プルスリー・ストーリー   作:ガチャM

2 / 15
「プルスリー・ストーリー そらをかける姉妹」

舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。

長物守:作 (twitter @nagamono)
ガチャM:挿絵 

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix

※Pixivにも投稿しています。


第2回「逆転する姉妹」

     2

 

 

 

 AMX-103RZハンマ・ハンマ"ラーズグリーズ"は、初期ロットの二号機に大幅な改修を加えた実験機である。高い運動性を誇る各種スラスターはそのままに、下半身に分離機能を実装。陸戦時の惰弱性があった脚部を大型化している。右腕には格闘用のナックルクローが追加された。

 

 ――宇宙要塞アクシズ。

 宇宙の深淵、地球さえ星々の光に紛れて見えぬ外洋……その昏き底より、ジオンの再興を果たすべく決起した者たちの本拠地だ。地球圏へ帰還した者たちはこのアクシズを拠点に、自らを新たな戦士としてこう名乗った。

 ネオ・ジオンと。

 今、巨大な軍事基地であるアクシズの片隅で、硝子の向こうを見やる少女がいる。

 彼女の目に映る地球圏は、冷たい外宇宙への入り口とはまるで違った。

 この海には、人の意思が渦巻いている。

 閉塞感にも似た、無数の思惟の奔流の中で……さざなみの寄せる渚のような安らぎ。

 宇宙をそらと呼んで戦う男たちとは違って、彼女にはいつも虚空の海は凪いでいた。

 そんな彼女を、背後でもう一人の少女が呼ぶ。

 

「プルスリー、検査はもういいんだろう? 私は忙しいんだ、すぐに艦隊に戻らなければ」

 

 プルスリーと呼ばれた少女は、一つ上の姉を振り返る。検査着が大きすぎるのか、なだらかな肩も顕に不満顔でプルツーが平坦な目をしていた。

 分厚い硬化硝子に反射して映る二人の顔は、全く同じだ。

 だが、些細な表情の変化と髪型が、僅かに印象を異にしている。

 

「プルツー姉さん。まずはそこに座ってください。検査の結果をこれから――」

「いいよ、プルスリー。問題はない筈なんだ。そうだろう?」

「……少し疲れが出ているみたいですが」

「ああ、新しいサイコミュの試験をやったからかな? 今度のは大きいんだ。キュベレイなんかとは出力も段違いさ。サイコガンダムとかいうののデータも使ってる」

「ストレス、だと思います。それは姉さんが一番感じてるのでは?」

 

 プルツーは少女に不釣り合いな生真面目さで、表情を僅かに強張らせた。まだ十歳そこそこなのに、整った顔立ちを緊張させている。彼女がオリジナルから生まれた最初のクローンで、プルスリーにとっては唯一の姉だ。

 そのプルスリーは、長い三つ編みの髪を揺らして白衣を翻す。

 逃げられないと観念したのか、プルツーはおとなしく机の前の椅子に座った。

 ここはプルシリーズ専用の医療区画で、多くの研究者も出入りしている。プルスリーが普段担当するセクションで、少し長くて大きい白衣を着せられているのも、そのためだ。

 

「姉さん、もう少し自分を大事にしてもらえないでしょうか? 私は少し、心配です」

 

 プルツーの前に正対して座ると、目を逸らされた。

 恐らく、自分でも自覚があるのだろう。

 

【挿絵表示】

 

 こんな時、周囲は口を揃えて姉妹逆転だと笑う。今も、ブースの向こうを通り過ぎた女性職員が口元を抑えていた。ここではプルスリーも、妹たちプルシリーズもただの子供だと見る者が多い。開発と調整に携わった研究者の中には、我が子同然だと思ってくれてる者たちもいた。

 勿論、実験動物のように扱う者もいて、それは別にいい。

 ただ、そうした人間たちの存在はプルスリーに色々と学ばせてくれる。

 そして、ここで白衣を着ている時は姉妹全員の健康管理が自分の仕事だ。

 

「姉さんは働きすぎです。もう少し休暇を取って、自分を甘やかしてくれないと困るんですよ? 私……本当に心配で」

「うう……あーもぉ! わかった! わかったよ、あたしは休暇を取る。それでいいだろ」

「妹たちの面倒も、私がケアしてますから。空いた時間だからと世話を焼くのも」

「わかったよ、まったく! ……保護者面する妹にも困ったものだな!」

「光栄です、姉さん。では、休暇を申請して少し遊んでてください。姉さんは休みを取るとすぐ、妹たちを見て回るから……そういうの、嬉しいですけどいけませんよ?」

「フン、覚えておこう」

 

 ぶすっ、とプルツーは頬を膨らませる。

 クスリと笑って、プルスリーは必要な書類にサインした。

 しかし、今度は思い出したようにパッと表情を明るくさせて、プルツーの逆襲が始まる。

 

「そういえば、プルスリー。モビルスーツの手配だが、なんとかなりそうだぞ」

「まあ。早かったんですね、よくこの情勢で」

「うん、まあ、その、なんだ。キュベレイは予備機まで投入してて空きがない。そこで、技術部門を叩いたら、まあ出てくる出てくる……連中は意外な物を隠し持っててな」

 

 モビルスーツの話題になると、姉は嬉しそうな顔をする。それは妹たちも同じで、恐らく無自覚に感じているのだろう。

 物言わぬ巨兵が皆、自分たちと同質の存在だということを。

 プルシリーズは人造のニュータイプだ。その感応能力を兵器に転用する、ただそれだけのために調整された存在なのである。いわば、モビルスーツに搭載する一番高価な部品とも言える。そして、部品である限り替えがきくのだ。

 だから、姉妹は皆モビルスーツを我が子のように大事にする。

 自分にとって居場所であり、ゆりかごであり、棺桶だから。

 全ての姉妹は皆、コクピットに座るために生み出され、コクピットで死んでゆくだろう。

 そのことにプルスリーは一抹の寂しさを感じたが、プルツーは声を弾ませていた。

 

「初期ロットのハンマ・ハンマがあってな、その二号機を供出させた」

「ああ、エンドラに配備された試作モビルスーツですね。確か、一応満足のゆく性能だったので、少数のみ量産されるとか」

「マスプロダクトモデルでは、腕部の片方からサイコミュをオミットするらしいがな。だが、初期型だから性能はお墨付きだ。ただ」

「ただ?」

「次の新型のテストベッドになってたから、ちょっと仕様が特殊だ。バウの開発チームがアレコレいじって、下半身が別物になってる。もともと腰下の脆弱性は指摘されてたからな。安定性と耐久性を追求して、下半身は別物だ。分離機構まである」

「はあ」

「そのあと、強化人間用のモビルスーツ開発に回されて、ワルキューレ計画の母体に使い回された。コードネームは……ラーズグリーズ」

 

 ハンマ・ハンマの改良機、というよりは改造機。その名は、ラーズグリーズ……確か北欧神話に登場するワルキューレの一人だ。その名の意味は『計画を破壊する者』である。

 物騒な名を持ついわくつきの機体だが、プルスリーに受領への迷いはない。

 今、ネオ・ジオンでは総力戦に備えてモビルスーツの緊急配備が進んでいる。

 次々と新型が生み出される反面、ザクやドムといった旧型のレストアも進んでいた。これらの旧ジオン系の機体は、コストの安いガザ系列の機体とセット運用される。変形したガザシリーズをゲタ代わりにしての、アウトレンジ攻撃などが研究されていた。

 

「ラーズグリーズはバウと同様の変形合体機構を持っている。腰から下は別物だな。そして、攻防一体のシールドと、右腕には大型のナックルクローが被せてある。そして、その両腕がサイコミュ制御だ。これは有線操作になるが、お前なら使いこなせる筈だな? プルスリー」

「はい、姉さん。やってみせろよ、ということですね」

「フッ、言うようになった。では、そのようにしてみせてくれ。手続きはあたしが処理して、細かいことはプルフォウが調整してくれる」

 

 それだけ言うと、プルツーは立ち上がった。

 ミネバ・ラオ・ザビの親衛隊も兼ねてるので、プルツーを含むプルシリーズの姉妹たちは忙しい。ここ最近はグレミー・トトが一部の指揮権を握っているので、ややこしい問題もあちこちで山積していた。

 だが、姉がそうであるように、プルスリーもやることはなにも変わらない。

 ミネバ様とハマーン閣下を守り、ジオン再興を阻む旧態然とした連邦組織を破壊する。既得権益の拡大ばかりに目がくらんだ人間から、地球を大自然の手へと還してやるのだ。重力に甘えている者たちが宇宙の海へと漕ぎ出せば、その先に人類の革新があるかもしれない。結果や見積もりにかかわらず、それを求めることは必然だとプルスリーは思うようにしていた。

 

「では、姉さん。休暇中はなにかあったら私に連絡をください」

「ああ、そうさせてもらう。……うん、そうか。そういうことか」

「どうかしましたか、プルツー姉さん」

「いや! はは、あたしはわかってしまったぞ。プルスリー、お前も構われたかったんだな? そうだった、お前はしっかりしてるからついあたしは」

「そういう訳では、ないですけど」

 

 だが、その気持ちがなかったと言えば嘘になる。

 むむむと黙るプルスリーの頭を、プルツーはわしわしと撫でてポンと叩いた。

 

「じゃあ、あたしは戻る。ハンマ・ハンマの件、宜しく頼むよ」

「はい。ラーズグリーズとかいう子でも、やれてみせます」

「ああ。それと、そうだな……今夜は一緒に夕食にでも行こう。休めと言ったのはお前なんだから、付き合うんだぞ?」

「はい……喜んで」

「うん、それでいい。じゃ」

 

 姉は周囲の一目も気にせず、検査着を脱ぎながら行ってしまった。その背を見送り、プルスリーは笑みを浮かべている自分に気付く。どうしても妹たちのことが気になって、唯一の姉に等しいプルツーに甘えるのは苦手だ。

 

【挿絵表示】

 

 苦手だが、嫌という訳ではないのだ。

 そのことが嬉しくて、プルツーも立ち上がる。

 ふと見れば、暗黒の宇宙は今日も穏やかに広がっている。荒ぶる波濤もなく、凪いだ海には蒼い水の星が浮いていた。それが見える場所で、手を伸ばせば届きそうにさえ思えた。それを、姉妹の平穏な日々よりも、ずっと近くに感じてしまうプルスリーだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。