ヤンキー共を成敗してからそれなりの時が経った頃。王から呼び出しを受け、嫌々宮殿へやってきていた。
「用とは何だ」
「貴様、礼儀を弁えぬか!」
「雑魚は引っ込んでろ。権威でしか争うことができない輩と話すつもりはない」
「貴様ぁ!」
豪華に飾り付けをした長衣を着た男が罵ってくるがそれがどうした。本気を出さずともここらの大半には余裕で勝てるから気にせず挑発できる。
だが侮れない存在がいるのも事実なため自制する必要もある。
「…よい、余の前でも自身の態度を変えぬという心意気に免じて許そう。では本題にでも入りたいのだが構わないか?」
「勝手にしろ。俺だって暇ではないし、此処にいること自体が不快だ」
ああ、そうだ俺はこの星のこの場がもっとも嫌いな場所だ。贅にふけり怠惰に溺れるような集団が集まった場所など、不快以外の何物でもない。
「よくもまあ、国王である余の前でその態度を崩さずにいられるものだ」
「生憎俺は礼儀とかに疎い存在なのでな」
「ふんっスラム出身が…ぐあっ!」
「死にたくなかったらそれ以上口を開かないことだ」
余計な言葉を発した貴族に、気弾を撃ち込むことで物理的に黙らせる。それほど威力を上げて撃ち込んだつもりはないが、日頃から鍛えていない肉体にはそれなりのダメージがあるようだ。
悪党を毎日のように懲らしめ、戦っている俺と比べれば仕方のないことかもしれないが。
「貴様らも自制せぬか。報告によれば先日、エリート部隊の小童共がこの男に喧嘩をふっかけて呆気なく一蹴されたところだ」
「その小童共とは?」
「《サダラ防衛隊》三班 分隊長ピーマ率いる以下5名だ」
「「「「なっ!」」」」
王の口から発せられた驚愕的真実に、〈王の間〉に集った貴族や大臣などが一斉に言葉を失った。
〈サダラ防衛隊〉は、簡単に言えば悪を懲らしめる正義の軍隊だ。戦闘能力に秀でたエリートの集団である。防衛隊に推薦されることでさえ名誉であり、配属されることはそれ以上の名誉なことである。
分隊長クラスにまで昇進すると、惑星全土にその名前が広まることとなる。そしてその中でも一班から四班までの分隊長は、《サダラ四天王》と称され〈王の右腕〉やら英雄として扱われる。
ピーマはその4人の中でも屈指の腕前であると言われている。それと同時にかなりのくせ者扱いをされているが。
彼の部下もピーマの名前に劣らず腕前は確かなのである。しかしそんな彼等が名も知れず素性も定かではない青年に、こっぴどく絞られることなど真実なのかと疑問に思うのであろう。
「その腕を見込んで頼みがある。後日開催される〈力の大会〉に、《第6宇宙》代表として出場してもらいたいのだ」
「断る」
「…何?」
二つ返事で断りを入れた青年に、さしもの王も不機嫌な表情を隠すことができなかった。
「その要求には応えられないと言った。それに出場して俺になんのメリットがある?何もないだろう」
「陛下が貴様の腕を見込んで頼んでいるのだぞ!それを無碍にするとはどういう了見だ貴様!?」
「どうしろと言いたい?俺は戦いになど興味はない。あるのは子供の嬉しそうな笑顔を護ることだけだ」
「…偽善者が」
ぽつりと呟かれた言葉に怒りが込み上げたのか、青年が握りしめた拳がさらに強く握られる。それと同時に彼の全身から圧が発せられ、宮殿全体が小刻みに揺らぎ始めた。
「なんだこれは!何が起こっている!?」
「床がいや、宮殿自体が震えているというのか!?」
事態を理解できていない貴族共の声が、余計に青年の神経を逆なでる。眼には憎しみというより、憎悪にも似た光が生まれ今にも爆発しそうだった。
「やめい。其方も事を荒たげるな」
「…話は終わりだ。俺以外を当たることを勧める」
そう言って〈王の間〉から出て行こうとした青年の背に、予期せぬ言葉が投げつけられた。
「其方が出場してくれるのであれば、其方が活動している場所の治安を改善し衣食住を提供しよう。もちろんその場限りではなく、未来永劫維持することを約束する」
「王よ、それは過ぎた報酬なのでは?それほどの財をこのような素性も知れぬ子供に与えるなど」
「この星だけではなくこの宇宙全体の滅亡の危機なのだ。防ぐため自らを犠牲にしてまで戦ってもらうというのに、それに似合う報酬がなければ意味はない」
つまり王自身のためにではない。この宇宙、《第6宇宙》全土のために戦ってほしいと言っているのだ。負けることは許されないことではなく、この宇宙のために戦ってくれるだけでもいいと王は言っている。
「…考えさせて貰えるだろうか。返事はまあ期待して貰っても構わない」
「良き返答を期待している」
振り返ることもなく返答してから、〈王の間〉の扉を押し開けて青年は出て行った。青年がいなくなったことで、〈王の間〉には安堵の空気が流れている。
「ふぅ」
「大丈夫ですかな王よ」
「何、ほんの少し疲労を感じただけだ。気に病むほどではない。しかしあの青二才は何者だ?あれほどの圧力を感じたのは久方ぶりだ」
「生半可な鍛え方では、あれほどの力を見せることはできませんでしょうからな」
王の〈知〉としての右腕である初老の男は、青年が立っていた場所へと視線を向けながら、吟味しているような表情を浮かべている。2人以外にはおらず全員彼の発した圧にやられたのだろう。気分転換にでも外出したようだ。
「これならば《破壊神選抜格闘》に出て貰えればよかったのですが」
「その時は彼の存在を知らなんだ後悔しても遅かろうよ。シャンパ様が直接命令すれば出ないわけにもいかぬが、されるとは思えない以上余が頼み込むしかないのだ」
「返事はどうなるでしょう」
期待を込めた様子で聞く男に、若き王は口元に笑みを浮かべながら確信めいた様子で発した。
「受け入れるだろう。正義感に熱い彼の者のことだ余程のことがない限り断ることはない」
「余程のこととは?」
「スラムの子供らが死ぬような事態だ」
王はマントを翻し〈王の間〉を出て行くのであった。
ピーマは野菜のピーマンからとりました。重要人物ではないので簡単な名前でいいかなと。