プルスリー・ストーリー   作:ガチャM

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「プルスリー・ストーリー そらをかける姉妹」

舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。

作:長物守 (twitter @nagamono)
挿絵:おにまる (twitter @onimal7802)
   ガチャM

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix

※Pixivにも投稿しています。


第8話「ニュータイプに覚醒した鳥」

     8

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 プルスリーが呼び出されたのは、どうやら事態が悪化したあとだったようだ。

 アクシズの片隅にある、緑地帯の中の小さな牧場。本来はザビ家ゆかりの者達の保養と、天然の上質な畜産物を育成する施設である。一般市民も普段はプラントの合成肉を口にすることが多いが、高価ならがらもここの精肉は密かな贅沢になりつつある。

 管理者たちに案内されたプルスリーの前に、大きな木が現れた。

 周囲では兵士達が、樹齢数百年という地球から植林された大樹を見上げている。

 

「お疲れ様です、皆さん。あの、どうでしょうか?」

「ああ、親衛隊の! すみません、その……妹さん? が、ちょっと」

「正直、お手上げですよ。彼女、なにを言ってるんです?」

 

 兵士達はプルスリーへ振り返って、気まずそうに苦笑を浮かべる。

 彼等に並んで、プルスリーは大樹を見上げる。

 全てが人工物というアクシズの中で、低い空へ手を伸ばすかのような立派な枝振りだ。

 溜息を一つ零して、プルスリーは声を張り上げる。

 

「テン、そこにいるわね? 連絡をもらって驚いたわ。さ、説明して頂戴」

 

 ガササッ! と、木の上でなにかが動いた。

 目を凝らせば、一人の少女が枝の上に座っている。

 彼女は妹のプルテンだ。

 プルテンは申し訳なさそうな声で少しおどおどと喋る。

 

「スリーお姉さん……ご、ごめんなさい。あの……この子を出荷するって言われて、つい」

 

 よく見れば、プルテンは両手で膝の上に一羽の鳥を抱えている。

 それは、ごくごくありふれた雌の鶏だ。

 この牧場では、宇宙要塞という限られたスペースにもかかわらず、多くの動物がクラシカルな方法で育成されていた。生産性を考えれば畜舎に詰め込み数を増やすのだが、それを突き詰めるとプラントの合成食品の方が効率的だから。

 地球という大地を離れた民だからこそ、アクシズにはこうした場が必要なのだ。

 再現された自然の中に遊ぶ動物達は、時に民や兵士の心へ安らぎをもたらす。

 だが、ここで飼育される動物は最後には精肉として出荷されるのだ。

 プルスリーは腰に両の手を当て、ふむと唸って言葉を続ける。

 

「とりあえず、降りてらっしゃいな。ね、テン? なにか訳があるのでしょう?」

 

 だが、プルスリーが事情を察しようとした声に、疑問符が返ってくる。

 突然の言葉に、プルスリーも周囲の兵士達も目を点にしてしまった。

 

「スリーお姉さん……あ、あの……鳥も、ニュータイプに目覚めると思いますか?」

 

 突飛な言葉に、一瞬の沈黙。

 声を殺して互いを肘で小突いて、兵士達は肩を震わせた。

 だが、プルスリーは笑ったりはしない。

 以前からプルテンが鳥の研究に熱心なのは知っていた。彼女はまだ地球に降りたことがないが、アクシズに持ち込まれた鳥達の世話を献身的にこなした。観賞用のものは勿論、食用として育てられているものも全て平等に。プルテンには親衛隊のパイロットであると同時に、研究テーマをもって鳥達と接する科学者の顔があった。

 ――鳥もニュータイプに目覚めると思いますか?

 この問に応えられる者など、恐らくアクシズにはいないだろう。

 それは、後天的にニュータイプと同等の感応力を付与されたプルスリー達も同じだ。

 

「テン、その、ええと……ごめんなさい、その質問には答えられないわ」

「あ、えと……私こそごめんなさい。でも……今日は、その可能性が見えた気がして」

「その鶏さんが、進化した鳥なのかしら。ねえ、テン……話してくれるわね」

「は、はい。その……見てください、スリーお姉さん。さ、君……飛んでみて」

 

 その時、本来ならありえない光景がプルスリーの前に舞い降りた。

 そっと両手を広げたプルテンから、鶏が空へと舞い上がったのだ。翼を羽撃かせて宙を泳ぐように飛んで、その鶏はプルスリーの頭の上へと降りる。額の上を見上げながら、プルスリーはすぐに兵士達を振り返った。

 この地区を警備する者達は皆、プルスリーの考えを察して首を振る。

 

「この区画は1G、ほぼ地球と同じ人工重力制御が行われている。……でも、この子は飛んだ。テンの手から私のところへ」

 

 鶏は本来、家畜化された長い歴史の中で飛べなくなった鳥である。

 だが、プルスリーの頭の上に今、実際に鶏は座っている。

 プルテンの声が降ってきて、自然とプルスリーは妹の話に耳を傾けた。

 

「この牧場で最近、次々と発見されているんです。……空を飛ぶ鶏が。それって、もしかして――」

「宇宙という環境に適応した、新しい鶏……だと、思ったのね? テン」

「はい。私、その子達を少し調べてみたいんです。もっと知りたい……でも、もう出荷してしまうと言われて、それで」

 

 生来、プルテンは大人しい妹だ。物静かで柔和で、とても優しい子である。だが、自己主張に消極的な一面があって、姉妹の中では姉や妹に同調して自分から一歩退くことが多々あった。良くも悪くも個性的なプルシリーズの姉妹で、彼女は珍しく内気な少女なのだ。

 そのプルテンが、食料統制がそれなりに厳しいアクシズの出荷予定に逆らった。

 意外に思えて、それだけにプルスリーは真剣に考えを巡らせる。

 

「事情はわかったわ、プルテン。とりあえず、あなたも降りてらっしゃい」

「は、はい……」

「ニュータイプっていうのは、宇宙へ生活の場を移したことで、人間に眠っていた力が発現したものだと言われているわ。同時に、新たな環境に適応するべく生まれた力だとも」

「そ、そうなんです。だから……もしかしたら、鶏さんもこのアクシズで世代を重ねるうちに……飛べる個体が、ニュータイプが生まれてきたんじゃないかって。そして、それは特別なことではない気がするんです」

 

 ニュータイプとは、広大な宇宙へ進出した人間の中から生まれた、コミュニケーション能力を発達させた者達だという。ニュータイプは、まだまだ未熟な人類には広過ぎる宇宙で、距離や空間を超越して他者と分かり合える力を持っているらしい。

 いずれは刻さえも超えて、あらゆる存在と相互理解できる可能性さえ示唆されていた。

 だが、今という時代にそれは戦争の道具としてしか活かされない。

 プルスリー達姉妹も、その力をエースパイロットとしてしか使えていない実情があった。

 では、この鶏は……再び空へ舞う力を得た鳥は、なにを目指しているのだろうか?

 この狭いアクシズの中で、鶏達の遺伝子になにが起こったのだろうか?

 プルスリーが思案に沈みつつ見上げる中、おずおずとプルテンが降りてくる。

 

「担当官の方と、あと、プルツーお姉さんに……上申しました。この牧場の鶏達を、一部でいいから……研究のために、残して欲しいと。でも、それがなかなか、キャッ!?」

 

 不意に、枝から枝へと危なげに降りていたプルテンが足を滑らせた。

 慌てて駆け出すプルスリーの頭から、羽毛を舞い散らして鶏が飛び立つ。

 間一髪のところで滑り込んで、プルスリーは落下したプルテンを抱き留めた。パイロットとして鍛えられた肉体である以上に、互いの身体は小さく柔らかな少女と少女でしかなかった。

 両手を広げて全身でプルテンを受け止めたまま、プルスリーはその場にへたり込む。

 バサバサと飛び回る鶏は、呆気に取られて固まったプルテンの頭に着陸した。

 

「大丈夫? 怪我はないわね、テン」

「は、はいぃ……」

「ほら、見て。この子も心配してくれたみたい。……本当にニュータイプだったらどうしましょう」

「……担当官の方は、ニュータイプの鶏ブランドというのを売り出せば……市民達も喜ぶんじゃないかって。でも、この子達の可能性には、もっと長期的な展望がある気がして」

「とりあえず、今日の出荷は待ってもらいましょう。ね? 私からもプルツー姉さんに連絡してみるわ。……きっと、飛べる鶏はそう何羽もいる訳じゃない筈だから」

「え……スリーお姉さん、どうしてそれを」

 

 意外そうな顔をしたプルテンの、そのなだらかな肩を抱き寄せる。

 彼女の話では、飛べるようになった鶏は確認されてるだけでも、たった十三羽だけだ。その十三羽だけが、自由に空を舞って風になる。

 だが、飼育される多くの鶏は従来通り、飛べない鶏だった。

 プルスリーの予想を肯定して、プルテンが言葉を続ける。

 

【挿絵表示】

 

「やっぱり、ニュータイプというのは……限られた者達だけの特別な力なんでしょうか。鶏さんも一部の個体だけが、突然変異のように」

「それはわからないわ。突然空を飛ぶようになった鶏が、進化したかどうかも定かではないのだもの。遥か太古の昔には鶏は飛べる鳥で、先祖返りしたとも考えられるわね」

「それを言ったら……スリーお姉さん。人だって、昔はもっと……ずっと、沢山の人同士でわかりあってたかもしれないんです。進化って、なんだろう……その答を、私はこの子と探したいんです」

「そう……そうね。宇宙は人間には広くて深いものね」

 

 まるでプルテンへ返事をするように、頭の上の鶏が一声鳴いた。

 その後、忙しい中プルツーが飛んできてくれて、件の飛べる鶏達は研究施設に移されることになった。だが……飛べない従来の鶏達から隔離された日から、その個体は飛ばなくなった。十三羽全てがだ。

 そのことをプルテンは熱心に研究してレポートをまとめた。

 進化であれ先祖返りであれ、突然優れた個体が出現するとしても……その力を使う理由、その力で守り導く者達のいない環境では、もとに戻ってしまうのかもしれない。

 不思議なことだが、なんとなくプルテンの言葉がプルスリーの胸の奥に残った。

 ――ニュータイプ同士の世界では、ニュータイプ能力はいらないのかもしれない。

 それは、姉妹でいる時だけ戦争も闘争も忘れられるプルスリーには、不思議な実感として心に満ちるのだった。

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