プルスリー・ストーリー   作:ガチャM

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「プルスリー・ストーリー そらをかける姉妹」

舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。

長物守:作 (twitter @nagamono)
ねむのと ガチャM:挿絵

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix

※Pixivにも投稿しています。


第7回「病気なんてない、ない、ナイン」

     7

 

 

 

 医者の不養生、という言葉があるらしい。

 今の自分がまさにそれだと、プルスリーは熱い溜息を零した。

 自室のベッドに沈んでから、どれくらいの時間が経っただろう? 配属されてる部署や上官への報告はしてあるので、72時間は休めるが、その先はわからない。熱はあるのに酷く寒くて、自分の寝汗の不快感に凍えていた。

 朦朧とする頭は上手く働かず、寝ては起きての繰り返しだ。

 こういう時、一人というのは酷く心細い。

 これが寂しいという感覚なのだと、プルスリーは今更ながら実感していた。

 

「ん……なにか食べないと。薬だって。……食欲は、でも」

 

 五感が鈍って、上手く思惟が紡げない。他者との存在感を交感し合う力でさえ、弱って今はなにも感じなかった。

 こういう時、嫌というほど思い知らされる。

 後天的に植え込まれたニュータイプ能力も、人間が持つ普遍の身体機能だということ。

 不調な時もあるし、体調が悪ければ鈍る。ニュータイプ能力は進化した人類の特殊な超常力ではなく、単純に宇宙の民が発達させた身体機能なのかもしれない。陸へあがった太古の魚が肺呼吸を得て、四肢や翼を得ていったのとは少し違う。

 単純に人間は、鋭敏な感覚を養うことも、それを陰らせることもできる、それだけだ。

 少し興味深いことだと、自分さえ俯瞰するような研究者の眼になってしまうプルスリー。

 その時、自室のキッチンから呑気な声がほわわかに響いた。

 

「歌……? 誰が……この歌は、確か」

 

 いつからその人物は部屋にいたのだろう?

 調子っ外れの声は威勢がよくて、愛嬌に満ちて柔らかく無邪気だ。弾んだ歌声の持ち主は、ベッドの上に身を起こしたプルスリーを察したのか、パタパタとやってくる。

 そこには、エプロン姿の妹が立っていた。

 

【挿絵表示】

 

 

「スリーお姉ちゃん! まだ寝てなきゃ駄目だよぉ」

「ナイン……いつからここに?」

「んーと、さっきから」

 

 ぺかーっとあどけない笑みで、プルナインはキッチンに戻ってゆく。程なくして彼女は、いつもプルスリーが使ってるマグに熱いお茶を持ってきてくれた。丁度喉が乾いていたプルスリーは、それを受け取り手の中に熱を閉じ込める。

 冷たい清涼感もいいが、悪寒の止まらぬ身に浸透する温かさも心地よい。

 口をつければ、ゆっくりと喉を程よい熱さが滑り降りていった。

 

「苦い! このお茶は」

「んとね、ハーブティなんだって」

「これは、どくだみ茶よ。知らないで出したのね?」

「えへへ……」

 

 プルナインの無垢な笑みに、自然とプルスリーも頬が緩む。

 プルナインはいつも、天真爛漫で明るく無邪気、仕事もプライベートもマイペースな女の子だ。まるでふわふわと舞う天使の羽根のようで、落ち着きがないとか頭が弱いとか言う兵たちもいるにはいる。

 だが、彼女の本質を知る者たちは姉妹以外にも多い。

 風に吹かれるままに踊る羽根は、接する誰をも優しい気持ちにさせるのだ。

 

「いまねー、ご飯作ってる。玉子のリゾットだよ? あとね、プリン買ってきた」

「消化の良い食事が好ましく、ナインの選択は適切……プリン?」

「そう、プリン! あれ、覚えてない? スリーお姉ちゃん、昔、ナインが風邪引いた時にプリン作ってくれたよ?」

「ああ……ふふ、あの時のナインはなにも食べたがらなかったから」

 

 かろうじて脳裏に記憶を引っ張り出すプルスリー。

 以前は立場が逆で、風邪を引いたプルナインを看病してあげたことがあった。仕事柄、姉妹の体調管理と心身のデータ管理はプルスリーの担当なのだ。あの時は寝込んだナインにも手を焼いたが、それを心配して押し寄せる姉妹たちにも苦労させられたものだ。

 それを思い出したら、自然とプルスリーも笑顔になる。

 

「あの時は大変だったわ。ナインがなにも食べないから、プルツー姉さんも妹たちも心配して」

「そうなの。フォウお姉ちゃんとファイブお姉ちゃんがおかゆを作るんだって」

「大惨事だったわ、あれは」

「エイトお姉ちゃんのレコーディングとバッティングしちゃってー」

「ふふ、懐かしい……そんなに昔のことではないのに」

 

【挿絵表示】

 

 どくだみ茶を飲み終え、マグカップをプルナインに返す。

 受け取ったプルナインは、じっとプルスリーを見て……不意に顔を近付けてきた。前髪にそっと触れ、額に額を押し付けて体温を比べてくる。

 基本的に同じ作りなのに、どこかプルナインの笑顔はきらびやかだ。

 妙な華があると言ったのは、一つ上のプルエイトだったと思う。

 

「んー、少し熱が下がったみたい。気分はどかな? 吐き気とかする?」

「……寝汗が、気持ち悪いかも。そうだ、着替えを」

「任せてっ! ついでに身体も拭いちゃお。それからご飯にしてー、薬飲んでー、寝れば治るよ。うんっ!」

 

 プルナインはてきぱきと、用意してあったプルスリーの着替えを出してくる。そのまま取って返すと、彼女は湯を絞ったタオルと洗面器を出してくる。

 言われるままにプルスリーは、よろよろとベッドに起き上がってパジャマを脱いだ。

 室温は最適に調整されているのに、酷く寒い。

 震える肌に触れてくるプルナインのタオルが温かくて、べたついた感覚が溶けていった。

 プルナインに身体を拭かれながら、プルスリーは上手く働かない頭で長い髪をいらう。普段は三つ編みにしている髪をいじるのは、彼女が考え込む時の癖だ。

 

「ナインは最近、どう? プルツー姉さんからは、忙しく働いてると」

「んとねー、フォウお姉ちゃんとあれの最終チェックをしてたよ。なんだっけ、えっと……クィーン、クィンシー、みたいな」

「クィン・マンサ?」

「そう、それ! でっかいの。でも、新しく小さいのを作ってみるってフォウお姉ちゃんが言ってた」

「あの子、最近は少し図面も自分で引いてみてるって」

 

 どうやら姉妹たちは元気のようで、コロコロと笑顔でプルナインが語る。そのまま彼女はプルスリーをすっかり綺麗にしてしまうと、新しいパジャマを着るのを手伝ってくれる。

 すっきりして再びベッドに戻ると、プルナインはキッチンへ帰っていった。

 先程からいい匂いがしていて、ほどよく食欲が刺激されたところだ。

 薬を飲むためにも、少しでいいから食事はしたほうがいいだろう。

 

「あ、そうだ、洗濯もしとくね。あとはー」

「ナイン、あなたも忙しいでしょう? そのくらいでいいわ」

「仕事は大丈夫? スリーお姉ちゃんの仕事は難しいから、手伝えないかもしれないけど……」

「そんなことないですよ。そうですね……あとでプリンを一緒に食べましょう」

「だよね! ……ん?」

 

 インターフォンの音が鳴ったのは、その時だった。

 パタパタとプルナインが駆けてゆく。

 そして、小さな笑いと悲鳴。

 なにごとかと思ったその時には、寝室にどやどやと雪崩のように姉妹たちが上がり込んできた。皆、服装はまちまちで、プルファイブなどはノーマルスーツを着ていた。

 

「スリー姉! だいじょーぶなの!? なんか倒れたって!」

「ちょっと、痛いよ、重いー! どいてどいてっ」

「ボクはそんなに重くない……フォウ姉さんの鍛え方が足りないだけ」

「で、大丈夫なの? 熱が下がらないって聞いたけど」

「私、今夜が峠だって聞いたから……その、びっくりしちゃって」

 

 どうやら情報が錯綜して混乱しているようだ。

 そして、ツツツと視線を反らしながらカニ歩きにプルナインがキッチンに逃げてゆく。

 どうやら、混乱の原因は彼女の半端な情報の拡散らしい。

 プルスリーは少しびっくりしたが、自然と笑顔が止まらない。

 

「ナイン? 伝言ゲームになってるわよ?」

「ご、ごめんなさい……」

「ふふ、そうみたいね。とりあえず、伝染るといけないから」

「う、うん」

「長居は駄目、でも……お茶を人数分出してもらえるかしら?」

「うんっ!」

 

 あっという間にプルスリーのベッドは、姉妹たちに囲まれてしまった。そして、見舞いの品と花とが差し出される。先程の寂しさが嘘のようで、気付けばプルスリーの寒さも熱っぽさも和らいでいた。

 プルナインの作ってくれた食事を食べて、薬を飲んで寝たら……次の日には熱も引いて、プルスリーは職場に復帰することができたのだった。

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