舞台はUC0088年のアクシズ。プルスリーが主役の、プルフォウ・ストーリーのサイドストーリーです。
作:長物守 (twitter @nagamono)
挿絵:かにばさみ (twitter twitter @kanibasami_ta)
ガチャM
■デザイン協力
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix
※Pixivにも投稿しています。
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親衛隊のキュベレイが並ぶ格納庫で、プルスリーの愛機は異彩を放っていた。キュベレイが定数を揃えられない中で、倉庫に眠っていた試作機。ハンマ・ハンマとバウの間を繋ぐ、開発史のミッシングリンクだ。
だが、プルスリーは自分に与えられた機体が気に入っていた。
サイコミュの相性もいいようだし、ピーキーな操縦性も裏を返せば限界の高さを物語っている。なにより、慢性的な物資不足を抱えるアクシズでは、貴重な戦力を使って見せてこその親衛隊だと思うようにしていた。
「それに、こうして見ると意外とかわいいですし……ね、わたしの大事なあなた」
無重力の格納庫に白衣を棚引かせ、プルスリーは近付く愛機へと語りかける。
物言わぬ鋼鉄の巨人は、光の灯らぬ表情で黙って彼女を迎えた。
代わりに、開放されたコクピットハッチから妹が手を降ってくれる。作業用のツナギを着て、その上半身を腰で結んでいるのはプルイレブンだ。
「スリーお姉さま、改修作業は終わりました。多分、大丈夫だと思います」
「ごめんなさいね、イレブン。色々と急がせてしまって」
「平気です。それに、ちょっと面白かったですよ?」
バウの開発母体として、ハンマ・ハンマをベースに改造されたテストベット……AMX-103RZハンマ・ハンマ"ラーズグリーズ"。上下分離と変形を可能としたバウの、その合体機構をこの機体も持っている。
今回、プルスリーは無理を言って妹のイレブンに改修を頼んでいた。
プルイレブンは姉妹の中でも、アビオニクスやサイコミュ系のスペシャリストだ。姉妹達は皆、それぞれに自分の得意分野を持っている。例えばプルスリーは、医療分野を得意として姉妹の心身をケアしていた。
プルイレブンが座るコクピットを覗き込みながら、プルスリーは小さな妹へと微笑んだ。
「大変だったんじゃないでしょうか。でも、こんな短時間で」
「大丈夫です、スリーお姉さま。バウにはもともと、下半身のコクピットも想定されていましたから。そのプランが生きてた頃の実験機なので、むしろ簡単だったかも」
「そう。でも助かったわ」
プルイレブンが座っているのは、下半身側のコクピットだ。
その上では、通常のハンマ・ハンマと同じく上半身のコクピットもある。
プルスリーは故あって、愛機の仕様変更をプルイレブンに頼んだのだ。通常のバウがそうであるように、分離変形した際は上半身から下半身をコントロールする。無人の下半身はある程度の自律制御で動き、サイコミュでこれを制御することもプルスリーには可能だ。
だが、あえてそこにもう一つコクピットを設けた。
上半身と全く同じリニアシートとオールビューモニターを備えたコクピットだ。
その中央に座り、コンソールに細い指を走らせながらイレブンが説明してくれる。
「もともとバウには、下半身……バウナッターのデッドスペースが存在するんです」
「あら、そうなんですか?」
「この機体が……"ラーズグリーズ"が作られていた頃には、バウの設計思想は一撃離脱型の特殊任務用モビルスーツでした。今は、そのポテンシャルの高さから量産されてますけど」
「一撃離脱……特殊任務?」
プルイレブンはモニターの照り返しを受けながら、淡々と話す。
その間もずっと、めまぐるしい速さで彼女の指はキーボードを奏でていった。
「廃案になりましたが、バウには核攻撃プランがあったんです。下半身のバウナッターに核弾頭を搭載、目標まで近付き分離、バウアタッカーで離脱。そのままバウナッターは目標に……ドカーン」
「まあ」
「現実には南極条約やイメージ戦略等の問題で、実現しなかったんです。で、無人コントロール用のユニットを核弾頭収納スペース……つまり、この場所に入れてたんですね」
改めてプルスリーは下半身のコクピットへと脚を踏み入れる。
確かに、上半身でプルスリーが乗るコクピットと大差ない。
これだけの余剰スペースがある理由が、ようやく彼女にも理解できた。
そして、同時に手を止めたイレブンがエンターを叩いて全作業をコミットさせる。
「終わりました、スリーお姉さま。……誰と乗るんですか? 一応、下半身側からも機体のフルコントロールが可能ですけど」
「今、探してるんです。いい人が見つかればよいのだけど」
「いい人……好い人?」
「ん? ふふ、違いますよ。違いますけど……でも、なにか予感のようなものがあって」
「それ、なんとなくわかります」
「そう?」
「なんとなく、ですけど。……それより、スリーお姉さま」
不意にコクピットのハッチが閉じた。
二人きりの密室を作って、プルイレブンがようやく顔を上げる。
その顔に並んだ綺麗な双眸が、僅かにかげった光でジトリと向けられてきた。
「……この間の健康診断、の、話、です、けど」
「え? ええ、そうね。よかったわ、誰も体調を崩してる姉妹はいないみたい」
「はい、それは嬉しい、です……で、その」
「どうしたの、イレブン。何か気になることがあるのかしら」
もじもじとコクピットのイレブンが、両の手を合わせて指と指とをもてあそぶ。
そうして彼女は、覗き込むプルスリーを見上げて……その手を己の胸に当てた。
「あの、スリーお姉さま! 私、どうでしたか?」
「ええと……健康そのものね。大丈夫よ、なにも心配はいらないわ」
「ほ、他には!」
「そうね……やっぱりプルツー姉さんのストレスが気になるわ。少しオーバーワークね。それと――」
「わ、私は!」
「あ! そうね、そうなのね……イレブン、まだそのことを気にして」
そっとプルスリーは手を伸べ、イレブンの柔らかな金髪に触れる。ツインテールに結った髪が、サラサラと輝くままに柔らかな感触を返してきた。
イレブンは両手を胸に当てたまま、俯き加減で言葉を絞り出す。
「私の、身長……あと、胸……」
「ふふ、大丈夫よ。まだ成長期なんだから。クローンニュータイプとして造られたわたし達でも、十代の女の子であることに変わりはないわ。身体も、心も」
プルイレブンは昔から、自分の体型を気にしているのだ。
基本的に同じ遺伝子配列を用いてクローニングされた、12人の姉妹。オリジナルと合わせて13人、性能に大差はない。そして、プルスリーは性能という言葉を使ったことは一度もなかった。
姉妹達は皆、血の繋がりを紡いで連ねた者同士であると同時に、それぞれが独立した個人。カプセルを出てからの成長にはばらつきが生じたのだ。そして、そのことでプルイレブンは時々、自分が局所的に身体の発育が劣っているのではと不安なのである。
プルイレブンはしきりに自分の胸を撫で続ける。
「スリーお姉さまやフォウお姉さまは……もっと、こう、少し……大きくて、柔らかくて。エイトお姉さまとかも。あと、身長が……どうして私だけ、何もかも小さいんでしょうか」
プルイレブンは姉妹の中でも何故か特別成長が遅い。
妹のプルトゥエルブやプルサーティンと比べても、それは顕著だ。
以前からプルスリーはそのことに気付いていたが、あえて気にしないようにしていた。そして、気にしないようにとプルイレブンにも言っている。それは、強化人間としての性能が劣る訳でもなく、彼女自身が必要以上にコンプレックスを感じる必要もないから。
だが、こうして二人きりの空間を作った上で、おずおずとプルイレブンは聞いてくる。
気にするなと言えば言う程、やはり気になるのがこの年頃の女の子なのだ。
「イレブン……ね、イレブン」
「はい」
「もっと、ちゃんと話しておくべきでしたね。気にするなとしか、わたしも言ってあげられなかったから。でも、敢えて言うわね……気にしないで、わたし達のかわいいイレブン」
そっとプルスリーは、見上げてくるプルイレブンの頭を胸に抱く。そうして優しく髪を撫でながら、自分の中に言葉を探して素直に打ち明けた。
「二次性徴前後の女性の肉体は、とても大きな変化を迎えるわ。でも、それには個体差があって、ゆっくりなのはとても自然なこと。つまり」
「つまり?」
「イレブンはそれだけ、自然な女性に……ごく普通の一般的な女の子に近いってことなの。理由はさまざま考えられるけど、でも覚えていて頂戴。イレブンはどんな姿でも、同じ姉妹の絆で結ばれた大事な子なんですから」
胸の中で見上げてくるイレブンが、大きな瞳を潤ませる。
「ほ、本当ですか」
「ええ」
「私も、まだ……大きくなりますか? 身長と、あと……胸とか、お尻とか」
「勿論よ」
「キャラ・スーンさんみたいには? イリア・パゾムみたいに!」
「え、ええ……可能性はちゃんとあるわ……た、多分。とにかく、シリアスに考えては駄目よ?」
「はい! なら、いいです」
プルイレブンは不安なのだ。姉も妹も、髪型や些細な違いを除けば全く同じだ。整った顔立ちに並ぶ表情は違っても、体つきやシルエットはほぼ同じ……彼女自身が言ったように、プルスリーやプルフォウの発育がややいいが、基本的には同じである。
プルイレブンだけが、小さいのだ。
だから、コクピットなんかも彼女だけが自分専用に調整している。
そのことに劣等感を感じて、それに負けぬよう普段は気を張っているのだった。
「スリーお姉さま」
「ん? なあに、イレブン」
「ちょっと……触ってみても、いいですか? その……胸を」
「ええ」
おずおずとプルイレブンの手が、プルスリーの胸に置かれる。こうして見下ろしていると、妹というよりは我が子のようにも思える。だが、プルイレブンにとっては深刻な悩みで、彼女は大真面目なのだ。
「……私も、こうなる。いつか、こうなる、筈……」
「ええ、そうよ。でも……も、もういいかしら? その、イレブン?」
「スリーお姉さまも、ちょっとふくよか……羨ましい」
「も、もうっ! 大丈夫って言ったでしょう? ね、イレブン」
「はい……スリーお姉さまが言うなら、安心です」
プルイレブンはプルスリーの胸に顔を埋めて、甘えるように体温を重ねてきた。プルスリーもまた、我が子を抱くような不思議な感覚を感じつつ……小さな妹に寄り添い抱き締め続けるのだった。