作:長物守 https://www.pixiv.net/member.php?id=995651
絵:かにばさみ https://www.pixiv.net/users/2672123
ガチャM
■デザイン協力
かにばさみ 4、5、11 http://www.pixiv.net/member.php?id=2672123
ねむのと 9 https://www.pixiv.net/users/1877923
おにまる 10 https://www.pixiv.net/users/587268
センチネルブルー 6 https://www.pixiv.net/users/11990508
アマニア 7 X @amania_orz
いなり 8
※Pixivにも投稿しています。
6
知らぬ間にプルツーは、広大な公衆浴場を堪能していた。
もともと入浴が好きなのは否定しない。戦艦の密封された無重力シャワーですら、戦いの汗を流せば気持ちが安らぐ。湯の音になにもかも溶かせば、一時といえども戦いを忘れられた。
だが、戦いそのものを理由に生まれた自分までは消えはしない。
だからこそ、同じ憩いの時間をミネバと過ごす内に安らげてしまっていた。
「……フフ、いけないな。あたしとしたことが」
「ん? どうしたのだ、プルツー」
「あ、いえ。それよりミネバ様、そろそろあがりましょう。このままではのぼせてしまいます」
二人は今、打たせ湯というものでくつろいでいた。
アジアの小国日本の文化で、どこか太古の修行僧を思わせるのは名ばかりだ。岩場をあしらった空間で今、小さな湯の滝が無数に白く煙っている。その一つに打たれながら、ミネバはしどけなく巨岩の上に腰かけていた。
バイザー状のデバイスを通して見る拡張現実ではない。
このエリアは、現実にそのまま広い空間が屋外を再現していた。
「も、もう少しくらい、構わぬであろう。……このお風呂で最後にする、から」
「そういうことでしたら」
「……人目を気にせず、こうして……とっ、友達? と、過ごせるの、なら……いいな、と」
突然の言葉に、プルツーは思わずミネバを凝視してしまった。
目を逸らしたミネバの頬が赤いのは、なにも湯の熱気にあてられたからではない。
こそばゆい感情に、なにやらプルツーも思わず顔が火照る。
そして、改めてジオンの姫君が美しく成長する過程をまざまざと見せつけられた。今この瞬間が、その一瞬の連なりなのだ。二次性徴を迎えつつある裸体には、無垢なる華奢な細さが徐々に色づくような、女性らしさが優美な曲線を描きつつある。
流れ落ちる湯の弾ける様など、まるで後光の輝きが散りばめられたかのようだ。
だが、あっけに取られたプルツーの視線を、ミネバは横目で眇めて唇を尖らす。
「……迷惑か、プルツー。お前たち親衛隊の姉妹に、忠義以上のものを感じては――」
「それ以上は言葉にせぬことです、姫様」
敢えてプルツーは突っぱねるような言葉を切った。
本音の本心で、そこに私心など忍び込む余地はない。
同時に、ミネバに素直な気持ちを向けられて心がときめかない自分でもなかった。だが、プルツーは戦うための強化人間、ニュータイプのクローンなのだ。そして、頼もしくも愛しい妹たちと共に、この美しき姫君を守って戦う親衛隊なのだ。
「ミネバ様。そのお優しき心をどうか、ジオンの再興のためにお使いください」
「……友達、には、なれない、のか?」
「あたしたちはミネバ様を守って戦い、守り切るためなら死んでもみせます。それは、ミネバ様がそれに足りうる姫君だからでもあります」
「う、うむ」
「御友人や、さらに深く近い親しい者をいつか、姫様は知るでしょう。その時が訪れるまで、御身をお守りします。……駄目だよ、あたしたちは……友達には、なれない」
プルツーの言葉に、ミネバは立ち上がった。
その姿は、飛沫をあげる湯気の中に霞んでぼやける。
だが、輪郭だけになった少女の声は、先ほどとは違ってしっかりとよく響いた。
「……無粋だったな、忘れてほしい」
「いえ」
「私としたことが、湯の熱気にあてられ……求め過ぎました。それでも、プルツー。あなたたち親衛隊を私は当てにしています。私が友を得る未来に、あなたたちも生きて同じものを感じてほしい」
「もったいなきお言葉です」
「ふふ、宮中は息苦しくて、気が休まらないのです。だから、友達というものがあればと思いました。ただ普通の少女のように、華やいだ街に繰り出して、誰でもない時間を過ごしたい」
当然の気持ちで、真っ当な感情だ。
ミネバはまだ十代の乙女なのだ。
そして、自分の中に殺して諦めた全てが、ミネバの中に芽吹くのをプルツーは感じた。
そう思ったら、不思議と以前よりミネバが近く感じた。
高貴なる者の義務は、その遂行に厳しさを求める。
でも、それに耐えて前を向くミネバをプルツーは好ましく思うからこそ支えたい。
その決意を新たにしていた時、妹たちの明るい声が響いた。
「あっ、姫様! プルツー姉さんも! ちょっと、さっきこの子ったら」
「もぉ、やーめーてーくーだーさー、いっ! フォウ姉さま」
「かわいいとこあるのね、イレブン。なにも、そんなに心配することないのに」
「わたしには切実なんですっ! ……この個体差、絶対にバグだと思うです」
なにやら苦い顔のプルイレブンと、クスクス笑いの止まらぬプルフォウが現れた。彼女たちもまた、そこかしこでくつろぐ女性兵たちと同様、湯に身を打たせていたらしい。
だが、どうやらプルイレブンにとってその行為はとても深い意味をはらんでいたのだ。
「プルツー姉さま、イレブンったら……まるで日本の虚無僧? 修験者? あれは祈りの儀式、修行みたいだったわ」
「だーかーらー、ほんっ……っとぉ! に! ……ちょっぴり、切実なんですぅ」
聞けば、プルイレブンは滝行の如く手を合わせて、一番激しい湯の流れに身を浸していたらしい。鬼気迫るオーラがあったとかで、それがことのほかプルフォウには微笑ましかったようだ。
「だって、一生懸命なんですもの。胸がどうとか、背丈がどうとか」
思わずプルツーは、「ほう?」とフラットな表情になってしまう。
笑顔のプルフォウは、タオルで覆ってはいるがとても発育がいい。同じプルシリーズでも、肉体的な成長にわずかな、しかし残酷な程にはっきりとした差が出ていた。
自然とプルツーは、拳を握ってプルプル震えているイレブンに気持ちを寄せてしまう。
「焦ることなんてないのに、イレブンはまだまだこれからの子だもの。でも、ふふ……さっきからずっと、一生懸命に」
「……プルフォウ、あたしも東洋の島国でやるようにお祈りした方がいいか?」
「ほへっ? ……あっ! い、いえ、わたしはそういう意味では」
「お前といい、スリーといい! なにを食べたらそんなに育つんだ!」
「基本的にプルツー姉さまと同じですよ! みんな同じものを食べてます!」
「今日という今日は、白状させてあげるよっ! イレブン、その子を捕まえな!」
ミネバは、コロコロと笑っている。
なんて眩しい笑顔だろう。
この笑みを未来に繋げて、まだ見ぬ彼女の友人に見せてやりたい。
そう思ったら、プルツーの中で戦う理由がより鮮明になる。
それはそれとして、妹たちのスタイルの良さには以前にも増してはっきりと嫉妬と羨望、そして子供じみた意地悪な心が沸き立った。
慌てて逃げ出すプルフォウを、プルイレブンが追いかける。
許してやれと笑うミネバの声を背に、プルツーもはしゃぐ心のままに駆け出した。
周囲の兵士たちからも歓声があがり、口笛と拍手とが無数に連鎖した。
そして、滝となって注ぐ湯は静かに白く湯気を煙らせる。
「ああもうっ! プルフォウは肉付きがいいのにすばしっこい! イレブン、そっちを……イレブン?」
気付けば、濃密な湯気の中をプルツーは走っていた。
すぐにバイザーに手を当て、デバイスの検索機能で現在位置を確認する。当たり前だが、まだ温泉施設の中で、打たせ湯のエリアである。
だが、妙だ。
確かにミネバや妹たちの声は聴こえるのに、濃密な霧にも似た白い闇が視界を奪う。
湯気にしてはあまりにもおかしいような、そんな気がした瞬間だった。
「――ッ!? あ、ああ……待て、待って!」
思わずプルツーは叫んでいた。
今、真っ白な視界を一人の裸体が横切った。まばゆい程に美しい、少女だ。既に少女を脱しかけた若い女性だった。鍛え抜かれて尚も、柔らかな曲線で構成された肢体は美術品のように美しい。恐らく、同じネオ・ジオンのパイロットだろう。
その横顔は妹に、なにより自分に似ていた。
妹の一人一人を見分けられるプルツーには、それが誰かもわかったから更に叫ぶ。
「待つんだ、トゥエルブ……プルトゥエルブ!」
確かに妹だったように見えた。
プルフォウの発育がいいとか、そういう問題じゃない。美しく成長した妹が通り過ぎた。
その姿は、あっという間に湯煙の向こうに消えた。
そして、今しがた呼んだ者の声が不意に背後から響く。
「プルツー姉さま? あの……私がどうかしましたか?」
振り返ると、そこにはいつものプルトゥエルブがいた。
控えめでおとなしくて、でも瞳に強い光を宿した妹の姿が近付いてくる。同じデバイスを頭部にかぶっていたが、バイザーをあげた顔には姉を案ずる表情が浮かんでいた。
「あ、ああ、トゥエルブ。今、お前が……いや、それよりお前は」
「えっと、グレミー閣下に言われた護衛任務で、小さい輸送船を守ってたんですけど……その船長さんに、ここの優待券をもらって」
「そ、そうか! ああ、うん! そうか! 丁度いい、トゥエルブ。一緒に温泉を回ろう。これは内密の話だが、姫様も……ミネバ様もいらっしゃる」
「まあ……でも、プルツー姉さま、なんだかお顔が、赤くて……のぼせて、ません、よね?」
「のぼせてなど! あたしは確かに見たんだ、見た……少し不思議な、あれは、未来? な、訳が……あ、あれ?」
不意にぐらりと足元が揺れた。
地震だと思った次の瞬間、プルツーは自分がよろめいたと察した。だが、湯あたりした自分が倒れそうになって、プルトゥエルブに支えられたとこまでは自覚できた。そこから世界は暗転して、のぼせたのは自分だと分かった時にはもう……ブルツーは優しい暗闇の中に転げ落ちてゆくのだった。