プルスリー・ストーリー   作:ガチャM

6 / 15
「プルスリー・ストーリー そらをかける姉妹」

舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。

長物守:作 ガチャM:挿絵 (長物守 twitter @nagamono)

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix

※Pixivにも投稿しています。


第6回「影として生きる妹とスイーツ」

     6

 

 

 

 クローン・ニュータイプというのは、ただの戦術単位、モビルスーツの部品でもある。高度な感応能力に、サイコミュへの適正。そして、強靭な肉体を持つ生きた兵器だ。だから、年相応の少女として扱われた記憶は、プルスリーにはあまりない。

 施設の大人たちは親切な者も多いし、医療班では仲間のように接してもらえる。

 だが、そうした環境に恵まれない妹のことが、プルスリーは心配だった。今、そんな妹の一人と接触を持つべく、彼女は久々に街へ降りていた。戦時下だからか、アクシズの居住区はどこも閑散としていて、往来を行き交う人々もどこか余所余所しい。

 待ち合わせのレストランで、プルスリーは外を眺めつつ甘味に舌鼓を打つ。

 

「この店は、アタリね。やはりチョコレートとミントアイスの相性は抜群よ」

 

 思わず声が弾む。

 目の前のパフェを食べて、評論家のような目線になってしまう。

 論調じみた言葉は、あとからいつも賢者のような境地で恥じ入ってしまう……それがわかっていても、スイーツを前にプルスリーは少しはしゃいでいた。

 プルスリーには、淡い夢がある。

 それは、夢というにはささやかで、それ故に手が届かぬ望みだ。

 だからこそ、その夢に手を伸ばすことだけは忘れたくない。

 いつか、戦いが終わったら……パティシエになりたい。

 この手で撃墜数ではなく、笑顔を作って積み重ねたいのだ。

 

「それにしても……遅いわ。大丈夫かしら、プルセブンは。あ、すみません! えと、ん……やっぱり、このガトーショコラを追加して頂戴。お願いします」

 

 妹を案じつつも、ウェイトレスが通りかかったので追加を頼む。

 そして、チョコミントと生クリームたっぷりのパフェを、とうとう最後まで平らげてしまった。綺麗に空になったガラスの容器は、そっとテーブルの隅へ寄せられる。そこには既に、完食されたプリン・ア・ラ・モードとミルクレープの皿が待機していた。

 待ち合わせの時間は近いのに、妹の現れる気配はない。

 うかうかしていると、このまま甘いものを食べるだけで一日が終わってしまう。

 ……それは、凄くいい。

 現実的にはカロリー過多で体調に障るので、よくはないのだが。だが、そうして一日過ごせたのなら、それはプルスリーにとっては幸せそのものだった。

 そんな時、不意に背後で声がした。

 背中合わせに並んだボックス席、後のテーブルから聞き慣れた声。

 

「こちらプルセブン、定期報告」

「っ!? セッ、セブン!? いつからそこにいたの? ちょ、ちょっと、あなた」

 

【挿絵表示】

 

「アクシズ内に目立った変化はなし。ただ一点、気になることが――」

「……話を聞きなさい、セブン」

肯定(アファーマティブ)

 

 なんと、既に店内に妹は訪れていた。

 プルセブンは、姉妹の中でも高い戦闘力を持ち、特に生身での潜入任務や白兵戦に無類の強さを発揮する。プルファイブとは別の意味で、無手の体術を得意とする格闘のプロフェッショナルだ。

 気配を殺して背後に潜む様など、まるで達人の領域である。

 プルスリーは、自分の迂闊さに溜息を零した。

 どうやらスイーツに夢中になっている間に、接近されたらしい。

 だが、気を取り直して妹との会話を始める。

 顔ぐらい見せればいいのにと思うが、これはプルセブンのいつものやり方なのだ。

 

「どう? セブン、体調に変化はないかしら。あと、気分がすぐれないとかは?」

「問題ない。ボクは正常に作動している」

「そういう言い方はよすこと! みんなも悲しむって、前にも言ったわ」

「……肯定。そ、その、ごめんなさい……」

 

 プルセブンは恐らく、姉妹の中ではダントツに不器用な娘だ。

 だが、プルスリーは知っている。

 研ぎ澄まされたナイフのような妹は、とても優しい気持ちを秘めている。本当は、影から影へと闇の中を生きる女の子ではない。陽の光が当たる中をどこまでも走って行ける、笑顔でいられる娘の筈なのだ。

 だが、情勢は彼女たちプルシリーズに平穏を許してはくれない。

 今、アクシズの内部に不穏な動きがあるとの情報があるのだ。

 それを調べるために、プルセブンは定期的に居住区に潜入している。

 

「えっと、じゃあ……セブン、報告はなにかあるかしら」

「取り立てて異常は見られない。それが逆に気になる」

「と、言うと」

「なにか、気配がある。予感、というのだろうか……肌が粟立つ感覚。なのに、ボクが調べを進めると、なにも見つからない。なんの尻尾も掴めない不自然さが、逆に気になる」

「……あまりにも綺麗に、何かしらの痕跡が消されてる。そう感じたってことね?」

「肯定だ」

 

 そして、プルセブンは言葉を続ける。

 それは、他の姉妹たちもそれぞれに感じて心配していた事実に繋がった。

 クローン・ニュータイプ特有の感じ方で、虫の知らせとか、そういう曖昧なものでしかない。だが、プルスリーたち姉妹は、そうした感じ方を強化された感覚の持ち主なのだ。

 時としてニュータイプ特有の感応波は、無意識の中で隠された真実に触れてしまう。

 そのことをまだ、人は不自然だと思えてしまう……そんな時代だった。

 

「全ては噂の段階でしかなく、ボクが察知する気配もまだ曖昧だ。でも、感じる……その先には、必ずあの男の名前がある。そして、その向こうには行けない。辿るべき道筋が、完璧に消されている」

「……グレミー・トト」

「肯定。グレミー・トトの周囲に、なにか嫌な感じを拾えてしまう。でも、それは目に見える物証を象らず、その痕跡すら全く見せない」

「わかったわ。ありがとう、セブン」

「礼には及ばない。任務だから」

「……そ。まあいいわ、あなたもなにか食べたら? ほかになにか希望があれば――」

 

 本当はプルスリーは、顔を見せてほしかった。

 姉妹の中でも妙に無表情で、仏頂面のプルセブン。だが、プルスリーにとってかわいい妹であり、全ての姉妹にとってそうなのだ。彼女を姉と慕う妹たちも、いつも心配している。

 危険な潜入任務は、ともすれば人知れず闇の中で命を落とす。

 死んだことすら知られないまま、暗闇の中に葬られてしまうのだ。

 その孤独と戦いながら、プルセブンは懸命に働いていた。

 そんな彼女が意外なことを言い出す。

 

「……姉妹の話を、聞きたい。あの、スリー姉さん」

「あら、珍しいわね」

「い、いや! 訂正、取り立てて追加情報や補充装備は必要を認めない! 現状維持、今後も任務を続行する!」

「セブン? ……ちょっと、いいからこっちにいらっしゃい」

「それはできない。ボクは現在、隠密行動中であり――」

「セ・ブ・ン?」

「……はい」

 

 おずおずとプルセブンが、プルスリーの背後から姿を表した。彼女は行儀よく帽子を脱ぐと、プルスリーの向かいに座ってテーブルを囲んだ。

 

「あなたもなにか食べたら? ここのスイーツは絶品よ?」

「……いい。甘いものは、苦手だ」

「あらそう? いつもそんなこと言って。でも、わたしが作ってあげると」

「スリー姉さんのは、と、特別……しかし、糖分の摂取は最低限必要な分量に限る方がいいし、冷たいものは体温低下を招きかねない。戦士たるもの己の体調のためにも」

「あ、すみません。さっきのチョコミントのパフェをもう一つと、あとは……そうね、このフルーツタルトをお願いするわ」

「ス、スリー姉さん? あの」

 

 再び通りかかったウェイトレスに注文してしまって、プルスリーは手にしたメニューを、パム! と閉じる。そして、テーブルに肘をつくと笑顔で目の前の妹を眺めた。

 バツが悪そうに水を飲みながら、上目遣いにプルセブンが見詰めてくる。

 

「食べるでしょ? セブンも」

「……肯定」

「よしよし。もう、本当にあなたは不器用」

「……肯定」

「でも、頑張り屋さんで、みんなと同じ姉妹想い。本当は優しい子。そうでしょう?」

「……肯定、したい、ような、そうでも、ないような」

「ふふ。さて、他に報告したいことはあるかしら? なければ、二人で少し話しましょう」

「…………報告。前回の接触時より……スリー姉さんの体重、+0.4kg。体型に変化は見られないものの、僅かな体重増は糖分とカロリーが推奨既定値を超えて摂取されてると推測」

「こ、こらっ! セブン!」

 

 プルスリーが顔を赤らめると、ようやくプルセブンは笑ってくれた。

 それは、姉妹たちの誰とも違わない、心からの笑顔だった。

 そうして諜報員の報告は終了し、姉妹の時間が訪れるのだった。

 

【挿絵表示】

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。