから実演してみようか。まずは」
湖の反対側から来ていた魔獣は湖を飛び越え俺に飛びかかる。
しかし俺が伸ばした砂に触れた瞬間、魔獣の向きが変わり俺から数歩分横に着地した。
魔獣もそれに驚いたのか硬直する。
それを見てつま先で地面を叩くと砂でできた無数の蛇が口を大きく開き魔獣を飲み込む。
そして次の瞬間には魔獣は砂の塊に全身を囚われ動けなくなっていた。
必死に逃げようとするがもがけばもがくほど身体が沈んでいく。
1度捕まるとほぼ脱出不可能の砂の監獄。
そしてその砂の塊を魔獣を中心にして圧縮する。
当然魔獣はぐしゃっと潰れた。
生存はありえない。
「こんな感じかな。俺は島の神秘だからブリテン島の砂を使ってるけどニミュエは湖の乙女で水の妖精だから水を使えばいいと思うよ」
「なるほど……私にできますかね?」
「できると思うよ? 相手の攻撃をいなしてそのまま拘束する。やってることはこれだけだからね。慣れてきたら攻撃や防御のパターンを増やすといい」
「分かりました! やってみます!」
そして水に手を向けて試行錯誤していた。
水の妖精でもある彼女なら水を操るくらい容易いことだろう。
水を境界に別世界に繋げるなんていう荒技が可能なのだ。
今操れていないのは操ったことがなく勝手が分からないからだろう。
そしてそのまま待つこと数分。
ニミュエは既に水を操れるようになっていて目の前には湖の上に浮遊する巨大な水球があった。
「凄いなぁ。流石は湖の乙女ってことかな」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに彼女がそう言ってこっちを向いた瞬間水球が形を失い崩れていく。
「あっ……」
「水が操れればできることは多い。あとはこれの操作性の訓練かな」
「はいっ! 頑張ります」
あれ? 考えたらこれ俺がニミュエを弟子にしたってこと?
水の妖精で湖の乙女でもあるニミュエを?
マジやばくね?
マーリンの弟子は俺と姉弟子しかいない。
まぁマーリンには弟子を取れと何度も言われていたが面倒くさそうという理由で今までは弟子は取って無かった。
なんというか……楽しいな。
他人にものを教えるのは意外と楽しい。
自分の知識を他人に授けるのはとても楽しいな。
これを機に他にも弟子を取るのを真面目に考えてみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えているとまたさっきと同じ魔獣がやってきた。
しかも今度は1体だけじゃなく群れでやってきた。
「じゃあ今度は魔術だけで相手してみようか。まぁ危なくなったら助けるよ」
「はい! 頑張ります」
そう言ってばっと手をかざすとまた巨大な水球が浮かぶ。
(水で受け流して拘束する。権能を使えば余裕だけれど魔術だけだと難しいかもしれない)
ニミュエはそう思いながらも魔術のみで水球を維持する。
そして魔獣の群れの先頭が 飛びかかる。
しかしニミュエは冷静にその魔獣の進行方向に水球を置く。
空中にいた魔獣は水球を避けられず水球の中に沈む。
後続の魔獣も同様に水球に飲み込まれる。
踏みとどまった魔獣もいるが関係ない。
水球を動かし直接飲み込む。
溺死。
それだけだった。
たったそれだけで終わった。
水の中で呼吸ができずにもがく魔獣達。
そのえげつなさに思わず頬を引き攣らせるが褒めて欲しそうにこっちを見るニミュエを見て頬を緩ませる。
「お疲れ様。魔術のみの初戦闘はどうだった?」
「思ったより何とかなりますね! しかも魔術に慣れたら水の操作性が上がりそうです!」
これよりさらに強くなるってことかよ……
これは俺も頑張らないと追い抜かれそうだな。
まぁ頑張るか!
なんとも情けない新たな決意だった。
言葉によって物事を説明しようとする時には、必ず「AはBである」などといった形で述語形式となっているが、この場合にはAとBというのは等価であったり同一であるということになる。だが、物事を詳しく考えれば考えるほど、等価であったり同一であると規定するのは難しくなっていく。細かく見たならば同一人物であっても、時の経過とともに老いていくという事であるから、同一人物を後に見たならばそれが同一人物であると確定できないということにさえなる。人間だけでなく、山や川などの自然にもこれは当てはまる。ヘラクレイトスはこのような万物流転を「誰も同じ川に二度入ることはできない」という言葉で表現した。
wikiより抜粋
……俺の流転の解釈も間違えてないよね?
あとニミュエとヴィヴィアンは分離しました。
都合がいいので