舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。
長物守:作 ガチャM:挿絵 (長物守 twitter @nagamono)
■デザイン協力
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix
※Pixivにも投稿しています。
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クローン・ニュータイプというのは、ただの戦術単位、モビルスーツの部品でもある。高度な感応能力に、サイコミュへの適正。そして、強靭な肉体を持つ生きた兵器だ。だから、年相応の少女として扱われた記憶は、プルスリーにはあまりない。
施設の大人たちは親切な者も多いし、医療班では仲間のように接してもらえる。
だが、そうした環境に恵まれない妹のことが、プルスリーは心配だった。今、そんな妹の一人と接触を持つべく、彼女は久々に街へ降りていた。戦時下だからか、アクシズの居住区はどこも閑散としていて、往来を行き交う人々もどこか余所余所しい。
待ち合わせのレストランで、プルスリーは外を眺めつつ甘味に舌鼓を打つ。
「この店は、アタリね。やはりチョコレートとミントアイスの相性は抜群よ」
思わず声が弾む。
目の前のパフェを食べて、評論家のような目線になってしまう。
論調じみた言葉は、あとからいつも賢者のような境地で恥じ入ってしまう……それがわかっていても、スイーツを前にプルスリーは少しはしゃいでいた。
プルスリーには、淡い夢がある。
それは、夢というにはささやかで、それ故に手が届かぬ望みだ。
だからこそ、その夢に手を伸ばすことだけは忘れたくない。
いつか、戦いが終わったら……パティシエになりたい。
この手で撃墜数ではなく、笑顔を作って積み重ねたいのだ。
「それにしても……遅いわ。大丈夫かしら、プルセブンは。あ、すみません! えと、ん……やっぱり、このガトーショコラを追加して頂戴。お願いします」
妹を案じつつも、ウェイトレスが通りかかったので追加を頼む。
そして、チョコミントと生クリームたっぷりのパフェを、とうとう最後まで平らげてしまった。綺麗に空になったガラスの容器は、そっとテーブルの隅へ寄せられる。そこには既に、完食されたプリン・ア・ラ・モードとミルクレープの皿が待機していた。
待ち合わせの時間は近いのに、妹の現れる気配はない。
うかうかしていると、このまま甘いものを食べるだけで一日が終わってしまう。
……それは、凄くいい。
現実的にはカロリー過多で体調に障るので、よくはないのだが。だが、そうして一日過ごせたのなら、それはプルスリーにとっては幸せそのものだった。
そんな時、不意に背後で声がした。
背中合わせに並んだボックス席、後のテーブルから聞き慣れた声。
「こちらプルセブン、定期報告」
「っ!? セッ、セブン!? いつからそこにいたの? ちょ、ちょっと、あなた」
「アクシズ内に目立った変化はなし。ただ一点、気になることが――」
「……話を聞きなさい、セブン」
「
なんと、既に店内に妹は訪れていた。
プルセブンは、姉妹の中でも高い戦闘力を持ち、特に生身での潜入任務や白兵戦に無類の強さを発揮する。プルファイブとは別の意味で、無手の体術を得意とする格闘のプロフェッショナルだ。
気配を殺して背後に潜む様など、まるで達人の領域である。
プルスリーは、自分の迂闊さに溜息を零した。
どうやらスイーツに夢中になっている間に、接近されたらしい。
だが、気を取り直して妹との会話を始める。
顔ぐらい見せればいいのにと思うが、これはプルセブンのいつものやり方なのだ。
「どう? セブン、体調に変化はないかしら。あと、気分がすぐれないとかは?」
「問題ない。ボクは正常に作動している」
「そういう言い方はよすこと! みんなも悲しむって、前にも言ったわ」
「……肯定。そ、その、ごめんなさい……」
プルセブンは恐らく、姉妹の中ではダントツに不器用な娘だ。
だが、プルスリーは知っている。
研ぎ澄まされたナイフのような妹は、とても優しい気持ちを秘めている。本当は、影から影へと闇の中を生きる女の子ではない。陽の光が当たる中をどこまでも走って行ける、笑顔でいられる娘の筈なのだ。
だが、情勢は彼女たちプルシリーズに平穏を許してはくれない。
今、アクシズの内部に不穏な動きがあるとの情報があるのだ。
それを調べるために、プルセブンは定期的に居住区に潜入している。
「えっと、じゃあ……セブン、報告はなにかあるかしら」
「取り立てて異常は見られない。それが逆に気になる」
「と、言うと」
「なにか、気配がある。予感、というのだろうか……肌が粟立つ感覚。なのに、ボクが調べを進めると、なにも見つからない。なんの尻尾も掴めない不自然さが、逆に気になる」
「……あまりにも綺麗に、何かしらの痕跡が消されてる。そう感じたってことね?」
「肯定だ」
そして、プルセブンは言葉を続ける。
それは、他の姉妹たちもそれぞれに感じて心配していた事実に繋がった。
クローン・ニュータイプ特有の感じ方で、虫の知らせとか、そういう曖昧なものでしかない。だが、プルスリーたち姉妹は、そうした感じ方を強化された感覚の持ち主なのだ。
時としてニュータイプ特有の感応波は、無意識の中で隠された真実に触れてしまう。
そのことをまだ、人は不自然だと思えてしまう……そんな時代だった。
「全ては噂の段階でしかなく、ボクが察知する気配もまだ曖昧だ。でも、感じる……その先には、必ずあの男の名前がある。そして、その向こうには行けない。辿るべき道筋が、完璧に消されている」
「……グレミー・トト」
「肯定。グレミー・トトの周囲に、なにか嫌な感じを拾えてしまう。でも、それは目に見える物証を象らず、その痕跡すら全く見せない」
「わかったわ。ありがとう、セブン」
「礼には及ばない。任務だから」
「……そ。まあいいわ、あなたもなにか食べたら? ほかになにか希望があれば――」
本当はプルスリーは、顔を見せてほしかった。
姉妹の中でも妙に無表情で、仏頂面のプルセブン。だが、プルスリーにとってかわいい妹であり、全ての姉妹にとってそうなのだ。彼女を姉と慕う妹たちも、いつも心配している。
危険な潜入任務は、ともすれば人知れず闇の中で命を落とす。
死んだことすら知られないまま、暗闇の中に葬られてしまうのだ。
その孤独と戦いながら、プルセブンは懸命に働いていた。
そんな彼女が意外なことを言い出す。
「……姉妹の話を、聞きたい。あの、スリー姉さん」
「あら、珍しいわね」
「い、いや! 訂正、取り立てて追加情報や補充装備は必要を認めない! 現状維持、今後も任務を続行する!」
「セブン? ……ちょっと、いいからこっちにいらっしゃい」
「それはできない。ボクは現在、隠密行動中であり――」
「セ・ブ・ン?」
「……はい」
おずおずとプルセブンが、プルスリーの背後から姿を表した。彼女は行儀よく帽子を脱ぐと、プルスリーの向かいに座ってテーブルを囲んだ。
「あなたもなにか食べたら? ここのスイーツは絶品よ?」
「……いい。甘いものは、苦手だ」
「あらそう? いつもそんなこと言って。でも、わたしが作ってあげると」
「スリー姉さんのは、と、特別……しかし、糖分の摂取は最低限必要な分量に限る方がいいし、冷たいものは体温低下を招きかねない。戦士たるもの己の体調のためにも」
「あ、すみません。さっきのチョコミントのパフェをもう一つと、あとは……そうね、このフルーツタルトをお願いするわ」
「ス、スリー姉さん? あの」
再び通りかかったウェイトレスに注文してしまって、プルスリーは手にしたメニューを、パム! と閉じる。そして、テーブルに肘をつくと笑顔で目の前の妹を眺めた。
バツが悪そうに水を飲みながら、上目遣いにプルセブンが見詰めてくる。
「食べるでしょ? セブンも」
「……肯定」
「よしよし。もう、本当にあなたは不器用」
「……肯定」
「でも、頑張り屋さんで、みんなと同じ姉妹想い。本当は優しい子。そうでしょう?」
「……肯定、したい、ような、そうでも、ないような」
「ふふ。さて、他に報告したいことはあるかしら? なければ、二人で少し話しましょう」
「…………報告。前回の接触時より……スリー姉さんの体重、+0.4kg。体型に変化は見られないものの、僅かな体重増は糖分とカロリーが推奨既定値を超えて摂取されてると推測」
「こ、こらっ! セブン!」
プルスリーが顔を赤らめると、ようやくプルセブンは笑ってくれた。
それは、姉妹たちの誰とも違わない、心からの笑顔だった。
そうして諜報員の報告は終了し、姉妹の時間が訪れるのだった。