プルスリー・ストーリー   作:ガチャM

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「プルスリー・ストーリー そらをかける姉妹」の特別編です。プルツーが主役の、プルプルズがスーパー銭湯に行くエピソードです。


作:長物守 https://www.pixiv.net/member.php?id=995651
絵:かにばさみ https://www.pixiv.net/users/2672123
  ガチャM 

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 http://www.pixiv.net/member.php?id=2672123
ねむのと 9 https://www.pixiv.net/users/1877923
おにまる 10 https://www.pixiv.net/users/587268
センチネルブルー 6 https://www.pixiv.net/users/11990508
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002

※Pixivにも投稿しています。


特別編「プル姉妹のスーパー銭湯」第2話

    2

 

 

 脱衣所で着衣を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。すらりと均整の取れた肢体を、プルツーは大きめのタオルで隠した。

 妹のプルフォウやプルイレブンも、同様に胸から下を覆う。

 だが、女性として当然の所作も、ミネバには通じない。

 ジオンの姫君である彼女には、俗世の社会通念や常識がないのだ。

 

【挿絵表示】

 

「姫様、少しは御身をお隠しください」

「どうした、プルツー。女同士であろう」

「そうではありますが」

「皆も、なにが恥ずかしいのか。ふむ」

 

 高貴なる身分、やんごとなき方であるミネバには、あまり羞恥の気持ちがないらしい。それも当然で、侍女たちに着替えから入浴、就寝までずっと世話を焼かれているのだ。

 時々プルツーは、彼女の窮屈な毎日を聞かされていた。

 周囲の大人は、ミネバをまさしくお姫様に仕立て上げていたのである。

 古来より、身分の高い人間は様々な欠落を抱えるものだ。

 

「失礼します、姫様」

「ん、わかった。大丈夫だ、自分でやる。ここをこう、だな?」

「結構です」

 

 見様見真似で、ミネバもタオルを身体に巻き付ける。

 周囲を見渡せば、既に客入りが先程より増したようだ。士官服や整備班の作業着等、様々な女性が老いも若くも賑わっている。

 脱衣所が混雑しはじめたので、プルツーは皆を促しのれんをくぐる。

 湯けむりに満ちたその奥には、とても綺羅びやかな世界が広がっていた。

 

「これは……見事なものだな、プルツー。まるで、ローマ帝国のテルマエではないか」

 

 感嘆の声をあげるミネバの、その身体を隠すタオルがずり落ちる。やはり、自分が結んでやればよかったと思いつつ、プルツーはそれを拾い上げた。

 だが、ミネバは自分の裸体が顕なのにも気付いていない。

 瞳を輝かせる彼女は、そのままゆっくりと浴場内部を一望した。

 

「姫様」

「ん? あ、ああ、すまない。しかし、これは確かに気持ちがほぐれよう。行き来する兵たちも皆、くつろいでいるようだ」

「はい。さ、これで大丈夫です」

 

 改めてプルツーも、ミネバと並んで施設内を見渡す。

 つい、警備上の穴はないかと目元を険しくしてしまい、これはいけないと溜息を零す。妹のプルイレブンが構築したセキュリティは信頼できるし、護衛とはいえ無駄な緊張感を出してはミネバが気疲れする。

 それに、浴場はとても清潔感があって、豪華絢爛とまではいかないが華やかだ。

 

「む、あれは。プルツー、あれは私もどこかで見たことがあるぞ」

「ああ、ええと確か」

 

 奥には浴槽があって、モビルスーツデッキのカタパルトよりも広い。湯の熱さごとに仕切られており、中央にはたっぷりとした湯を吐き出すオブジェが鎮座していた。

 恐らくプルフォウの趣味なのだろうが、古いモビルアーマーを模した金の彫像である。

 早速プルフォウが解説してくれた。

 

「姫様、あれは宇宙戦用試作型モビルアーマー、MA-04Xザクレロです」

「ザク……ではなく、ザクレロ、なのか」

「はい! 現在も我が軍では、大型モビルアーマーの一騎当千機としての運用が研究されているんです。物量で劣るジオンにおいて『質で量をカバーすること』も大事ですので」

「しかし……ううむ」

「あっ、いえ! ちゃんとモビルスーツの増産体制も整ってますし、数においても決してそこまで劣っている訳では……ガザ・シリーズ等の生産性を重視した期待も――姫様?」

 

 腕組み唸ってしまったミネバは、キリリと引き締めた真顔を向けてくる。

 プルツーも当然、ジオンをあんずる言葉が発せられると思った。

 だが、ここではミネバはただの10歳の女の子に過ぎなかった。

 

「ザクはわかる。世界初の制式採用された量産型モビルスーツだな。よく知っている」

「はあ、では」

「レロ、とはなんなのだ?」

「えっ?」

 

 風呂の熱気が一瞬、プルツーには感じられなくなった。

 真顔でミネバは、語り続ける。

 

【挿絵表示】

 

「考えてみれば、連邦のガンダム、これもだ。ガンはわかるが、ダムとはなんなのだ」

「あ、あの、姫様……」

「プルフォウ、そなたはモビルスーツ開発に詳しいのであろう? レロとはなんなのだ。ダムとは」

「い、いえ、それはですね……」

 

 助けを求めるような視線が、プルフォウから発せられる。それを浴びてつい、プルツーは目を逸した。

 正直、全くわからない。

 そんなの、開発した人に聞いてほしいものだ。

 だが、既にザクレロに関する資料は散逸しているだろうし、開発に関わった者たちも存命かどうか……それに、ジオンの兵器に関する命名規約は、どこで誰が決めてるのかすらわかっていない。ある意味、ジオン七不思議の一つとも言える。

 純真な好奇心の刃で、プルツーとプルフォウが串刺しになっていた、その時だった。

 

「姫様ー! お姉さまたちも、こっちですよー! こっち、すいてます!」

 

 プルイレブンが、向こうで手を振っている。

 どうやら、人数分の洗い場が確保できるらしい。

 瞬間、プルツーはプルフォウと目配せして、頷き合った。

 

「やあ、これはよかった! 本当にプルイレブンは優秀な妹だなあ」

「ええ、そうですね! では参りましょう。ささ、姫様も」

「ま、待て、そう押すな。それより、レロは」

「湯船につかる前には、身体を洗うのがマナーですからね。行きましょう!」

 

 やや棒読みになってしまったが、ごまかすことができた。

 手を引き背を押して、なんとかミネバをザクレロから遠ざける。そんな少女たちを、どこかいやらしくさえ見える目つきで、金のザクレロは見送ってくれた。

 そして、目立たぬ隅の方に四人で並んで座る。

 プルフォウがバイザー状のデバイス操作する。アクセス音が小さくPi! と響いて、個々の蛇口同士を仕切っているパーテーションが折りたたまれた。

 いわゆる一般的な公共浴場と変わらぬ状態になったが、ミネバには珍しいようだ。

 

「ふむ、ここからここまでが、一人分のスペースなのか? ……随分と狭い中で身体を洗うのだな」

「それは、まあ……姫様が使われてる宮殿のお風呂に比べれば」

「なるほど。だが、機能美だな。コンパクトに水と湯の蛇口、シャワーがまとめられている。石鹸や整髪料も備え付けのものがあるな」

「ジオンでは福利厚生も力を入れてますから」

 

 軽く椅子をシャワーで流して、ミネバを座らせる。

 すぐにプルイレブンが、持参したスポンジを手に笑顔を咲かせた。

 

「姫様、お背中お流しします! えっと、ボディソープは最近これが評判いいですよ」

「あ、いや、一人でできる。そう構ってくれるな。気持ちだけ」

「いーえっ! 姫様が侍女たちにかしずかれなくても、御自身でなんでもできるのは知ってます。でも、銭湯では親しい者同士で背中を流し合ったりするものなんです!」

 

【挿絵表示】

 

 すぐにプルフォウが「こら、イレブン?」と釘を差した。

 だが、ミネバは意外そうに目を丸くして、そして笑顔になった。

 

「そうだったか。そうか、そうなのだな! うん、では頼もう」

「はいっ!」

「そうか……これは、うん。ふふ、嬉しいものだな」

 

 ミネバの笑顔に、プルツーも安堵する。そして、改めて知らされた……やはり、ミネバには周囲に同世代の子供が必要なのかも知れない。そしてそれは、自分たちのような戦うための人造ニュータイプ、強化人間ではない。もっと自然で、情緒や教養の豊かな人間でなければいけない。

 ジオンのために手を血で汚す、そんな子供ではふさわしくないような気がした。

 そんなことを思っていると、プルイレブンは自前の小さな籠をガチャガチャ言わせる。いくつものボトルが入っていて、とても一回の入浴で使う量とは思えない。

 

「さ、姫様。あっちを向いてください。今日は地中海オレンジの香りを使いましょう!」

「た、沢山持っているのだな」

「試供品とかもあるんですけど、最近凝り始めたらやめられなくて。私、お風呂大好きなんですっ」

 

 そういえば、オリジナルのエルピー・プルも、入浴が大好きだったと聞いている。総じて、プルツーの妹たちは皆が皆、入浴を好んだ。勿論プルツー自身もである。

 そんなことを考えていると、ミネバは自分でもスポンジを手に取る。

 

「他には、どんなものがオススメなのだ? プルイレブン」

「はい、この赤の容器は薔薇の香りです。保湿成分が肌をしっとりと潤わせて……で、この緑の容器は、美容効果が高いアロエ抽出物をベースにしたものです。今、成分表の表示を」

「い、いや、そこまでは……ふふ、ではこれにしよう。プルツー、背を向けるのだ」

 

 一瞬、耳を疑った。

 だが、当然のようにミネバはスポンジにボディソープを出して泡立てる。

 

「い、いえ、それは流石に恐れ多く」

「そうかしこまるな」

「無礼でありましょう。ジオンの姫君に、自分の背を流させるなど」

「無礼というなら、既に無礼千万。だが、今日は無礼講というものだろう。親しい仲同士でそうするなら、プルツー……いつも私を守ってくれる親衛隊には、こうするべきだと思う」

「は、はあ。では」

 

 渋々、プルツーは背中を向けた。その頃にはもう、プルフォウがせっせとプルイレブンの背を流してやっている。

 なんだかこそばゆくて、新しい妹が突然できてしまったような気がした。

 その考え自体が不敬なのだが、ぎこちないミネバの手付きは優しく、妹たちと同じ生身の人間のぬくもりに満ちあふれているのだった。

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