【完結】天才科学者と恋の話   作:オルトルート
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 ――――篠ノ之束にとって。
 変化とは忌避するべきものだった。

 篠ノ之束は、赤子の時点で『完成』していた。
 周りの子が何も分からぬ赤子の時点で、篠ノ之束は世のほとんどの事柄を理解していた。
 名も知らぬ学者が唸っていた問題も、見れば瞬く間に回答を導き出せた。
 人々は彼女を“天才”と呼び、その頭脳を称賛した。
 しかし、篠ノ之束にとって、そんなものはどうでもよかった。

 篠ノ之束も人間である。
 知ったことを自慢したいし、知らないことを知りたい欲求もある。
 しかし、彼女の周りの環境はそれを許さなかった。
 知らないことは何もない。 なんでも理解できてしまうから。
 知ったことは自慢できない。 誰にも理解されないから。

 篠ノ之束が、周りに見切りをつけるのにそう時間はかからなかった。
 次第に、彼女は自分と同じ“天才”を探すことに力を入れ始める。
 一方で、“凡人”には見向きもしなくなった。
 “凡人”は理解しないからだ。
 どんなことを言っても、“才能”の一言で片づけられてしまう世界。
 才能を褒め称え、篠ノ之束を見ようともしない存在。

 そんな存在と、“天才”が同一であるはずがない。
 故に、篠ノ之束は変化を忌避した。
 『完成』している自分は、これ以上変化する必要はないからだ。
 変化して、“凡人”になることを恐れたのだ。

 ある日、彼女は求めていた“天才”を見つけた。
 その“天才”の名は、織斑千冬。
 彼女は、篠ノ之束が予想していた通り、篠ノ之束のよき理解者となった。
 彼女にとっての運命的な出会いといってもいいだろう。

 そして、またある日。
 篠ノ之束は再び運命的な出会いを果たす。
 彼は、忌避していた“凡人”だった。
 彼は、求めていた“天才”でなかった。
 ――――けれど。 
 彼の存在は、“篠ノ之束”という存在を確かに変えた。


 篠ノ之束にとって、変化とは忌避すべきものであった。
 だけど、彼がもたらした変化だけは、素直に受け止めようと思えた。
 生まれたこの気持ちだけは、“天才”でも理解できなかったから。 
 


篠ノ之束とお酒の話

 某日 夕刻 織斑千冬宅にて

 

 ☆

 

 んん~っ、美味しい!!

 やっぱりこういう変な銘柄ついてるのはいいねぇ。

 一山何百円の缶とは大違い。

 じゃあもう一口……、と。

 

 

 やっほぅ、こんばんはちーちゃん。

 お邪魔させてもらってるよー。

 いやー、ちーちゃんってお酒のセンスいいよね。

 こればっかりはちーちゃんに負けるよ。

 

 

 ……何、その顔は。

 このお酒?

 ちーちゃんの部屋にあったやつ。

 そうそう、なんか箱に入ってた。

 いやー、おいしそうだなーと思ってね。

 ついつい手を出しちゃったんだよ。

 

 

 おっと、ちーちゃん何でそんな呆れ顔?

 プレゼントだったの? 誰への?

 ……束さんへの?

 へー、ありがとねちーちゃん。

 初めて飲んだけど、束さんこのお酒好きだよ。

 

 

 にしても量多いね。

 軽く二人分くらいはあるんじゃないの?

 え、二人用だったの?

 ならちーちゃんと分け合えば解決だね。

 

 

 ……にしても、これなんのプレゼント?

 束さんの誕生日はまだまだ先だし。

 今日は特別なことがあった日でもないよね。

 それなのにわざわざプレゼントなんて。

 何かあったの?

 

 

 …………束さんとアイツ用に?

 二人で酒でも飲めばいいと思って?

 ……え、ちょっと待って。

 これもう開けちゃったんだけど。

 

 

 束さんそんなこと聞いてないよ!!!

 もう、そういうことは早く言ってくれないと……。

 もしくはちゃんとラッピングしておくとか!

 そもそもちゃんとしまっておくとか!

 

 

 机の下に箱のまんまドーンと置いてあったらさぁ。

 普通プレゼントとは思わないでしょ?

 こーんなごみの山の中にストンと置いてあったら!

 ちーちゃんの秘蔵のお酒かなんかだと思って二、三本……

 

 

 ちょっと待ってちーちゃんストップ!

 大丈夫ですこれが一本目!!

 他の二本にはまだ手ぇ付けてません!!

 ほんとですこれが証拠!!

 束さん嘘つきません!!

 

 

 おぉ、お、おぉぉ……。

 怖かった……。

 ちーちゃんのそんな怒った姿久々に見たよ……。

 でもちーちゃんそんなにお酒好きだったっけ?

 少なくても一年前は全然飲めなかったはずだけど。

 

 

 ……アイツと?

 たまに会って飲んでた?

 …………え、なにそれ羨ましい。

 ちょっと、束さんも呼んでよ!!

 なんで誘ってくれなかったのさ!

 

 

 誘っても来なかった……?

 束さんが?

 ちょっと待ってね、えと、えと。

 ちーちゃんと飲みに行こうとしてキャンセルしたのは……。

 ひい、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ……。

 

 

 数えてみたけどここ一年だと十数回、かな?

 ……束さん結構ドタキャンしてたね。 ゴメン。

 でも、そのうち何回くらいアイツと飲んでたの?

 ちーちゃんがお酒に強くなるくらいだから……。

 うん、五回くらいと見たね!

 

 

 全部!!?!?!???!?!

 うっそ、え、全部!!??!??

 束さんがいない時はずっとアイツと二人で飲んでたの!!?? 

 ずるいよちーちゃん!!

 それ知ってたら束さんスクランブルしてたのに!!

 

 

 うぅ~、ずるい、ずるいよぉ……。

 ちーちゃんってばずるいよぉ……。

 なんだかんだ束さんよりアイツと一緒にいるじゃん……。

 うぅ、下手な慰めなんかいらないよ。

 今度アイツと飲むときに誘ってくれればいいよ……。

 

 

 ……返事してよ。

 ちょっと、なんでこっち向いてくれないのさ。

 何かやましい事でもしたの?

 ねぇ、こっち向いてよ。

 ねぇってば!!

 

 

 また二人でこそこそ飲む約束とかしてるの?

 してない。

 ならいいでしょ!?

 束さんも誘ってよぉ……。

 

 

 アイツが来るかわからない?

 ……ちーちゃんが来るなら来るでしょ。

 アイツってば、なんだかんだちーちゃんとはよく会ってるみたいだし。

 ……束さんにはちっとも会わないけど。

 束さんには! ちっとも会いに来てくれないけど!!

 

 

 ……やっぱりアイツ、束さんの事苦手なのかな。

 ほら、アイツと……その……。

 キスとか、しちゃってさ。

 そう、あの、小六くらいの時の、あの時。

 とっても気まずくなったんだけど。

 ……あの時と同じくらい会えてない気がする……。

 

 

 ……え、アイツは会いたがってた?

 ほんとに?

 ……? このお酒が?

 ……へー。

 アイツが束さんに飲ませたいって?

 自分が好きな味だから。

 そっか、アイツもこのお酒、好きなんだ。

 

 

 えへへ、えへ、えへへへへ。

 そっかー、ふーん。

 あー、なんだかいい気分!

 ねぇ、なんでだと思う?

 なんでだと思うよちーちゃん!!

 

 

 えへへ、なんかさ、こう、さ。

 アイツと一緒のお酒が好きだって思うとさ。

 ねぇ?

 えへへへへへへへへ。

 

 

 ……ねぇちょっと、冗談、冗談だよ。

 だからその目を何とかしてよ。

 ドン引きしてるでしょ。

 ホントに冗談だから!!

 そんな目で束さんを見ないでよぉ!!

 

 

 ……なにさちーちゃん。

 言っておくけどもうこれは飲まないよ。

 あげない。 あとはアイツと一緒に飲む。

 で、何さ。

 

 

 ISのこと? いや、だからコアは作らないって。

 違う? じゃあ何?

 ……いっくんの話?

 だからそれは束さんがちょこっと細工しただけで。

 別にそれ以外はなんでもない事なんだから。

 

 

 ……へぇ。

 あー、やっぱりばれちゃってた?

 ちーちゃんに隠し事は通じないかぁ。

 ん、おおむねその通りだよ。

 いっくんがISを動かしても、別に束さんの目的は達成されないってね。

 

 

 おう、ステイステイ。

 ちーちゃんその手を手首から離して。

 変な音鳴ってる。

 お分かり? ねぇちょっと。

 今から説明するからその手を離して痛ったいなぁもう!!

 

 

 箒ちゃんといっくんをくっつけたいのはホント。

 ISをいっくん用にカスタマイズしたのもホント。

 ……でも、それで二人がくっつくか、っていうとそうじゃないよね。

 ん? いっくんをどうするか、って?

 だいじょぶだいじょぶ、安心して。

 いっくんの安全は、この束さんがちゃーんと保証しますとも。

 

 

 ホントホント。

 束さんは友人には嘘をつかないんだよ?

 だからちーちゃん、束さんを信じて。

 ……ありがと。

 うん、誓って変なことはしないよ。

 

 

 で、お話っていうのはこれだけかな?

 うんうん、ならいいよ。

 じゃあここからはお堅い話抜きでいこうよ。

 ちーちゃんこのお酒空けていい?

 ありがとー。

 

 

 ん~、やっぱりおいしい。

 えーとこの……、うーんと。

 この変な銘柄のお酒、やっぱり好きー。

 アイツもこんな甘ったるい味が好きなんだねー。

 ちーちゃんのほうもちょっとちょーだい。

 

 

 …………渋いね。

 なんていうか、こう、渋いね。

 束さんはあんまり好きじゃないかも。

 ……そうですよ、どうせ束さんはお子様舌ですよ。

 

 

 ところでちーちゃんって彼氏つくらないの?

 うわっ、びっくりした。

 もー、汚いなぁ。

 いきなりむせてどうしたのさ。

 

 

 いや、単純に気になって。

 束さんたちってそろそろ二十ウン歳になるわけだけどさ。

 いまだに浮いた話がないっていうのも、ねぇ。

 ……親父臭いとは失礼だね。

 というか、この間あの母親に言われたんだよ。

 

 

 そうそう、彼氏はできたのかー、って。

 いちいち煩い奴だよね、ホント。

 だからついでにちーちゃんに聞いてみようと思って。

 ねね、どうなの?

 気になるやつとかいないの?

 

 

 …………いない?

 ちぇー、残念。

 いたら面白そうだったのに。

 

 

 …………ほぇ? 束さんのほう?

 こ、告、白?

 し、しないのか、ってそりゃあ……。

 …………するよ。

 いつかは決めてないけど!!

 

 

 あーもう、なんでそういうこと言うのさぁ……。

 意識しちゃうじゃんかー、もう!

 あああああ!!!

 さてはちーちゃん、束さんの反応見て楽しんでるね!?

 

 

 ……デートのこと?

 ……露骨に話題変えてきたね、ちーちゃん。

 ふふん、聞いて驚け、次は束さんの家でデートだよ!!

 いやー、今度アイツに料理ふるまうことになってね~。

 もうこれから毎日練習しなきゃな―って思ってね!

 えへへ、えへへへへへ。

 

 

 ……おいちょっと、なに、その顔は?

 まさか束さんが料理もできないダメ人間だとでも?

 ……言ってくれるじゃないのちーちゃん。

 でも残念ながら料理ができるのはホントだよ。

 料理のさしすせそ? ……馬鹿にしてる?

 

 

 あのねぇ、束さんをなんだと思ってるのさ。

 そんな怪しい薬を料理に使ったりするわけないでしょ。

 妙な調味料も論外。

 ちゃんとした素材と調味料だけで、きちんとした料理を作れます。

 それもこれも箒ちゃんとの特訓のおかげですよ、ふふん。

 

 

 ところでちーちゃんって料理はできるの?

 ……あっ、うん。

 ……きっ、気にしなくていいよちーちゃん!

 今の時代、男の人が料理することも多いって聞くし!!

 

 

 まぁ、作れたほうがいいとは聞くけど……。

 あーちょっとちーちゃんそれ束さんのお酒!!

 なに勝手に飲もうとしてるのさぁ!!

 やけ酒なら他のお酒でやってくれないかな!?

 離して!! その手を離して……!

 離してってばぁ!!

 

 

 ☆

 

 

「ふぁ~、千冬姉おはよ、ってうわぁ!? な、なんだこれ!? 」

「……すまない一夏、非力な私を許してくれ……」

「千冬姉!!?? 」

 

「そういえば、箒ちゃんってどうしてそんなに料理が上手なの? 」

「はぁ、一夏に毎日作ってやってますから、その、自然と。」

「……えっ、そこまで進んでるの? 」




登場人物
・束さん
 料理もできる天才科学者。メシマズではない。
 お酒は適当に選んで飲むタイプ。
 舌がお子様なので甘いのが好き。

・ちーちゃん
 料理が微塵もできない束さんの親友。
 お酒はこだわったものを飲むタイプ。
 世界を回っているからかいろんなお酒を持っている。

・オリ主くん
 ちーちゃんが一人で居酒屋に入ると高確率で遭遇する。
 お酒は好きなものを延々と飲み続けるタイプ。
 なお束さんがいると出現率ががくっと下がる。

・いっくん
 料理が上手な台所番。
 彼のおかげでちーちゃんの朝食は守られた。

・箒ちゃん
 料理が上手な高校生。
 毎日いっくんに弁当を作ってあげている。


・いろんな質問
Q.束さん酔ってる?
A.酔ってないけど雰囲気で口が軽くなってる。

Q.ちーちゃんの部屋にお酒ってどのくらいあるの?
A.軽く五十はある。
 なおごちゃごちゃしすぎてどこに何があるのかは不明。

Q.束さんなんでドタキャンしちゃったん?
A.いろんな国からISの事せっつかれてた。

Q.箒ちゃんといっくんの恋路はいかに!?
A.いっくんが箒ちゃんの好意に気づいた瞬間にハッピーエンドです。




Q.オリ主くんってちーちゃんと束さんのどっちが好みなの?
A.どっちも同じくらい好み。
 先に告白してきたほうが勝者になる。


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