作:長物守 https://www.pixiv.net/member.php?id=995651
絵:かにばさみ https://www.pixiv.net/users/2672123
ガチャM
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3
裸の付き合いという文化が、東洋の島国にはあるらしい。
言い得て妙だと、プルツーはそのことを思い出していた。互いに裸ならば、武器を帯びていないことも、敵対の意思がないことも明らかなのだから。
勿論、プルツーは無手の格闘術も訓練されている。
それでも、互いが裸であれば争う気にはなれないだろう。まして、広く美しい浴室でとなれば尚更である。プルツーや妹たちは無類の風呂好きだが、そうでなくても戦う場所でないことは理解できる筈だ。
「ふう。そういえば最近は忙しくて、シャワーで済ませていたな」
プルツーは多忙だ。
こうしてゆったりとした湯船に身を沈めるなど、久しぶりである。それも、大切な妹たちと一緒で……さらにもう一人。ちらりと見やれば、ミネバも周囲と打ち解けたようすでくつろいでいる。
頭部のバイザーがあるため、周囲の兵士たちにも身分が割れる心配はない。
年頃の乙女に戻れたミネバは、ごく普通の女の子を満喫しているようだった。
そんな時、そっと隣のプルフォウが耳打ちしてくる。
「プルツーお姉さま、他にも趣向を凝らしたお風呂が沢山あるんです。行ってみませんか?」
「あ、ああ……確かに。ここでゆるりとしてると、のぼせてしまいそうだ」
広い湯船は、そこかしこで兵士たちが気持ちをリラックスさせていた。ネオ・ジオンには意外と女性兵が多いのだなと、プルツーも意外な気付きに驚く。
ここはオーソドックスな湯船だが、奥のエリアには様々なコンセプトの風呂があるらしい。早速、プルツーはミネバにも声をかける。
「姫様、他にも多種多様な風呂がある様子。よければ、そちらも視察してみては」
「ん? おお、そうか。それは楽しみだ。うんうん、公衆浴場というのは実によい」
「それはまた、意外に満喫されてるようで」
「侍女たちが緊張して見守る中で、くつろげると思うか? 私はいつも、風呂で気が休まらない」
「お察しします、姫様」
すぐに四人は立ち上がる。
バイザー状のデバイスでインフォメーションを確認し、風呂道具を持って奥へ向かう。プルツーはすぐに、視界に表示される一覧表の中に奇妙なものを見付けた。
「ん? なんだ、この……スライム風呂というのは」
すぐにツツツと、プルフォウが肩を寄せてくる。
妹はプルツーにだけ聴こえる声で、手短に説明してくれた。
「ファイブが考えたんです。その……一種の泥エステみたいなものというか」
「……ここには姫様を向かわせない方がよさそうだ。なにか悪い予感がする」
「ニュータイプの直感、とも違うんですが……私もです」
だが、既に遅かった。
すぐ前を歩くミネバは、楽しそうにプルイレブンと話しているが……その話題が、今しがたわかったスライム風呂とやらへ及んでいた。
「むむ、スライム風呂……イレブン、これはどういうものか」
「ええと、確か……ファイブ姉さまが企画したものだったと思います、けど」
「なるほど、見聞してみよう。百聞は一見にしかず、だな」
「はいっ。ええと、こっちの方ですね」
止める間もなかった。
そして、こちらのエリアはそれぞれコンセプトの異なる浴場が点在している。その中でも、端の方になんだか奇妙な風呂がある。
そこだけなんだか、どんよりとした雰囲気が漂っていた。
ただ、腕組みして立ってる少女だけが満面の笑みである。
それは妹のプルファイブだった。
「あっ、ツー姉! フォウ姉も! イレブンまで。で、そっちは……?」
どうやらミネバのことがわからないようだ。
だが、ミネバがバイザーのスモークモードを解除するより早く、プルファイブはニシシと笑って……そう、笑って大変なことをしでかしてくれた。
「どこのー? かわいこっ、ちゃんっ、か、なーっ! それ!」
あろうことか、プルファイブが両手でミネバの胸に触れたのだ。バスタオルの上からだが、軽く揉んでフムフムと訳知り顔である。
流石のミネバも、驚くあまりに言葉を失っていた。
「あれ? 妹たちじゃないなあ……ツー姉、この娘、誰ちゃん?」
「……それを知ったら、お前は間違いなく取り返しのつかないことになるぞ。いいから離れろ。ん、そうだ
な……まあ、今ちょっと私はさる御方の接待中なのだ」
「ああ、そういうやつ! 高官の娘さん的な」
「そんな感じだ。で? ファイブ、お前のスライム風呂とやらには入浴客がいないようだが」
それもその筈、目の前の湯船にはなんというか、普通じゃないなにかが満たされている。天然の温泉ならば、白濁とした湯もあるし、酸性のものもある。だが、スライム風呂には明らかに名状しがたい謎の粘液が充填されていた。
それも、ちょっと光沢のある半透明の緑色なのだ。
「フッフッフ、ツー姉! オレは兵士たちのための入浴施設と聞いて、考えたっ! これは元々、開発中のレーション、チューブで飲むタイプの総合栄養ゼリーなんだけど」
「何故それを風呂に使おうと思った……あたしは頭が痛くなってきた」
「まあまあ。身体に悪い成分じゃないし、粘度の高いジェル状のお湯には、浴槽内の装置からの超音波で振動するマッサージ効果があるんだ。しかも」
「しかも?」
「なんか、ロマンじゃない? こう、スライムうねうねーに襲われて美少女がキャー! っての。そんな訳でツー姉、是非試してみて! 身体にはいいから!」
却下である。
勿論、ミネバにも自重してもらおう。
先程胸を揉まれて驚いてたミネバだが、声を荒げたり忌避の感情を見せることはなかった。突然のことで混乱してるのもあるのだろうが……プルファイブがあまりに無邪気に笑うので、怒る気にならないのだろう。
プルファイブはいつも溌剌としてて、悪戯も失敗も不思議と許せてしまう。
この子の笑顔は値千金だなと、プルツーも苦笑するしかないのだ。
そんなことを考えていると、プルフォウが湯船を覗き込みながら眉根を寄せる。
「そういえば、開発チームのどこかで、実用化の目処が立たなかった栄養食の話があったような気がするわ。……それを、ここに? スライム風呂……ゴクリ」
ウンウンと頷くファイブが、さらに入浴を勧めてくる。
だが、その時プルイレブンが機転を利かせた。
「ファイブ姉さま、一緒に入ってみましょうよ。まずはどうぞ、お先に」
「そぉ? いやー、でも姉妹でお風呂って久しぶりだよね! じゃあ、どれどれー」
躊躇なく、プルファイブが片足を突っ込んだ。弾力のある表面張力が、そのまま彼女を飲み込んでゆく。あっという間にプルファイブは、首まで浸かってしまった。
「どぉ? こうして浸かるとお湯自体が揺れてマッサージ効果が……あ、あれ? いや、ちょっと待って!? ……ヒッ! は、入ってきたぁ」
「ファイブ姉さま?」
「い、いや、ちょっと色々やばいっていうか、ンギギ……おかしいな、動きが変、っん!」
ファイブの声が、甘やかな湿り気を帯びてゆく。
慌ててプルツーは、そっとミネバの視線を塞いだ。逆にプルフォウは、何故か興味津々といった具合でスライム風呂を覗き込んでる。
「あらあら、なんだか大変ね。でも、安心してファイブ。需要はあるわ、需要あるから!」
「需要、って、そんな……ひあっ!?」
プルファイブの全身を、まるで意志ある生き物のように粘体が這い回る。その小ぶりな胸に吸い付くように蠕動したかと思えば、いやらしい音を粘らせて股間へも注がれてゆく。
そして何故か、頬を赤らめつつもプルフォウは目が離せないようだ。
プルイレブンに至っては、若干呆れ気味である。
「ん、くぅ! や、やだ……動きが、激しく……た、たしゅけて、フォウ姉ぇ~」
「だそうですけど? フォウお姉さま」
「うわ、結構エグい動き……へ? あ、ああ、ええ! そうね、でも楽しそうだし! 私たちは次のお風呂に行きましょ。流石に姫様には刺激が強過ぎるし」
身悶えながらも、どうにかプルファイブはスライム風呂から出ようとあがく。しかし、暴れれば暴れるほど、ねっちりと絡め取られて全身をマッサージされているようだ。
「いやちょっと待って、オレを助けて……ほへ? 今、姫様って……アッー、ちょ、ちょっと、本当にヤバい感じなんですけど! ッ、ヒゥ! そ、そこは……!」
だんだんと喘ぐ声が切なげに湿ってくるのだが、まあプルファイブなら大丈夫だろう。
プルツーもプルフォウと共に、ミネバを次の風呂へと案内することにした。
次は少しまともなものをと検索すれば、妹の悲鳴は徐々に背後へと遠ざかっていった。
近くにサウナがあるので、それも見たいとミネバが言う。
流石にサウナならば、おかしなことにはならないだろう。
そう思って扉を開けると……既にもう、おかしなことになっていた。
プルツーは、自分と同じ顔の少女二人に問いかける。
「……セブン、そしてサーティン。お前たち、なにをやってるんだい?」
そこには、プルセブンとプルサーティンが汗を流していた。
だが、どうも仲良くにこやかにという雰囲気ではない。
だいぶ長時間いるのか、二人共耳まで真っ赤になっていた。
「ボクとサーティンと……その、どっちが先に出るかを競ってたら」
「出るタイミング、失った。引っ込み、つかない」
「ボクもこの手の忍耐には自信があるけど」
「サウナ、先にいた人より、先に出るの、駄目。それが鉄の掟」
なにをやってるんだか。
だが、双方これでも真剣のようである。まあ、サウナ程度なら何日居ようが、極端な脱水症状になることはないだろう。程々になと釘を刺して、扉を占める。
背後ではミネバが、笑いを押し殺して身を震わせていた。
「ふふ、プルツーの妹たちは個性的だな」
「御無礼の数々、どうか御容赦を……きつく言って聞かせます故」
「うむ。きつく言う程度で収めてくれれば文句は言わぬ。程々にな」
「ありがとうございます、姫様」
「さて、次の風呂は……ん? なんだ? 今、なにかが」
それは突然だった。
咄嗟にプルツーも、目の前を横切った小さな影を目で追う。
そして、可憐な少女によって新たな浴場へと導かれるのだった。