プルスリー・ストーリー   作:ガチャM

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「プルスリー・ストーリー そらをかける姉妹」

舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。

長物守:作 ガチャM:挿絵 (長物守 twitter @nagamono)

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix

※Pixivにも投稿しています。


第4回「猫になった妹の爪」

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 暗い宇宙は星の海。

 水平線なき無限の海原を、黄昏色の機体が切り裂いて翔ぶ。

 キャメルイエローのモビルスーツは《ラーズグリーズ》……初期ロットのAMX-103《ハンマ・ハンマ》二号機だ。さらなる新型開発の技術検証用実験機となり、さんざんいじくり回された挙句に放置されていた機体である。

 それが今、光の尾を引き馳せる。

 

【挿絵表示】

 

 360度全天周(オールビュー)モニターで各数値をチェックして、久々の感覚にプルスリーは長く漂う三つ編みをいらいだ。それは考え込むときの彼女の癖で、無意識からくるものだ。

 

「確かに、少し難物ね……そこまで尖った荒々しさも粗もないのだけども。ね、あなた? あなたはどうして、アクシズの隅っこで埃を被っていたのかしら?」

 

 スラスターからほとばしる推力で、微動に振るえる機体は無言を返してきた。

 そして、物言わぬモビルスーツに代わって、気取って演じたような声が返ってくる。

 

『それはだニャ、マスター! オレが少し面倒なカスタム機だからニャ!』

「……ふざけてないで、前を見てて頂戴? あなたは本当に」

『ニャハハ、オレはマスターの愛機として頑張るだけだニャー!』

「プルファイブ? 少し怒るわよ?」

『オレはプルファイブじゃないニャア。ハンマ・ハンマの妖精なのニャ!』

「もう、プルファイブったら」

 

 思わずおかしくて、プルスリーは小さく吹き出してしまった。

 上下に分離する構造を持つ《ラーズグリーズ》は、下半身側にもコクピットがある。このデータから生まれたAMX-107《バウ》ではオミットされた構造だ。便宜上、《バウ》と同様に《ハンマ・アタッカー》と《ハンマ・ナッター》と呼称され、後者には妹が乗っていた。

 プルファイブは、新型のシェイクダウンに快く付き合ってくれている。

 なんでも、彼女は彼女でテストする機材を渡されているらしい。

 

『なあなあ、プルスリーの姉貴!』

 

 オールビュー・モニターの隅に、小さなウィンドウが浮かぶ。

 勝ち気な笑みを浮かべる妹のプルファイブが、何故か猫の耳のようなヘッドドレスをつけて映った。プルスリーもだが、ヘルメットは滅多なことでは装着しない。

 肌で感じて表情に浮き出る感覚が、時として彼女たちの命を救うことがある。

 人造のニュータイプとして生まれたプルシリーズは、鋭い感性と感能力が武器だ。

 

「どうしたんです、プルファイブ。……その猫の耳」

『これはネコミミだよ、姉貴!』

「猫の耳でもネコミミでも一緒です」

『なんか、サイコミュへの送信感応波を増幅するらしいぜっ! オレ、そういうのからっきしだからさぁ、開発部に押し付けられちゃったんだよ』

 

【挿絵表示】

 

 わはは、と元気よくプルファイブは笑う。

 自然とプルスリーも緊張がほぐれていった。

 その後、プルファイブは小さなウィンドウの中で、所狭しにコロコロと表情を変える。最後にはカメラに尻を見せて、尻尾のようなケーブルも見せてくれた。有線接続でサイコミュとの接続係数をあげる効果があるらしい。

 プルスリーは、プルファイブの笑顔とは裏腹の憂鬱を拾っていた。

 医師である前に姉として、すぐにわかった。

 

「プルファイブ、気にしているの? サイコミュの接続で自分が劣っていると思うのは、それは早計よ」

『いやあ、オレほら、不器用だから! それに、こういうのも結構かわいいし』

「プルファイブ?」

『……まあ、その……うん。なんか、ちょっと落ちこぼれてるなって。そういう子はさ、マスターが必要になるかもってグレミーが言ってた』

「再調整した上で、精神構造を単純化して強度と精度を上げる……確かにそういう研究も存在するわ。でもね、プルファイブ。人には向き不向きというのがあるし」

 

 プルファイブは昔から、妙に不器用なとこがあった。サイコミュの操作に関しては、他の姉妹に比べて僅かに劣る。反面、身体能力や反射神経、そして奇妙な直感と天性の勝負勘を持っている。他の姉妹がそうであるように、得意なことだってちゃんとある。

 それに、一見してガサツで粗野だが、とても優しい妹なのだ。

 そのプルファイブが、エヘヘと笑ってウィンドウを消す。

 

『だからマスター、今日はしっかりサポートするんだニャア?』

「はいはい、わかったわ。わったから……プルファイブ、そろそろテスト予定の宙域よ? あてにしてるんだからね、ハンマ・ハンマの妖精さん?」

『任せるニャア! ハンマとハンマが二身合体、ハンマ・ハンマ"ラーズグリーズ"は無敵だニャン!』

「では……行きますっ!」

 

 今までの操縦で、一通り機体の感覚は掴めた。

 パイロットとして備わった空間把握能力が、愛機の大きさと重さとを完全にイメージさせてくる。

 バランサーの動作や、アポジモーターの些細な噴射と補助。

 揺れる機体の中で減ってゆく、推進剤の残量までが手に取るようにわかる。

 それを伝えてくれているのは、バックアップしてくれるプルファイブのおかげでもあった。

 そして、前方の星海に敵意が浮かぶ。

 新兵の訓練も兼ねているらしく、レンジ内に浮かぶ光点はどれも旧式のモビルスーツだ。F型の《ザク》にMS-09R《リックドム》。大事に改修を重ねながら、今でも港湾の警備や練習機として使われている。

 

「若い殺気を……そんなに苛立ててっ!」

 

 小さく叫んで、ロールを繰り返しながら《ラーズグリーズ》が回避運動を取る。

 今まで機体があった空間に火線が走って、ペイント弾が無数に飛び去った。

 すぐに体勢を立て直して、プルスリーは反撃を試みる。阿吽の呼吸でプルファイブが兵装を選択、トリガーを回してきた。

 

『マスター、やっつけちゃうニャア!』

「もう、プルファイブってば……でも、まずはこれで!」

 

 出力を最低レベルに絞った弱装のビームが、《ラーズグリーズ》の右手から迸る。斉射三連、まずは一機。撃墜判定になった《ザク》がひっくり返って停止した。目眩ましレベルのビームでも、直撃すれば衝撃は伝わる筈だ。

 耳元で混線する訓練生たちの声と声とが、プルスリーの中で交錯した。

 

『勝負にならないぞ! あっちは最新鋭機で、こっちはポンコツじゃないか!』『文句を言ってる暇なんて……フォーメーション! 組み直せ!』『やってる! やってるでしょうって!』『来たっ! みんなっ、数の有利を活かすんだ!』

 

 マニュアル通りの反撃の中を、舞うように《ラーズグリーズ》は泳いだ。急激な制動と加速を繰り返す中で、まだプルファイブはニャーニャー言っている。そのおどけたような声とは裏腹に、サポートは的確だ。

 プルスリーも久方ぶりの実戦形式で、徐々に勘を取り戻してゆく。

 治療と研究でアクシズの奥に引っ込んでた日々が、すぐに遠ざかった。

 今のプルスリーは、死者をヴァルハラにいざなう戦乙女そのものだった。

 戦死した勇者の魂に代わって、未熟な新兵の機体が次々と停止する。

 決して死なせてはならない、戦死者の列に加えてはいけない若者たちだ。プルスリーたちと違って、戦うために生まれた人間ではない。多くの場合、愛をもって祝福されてきた生命の筈だ。

 

「さて、あらかた墜としたけど……プルファイブ?」

『まだニャ、マスター! 後ろに一機、リックドム!』

「っ……油断、かしらねっ!」

 

 プルスリーは小さく気勢を吐いて、そのまま機体をターンさせる。

 同時に防御にかざした左腕のシールドに、ペイント弾がぶちまけられた。

 その時にはもう、軽い衝撃が下から突き上げるように響く。

 

「プルファイブ? 駄目よ、今日のテストでそれは――」

『この距離っ、もらったニャアアアッ!』

 

 突然、下半身が切り離されて反転した。

 一撃を浴びせて離脱仕掛けた《リックドム》に、半端な変形機構しか持たない《ハンマ・ナッター》が突撃してゆく。慌てたプルスリーは対応が遅れた。

 

【挿絵表示】

 

 そして、プルファイブの得意分野を思い出す。

 新兵の悲鳴に、プルファイブの弾んだ声が重なった。

 

『うわっ、分離した!? 教官はそんなこと、なにも言ってなかったぞ!』

『わはは、ひっさーつ! ハンマ・ハンマ・ハンマー! っていうか、ただのカニばさみアターック!』

 

 プルファイブは昔から、何故か近距離での格闘戦で不思議なセンスを発揮した。特別強い訳ではない。ただ、時々妙に突飛な技を使ったり、思いもよらぬ機転で逆転勝ちを納めるのだ。

《ハンマ・ナッター》は太く逞しい両脚で、《リックドム》を挟み込んでしまった。

 奇想天外なマニューバに、自由を奪われた《リックドム》の新兵が悲鳴を上げている。

 そして、プルスリーも呆気にとられてしまう。

 ああいうセンスは、本当にどこから出てくるのだろうか?

 

「とりあえず……プルファイブ。あの、挟んで囚えるのは、ハンマーとは言わないんじゃない?」

『マスター、それは言わないお約束だニャン? なんてなー、うはははは』

「ふふ、あなたという子は相変わらず。でも、マスターはよしましょ? その言葉は今、私たちに必要ないんですもの。これからも、ずっと」

『……そう、かな。オレ、知らない誰かをマスターって呼ぶの、なんかヤだからさ。でも、もう少しサイコミュが上手く使えないと』

「プルファイブ、人には向き不向きがあるっていったでしょう? 私たちも人なんだから。それに、あなたは自分の得意分野にもっと自信を持つこと。よくて?」

『はーい……なんか、甘えてしまったニャア』

「それと、こういう危ない戦法は禁止ね? 新兵の皆さんもびっくりしちゃう」

 

 訓練は終了し、慣熟とまではいかないが機体の特性もわかった。

 なにより、プルファイブが積極的に一緒に乗りたがった訳が少しわかった。

 サイコミュを強化する装備を渡され、少し不安だったのだ。暗に、お前に足りないのはこれだから使えと言われた気がしたのだろう。そしてその先に待つのは、再調整……人造のニュータイプであるプルスリーたちは、簡単にマシーンにされてしまう。

 それはプルスリーにとっては、姉にも妹にも訪れてほしくない未来だった。

 だが、手際よく再合体してくるプルファイブの息遣いが、ドッキングの衝撃と共に繋がった。妹はそこにいて、自分のそばにいてくれる。いつまでも目の届くところで見守りたい、そう思うプルスリーは機体を翻すのだった。

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