舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。
長物守:作 ガチャM:挿絵 (長物守 twitter @nagamono)
■デザイン協力
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix
※Pixivにも投稿しています。
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白衣に袖を通せば、プルスリーの仕事は自然と多岐にわたる。
アクシズはいつだって慢性的な人手不足で、医術に関する高等教育を受けた者も限られていた。だから、研究所ではプルスリーも患者を受け持つことがある。
大半は姉妹たちで、今日もその一人がベッドの上にいた。
酷く落ち着かない様子の妹を見て、プルスリーは腰に手を当て溜息を零す。
「シックス、どうしてここにいるのか……わかって?」
プルスリーの言葉に、窓の外を見ていた少女は振り向く。
妹のプルシックスは、普段通りの理知的で凛々しい表情を僅かに翳らせた。
「スリー姉さん、これは、その……はい。わかってはいるんです」
「よろしい。ふふ、少し働き過ぎね、シックス」
「そうでもありますが、ええと」
「プルツー姉さんからもよろしくしてほしいと言付かってるわ。よって、シックスはこれから72時間の静養を取ってもらいますからね?」
気難しい顔であからさまに不満を浮かべる妹に、思わずプルスリーはクスリと笑った。
プルシックスは親衛隊の参謀役でもあり、プルツーの右腕と称される才媛才女だ。その仕事はなにをやらせても完璧で、彼女自身の生真面目さもあって誰からも信任が厚い。
しかし、プルスリーから言わせれば働き過ぎだ。
そのことを知ってか知らずか、ベッドのプルシックスは唇を尖らせる。
「でもスリー姉さん、聞いてください。私にはまだ仕事が山ほど残ってるんです」
「あら、そう?」
「キュベレイの予備パーツが搬入されたけど、最新ロットの作りは荒くて雑だ。熟練工の数が足りなくて、半人前の職人も工場に入ってるからだと思う。それと、プルファイブがテストしてくれたサイコミュ・デバイスのレポートも提出しなきゃいけない。隊長も待ってると思うし、それに――」
「はいはい、わかりました。わかりましたから、シックス」
「じゃ、じゃあ」
「だーめ、いけません! ゆっくり心身を休めて。休むのも兵士の務めですから」
グヌヌとシックスは黙ってしまう。
そう、彼女はとても仕事がよくできる。プルシックスだけで並の士官たち数十人分の働きをするのだ。戦術士官として作戦の立案から運用までをこなし、パイロットとしても一騎当千、加えて式典等でも引っ張りだこだ。恐らく、姉妹の中でも一番洗練された機能美だと評価されているだろう。
だが、能力だけがプルシックスの全てではない。
アクシズのために献身的に働き戦う彼女は、年端もゆかぬ一人の少女なのだ。
そのプルシックスだが、半ば隔離されるようにこの病棟に閉じ込められてから落ち着かない。四六時中ソワソワしてて、担当するプルスリーが心配になる程だ。
「シックス、あなたは少しワーカーホリックね。仕事以外のことも考えなきゃ」
「そんなことを言われても……駄目です、スリー姉さん。酷く気持ちがソワソワするんだ。例えば、そう例えば……隊長は、プルツー姉さんは私がいないと不自由だろうし」
「それはそうだけど、あなたが疲労で倒れてしまったら、それこそ一大事だと思わない?」
「フォウ姉さんが希望してたパーツの手配だって……まさかキュベレイが定数を揃えられないなんて、私の責任だ。代わりに押し付けられるのは妙な試作機ばかりで」
プルシックスの言葉はとりとめがなく、次から次と仕事の懸案事項を並べてゆく。
そして、仕事の話をしている時のプルシックスはいきいきしていた。
キラキラと瞳が輝いて、窓の外の宇宙にも負けない星空が広がっている。しかし、プルスリーから見ればそれは、疲れ果てた者だけが見せるギラつきにも等しい。
プルシックスは普段の冷静沈着さが嘘のように、自分が抜けた窮状を語った。
「私の決済を待ってる書類も沢山あるし、隊長の補佐もしなければいけない。それに、それにです、スリー姉さん。私がいないと、上層部の者たちが――」
「大丈夫よ、シックス。少し疲れてるみたいね。……なにをそんなに怯えているのかしら」
「怯えてなんか! ただ、私は、その」
あうあうと要領を得ない言葉で、プルシックスが口ごもる。
普段から歯切れのいい彼女とは思えない。
一瞬躊躇う素振りを見せたが、プルシックスは自分の手をじっと見詰めて喋り出した。ベッドに腰掛け、プルスリーは黙って妹の言葉に聴き入る。
「親衛隊には独自の裁量での作戦行動が許されています。そして、その立案は全て私が取り仕切ることにしていました。私なら……決して姉さんや妹たちを、無意味で無茶な戦いに送り出したりはしない」
「シックス、あなた……」
「私たちが代用の効くクローン・ニュータイプだという自覚はあります。そして、その利点を活かした捨て石的な作戦を強いられることも承知の上。でも、だけど……それでも、私は姉妹のみんなを守りたい。一つの戦術単位としてはスペアがあるかもしれませんが……姉さんや妹たちは皆、代わりのない人たちなんだから」
プルシックスが苦しい胸の内を吐露した。
常々、隊長であるプルツーを補佐して、彼女が言い難いことも口にしてきたのがプルシックスだ。時に冷徹に、冷酷なまでに決断を下してきた。それも全て、姉妹のため……そのために彼女は、冷たい仮面で憎まれ役だってやってきたのだ。
そう思うと、自然とプルスリーの手は彼女の頭に伸びて髪を撫でる。
気負い過ぎてる妹の優しさが、それで守られてる自分たちもろとも切なくて愛しかった。
「シックス、ありがとう。いい子ね、あなた」
「スリー姉さん、でも私は」
「あなたが頑張ってることは、プルツー姉さんも知ってるわ。勿論、妹たちも」
「……私には、それくらいしかできないから。戦いは日増しに過酷になってゆくし、苛立つ上層部の矢面には誰かが立たなきゃいけないから」
「そうね……でも、一人で背負い込む必要はないでしょう? あなたが皆を大切に想うように、皆もあなたを大切に想っているですもの。ね?」
黙ってしまったプルシックスは、小さくコクンと頷いた。
プルスリーはそのまま彼女を撫でながら、ふと身を乗り出して顔を近付ける。目の前に自分と同じ作りの小顔が並んで、俯くプルシックスが上目遣いに見詰めてくる。
「これからも姉妹を守るために、今は休んでおくべきだとは思えないかしら?」
「……はい。わかりました」
「そう、よかったわ」
「でも……眠れそうもない、かも」
気丈でしっかり者のプルシックスは、甘えるのがとても下手だ。ギュムとプルスリーの白衣を握りつつ、言葉ではなにも語ってこない。
だから、プルスリーは静かに微笑み妹を再びベッドへと横たえた。
抵抗することなく、プルシックスは毛布を被るとプルスリーを見上げてくる。そういう時の彼女は、決して弱さを見せてはいけない普段の裏返しだ。親衛隊が見くびられぬよう、常に気を張って過ごしている彼女の、姉妹だけが知る素顔。
「……シックス、少し添い寝をしてあげるわね。あなたがゆっくり眠れるように」
「う、うん。……ごめんなさい、スリー姉さん」
「謝ることはないでしょう? それに、こういう時は『ありがとう』じゃないかしら」
「そ、そうでした、うん……あ、ありがと」
「いい子ね、シックス」
プルスリーはサンダルを脱いで、プルシックスの横に並ぶ。そうして母親のように、寝入るまで彼女の側で見守ることにした。母を知らぬクローンの姉妹が、姉と妹でこうしたことをしているのは滑稽かもしれない。
だが、大事な妹の安らぎのためなら、それはプルスリーにとって大切なことだった。
「あ、あのね、スリー姉さん。スリー姉さんのハンマ・ハンマだけど」
「ああ、あの子ね。どうしたの? なにか心配事かしら」
「少し、心配……実験用の機体だったし、強度計算は完璧だけど実戦は知らない子だから」
「大丈夫よ、ちゃんとみんなで面倒を見てるし。それに、この間ファイブと乗ったらとてもいい子だったわ」
「なら、いいけど。……本当はもっとキュベレイがあれば」
「平気よ。さあ、少し眠って。食事にはデザートをつけてあげる。あなたの好きなチョコレートでなにか作っておくわ」
よほど疲れが溜まっていたのだろう。
プルスリーの言葉に頷き目を閉じて……僅か数分でプルシックスは安らかな寝息を立て始めた。その寝顔を見下ろし、自然とプルスリーにも笑みが浮かぶ。
頼れるみんなの参謀役は今、年相応の少女に戻って眠りにまどろんでいた。
そんな彼女に再度小さくおやすみを囁いて、プルスリーはベッドから降りるのだった。