プルスリー・ストーリー   作:ガチャM

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「プルスリー・ストーリー そらをかける姉妹」

舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。

長物守:作
ガチャM:挿絵 (twitter @nagamono)

■デザイン協力 
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第1回「温泉でプルプル」

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 サイド1……そこは、宇宙移民にして棄民たるスペースノイドの、始まりのソラ。一年戦争で激戦区だった、宇宙要塞ソロモンが存在していた宙域でもある。

 現在は、各サイドにネオ・ジオン軍が展開中だ。交渉や取引、そして武力行使……手段はどうあれ、再びジオンの旗は打ち立てられた。ここではエゥーゴも連邦軍も、歴史的背景もあって大きな作戦行動が取れないのだ。

 

「あら、なかなかいい部屋ね」

 

 妹達を伴い、プルスリーはサイド1のエルドラドを訪れていた。黄金郷の名に相応しく、コロニー内部には自然が豊富で観光名所も多い。歓楽街と免税店、そして大型リゾート地が待ち受ける中、彼女が選んだのは……温泉である。

 今、親衛隊の面々は約半数が慰安旅行に来ていた。強化人間の精神安定のためでもあり、言うなればプルシリーズのメンテナンスだ。

 部屋の鍵を預かるプルスリーは、大きな和室を横切り窓を開ける。

 プルナインがすぐに駆け寄り、身を乗り出す。

 

【挿絵表示】

 

「わーっ! 見て見て、お姉ちゃんっ! ほーらっ、イレブンも!」

「ナイン姉さま……コロニーの景色なんて、どこでも変わらないと思いますけど」

「そんなことないよー! それにほら! 庭っ! 庭がなんか凄いよー」

「枯山水ですね。日本の伝統的な造園文化です」

 

 はしゃぐ妹達を見て、自然とプルスリーは頬が綻ぶ。

 それは、荷物を運んでくれてるプルフォウやプルナインも同じようだ。

 だが、無理に笑うプルフォウが胸中に霧を満たしている。

 それは黒く煙っていきそうな、不安。

 

「プルフォウ、心配しなくても大丈夫。プルツー姉さん達なら、きっと上手くやるわ」

「でも……心配だな。一気に半数近く、親衛隊のパイロットが」

「戻れば、次はわたし達でプルツー姉さん達の休暇中を戦い抜かなきゃいけないのよ?」

「うっ、そうだった……なら、英気を養っておかないと」

「そういうこと」

 

 プルフォウは姉妹の中でも、特別に広い感性を持っている。そう、鋭いのとも違うし、研ぎ澄まされた感覚とは別物だ。静かに広がり浸透して、些細なことも拾い上げる。そういう子なのだとプルスリーは思っていた。

 そんなことを考えていると、プルエイトの声が小さく叫ばれる。

 

「まあ! プルナイン、あなたなにを……ちょ、ちょっと待って、いいから待って!」

 

 なにかと思って視線を滑らせると、淡雪のように白い肌が目に入ってきた。

 プルナインは既に、着ていたシャツもスカートも脱いでしまった。勿論下着も。そうして、この旅館に備え付けの寝巻きを手にしている。

 呆れて固まったプルイレブンを尻目に、プルナインはニパッと満面の笑みだ。

 

「これ、キモノだよね! 日本のキモノ! ナイン、知ってるよ? キモノはね、下着はつけないの!」

「ああもうっ、ナインったらどこでそんな……いいからちょっと待って、今すぐ着せてあげるから」

 

 すぐにプルエイトが、落ちている帯を拾って駆け寄る。

 プルナインは寝間着を羽織って嬉しそうに笑っていた。

 

「いい、ナイン。下着をつけないのは大昔の話。昔には昔の、その、あったのよ。下着的なものが」

「そうなんだあ。キモノ用の? ふむふむ」

「それと、これはユカタっていうのよ? キモノの一種で、こうして寝巻きに使うものから、夜祭に着ていくものまであるの」

 

 プルエイトは一生懸命、プルナインにユカタを着せようとしている。だが、可憐なプルナインはあまりにも華奢過ぎた。まだまだあどけない表情とは裏腹に、スレンダーな肉体は女性らしさを帯び始めている。

 プルスリーは姉妹の体調管理も仕事で、妹の成長は素直に嬉しかった。

 見かねたプルフォウが口を挟んで、次いで手を貸し始めた。

 

「待って、エイト。ナインはウェストが細過ぎるのよ。確か、こういう時はタオルとかを巻けば……このままじゃ、いくら着せてもずり落ちてきちゃう」

「そうね。……ちょっと、悔しいわ。わたくしってば、体型維持には凄く気を使ってましてよ?」

「同じ強化人間の姉妹でも、体質ばかりはね。さ、これでいいわ、ナイン」

 

 部屋に備え付けのタオルを使って、ようやくプルナインにユカタを着せることができた。

 プルナインは、その場でクルリと回って嬉しそうに笑った。

 

「ありがとっ、フォウお姉ちゃん! エイトお姉ちゃんも!」

「よかった、ナイン嬉しそう。さて、私達も着替えましょうか。エイトは……普通に着れるわよね? ユカタ」

「ええ、残念ながら。苦労に苦労を重ねていても、わたくしのウェストときたら。ま、まあ、誤差の範囲! 許容範囲内です!」

 

 クスクスと笑うプルフォウに背を向け、プルエイトも着替え始めた。

 

【挿絵表示】

 

 プルスリーも荷物をまとめてチェックすると、プルイレブンからユカタを受け取る。

 今日から二泊三日の慰安旅行、姉妹水入らずである。本当は全員で来たかったのだが、栄えある親衛隊がミネバ・ザビ殿下の守りを疎かにはできない。それで、隊を二つに分けて交互に旅行することになったのだ。

 このエルドラドが選ばれたのも、比較的ネオ・ジオンへの心象がよい平和なコロニーだからである。

 

「そういえば、こういうのを日本ではトージっていうのよね」

「トージ? スリー姉さん、詳しいの?」

「あら、プルフォウ。わたしの専門はメディカルケアよ? 昔から温泉は、薬学的にも効果のある療法だわ」

「そうなんだ……ふふ、じゃあ姉妹がそろってお風呂好きなのって」

「オリジナルの因子が影響してるんでしょうね。でも、同じ趣味は家族って感じがして嫌いじゃないわ」

 

 手早くユカタに着替えて、鏡の前に立つ。

 子供ばかり五人での外泊だが、ジオンシンパの旅館なのでセキュリティは大丈夫だろう。あとは、親衛隊として節度のある行動を心がければいい筈だ。なにより、せっかくだから少しだけ軍務を忘れるのもいいだろう。

 

「ねえっ、温泉いこ! 温泉っ! 早くー!」

「ナイン姉さま、はしゃぎ過ぎ……」

「ほーらー、イレブンも早くっ! ナインが背中、流してあげるねー」

「ちょっと待ってください。今、温泉の成分をネットで調べてますので」

 

 プルイレブンは、手にしたタブレット端末に指を滑らせる。

 本来、温泉とは地下水が地熱で温められたものである。場所によって、鉱物資源が溶け混じった状態になり、様々な成分が含まれる。効果は千差万別だが、健康によいとされていた。

 だが、このエルドラドはスペースコロニー……人間が星の海に浮かべた人工島である。それでも、こうして観光施設を数多く整備してるからには、ただの真水を沸かしているだけでは芸がない。

 

「あ、出ました。エルドラド、ネオ・キヌガワ温泉……泉質はアルカリ性単純泉、火傷に対する効能がある。ふむふむ……あ、お姉さま方。こちらの公式サイトにお得なクーポンが」

 

 また、プルイレブンの癖が始まってしまった。

 普段からモビルスーツのOSやコンソール、アビオニクス等をプルイレブンは手がけている。コンピュータのプロフェッショナル故か、ネットに接続してしまうと長いのだ。場合によっては、半日間は電子の海から戻ってこない。

 だが、そうはさせまいとプルエイトがタブレットを取り上げた。

 

【挿絵表示】

 

「ほらほら、イレブン? こんなとこに来てまでネットばかりするんじゃないの」

「あっ、待ってください。今丁度、気になるアプリがあったので」

「えーと、どれどれ……やだ、カラオケ一時間無料券? ふーん、そういうのもあるのか。この、マッサージチェアというのは? 興味深いわ、日本の温泉て奥が深いのね」

「か、返して、ください……」

 

 スタスタと畳の上を歩きながら、プルエイトがタブレットを操作する。

 その背後を、あうあうとプルイレブンが追った。

 なにか気になる情報を探しているのか、プルエイトの細く白い指が画面を走る。

 

「……美肌効果とか、ないのかしら? 折角の温泉なんですもの」

「人工温泉です。科学的に成分を調合した水ですから」

「ま、それもそうね。はい、イレブン。それ、そろそろ充電切れるわよ?」

「あっ。……エイトお姉さまがあちこちアクセスするからです」

 

 バタバタとプルイレブンは、自分の荷物から充電ケーブルを取り出す。

 その間にもう、全員が温泉へ行く準備を済ませてしまった。

 夕暮れ時だった外の景色も、今はゆっくりと宵闇に包まれてゆく。

 

「さて、じゃあ先にお風呂にしましょうか。夕食は部屋に運んでもらえるから」

 

 プルスリーは一応、年長者として部屋の鍵を預かる。

 姉といっても、同じロットで製造されたプルシリーズの姉妹でしかない。カプセルを開ける順番が早かっただけかもしれないのだ。

 だが、妹達の世話を焼くのは嫌いじゃないし、いつもプルツーが自分にしてくれているように振る舞えばいい。ニュータイプ能力をキルマシーンに落とし込んだだけの自分でも、姉と妹は大事な家族だ。

 プルフォウが人数分のアメニティと、大小のタオルを準備してくれた。

 

「よし、じゃあみんなで行こうよ。今日は観光シーズンからもズレてるから、意外とガラガラにすいてるかも」

 

 真っ先に飛び出したのぱプルナインで、彼女は待ちきれないみたいだ。

 こうしてプルスリー達は、短い休暇で自分達を癒やして休めるのだった。

 

 ***

 

 スペースコロニーにも夜はある。昼と夜の狭間、宵闇を迎える逢魔が時があるのだ。巨大な円筒状の構造物の、その内側から見上げる景色は不自然に過ぎる。

 だが、プルスリーと妹達は、どこまでも青い空や、透き通る夕暮れは見たことがない。それでも、人工の閉鎖空間に再現された自然は感動を禁じえなかった。

 

「うわーっ! 広い! ひっ、ろーい!」

 

 旅館の露天風呂には、宿泊客の姿はなかった。もとよりシーズンオフ、大きな連休のない時期である。加えて言えば、プルフォウがわざわざ調べてくれた、客足の鈍る季節だからだ。

 露天風呂を前に歓声をあげるプルナインに、誰もが自然と頬を綻ばせる。

 勿論、プルスリーも日本固有の文化に触れるのは初めてだった。

 プルスリーもそうだが、スペースノイドにとってバスルームとは密閉空間だ。軍艦として建造された宇宙船の中では、水は酸素の次に貴重なものである。それを大量消費するバスルームは、流れて落ちる湯を無駄にせぬ構造になっていた。

 

「凄いわね……庭にお風呂があるわ。わざわざ外に、お風呂を作ってる」

 

 プルスリーにとって、湯気を燻らす露天風呂の存在は驚きだった。

 眼の前では今、飛び込もうとするプルナインをプルイレブンが引き止めている。二人とも胸元にバスタオルを結んでいるが、それが解けてもおかしくないくらいだ。

 天真爛漫なプルナインにとって、目の前の絶景は魅力的に映っただろう。

 プルスリーも、雅な空間に広がる露天風呂に言葉を失っていた。

 

「スリー姉さん、あの……止めないと、ナインが」

「え? あ、ああ、ええ。そうね、まずは身体を洗わないと」

 

 いわゆる、プルシリーズとして連番でナンバリングされている少女達。その一人であるプルスリーにも、皆が姉妹だという感じる共通の趣味があった。

 どういう訳か、プルスリーを含む姉妹はお風呂が異様に好きだ。咎められないなら、二時間くらいは平気で入り浸ってしまう。

 その不思議な共通点を、今まで誰一人として真剣に考えたことはなかった。程度の差こそあれ、姉も妹もお風呂が好きなのだ。それは、単純に心身の清潔さを保つ以上の価値を見出しているからだ。

 

「見事なものだわ……でも、屋外にバスルームを作る感覚は、少しわからないわね」

「まあまあ、スリー姉さん。これが東洋の島国、日本の文化なんだよ。きっとね、きっと……そういう、おおらかな国なんだと思う」

 

 プルフォウがそう言うので、不思議とプルスリーも納得してしまった。

 とどのつまり、完璧に整った美の結晶である日本庭園に、粋を凝らして風呂を作る……そして、その両者が調和した中で入浴するのだ。

 改めてプルスリーは、旧世紀から続く日本の伝統を感じた。

 だが、まだまだ幼い妹達は好奇心に瞳を輝かせている。

 

「あ、そっか。そだね……行こう、イレブン! ナインが背中、流したげる!」

「ひ、一人でできますから。その、引っ張らないで、ください」

「いーから、いーから!」

 

 プルエイトも、妹達を追って洗い場へと向かう。

 蛇口やシャワーも、全て巨大な岩の壁面についていた。ここには、自然界にないものは極力置かないようにしているのだろう。屋外であることも手伝って、不思議な開放感が心地よい。

 そして、自分もまた生まれたままの姿なので、自然の一部のように感じられるのだ。

 

「スリー姉さん、私達も行きましょう」

「ええ」

 

 すぐにプルイレブンは、プルナインによって全身を泡立てられていた。どうやら観念してしまったようで、おとなしく座っている。

 姉妹達に並んで座れば、プルフォウはすぐに隣のプルエイトが持つ入浴道具に夢中だ。

 

「えっ、これ……新作? どこの?」

「これは地球産ですわ。少し高価ですけど、シャンプーやトリートメントにはこだわりたいもの」

「エイトは確かに、表に出る仕事が多いものね」

「使ってみてくださいな、フォウお姉さま。こっちのオレンジの香りもオススメですのよ?」

「た、沢山持ってるのね……」

 

 プルエイトはパイロットと共に、女優の仕事を両立させている。それは諜報活動の一旦であるが、彼女自身の夢でもあるようだ。姉妹の健康面に関してはプルスリーの担当だが、お年頃な妹達のお洒落に関してはプルエイトの分野である。

 プルスリーも勧められるままに、プルエイトからシャンプーのボトルを受け取った。

 

「これは、薔薇の香りね。いい匂い」

「スリーお姉さまもフォウお姉さまも、仕事には熱心なのに……身だしなみは少し、いいえ、全然疎かですわ。いい機会です、少しお二人には女を磨いていただきますの」

「そ、そんなにかしら? ……そりゃ、不衛生でなければ特にとは思うけど」

 

 プルフォウも、右に同じくと首を横に振った。

 そうして、ついには身の回りの化粧品や下着の話に花が咲き、同じ姉妹でも随分違うものだと笑い合った。

 ゆったりとした時間が流れてゆき、徐々に人工太陽の光が弱まってゆく。

 その最後の残照が消え入る頃には、プルスリーは妹達と身体を湯に浸していた。少し肌寒くなってきた分、温泉の湯は格別だった。

 

「はぁ、生き返る……露天風呂っていいものね」

「うわっ、スリー姉さん。そういうこと言ってると、早く老け込んじゃうよ?」

「あら、それは困るわね。でも、人工的に配合した湯でも、温泉は格別だもの」

「スリーお姉さまには少し、自分の美貌を自覚してもらう必要がありますわね……」

 

 プルフォウとプルエイトに挟まれ、そうなのかしらとプルスリーは首を傾げた。

 基本的に全員、同じ顔をしているのだから、それを言うならばプルエイトだってそうだ。だが、そのプルエイトは女優業で己の美しさを活用している。それに、若いパイロット達の間では、プルフォウなどは人気があるという噂もあった。

 戦場で、小さな少女パイロットの姿は目立つ。どこに行ってもプルスリー達は、好奇心と畏怖、そして畏敬の念が籠もった視線を浴びた。強化人間はモビルスーツ隊の切り札である。女神のようにありがたがる者がいれば、バケモノのように嫌悪する者もいる。

 そんなことを思い出していると、突然背後からプルスリーは抱きしめられた。肩越しに振り返れば、プルイレブンがジト目で見詰めてくる。

 

「ど、どうしたの? ちょっと、イレブン……手が」

「……大きい、です。凄く、大きいです」

「この子ったら、もう」

 

【挿絵表示】

 

 プルイレブンの両手は今、豊かに実ったプルスリーの胸の双丘を掴んでいた。確かに、彼女の小さな手に余る程度には、丸みを帯びて形良く並んでいる。

 プルイレブンはムムムと唸って離れると、次はプルエイトの方へ向かった。

 

「エイト姉さまも、なかなか……」

「あら、それならフォウお姉さまも凄いわよ? ほら」

「私? あ、こら、イレブンッ!」

 

 順々に姉の胸に触れてみて、最後にプルイレブンは自分の薄い胸に手を当てた。そして、溜息。

 なるほど、どうやら彼女は自分の発育が悩みのタネらしい。因みに、先程から泳いだりしてはしゃいでるプルナインは、プルイレブンにとっては調べなくもいい存在らしい。確かに姉妹でも、体格や発育、そして性格には個体差があった。

 

「私も、胸……大きく、なるでしょうか」

「大丈夫よ、イレブン。まだ思い悩むような時期じゃないわ」

「でも、姉さま達は、立派……ナイン姉さまはまあ、置いとくとして」

 

 その時、プルエイトの爆弾発言が投下される。

 

「……殿方に揉んでもらうと、大きくなりますわ。そういう話を以前、少し」

「おお……つまり? じゃあ、姉さま達は」

「ち、違うわよ! 大きさで言えば、フォウお姉さまやスリーお姉さまの方こそ怪しいわ」

 

 親衛隊の健康管理もプルスリーの仕事なので、妹達のスリーサイズは知っている。確かに、自分やプルフォウは少し早熟なようだ。クローンとして同じ遺伝子配列で作られても、カプセル内での成長はまちまちだ。その上、皆がそれぞれ違う任務についてきたから、その環境の違いも影響してくるだろう。

 その時、ザバッ! とプルナインが立ち上がった。裸の彼女は、ついと手を伸ばして空を指差す。

 

「見て見て! 凄い夜景っ!」

 

 誰もが天を仰いだ。

 そこには、空を挟んで回転する町並みの光があった。スペースコロニーの空は、その向こうに地続きの都市が広がっている。ネオンの光が無数に連なる街明かりは、まるで満天の星空だ。

 

「綺麗ね……」

 

 思わずプルスリーも見惚れてしまう。

 あの光の一つ一つが、スペースノイドとして生きる人間の営みだ。その数だけ、命が今も生きている。虚空の宇宙は冷たくて暗くて、そして果てがない。こうして仮初の大地を得ても、その外には暗黒の宇宙が広がっているのだ。

 丸い地球の大地と同じだが、コロニーの丸みはその内側に人間達を閉じ込め守る。見上げる空すら、互いの頭上の間に漂っているのだ。

 

「守らなきゃ、ね……あの人達を。その一人一人を。それがきっと、ミネバ様の願いだから」

 

 プルフォウの言葉に、誰もが頷く。

 プルスリーもまた、妹達と同じ想いを共有し、それを互いの中に再確認するのだった。


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