プルスリー・ストーリー   作:ガチャM

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「プルスリー・ストーリー そらをかける姉妹」の特別編です。プルツーが主役の、プルプルズがスーパー銭湯に行くエピソードです。


作:長物守 https://www.pixiv.net/member.php?id=995651
絵:かにばさみ https://www.pixiv.net/users/2672123
  ガチャM 

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 http://www.pixiv.net/member.php?id=2672123
ねむのと 9 https://www.pixiv.net/users/1877923
おにまる 10 https://www.pixiv.net/users/587268
センチネルブルー 6 https://www.pixiv.net/users/11990508
アマニア 7 X @amania_orz
いなり 8

※Pixivにも投稿しています。


特別編「プル姉妹のスーパー銭湯」第4話

     4

 

 

 プルツーの目の前に今、小さく可憐な姿が羽撃いていた。

 それはよく見れば、バイザーを通してみるAR……オーグメンテット・リアリティ、いわゆる拡張現実である。

 だから、そう、現実の存在ではない。

 二対四枚の羽根で飛ぶ妖精は、バイザーを通してしか見えないCGである。

 そして、さらに目を凝らせば、小さな妖精にプルツーは見覚えがあった。

 

【挿絵表示】

 

「むむ……プルテン!? お前、どうしてそんな」

「はいっ、プルツーお姉さん。私もお手伝いさせてもらってます」

「その格好は」

「現実では別の場所、施設の管理棟にいます。この姿はいわば、ナビゲーション用の仮の姿ですね」

 

 そう、ファンタジーな妖精が目の前に飛んでいる。

 同じバイザーでデータを共有しているので、ミネバやプルフォウ、プルイレブンは勿論、周囲の客たちにも見えている。

 お風呂の素晴らしさを、覚えている者は幸せである。

 そんなモノローグが一瞬脳裏を過り、慌ててプルツーはブンブンと頭を振った。

 だが、構わず妖精のプルテンが次の風呂を案内してくれた。

 

「よければプルツーお姉さん、皆さんも……こちらのジャングル熱帯風呂を楽しんでくださいね」

「テンのことだから、妙な風呂ということはないだろう」

「ここでは比較的大きなデータを展開できるので、皆さんに大好評ですよ」

 

 こころなしか、プルテンも普段より表情がイキイキしている。

 彼女は光を振りまきながら、施設の奥へと飛んでゆく。

 その姿を見送っていると、横に並んだミネバが瞳を輝かせていた。

 

「凄いものだな、プルツー。私も驚いた……ふむ、ジャングル熱帯風呂。もしや地球の自然を再現したものではないだろうか」

「え、ええ、そうでもありましょうが」

 

 丁度、プルフォウがバイザーの機能を使って詳細を検索しているようだ。そして、こちらを見て静かに頷く。先程のプルファイブのスライム風呂みたいな、色々な意味で危ない場所ではないようだ。

 それでプルフォウは、さり気なくミネバをエスコートしながら歩き出す。

 入り口になってるゲートをくぐった瞬間、周囲の光景は一変した。

 誰もが驚きに言葉を失ったが、最初に声を発したのはミネバだった。

 

「これは……凄い! 見事なものだな! これが地球の大自然か!」

 

 そこには既に天井はなく、一面の青空が広がっていた。そして、天を奪い合うように、見たこともない木々が茂っている。鳥や獣の声が響き渡り、遠く虫も鳴いていた。

 勿論、全てがARだ。

 実際には、密閉された建物の中にいるだけである。

 しかし、見える全てがCGとは思えぬくらいに色付いて、その彩りがプルツーを圧倒してきた。昨今は、モビルスーツのオールビューモニターの解像度もかなり高いし、合成されるCGはまるで実写のようだ。

 その技術が恐らく、このエリアにもフィードバックされているのだろう。

 ただただ感嘆していると、プルテンが飛んできた。

 

【挿絵表示】

 

「こちらには、地球の南国をイメージしたAR空間が広がっています。この大自然の中でお風呂に入るのも、とてもいいものですっ」

「う、うむ、確かに……日本でも露天風呂というものがあるらしいしな」

「はいっ」

「よし、姫様。みんなも、行ってみよう。湯船は奥だな――ッ!?」

 

 突然、プルツーの前に何かが飛び出してきた。

 それは動物で、よく見れば二本の脚でよちよちと歩いている。濃いグレーの羽毛に覆われ、胸元から腹に賭けてはモノクロームにモザイクのような毛並みが艶めいていた。

 

「これは……鳥、か?」

「ええ。この子はヤンバルクイナ、飛べない鳥です」

「と、飛べないのか。鳥なのにか?」

「はい」

 

【挿絵表示】

 

 ミネバも驚いた様子だが、ヤンバルクイナは逃げる素振りをみせない。あまりにもリアルなので、ついついプルイレブンが手を伸ばした。

 残念ながら、CGなので触ることはできない。

 全てを制御してるサーバの介入で、プルイレブンの腕が貫通した状態のヤンバルクイナが後ずさる。それもどこか自然な仕草で、本当に生きてる鳥がプルイレブンから逃げたように見えた。

 やがて、ヤンバルクイナは一同を見渡し、興味なさげに通り過ぎてゆく。

 それを見送っていると、プルテンが説明してくれた。

 

「ここでは、南国の珍しい鳥たちもデータベース化されてて、そこかしこで会うことができます。その数、四千種」

「そんなにか……凄いな」

「本当は同じ地域には生息していない鳥たちも混じってて……私たちジオンでは、ざっくり南国という括りにしてみても、なかなか実感がわかないものですから」

「そうだな。ここには北も南もない……あるのは、宇宙に星々を見上げる密封された都市だけだ」

 

 見上げれば、晴れ渡る空がとても眩しい。

 だが、それは全て虚構、幻だ。

 それでも人は、心の安らぎを自然に求めてしまう。既に地球生まれではない世代、コロニー育ちの世代が多いにも関わらずだ。

 

「さ、プルツーお姉さま。ミネバ様も、こちらへどうぞ」

「ああ、すまないな、テン」

 

 物珍しそうに周囲を見渡し、ミネバはなにか生き物を見つける都度、脚を止めた。見たこともない蝶が舞っているかと思えば、木の上に極彩色のトカゲみたいなのがいる。

 じっくりと地球の豊かさに魅せられていると、突然視界が開けた。

 ジャングルのド真ん中に、石造りのかわいらしい湯船が設けてある。

 すぐにプルフォウが周囲を見渡し、プルイレブンに声をかけた。

 

「ここに風呂桶があるわね。シャワーはそこの岩陰に」

「この辺は、AR空間のCGと実在のお風呂とが入り混じってます」

「ええ。つまり、イレブンの肩に乗ってるのはCGってことね」

「え? 肩に……わわっ!」

 

【挿絵表示】

 

 イレブンの肩に、小さな鳥が留まっていた。それは、慌ててイレブンが動いたはずみで、驚いたように宙へ戻る。その小さな翼を懸命に動かし、その場に滞空してしばらく飛んでいた。

 すかさず妖精プルテンが説明をしてくれる。

 

「イレブン、その子はハチドリの仲間よ。データベースの中でもレアな希少種、運がいいわね」

「そ、そうなんですか? 確かに、綺麗な色をしてます、けど」

「ハチドリは毎秒50回から80回もの羽撃きで自分を空に浮かべてるんです。そうやってホバリングして、花の蜜を吸いながら生きてるんですっ」

「どうりで……なんか、蝶々みたいに綺麗な鳥ですね」

 

 やがて、ハチドリは飛んでいってしまった。

 CG画像とは思えぬ程に、その姿はリアルだった。

 例え虚構でも、プルツーにも大自然の偉大さ、美しさがはっきりとわかる。そして、それを私利私欲で汚しているのが地球連邦政府なのだ。一部の特権階級のみが地球の恩恵を独占し、貧しい人間を宇宙移民と称して追放した。

 だが、プルツーが身を置くネオ・ジオンにもまた、因果がある。

 棄民とされた者たちから生まれたジオンもまた、地球へのコロニー落としを続け、今またハマーン・カーンが率いる部隊が地上を侵略しつつある。愚行に対して愚行で応え、愚行の応酬をしているのが今の人類なのだ。

 そして、それを知る声が静かに響く。

 

「これが地球なのだな……プルツー、私はたとえ虚構でも、このような体験を嬉しく思う。もっと早く知るべきであった。ライブラリで見るより、ずっとわかりやすい」

「は、姫様」

「プルテンだったな? ここに記録された野鳥……現在も種を存続させている数は如何ほどか」

 

 ミネバの声は、透明に透き通っていて、それでいて鋭かった。

 答えるプルテンの声も、神妙に上ずって聴こえる。

 

「……約四千種が登録されてるうち……現存しているのは、僅かに五百種程です」

「我ら人間が生活圏を広げ、その豊かさを享受することで犠牲になった数だな?」

「は、はいぃ」

「プルテン、おまえを責めている訳ではない。むしろ礼を言おう。……そうか、地球にはかつて、これほどまでに生命の彩りが満ちていたのだな」

 

 ゆったりと湯に身を委ねて、ミネバは静かに天を仰いだ。

 丁度、森から飛び立った鳥の大群が、群れをなして飛んでゆく。

 まるで、旅する渡り鳥のような編隊飛行で、一糸乱れぬモビルスーツの戦闘機動にも似ている。だが、生きるための武器以外を持たぬ桃色の翼は、鳴き声を連鎖させながら遠ざかっていった。

 プルツーは詳しくはないが、あれはフラミンゴという鳥だったと思う。

 この浴場に再現された大自然は、その一部は永遠に失われてしまった。地球という天体の歴史から見れば、ほんの一瞬とさえ思える時間で消滅してしまったのだ。それは、人間がなした業だ。ほんの数百年で、人間は地球を汚し尽くしてしまったのだ。

 

「いい湯だな、プルツー……来てよかった。ジオンの技術力にも舌を巻くが、な。だが、そうして見せられる地球のなんと眩く輝かしいことよ。これが、地球なのだな」

 

 ミネバは静かに言葉を口にして、それを自分で味わうように頷いた。

 ミネバはまだ、本当の地球に降り立ったことがない。

 そんな彼女に、地球の自然をほんの僅かでも味わってもらえたのなら……それだけでもう、プルツーにとってはとても嬉しい気がして、そのことを思わず叫んで謳いたくなるあまり、彼女はジャボン! と湯船の中に自らを沈めるのだった。

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