執事のヒーローアカデミア   作:asd

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第2話

血桜という存在を語る上で欠かせないのは、彼らがどこに仕えているかだろう。

 

血桜は祖父の代から八百万の家に仕えている。その切っ掛けは未だに闇に隠されているが、祖父の代で何かがあったのは確実だ。

 

そして、今宵は現在、八百万の家ではなく、その令嬢である百に仕えていると言ってもいい。理由としては祖父からの命令である。今宵は祖父より

 

「敵味方其の悉くを塵芥に変えてでも百様を守り抜け」

 

と言われている。

 

そして、言われた当時子供だった今宵は

 

「塵芥に変えてたら、ヒーローを目指しているお嬢様の隣にいられないでしょうに、ついにボケましたか?」

 

と返し、覚悟の問題だ、とげんこつをもらったのは語るまでもない。

 

そんな愉快な血桜の人間である今宵の一日は今日もお嬢様へのアーリーモーニングティー(寝起きの一杯)の給仕から始まる。

 

 

当然ながら、ティーを出すには当然お嬢様が起きている必要がある。そして、起こすのは今宵の役目でもある。

 

まず、部屋の外から扉をノックし、声をかける。お嬢様は基本寝起きが良いというわけではないので、これでは起きない。

 

次に、部屋へと入り、カーテンを開け、声を直接お掛けする。これでも起きない。

 

最後に軽く肩に触れ、体を揺らし声をお掛けする。その際、発育の暴力には目を向けてはいけない。主に情欲を催すなど執事にあるまじき恥ずべき事柄である。

 

普段はこの辺で起きるのだが、どうやらは今日は起きてはくださらない様である。ここで今宵は覚悟を決めた。

 

 

薄く微笑み、腰を落とし、拳を握り、息を吐き、

 

 

お嬢様の腹部へと思いっきり叩き込みあそばせる。

 

「ごっほ!!」

 

女性とは思えないリアクションに起きたことを確認した今宵はいつもの様に朝の挨拶をする。

 

「おはようございます。お嬢様」

 

しかし、肝心の主からの挨拶はない。ベットの上でお腹を抱えて震えている。

 

「無視、とは。執事として、教育係として、情けなくて涙が出そうです」

 

「誰が返事もできないような状態にしたんですか!!主のお腹を殴るほうが執事としてどうかと思いますわよ!!!」

 

そう返す百に、今宵は胸を軽く押さえてみせ

 

「将来ヒーローになるという方が、油断しているからと腹パン一発で戦闘不能というのはあり得ません。そういった事態にならないように、将来のために、心を鬼にして行っております。殴られたお嬢様はお腹が痛いかもしれませんが、殴った私はとても心が痛いです」

 

「物は言い様ですわね」

 

うさんくさいものでも見るかの様な目を向けられても今宵は平然と微笑んでいる。そして待っている。

 

「それで?」

 

「それで、とは?」

 

挨拶、と今宵が返すと、百は恥ずかしそうに挨拶を返す。

 

「ヴィランを捕まえるためなら直前に助けた人がどうなってもいいというなら、別にいいですけどね、そうでないなら自分がやるべきことを忘れないように、と常々申し上げているつもりだったのですが。まあ、今日はこのくらいにしておきましょう。モーニングはオレンジペコです。たっぷりのはちみつとミルクを入れております。温度も下げてあります」

 

そういって今宵はジョッキに入った紅茶を渡した。八百万家は基本ハロッズかウェッジウッドなのだが、血桜家からしたらそんなの関係ねぇ!とばかりに出す。

 

「毎回思うのですが、本来はティーカップで飲む物ですわよね」

 

「お嬢様が無個性ならばそうしたのですが、そうでない以上仕方ございません」

 

百の個性は脂質を使うので、カロリーを入れていく必要があるのだ。ちなみに、生物が作れないということだが、なら有機物に過ぎない脂質は自分で作れるのでは?と今宵はこっそりと思っている。

 

「朝ご飯は鮭となめこ汁、サラダ、デザートにお嬢様が好きなケーキを山盛り用意させていただきました」

 

お残しは許さないと、最終的には無理やり口に突っ込まれる甘ったるいケーキを思い出して百は思わず口を押える。

 

「今私の中で食べたくない、見たくない、聞きたくない食べ物トップを平然と用意するというのは執事として問題なのでわ?」

 

「お嬢様、今日は金曜日。今夜のトレーニングは夕食後から、31時まで行う予定ですので、夕食で摂るより、朝の内に食べてしまったほうが楽でございますよ」

 

一日が24時間ですらなくなってる!?と驚く百を後目にジョッキ等を片付けていく。服を出してからはすっと部屋の外へと出る。

 

「お嬢様、お覚悟を」

 

それを最後に引きつった表情の百を見ながら扉を閉める。

 

「さて、お嬢様が残そうとした時に備えてアレを準備しておきますか」

 

執事たるもの、万事に備えるのも仕事である。

 

 

 

朝食が終わると、百だけが食堂に残りデザートの時間である。旦那様は出ていく時に「可哀そうにお肉になっちゃうのね」という目を百に向けていたが、百にはそれが何より堪えた。

 

「お嬢様、デザートのケーキにございます」

 

百の前に出されたのは30cm、15cm、10㎝の三段重ねのクリームケーキである。イチゴは乗ってなく、その代わりにイチゴの形をしたメレンゲ人形(砂糖の塊)が乗っている。

 

まだ、一口も食べていないのに既に百は口を押えているが、そんなことは関係ないとケーキの切り分けは始まっている。

 

「45分以内にお食べください。学校に間に合わなくなります」

 

本当は一時間の余裕があるが、強制的にカロリーを入れようと考えれば15分は必要なので、今宵はあえて15分短い時間を告げる。

 

百は三度深呼吸をした後に、ケーキへと手を物理的伸ばす。今宵としてはフォークを使ってほしいのだが、仕方ないなと諦めた。

 

(夜はカレーですね、夕食にインド式のテーブルマナーの教育を追加しておきましょう)

 

 

30分後、予想よりも早く百はテーブルに突っ伏した。しかし、見事な完食である。

 

(出番がなくなってしまいましたね)

 

今宵は隠し持っていた、大量のメレンゲ入りのチューブをしまう。百がギブアップした時点で口に突っ込んで流し込む予定だったのだが、当てが外れてしまった。

 

「お嬢様、食後の一杯にございます」

 

今宵は生姜茶を出す。彼とて慈悲はあるのだ。

 

食後は少しの食休みの後に百を送り出す。

 

「お嬢様、こちらをお持ちください。今日は雨が降りそうなので」

 

折り畳み傘を渡し、

 

「こちらもどうぞ。冷たいココアが入っております」

 

直前に用意した水筒も渡す。

 

「ありがとう。では行ってきますわ」

 

「本日も良い勉学を」

 

門が閉まるまでしっかりと頭を落とす。

 

今日は相棒としての活動はお休みなので今宵はそのまま屋敷に訓練と勉学に励む。午後からは書類仕事である。今年受験する者から合格しそうな者を選び抜き、分かっている限りの情報を叩き込む。さらに個性から戦闘となった場合の戦闘と奇襲をかけられた場合の想定をする。

 

それが終われば人格的に問題がありそうな人物をビックアップしていく。さらにランク付けもしていく。

 

前々から地道に行っており、それがついに終了した。結果は幸い、Aランク危険人物は一人しかいない。Bはおらず、Cランクにちらほら名前が挙がるが、ヒーロー科を受かるのは一人か二人だろう。

 

「峰田実。素行調査ではかなりの問題もあり、人格的に女性の敵とも言える。個性を見る限り受かるとも思えませんが、万が一がある。場合によっては対応が必要ですね」

 

ほかの書類を整理しているときにピタリと手が止まる。手に取ったのは一枚の調査資料

 

「緑谷出久。今期唯一の無個性。・・・本当に無個性なのか?隠しているだけの可能性は?無個性の受験者は基本的にはいない。人格は特に問題なし、家庭環境の特筆事項は父親が海外に単身赴任していること、職業は不明。深度5の調査要」

 

今期の受験者の調査は終わった。これでひとまず落ち着ける。執事たるもの何事も事前準備が必要だ。しかし、これは少し度が過ぎるのではと思わなくもない。少なくとも、ここから受かるのは特待生の4名と自分を除き35名。普通に考えれば合格が決まった人間だけ調べればいいのだが、それでは一歩遅い可能性があるのも事実だ。この調査は本当に止むを得ず行った。

 

「二度とやりたくないですね」

 

気が付けば夕方である。そろそろ帰ってくる百の出迎えの準備に向かわなくてはならない。

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさいませお嬢様」

 

百を出迎えてからは夕食の準備に入る。それが終われば着替えが終わったのを見計らって百の靴や服の手入れをする。

 

旦那様たちを出迎えたら、夕食のカレーを用意する。

 

「「「いただきます」」」

 

家族で食べ始めるが、百がナンを千切るために伸ばした手の内、利き手と逆、つまり左手だけを血で作ったハエ叩きてぺしんと叩く。

 

「なんですか、いきなり」

 

「インド、特にヒンドゥー教では利き手と逆の手を不浄の手として食事では使いません。今日はそれに倣い右手一本でお食べください。旦那様たちも片手で食べているでしょう?」

 

当然、旦那様たちには事前に根回ししている

 

百は釈然としないまま、右手一本で食べ始める。ただ、ナンを千切るのに苦戦はしていた。一度いうと直すので、折角作ったハエ叩きの出番がなくて悲しい。

 

夕食が終わったタイミングで問答無用の銃での発砲を行う。

 

「読んでいましたわ!!」

 

百は咄嗟に椅子を盾にして弾丸を凌ぐとそのまま食堂から飛び出していく。銃と弾丸は今宵が個性で作ったもので、当たっても最悪死にはしない。普段は血の難燃性を上げているが、逆を行えばこの様なものも作れる。

 

「お嬢様も、腕を上げられましたね。喜ばしい事です。それでは旦那様、奥方様、失礼いたします」

 

一礼をし追撃に移る。食堂を出ると同時に血を走らせる。ただし、見つけても攻撃はしない。攻撃は手の銃でのみ行う。索敵系個性ヴィランとの戦闘を模した疑似実践。当然、百には制限或いは前提を伝えていない。ヴィランの個性が分かってしまうと意味が少なくなる。相手の個性を推定する訓練でもあるのだがら。

 

勝利条件は相手を戦闘不能にすることだが、生憎個性無しでも負けたことがないので、百も馬鹿正直には来ない。

 

こうして、地獄の鬼ごっこが始まった。

 

 

後に残るのは壊れた屋敷だけである。

 

 

 

 

ところで、修繕費は誰が出すのだろうか?

 




学校にて

「ココアですか。珍しいですわね」

「あれ?」

「・・・・これ、ココア味のプロテイン」
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