それから数ヶ月の時が過ぎた。〈力の大会〉に出場してくれと言う惑星サダラの王の願いというより、強制に近い形で受けることにした。対価も悪いものではなかったし、《第6宇宙》の代表として出るのも悪くないと思った。
そういうことで参加を決めた俺は、王に意思表明を行いギブアンドテイクで行くことにした。強力な敵と戦うためには自身を鍛える必要があった。無理を言って立ち入り禁止区域への進入を許可してもらい、修行に明け暮れた。
ある日、惑星サダラ全土に御触が出された。それには〈強者を求む 腕に自信がある者は集え〉とだけ書かれており、それ以外には日にちと会場が記されていた。
俺は別段することもなく修行の休憩日として市場を歩いていただけだが、人垣を見つけたので屋台の上から見下ろす。
するとそこに先程説明した文字が書かれていた。意気揚々と雄叫びを上げる筋肉男などが、我先にと試合会場へと駆けだしていく後ろを姿微笑ましそうに見送る。
強さを求めるのは男として普通のことだし、金と名声を手に入れたがるのは知性を持つ生き物として可笑しくはない。
開催日は2日後。この街からそこに着くには、1日はかかるから今この瞬間から向かうのは正しい。まあ、それは交通機関を利用したらという注釈付きだが。
惑星サダラはサイヤ人の他にもたくさんの種族が存在している。
工学系の知識に富んだ者。
環境系の知識を有する者。
機械系の知識を有する者。
多種多様な多方面に優れた技術者がいる。
そのおかげで惑星サダラは他の宇宙に後れを取るどころか、勝るほどの文明を有している。〈サダラ防衛隊〉によって危険な惑星や星々から避難民を連れて帰ることで、優れた技術がもたらされた。
救助者からすれば命は助かるわ職業にありつけるわで、サダラからすれば文明は発達するわ支持は得られるわでメリットしか存在しない。だがメリットだけの話など存在しないかのように、問題はそれなりにある。
例えば言語・生活習慣・宗教。さらには土地などだ。
宮殿周辺はかなり環境が整っているが、裏側になると悲惨でしかない。荒廃した景観とやせ細った土壌という環境汚染的な状態である。
王や大臣たちもなんとかしようと努力してはいるのだが、焼け石に水または雀の涙といった状況なのである。俺にとってはあまり関係のない話なので別段気にしていないが。
先程まで歩いていた通りを脇に逸れて、迷路のように入り組んだ裏通りを抜ける。その先は大通りと同じ土地なのかと疑うほどさみしい景観だ。王族や貴族などからすれば近寄りたくもない場所。
そうここは俗に言うスラム街だ。窃盗・殺人がいつ起こっても可笑しくはなく、味方と言える存在はいない。自分を護るのは自分だけ。弱肉強食という言葉を体現した場所がスラム街。
〈力こそが全て〉であるスラム街は、強くなければ生きていくことはできない。
「あ、兄ちゃんだ!」
木材と藁で建てられた家の入り口に、座り込んでいた少年が俺を見つけて走り寄ってきた。俺もスラムで育ったから信頼できる存在がいることがどれほど嬉しいことか。子供の無邪気さは宝だ。
「今日はお別れを言いに来たんだ」
「え?」
「俺はこれから旅に出る。いつ帰ってこれるかもわからない。だが必ずこの星にこの場所に戻ってくるから待っててくれ」
涙を流さないと決めていたのにいざその瞬間になると堪えきれなくなった。嗚咽も漏らすまでではないが肩が震えるのは止められなかった。
「戻ってきてくれるんでしょ?だったら僕は泣かないよ」
「…強いな。俺にはない強さだ」
「強さにだって種類はあるんだ。負けない強さは兄ちゃんが泣かない強さを僕が持ってる」
5歳も年下に教えられるとは俺もまだまだだな。強さには色々あるのは知っていたが身を以て教えてもらえたのは今日が初めてだ。
「もう行くがみんなの世話は頼んだ」
「任せてよこれでも年長者だ」
手を振って自分のねぐらへと向かった。
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半日かけて試合会場へは空を飛んで行ったが、それほど注目を集めることはなかった。もちろん求めていたわけではなかったが、そうなることもあるのではと思っていただけだ。
いざ会場に足を踏み入れるとその巨大さに驚く。宮殿より小さいがそれでも巨大だと思わされる。
これほどの会場を造るとなると、資金は莫大なものになるのはスラム出身の俺でも容易に想像がつく。出場者は見渡しただけでも数千人はいるだろう。
強さに自信がある奴らばかりだろうが、そう上手く行くはずもない。自分だって腕には自信があるが、それがどこまで他人に通用するのかはわからない。
「おい、そこのガキ」
壁際に荷物を置こうと歩き出すと後ろから声をかけられ振り返る。見てげんなりとした表情を浮かべてしまったのは失態だと認識する。
「あの時はよくもコケにしてくれたもんだな」
「…お前か。どう考えてもあれは自業自得だろう」
「てめぇのせいで次の日から俺はゴミ扱いだ。〈サダラ防衛隊〉分隊長のくせに、一般人に負けるなんて一生の笑いもんだ!」
そうやって大声で怒鳴れば怒鳴るほど、自分の首を絞めることになると気付いていないのか?自分の黒歴史をこれだけの人数が集まる大会、さらには選手控え室でこうもまくしたてるとは。余程のことがあったと見て良いだろう。
知ったこっちゃないんだがな。
「不満はいつでも聞いてやるから、まずはその五月蠅い口を閉じろ。それ以上喚けばお前の首を余計に絞めることになるぞ。俺は一向に構わんがな。むしろお前が喋れば喋るほどお前の評価は下がり、俺の名が知れ渡ることになる」
「黙れ!」
右の掌を広げて押し留めた後、反対の親指で自分の背後を指差した。その先に視線を向けたワルは、不満爆発とばかりに俺へ鋭い視線を向けてから去って行った。
壁には〈一切の戦闘を禁ずる〉と書かれた張り紙が赤文字で大きく描かれている。
よく見れば四方の壁にも、同じように描かれているから眼にできないはずがない。まあ、さっきの様子から察するに俺への勝手な私怨で、視界が狭まっているところに俺を見つけたのだろう。
迷惑な話だがここで問題を起こさなかっただけありがたい。
『えぇ~、この度〈格闘武道大会〉に参加いただきありがとうございます。私は今大会の責任者のオニオンと申します。この大会は非公式であるため!内部でどのようなことがあったのかはご内密に願います。もし情報が漏洩した場合は、スパイ容疑として惑星全土に指名手配させていただきます。ご理解の程をよろしくお願いします』
突如ライトが点り、壇上に上がった男性にスポットが当てられる。質素でありながら華やかに見える服装は、かつての王宮を連想させた。
情報漏洩禁止とは厳重だな。公にはできない事情が絡んでいるのは、機密保持するための手段を見れば一目瞭然。話すつもりは毛頭ないし問題はない。王や大臣の悔しがる顔を見るのは面白そうだが、そうあれば子供たちが危険にさらされる。
自分より他人を優先するように、生きてきた俺からすれば切り捨てることはできない。
『試合は翌日の正午より開催され、ルールはバトルロイヤルで行います。時間は無制限で残った5人が決勝トーナメント進出となります。ちなみに武器の使用は禁止、また殺人も同様です。ルール違反をした場合は、速やかに退場してもらいます。従わぬ場合は、刑罰が科せられますのでご注意ください』
上位5人が惑星サダラのトップを争って戦うってわけか。面白そうだな。どれほど強い輩がいるのかをこの身を以て知ることができる。俺は意外と戦闘マニアだったって事が今ようやくわかった。今まで戦っていた理由としては、子供たちを護るという目的意識があったからだ。
だが今の俺は自分が楽しむことを望んでいる。他人のために生きていくと決めていたのに、こうなってはその誓いを変更しなければならないようだ。
だが簡単に勝てるはずもないだろうな。これだけの人数が来ているのであれば、〈サダラ防衛隊〉の奴らも出てきているだろうし。
『上位5人のうち1人は既に決定しております。惑星サダラが誇る精鋭〈サダラ防衛隊〉のエリートで若きホープ。その名はキャベ!』
「「「「「「「おおぉぉぉぉぉ!」」」」」」
まったく接点のない俺でもその名前は耳にしていた。勇敢で強いにもかかわらず、優しく仲間思いだと言われている。選手控え室を振るわせるほどの声量を上げたのは、壇上に上がったキャベと似た戦闘ジャケットを着た奴らだった。
予想通り〈サダラ防衛隊〉から幾人かが参加していたようだ。照れくさいのか、大声を上げている奴らにキャベが静かにするよう口に人差し指を当てている。
『彼はその才能を見いだされ、今回の大会においてチャンピオン扱いとなることが決定しております。トーナメントの優勝者がキャベ選手への挑戦権を手にし挑むことができます。さあ皆さん全力で盛り上がりましょう!』
乗せるのが上手いとしか言えないな。だが俺も乗り気でないわけではなかったので少々の羽目を外すことにした。
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翌日の正午。試合開始のゴングが鳴るとステージのあちこちで取っ組み合いや集団で個人へ挑む輩など、戦闘方法は様々で決勝トーナメント進出へ向けて頑張る出場者。
最初から飛ばしていると体力が保たない。なんせ時間は無制限なのだから。いくら体力に自信があっても限度というものがある。
「見ぃつけたぁ」
「げっ」
一番見つかりたくなかった奴に早々に見つかってしまい本心が漏れ出た。それを耳にしたらしく額に青筋が浮かび上がっていて、今にも飛び掛かってきそうだった。
「ぶっ殺す!」
「いや、殺人禁止だから」
「事故ってことにすりゃいいんだよ!おらぁ!」
「猪突猛進か!」
右ストレートを首を逸らすことで避ける。必要最低限にして最小限の動き。それが体力の消耗を一番減らす方法だ。力任せに攻撃すればするほど体力は減少し攻撃は弱くなり、それに比例して防御も脆くなっていく。攻撃が当たらなくなれば速度を上げて攻撃する。
それによって体力は減少する。精神にも疲労は蓄積し何もしなくても敵は自滅してくれる。精神的疲労は眼に見えないからこそ自覚しにくい。
「何故だ、あ、たらねぇ。ハアハア」
「そりゃそれだけ撃ち込めば体力切れを起こすさ。拳が97発に蹴りが72発。普通ならいまここで体力の限界が来て気を失っていても可笑しくない。だからあんたの実力は〈サダラ防衛隊〉の名に恥じないものってことだ」
「黙れ!俺、は負けね、え!勝って、俺を見下、した…奴ら、を見返し、て…やる!」
負けられない理由か。地位が上になりそれが当たり前だと認識していた。または自分がその地位にいることが当たり前だと思っていたから、数ヶ月前の出来事で見下されたことが悔しかったのだろう。地位への執着は決して悪いことではない。
なければそこにいる理由もなく生きる理由もない。生きる屍となって残りの人生を歩むなど俺はしたくない。
「あんたの心意気は理解できた。だがこれとそれとは別の問題だ。じゃあな。はぁ!」
「ぐあ!馬鹿なぁぁぁぁ!」
「あ、やっべ」
気合いで手っ取り早くふっとばすつもりが、周りの奴らも同時に何名か吹き飛ばしてしまったことで、俺は危険分子と認識されてしまったようだ。壁を作って俺ににじりよってきやがる。
こうなったら同じように吹き飛ばすのが一番効率が良いし体力も減らない。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」
周囲に圧を飛ばすとドミノ倒しのように倒れていく。まあ当然全員が気絶しているのだが。こうして俺は相手を倒す度に敵を作っていくのであった。
1名が無双しているのを、特別席から眺めている影が複数ある。
「凄いですねあの人!若いのにあれだけの動きは普通できないですよ!」
「お主もまだまだ幼いであろうに」
「陛下もそこまで変わりませんよ」
「ふん、口が過ぎると思うが余は気分が良い。気にせず今の口調でも構わんから続けろ」
少年のような風貌の彼は、昨日チャンピオン枠で参加することが決まっているキャベ。もう1人は惑星サダラを統括する国王。
「それほど強い存在には見えませんね」
「俺からしたら視界にも入れたくないぐらいだぞ。それよりあれ持って来い」
「カロリー計算すれば、今日の食事は無しにすべきところですよ」
「いいからさっさとよこせ!」
「はいはいただいま」
横にいるのはかなり顔の整った容姿をもつ従者らしき女性。
ふくよかな体型で上半身裸、耳も生え尻尾が生えた人物。
だが周囲に頭を垂れ、王でさえ跪いているのを見るとそれ以上の地位を持つ存在であるとわかる。何故かキャベはそれほど気にはしていないようだが。
「まあ、そうかもしれませんが僕からすれば相当な腕前だとわかります。倒されたピーマさんは僕が選ぶ強者の1人ですから、その彼に余裕で勝ったあの青年は恐るべき存在ですよ!」
「…熱く語るではないか。よほど気に入ったと見える」
「彼を〈力の大会〉に参加させましょう!」
「彼をですか?」
「あいつをか?」
従者とふくよかな体型の彼は異口同音に問いかける。
「ええ。彼の動きを見ればわかると思いますよ」
「そうかぁ?そんなに凄いとは思わんぞ俺は」
「確かになかなかの動きはしていますね」
意見の相違があるところを見ると、評価はどちらが正しいのかわからない。だが〈破壊神選抜格闘試合〉に出たキャベが言うのであれば間違いないだろう。
「おい、さっきは強い存在には見えないと言っただろうが!」
「見た目はという注釈付きですよ。動きをよく見れば評価には値します。といってもまだまだ動きは未完成ですが」
「その通りですよ!」
「ふ、ふん!それぐらい俺にもわかってたさ!」
どう見てもそうは思えない言いぐさだが、これについては言及しないでおくのが一番だ。彼の実力は未知数であり、予測不能というのも考えられる。
女性とキャベは真の力を知ってはいるが。
「キャベさんが言うピーマさんを倒した彼の動きは無駄のないものです。まだという注釈付きですが」
「というと?」
「彼はまだ本気を出していませんし、あの程度の相手では本来の腕を見せる余地はありません。見せる必要もなければ使うわけにもいきませんから」
その言葉の意味が理解できないとばかりに、全員の視線がその人へと向ける。その視線を気にする様子もなく女性は言葉を続ける。
「戦いというのは勝てばいいというわけではありません。彼は戦いというのをどういうものか理解しています。如何にして相手を倒すことが大切なのかをです。必要最低限の動き、必要最小限の体力で相手を戦闘不能にする術を体が知っている。成長していくうちに気付いたのか。それとも無意識のうちに体が覚えてしまったのかは不明ですが」
「それは武人としての才能を持っているということか?」
「そうですよ。シャンパ様は破壊神であるが故に絶大な強さを持っていますが、彼は己の力だけで境地に片足を踏み入れています。覚醒すれば《第6宇宙》の切り札になるかもしれません」
手放しで褒め称えることに、破壊神シャンパと呼ばれた存在・王・キャベは不思議そうに見上げていた。
「とまあこれ以上褒めるとシャンパ様がお怒りになるでしょうからやめておきます」
「おいヴァドス!それは俺より見込みがあるって言ってるだろ!?」
「よくお気づきで」
毒舌家という肩書きが似合いそうなヴァドスと呼ばれた女性は楽しそうに笑みを浮かべ、大勢をリングから落としている青年に視線を向けていた。
「そんな人がカリフラさんとケールさんと戦う可能性があるんですね?楽しみです!」
「そのお二方は強いのですか?確かシャンパ様に『もっとサイヤ人を増やせ!』といわれて見つけたと聞いていますが」
「強いですよ。なんせスーパーサイヤ人になれるんですから!」
「それは楽しみですね。私が気になるのはあの青年の臀部の少し上辺りが膨らんでいることですかね」
「「「え?」」」
3人が言葉通りに視線を青年へと向けた。キャベはともかく王と破壊神が口にするべき言葉と表情ではなかったが、それを咎める人物はいなかった。する暇も無いほどその言葉の意味を考えていたからというのもあったのだろう。
「言われてみればそうですが気になるほどでは」
「余も同じ意見だ。比較すれば気付くかもしれないが、普通にしていれば何とも思わない程度だと思われますが」
「俺には違いがわからん」
約1名は眼が悪いのか頭が悪いのかわ。からない言葉を発しているが、これもスルーさせていただく。
「私の勘違いだったのかもしれませんね。お気になさらず観戦を続けてください」
「勘違いですか…」
尚もキャベは腑に落ちない様子だったが、無双する青年の戦いにいつの間にか夢中になり忘れるのだった。
〈力の大会〉前の話で進んできますが原作の流れをそこまで理解できていないのでずれているかもしれません。
しかしみなさんが心優しいことを信じていますので気にしないよう頑張ります。